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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
281/619

281話 「第三階層攻略戦 その4『底上げ強化』」


 サナがグランハムのところで新たな体験をしている頃。


 アンシュラオンたち約千人は、中央北の『吸命豊樹』を目指していた。


 そこは『オグロンビス〈弩弓牛〉』と呼ばれる牛型魔獣が生息するエリアで、至る所にガスを噴き出す沼地があるのが最大の特徴だ。


 そのせいで周囲には常に淀んだ臭い空気が漂っており、視界も悪いうえ、呼吸をするにも嫌悪感を抱くほどである。植物も大半が枯れ果て、見通しが良いことだけが唯一の救いだ。


 そしてオグロンビスという牛は、この沼で大量に繁殖するコケや微生物を主食としていて、泥ごと食べる過程でガスを体内に溜め込む。


 ガスは背中にある噴出孔に溜められると、一緒に集めた不要な泥や異物とともに、ゲップのように吐き出す仕組みになっている。


 吐き出される異物は矢の形に凝固していることもあり、彼らはそれを上手く使って自身を守る武器にしているのだ。



「矢を撃たせるな! もっと詰めろ!!」



 アンシュラオンの怒声が戦場に響き渡る。


 それに呼応してサリータたち前衛部隊が突っ込むが、弩弓牛から吐き出された矢が―――ドゴーーーンッ!


 密集隊形が一発で崩され、サリータたちが吹き飛ばされる。


 その一撃はまさに大型バリスタであり、大盾をもってしても真正面から受けたら軽々貫通する威力だ。


 こうして外れたとしても地面ごと吹き飛ばす力がある。



「何をやっている! お前たちが踏ん張らないと後ろが続かないだろうが! 死ぬ気で耐えろ!」


「アンシュラオン、お前も手伝えよ!」


「オレがやったら秒殺だろうが! お前らがやるんだよ!」


「意味わかんねーよ!? 秒殺ならいいじゃねえか!」


「お前らが雑魚だから鍛えてやってんだろうが! ほら、さっさと行け! サリータ、いつまで寝転がっている! お前も早く立って前に行くんだ!」


「は、はい! 師匠!」



 サリータは重鎧と大盾という重武装だ。


 炬乃未が選んでくれた軽めの鎧もあるのだが、今はあえて体力をつけさせるために重装備にしている。


 周囲は沼の影響で常にぬかるんでおり、こんな重い装備では歩くだけでも大変だが、飛んでくる矢が思った以上に強いため、これくらいでないと即死する可能性もあった。


 唯一の救いは、弩弓の連射ができないことだ。


 体内に溜まったガスと矢は、だいたい四発か五発撃つと切れてしまい、新たに沼から摂取したとしても充填までに三十分はかかる。


 こうして耐えていれば勝機は十分見い出せるのだ。



「うおおおおおおお!」



 サリータの重装隊が再び前に出る。


 まずはいつも通り、盾で相手にぶちかまし。


 このあたりは彼女の持ち味である思いきりのよさが出ていて、見ているほうも気持ちがいい。


 だが、相手は人喰い熊ほどではないが大きな体躯をしているので、まだ武人になりきれていないサリータや、そこらの傭兵の体当たりでは動きは止まらない。


 ただし、すでにサリータはアンシュラオンの弟子だ。その恩恵にあずかることができる。



(落ち着いて相手の頭を狙って―――打つ!)



 サリータが大きな金槌のような武器を取り出す。


 片手で持てるサイズであるが、先端には『杭』が付いていた。


 それを盾で押さえた相手の頭部に叩きつける!


 杭は四割ほどの長さまで突き刺さり、それだけでも刺突ダメージを与えるが、この武器の本領はこれからだ。


 サリータが武器を引き上げると、先端の杭だけが刺さったまま外れ―――爆発!


 弩弓牛の顔の半分が吹き飛ぶ。



(すごい! この『ボムハンマー〈爆破杭槌〉』ならば自分でも戦える!)



 先日サリータが弟子になった際、アンシュラオンがコテージ内で何をしていたのかといえば、彼女たちの『新たな武器』を作っていたのである。


 現状では普通の傭兵と大差ない二人では、アンシュラオン隊の戦いにはついてこられない。それを補うための武装の一つが、この『ボムハンマー〈爆破杭槌〉』である。


 この杭の中には大納魔射津が格納されており、叩きつけた瞬間からカウントダウンが始まり、内部から爆発を起こして破壊する。


 硬い皮膚や鱗を持つ魔獣に普通の攻撃は効果が薄いため、これならばサリータでも攻撃に参加できるだろう。


 さらに槌の後部には風のジュエルを使った噴出口も付いており、そこから出た強風によって武器が加速。片手の腕力でも十分に突き刺すことが可能になっていた。



「よし、補充を…あ、あれ? なんか上手くはまらない…!」



 ただ、この武具は単発式という弱点があり、一回使うごとに盾の裏にある爆破杭をいちいち補充する必要がある。


 手先が器用な人間ならばよいが、残念ながらサリータは不器用で、ガチャガチャやっている間に、痛みで暴れた弩弓牛の前蹴りをくらって吹き飛ぶ。



「ぐっ…!」


「こらー! せっかくわかりやすい単発式にしたのに、なんで手間取る! 練習が足りないぞ!」


「申し訳ありません!」


「もう一つの武装も使え!」


「はい!」



 倒れたサリータが腰に装備してあった筒状の銃を手に取り、暴れる弩弓牛に向かって発射。


 発射されたのはグレネードで、激突した瞬間に爆発。それと同時に弾体が砕けて周囲に飛び散ることで、他の弩弓牛にも破片が突き刺さって複数体に追加ダメージを与える。


 サリータ自身は大盾で自己を守ればよいので、破片の影響は受けない。


 これは『ピストルグレネードランチャー〈単発式爆破銃〉』という武器で、近づかねば何もできないサリータの弱点を補うために作ったものだ。


 こちらにも大納魔射津を使用しているため、その威力は見ての通り。弩弓牛の顔面が完全に吹っ飛んで絶命している。



「それでいい。落ち着いて装填すれば十分間に合う。駄目そうならば盾で防御しろ」


「はい!」



 サリータは多少慌てながらも、爆破杭槌と爆破銃の弾を装填。


 二つの武装ともあえて単発式にしたのは、彼女のシンプルな性格を考慮してのことだ。



(サリータは、サナのような器用なタイプとは正反対だ。はっきり言えば不器用で覚えが悪く、愚直なまでに直線的な行動しかできない。が、それを理解してやれば良さを引き出すことができる)



 不器用だが馬鹿ではないので、何度かやらせれば覚えることができる。あとは反復あるのみだ。



「てめぇ、アンシュラオン! 人様の頭に破片を当ててんじゃねえよ! 身内の管理くらいちゃんとしろ!」


「うるせー! 跳弾くらい自分で防げ!」



 と、たまに破片が味方にも当たるので注意が必要だ。



「ベ・ヴェルの突撃隊も続け! 今がチャンスだ! 戦線を押し上げろ!」


「あいよ!!」



 重装部隊が壁になり、牛たちの移動と射撃を防いでいる間に、ベ・ヴェルたち突撃隊が突っ込む。


 彼女たちの特徴は、サリータとは正反対の攻撃。


 装備もまちまちで、片手剣を持つ者もいれば両手斧を持つ者もいるが、誰もが攻撃に秀でた者たちだ。


 ベ・ヴェルも両手剣で弩弓牛に斬りかかる。


 相変わらず剣を背中まで大きく振り上げる攻撃一辺倒のフォームから、全身のバネを使って叩き込むスタイルだ。


 その勢いよく放たれた刃が、弩弓牛の首の半分まで食い込む。


 今までならば、まだ致命傷を負っていない魔獣からの反撃を受けてダメージをくらっていたところだが、彼女もすでにアンシュラオン隊に入っているため、サリータと同じく武具の恩恵を受けられる。


 剣から風が噴き出し―――加速!!


 強引に大地に押しつけ、勢いを増した刃がそのまま首を切断!



「いいねぇ! こいつは便利だ!!」



 ベ・ヴェルは上機嫌で大剣を振り回す。


 こちらもアンシュラオンお手製の『タイフーンクレイモア〈風斡大剣ふうあつたいけん〉』。


 サリータの爆破杭槌と同じく、刃の峰に風の噴出口が付いており、加速させることで剣撃の威力を高めることができる片刃の両手剣だ。


 今のように当ててから風を出してもいいが、最初から噴出させて身体ごと回れば、さらに威力は倍増!


 一撃で弩弓牛の頭を真っ二つ!


 力ずくで粉砕することができる。



「よっし! 次のやつも…おっとっと…」



 ただし、一撃の威力を高めるということは、その分だけ大きな隙が生まれることを意味する。


 風の圧力に彼女自身が振り回され、体勢が崩れたところに矢が飛んできて、地面ごと吹っ飛ばされる。


 幸いながら直撃はしなかったが、当たっていたら致命傷だっただろう。



(これが攻撃重視のデメリットなんだよなぁ。ゼブ兄や姉ちゃんくらい身体が頑強なら、いくらでも攻撃すればいいんだけど、防御無視で攻撃は怖いものがあるよ。それが彼女の長所なんだから受け入れるとしても、そのうち防御も教えないと命がいくつあっても足りないな)



「アラキタの部隊も射撃を開始だ!」


「了解やで」



 サリータたちが地上で戦っている間、アラキタ率いるハンター隊が木の上に陣取り、お返しといわんばかりに矢や銃弾を放つ。


 特にアラキタは弓の名手であり、五百メートル先の標的にも矢を当てることができる。


 穂先には熊相手にも使った毒が付いているが、相手は普段から汚い沼をすすっているため毒に耐性があるようで、効果が微妙なのが残念なところだ。



「遊撃隊、突撃だ! 牛の横っ面をぶっ叩いてやれ!」



 遠距離射撃で相手の気勢を削いだら、アイラがいる遊撃隊の出番だ。



「ほらほら、走れ走れ! アイラ、手を抜くな! 全力で走れ!」


「走ってるよーー! はぁはぁ!」


「たいして動いていないのに疲れるな! 普段から鍛練をさぼっているからだぞ!」



 アイラたち遊撃隊は、警備商隊のレックス隊のように軽装の者が多く、武装も突撃隊とは違って軽くて扱いやすいものが多い。


 その分だけ身軽に戦場を走り回り、他の隊を援護したり、相手がひよった場所に斬り込むのが仕事だ。


 両手に剣を持ったアイラが、弩弓牛に斬りかかる。


 しかし、刃がざっくり入ったものの、魔獣の筋肉と骨が硬くて先に進まない。



「か、硬いよー! すごい大きくて硬いよー! ゴリゴリしてるーーー! あっ、あっ、あーー!」


「おいそこ、卑猥な発言をするな!」


「全然卑猥じゃないからね!? どういうことー!?」



 心が卑しい人間は、何を聞いても卑しく解釈するということである。



「自慢の剣の出番だろう! ガンガンいけ!」


「これ全然斬れないんだけど!?」


「お前の腕力が弱いからだ! だが、力で勝負しても勝ち目があると思うな! どんどん動いて手数で勝負しろ!」


「わ、わかったよー! え、えと、うにゃうにゃうにゃー!」


「猫かお前は!」


「もー、どうすればいいのよー!」



 相変わらずパニック癖があるので、がむしゃらに剣を振り回すことしかできない。


 それはそれで少しはダメージを与えるものの、心の動揺が戦気に与える影響は甚大だ。


 戦気がへなへなになり、剣気も萎んでいく。



「ええい、なさけないやつめ! こうなったら『化紋かもん』を使え! 少しはましだろう!」


「そうだった! やってみるよー!」



 『化紋』とは、武具に属性を付与できる術式のことである。


 アイラが『火化紋ひかもん』の術符を使い、刀身が赤くなって火属性を帯びる。


 ヒートナイフやヒートソードのように、刀身が高い熱量を帯びれば、それだけで切れ味が上がるものだ。


 アイラも火化紋のおかげで、さきほどよりも大きな傷を与えることができた。



「へへーん! どうどうー? すごいでしょー!」


「ああ、言い忘れていたが…」


「え? なに―――」



 ブスっと、アイラの剣が弩弓牛の体内に突き刺さった瞬間―――ボーンッ!


 腹が爆発して、破砕した筋肉やら内臓がアイラにぶち当たる。


 その威力は凄まじく、身体中を肉片塗れにしながら数十メートル吹っ飛び、沼に落ちていった。



「悪い。そいつのガスは爆発するから気をつけろよ。特に火属性は危険だぞ」


「言うのが遅いーーー!! うえーん! 肉が目に入ったー! 目がいたいよー!」


「貴重な体験だな。普通はできないぞ。感謝しろ」


「アンシュラオンの馬鹿ー!」



 弩弓牛の背中にはガスが溜められているため、そこを高温を伴った攻撃で刺激すると爆発する。


 火矢や火炎弾等ならばよいが、接近戦の場合はアイラのようになるので注意が必要だ。


 逆にいえばこれが弱点でもあり、上手く爆発させれば比較的簡単に倒すことができるわけだ。


 アイラの悲劇を見たハンターや傭兵たちは、上手く距離を取りながら弱点を狙い出し、戦況はこちらが優勢になっていく。



「アイラもたまには役立つじゃないか。初戦はこのまま勝てそうだな」


「ご主人様、我々は出なくてよろしいのですか?」


「サリータたちを鍛えるのが目的だから、ホロロさんたちは温存しよう。隊の底上げには彼女たちの強化が不可欠だ。もっともっと苦労してもらわないとね」


「サナ様は大丈夫でしょうか? やはりメイドの私だけでも連れていくべきだったのではありませんか? お風呂やお食事の件もありますし…」


「オレだってそうしたいけど、サナには新しい刺激も与えてあげたいんだ。グランハムは冷たそうに見えて意外と熱いやつだよ。実力主義でもあるから、きっとサナの才能に惚れ込むはずだ。あいつの技を全部盗んでほしいと願っているくらいさ」


「ですが、男だらけの場所です。そこだけが心配です」


「…そうなんだよね。警備商隊にロリコンがいても大丈夫だけど、グランハム自体がロリコンになったら困るなぁ。まあ、その場合はあいつでも容赦しないけどね」



 ここでもグランハムがロリコンにならないか心配されるほどだ。


 それだけサナの才能が突出していることを示してもいるので、嬉しい懸念ではあるのだが。



「サリータ、もうへばったのか! 何度も当たれ! ベ・ヴェル、剣に振り回されるな! 力の流れを感じろ! アイラ、休んでるんじゃない! 走れ走れ!」



 激しいぶつかり合いの末、牛たちの撃退に成功。


 三人とも死にそうになっていたが、アンシュラオンのしごきは、まだまだこんなものではない。




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