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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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28話 「黒き少女、サナ・パム その1」


「ここには何人くらいいるんだ?」


「今は三十八人っすね。最大で八十人まで入れるっす。『八百人やおじん』は伊達じゃないっす!」


「そこは八百人、きっかり用意できてから言えよ」



(ふむ、多いのか少ないのかわからないな。自信満々に言っているところをみると、この規模の都市ならばそれなりに多いほうなのだろう。優良正規店という話だしな)



「見て回るぞ」


「ご自由にどうぞっす」



 アンシュラオンが、一つ一つの個室を見て回る。


 個室の大きさは十畳ほどあり、生活する空間として不便はなさそうだ。必要な家具や娯楽品もある。


 最初に覗いた部屋の少女、七歳かそこらの若草色の髪をした子供は、クマのヌイグルミを抱きしめていた。クマが好きなのはどの世界も共通らしい。机にはお菓子もある。



「物には不自由していないようだな」


「そこは気を遣っているっす。欲しい物は何でも与えるっす」


「外には定期的に出しているのか?」


「出すときもあるっすが、基本的には室内っす。あっちにテラスがあるっすから、そこで日光浴とかできるっす。軽い運動施設もあるっす」


「外に出たい欲求は湧かないのか?」


「そう思わないように、そこだけ術式で制御しているっす。彼らにとって部屋は快適な空間っす」


「快適な空間だと思い込まされている、の間違いだろう?」


「当人がそう思っているなら同じことっすよ」


「たしかに真理だな。どのくらいまで術式で制御できるんだ?」


「一応全員に試してはみるっすが、各人で反応は違うっす。精神の抵抗力はそれぞれっすから、おとなしく聞く子もいれば反抗的な子もいるっす」


「見た感じ、おとなしい子が多いようだな。みんな静かに暮らしているようだ」


「当然、おとなしい子のほうが扱いやすいっすからね。ここでは管理の都合上、そっちをメインで扱っているっす。反抗的で制御しづらい子は諦めて手放すっす」



(手放した子のことは、あえて訊く必要はないか。もともと質の高い子を集めているんだろうし、そこまで手荒な真似はしないだろう。普通に良質なスレイブとして売るか、里子斡旋とかで売ればいいだけだ。ここにいる白スレイブは用途が違うからな。客層も違うはずだ)



「トイレはあるのか?」


「個室それぞれの奥にあるっす。ここからは見えないっすが、管理側は見えるようになっているっす」


「幼女のトイレを覗いて楽しいか? この変態モヒカンめ!」


「激しい誤解っす。商品のトイレを見て興奮したら、本当に変態っす。ここには女性スタッフもいるっすから、基本的には彼女たちが見てるっす。監視の目的は自殺や自傷行為を防止するためっす」


「そういった行為も精神術式でできないようにしているんじゃないのか?」


「あくまで予防のためっすが、たまに事故があるっすよ。精神術式も完璧ではないっす」



(たしかにな。こいつらは能力値が見えないから、ふとしたことで事故が起こる可能性はありそうだ)



 普通の人間には能力値はわからない。


 他のステータスは弱くても生まれながら精神の値が強い人間なら、精神術式にかかりにくい現象が起こる。


 最初はかかっていても、あとから耐性が身についたりすれば、突如解除されてパニックに陥ることもあるだろう。恐怖から自殺に走る子がいても不思議ではない。



(こいつらにとってみれば、これは『商品』だ。当人たちに違法という概念はない。そりゃそうだ。そもそもこの東大陸の単なる一領地に、そこまでしっかりとした法律があるとも思えないしな。逆にこれだけ気を遣って管理してくれるなら、むしろありがたいってことか)



 そして、気になっていたことを訊いてみる。


 ロリコン妻を見たときから、ずっと気になっていたことの一つだ。



「契約の術式は、どうやって刻む?」


「専用の機械があるっす」


「そういうのは別の犯罪に悪用できるんじゃないのか? 強制的に契約させたりとか、無理やりはされないのか?」


「一応、当人同士の意思が必要っす。機械には精神の保護機能があるらしいんで、どちらかに拒絶反応が出たら契約そのものが無効にされるっす」


「随分と優れた機能だな」


「精神が壊れたら商品が台無しっすからね。安全装置っす」


「白スレイブの場合は、条件内容が空白の状態だからすり抜ける、か?」


「そうっす。なぜか詳しいっす」


「まあ、そういった裏側のことも少しは知っているからな。その機械は、どこかで売っているのか?」


「非売品っす。スレイブ商会本部から送られてくるっす。出所は知らないっすね。知る必要もないっすから」


「道具は使えればいいか。そういう考え方は嫌いじゃないけどな」



 モヒカンは気軽にそう話してくれた。


 だが、事はもっと重大で深刻である。



(モヒカンは術の素人だから意味がわかっていないようだが、精神術式を機械的に処理していることは見過ごせない。術が使えない人間でも使えるようにしているってことだしな。…これはなかなか後ろが真っ黒じゃないか。その機器がいつからあるのか知らないが、相当強力な術士が作ったものだな)



 精神術式は危険なものなので一般ではあまり教えていない。それがここまで広まっているのならば、誰かが意図的に流したものであることがわかる。


 ジュエルや機器に術式を封入する技術はすごいが、危険な術式まで一般人が使えるようになることはデメリットがあるのだ。


 特にこうした裏側の組織が手にすると危険だろう。ヤクザやマフィアが簡単に構成員、鉄砲玉を作れることになるし、支配地域の人間を全員奴隷にすることも可能だ。



(おそらく強制的に術式をかける試作型も存在しているはずだ。そんなものが流出すれば非常に恐ろしい事態になるだろう。が、モヒカンが商売としてやっていることを考えれば、ひとまずは秘匿されているようだな。ふむ、面白い。場合によってはそっちの技術も欲しいな)



 アンシュラオンが求めているのは、自らの意思で従順な子である。


 その意味では強制してスレイブにすることはポリシーに反するが、敵対する人間がいた場合においては優れた対抗措置になるだろう。



(焦ることはない。まずはオレが気に入った子を見つけるのが優先だ。誰かいい子はいないかな?)



 そんなことを思いつつ、個室にいる少年少女たちを見ていると、またあることに気づく。



(オレの思い違いじゃなかった。やっぱり、これは【アニメの世界】だ)



 生まれた時から、ずっと気になっていた疑念がある。



 それは―――人がやたら可愛く見えること



 女性は可愛く綺麗で、男は逞しく格好よい。それはまるで二次元の【理想化された世界】のように。


 もちろん実際に二次元ではない。間違いなく三次元の物質世界だ。そうでいながら、どこか地球人とは雰囲気が違う。


 異世界、それも別の星なのだから当然だが、物質を構成する要素が違うのだろう。見た目だけでいえば、すべてが綺麗に映る。人も山も世界もすべて、美しく思えてくるのだ。



(輪郭が整っているから、どの子も恐ろしく可愛い。そんな趣味はないが、男の子でさえ可愛いぞ。アニメのキャラってのは、本来そういうもんだしな)



 現実の世界ではゲイではなくても、二次元の世界でだけそういった趣味を持つ人もいる。


 その世界はあくまで理想の世界であり、最後まで趣味で終わるからだ。



(現実感の無さは、ここから来ているのかもしれないな。それ以前にオレが下の世界に本格的に触れたのは、ここ半月程度にすぎない。今までの世界は姉ちゃんだけだったし…あまり意識しなかった部分が表面化してきたんだろう)



 そして、改めて姉の美しさを知るのである。


 裏街で出会った女性たちは悪くなかったが、姉と比べればモブとヒロインくらいの違いがある。


 月とスッポンとは、まさにこのことなのだろう。存在感そのものが根底から違う。



(駄目だ、駄目だ! 姉ちゃんと比べるのは駄目だ。あれは例外だ。比べたら相手がかわいそうだ。あれと比べたら、永遠に他の女性なんてゴミ同然に―――)



 そう思い、ふと違う個室の中を見る。




 そこには―――【黒い少女】がいた




 他の子たちが娯楽に興じている中、その子だけは一人、椅子に座ってうつむいている。


 艶やかな黒い髪の毛、エメラルドのような深くも淡い緑の瞳。


 そして、ただ一人だけの褐色の肌。


 完全な黒ではない。かといって赤黒いわけでもない。


 日本人の肌を少しだけ黒くしたようなその肌は、きめ細やかで滑らかで非常に魅力的に思えた。



 目が惹き付けられて―――離れない



(ああ、これは【一目惚れ】だ)



 アンシュラオンはこの感覚を知っていた。とてもとても久しく感じていなかった感情である。


 見た瞬間、目が離せなくなる。雷撃を受けたかのような衝撃が背筋に走る。


 他のことがすべて頭から吹っ飛び、気になって気になって仕方がない。何度でも見てしまう。見るしかなくなる。


 姉へのトラウマで荒んだ心が、お湯のようにじわぁっとした熱気で、一気に満たされていく。


 人はそれを、一目惚れと呼ぶ。



(なんて…美しい)



 気づけば五分以上もその場にとどまり、黒い少女を見つめていた。


 足が動かないのだから仕方がない。



(初めて姉ちゃんを見た時に近い感覚だ。認めるしかないな。オレはこの子に惚れてしまったんだ)



 高鳴る胸を意識して抑え、冷静に思考を巡らせる。



(オレの経験上、一目惚れは結局上手くいかないことが多い。その多くは理想と現実のギャップから来るものだ。熱が強すぎるから冷めるのも早くなる。かつてのオレもそうだった。―――が、それはあくまで両者が対等の場合だ。そして、社会に対して何の権力もない場合だ)



 一目惚れが上手くいかない理由はさまざまだが、金銭的な問題や相手との性格の不一致等、現実と理想の狭間で苦しむからだろう。


 これは一目惚れでなくても普通に起こる現象であるが、それは対等な関係だからこそ問題になる。


 では、対等でなければ?



(たとえばペット。一目惚れをして手に入れたペットはどうだ? 人間と違って絶対に上手くいくだろう。それは人間側が圧倒的な支配力を持っているからだ。対等ではないからだ。相手の能力が人間より何百倍も劣っているからだ。そして、スレイブとはそういう存在に近い)



 今のアンシュラオンには力がある。


 これまでの旅で確認してきたが、この周辺にアンシュラオンと対等に戦える存在は皆無である。強大な魔獣を屠ってきた自分を脅かす存在は(姉以外では)いない。


 つまり今の自分は、社会的にも人間としても上位の存在なのである。圧倒的に強者なのだ。


 それから見れば、目の前の少女はペットと大差なかった。絶対に対等にはなりえない。


 が、愛玩動物にはなれるのだ。




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