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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
274/618

274話 「鬼熊決戦 その2『決着、刀に認められし者』」


 鬼熊たちが罠にはまる。


 これはハンターたちが使っていた罠と同じものだが、複数の術符で構成される『破仰無罫陣はぎょうむけいじん』と呼ばれる【封印結界】が設置されている点が異なっていた。


 この術式に特に攻撃性はなく、その場所を隔離するだけのものであるが、討滅級魔獣でも十秒程度ならば動きを封じられる強力なものである。


 穴から脱出しようとした鬼熊が結界に激突。やはり簡単には出られない。



「今です! 一斉射撃!」



 ここでソブカたちは急速反転。


 穴に落ちた鬼熊にありったけの弾丸を撃ち込む。


 この結界は内から外に出ようとするものだけに作用するので、外からの攻撃はそのまま素通り。


 爆炎に雷撃、貫通弾が雨のように降り注がれる。


 ただし、鬼熊の耐久力は極めて高く、銃弾に対する耐性もあるため致命傷を与えられない。術符や大納魔射津も投げ入れているのだが、それすらも耐え抜く。


 そのうえ穴に落ちなかったベアルたちも、迂回して襲いかかってきた。



「ここからは総力戦です! 絶対に勝ちますよ!」


「おおおお!」



 マキやユキネが熊と戦い、鷹魁とクラマが敵を抑える。


 その間に鬼鵬喘やガンセイが激しい攻撃を浴びせ、ホロロたちも残った弾丸をすべて使って熊を排除していく。


 やはり二つの隊が合わさった時は、攻防共に高いレベルを維持できることがわかる。


 しかし、罠にかかっている間に鬼熊を仕留められなかったのは痛い。



「グオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」



 結界の効果が薄れて力ずくでぶち破った鬼熊が、地面に爪を食い込ませ、大地ごと―――切り裂く!


 まるで地下で大爆発が起きたように、岩盤そのものが浮き上がり、真上に吹き飛んだ。



「なんてパワーなの!」



 巻き上げられた大量の土砂にマキたちも下がるしかない。


 その衝撃に赤鳳隊の装甲車も巻き込まれ、ソブカの足元が揺らぐ。


 そこにベアルが突っ込んできた。



「ソブカ様!」



 すかさずファレアスティが間に入る。


 しかし体勢が悪く、ベアクローの直撃を受けてしまう。


 鎧が切り裂かれ、骨が砕けて弾き飛ばされ、傷口から大量の血が噴出する。


 彼女は剣士で防御力が高いわけではないため、一撃でも受ければ致命傷となってしまうのだ。


 その悪夢が実現し、倒れた身体はぐにゃりと曲がってしまっていた。一目でかなりのダメージだとわかる。



「ファレアスティさん! うっ…これは酷い怪我です。誰か援護してください!」



 そこに小百合が薙刀を持って駆けつけ、周囲の熊を牽制しながらファレアスティの怪我を診る。


 彼女は背中を深く爪で抉られており、骨折した背骨が露出するほどの大怪我であった。もし彼女が武人でなければ間違いなく死んでいただろう。


 が、ソブカはそんなファレアスティを一瞥するだけで指揮を続行。



「ミナミノさんはファレアスティを回収。ガンセイは人形で弾幕を張ってください。鷹魁、ラーバンサー、あの大きな熊を頼みます」


「了解だ!」



 他のメンバーもファレアスティのことは気にしつつも、ソブカの指令を最優先にして動いている。


 思えばサナたちが巣穴前にとどまった際も、彼らは躊躇なく場を離れていた。



(上の者のために、下の者が身を投げ打つのが当たり前。ご主人様が提唱される絶対階級制度を見事なまでに実践しておりますね。何があっても作戦を実行するという強い意思こそ、赤鳳隊の強みなのでしょう)



 そんなソブカたちをホロロが静かに見つめる。


 従う理由はそれぞれ異なるだろうが、クラマが言ったことは事実であり、彼らは組織のトップであるソブカのためならば命すら惜しまない。


 もっとも親しいであろうファレアスティですら駒の一つにすぎず、完成された意思統一は、それそのものが一つの生物となんら変わりがない。


 ソブカという脳と心臓のためならば喜んで犠牲になるのだ。


 当然アンシュラオンが出した序列制度も同じことを提唱しているため、その点に関してはソブカと意見が同じだろう。ホロロもサナのためならば喜んで死ぬ。


 がしかし―――



「…ぐっ!」


「サナ様、ご出陣です!」


「我々二人がお供いたします」



 準備を整えたサナが、小百合とホロロを伴って鬼熊に向かっていく。


 彼女は仲間が傷つけられたら激しく怒り、命を張ってでも守ろうとする。そこには赤鳳隊と同じでありながらも、どこか人としての温もりを感じさせる。


 黒き少女は空っぽだった。


 アンシュラオンと出会うまでは、意思の一つも満足になかった存在だ。


 だが、白い魔人の愛が、他の者たちからの優しさや敬愛が、少女の中に頑とした強い感情を生み出していた。


 その意思が『炎』を生み出す!


 他の熊と戦っていたマキを追い抜き、鬼熊に到達すると刀を斬りつける。


 今までのサナならば、いくら黒兵裟刀を使っていたとしても、軽い切り傷を与える程度だったものが―――ブシャッ!


 熊の硬い毛皮と皮膚を貫き、肉を切り裂いて血を出させる。


 彼女の体表の『戦気』が刃にも伝わり、戦う力として顕現しているのだ!



「サナちゃん、戦気を使えるのね!」


「…こくり!」


「ユキネさん、ここは任せるわ! 私は彼女と一緒にボスをやる!」


「え!? ちょっと! まだこっちが削りきれてないのに!」


「たまには本気でやりなさい!」



 興奮したマキが、ユキネに全部押し付けてサナと合流。


 そうなると残されたユキネに、まだ余力のあるベアルが迫ってくる。



「もうっ! こんなの本気でやるしかないじゃない! いいわよ! やってやるわよ!」



 追い詰められたユキネは、仕方なく能力を解放。


 身体中が輝きを帯び、全神経が研ぎ澄まされていく。


 ベアルの攻撃が放たれるタイミングを狙って、カウンターの剣が肩口に命中。深々と抉る。


 それに怯んでベアルが一歩下がった瞬間には、完璧なタイミングで前に出て剣で鼻を切り落とす。


 ベアルが怒り狂って爪を振り回せば、そのテンポに合わせて踊るように攻撃を回避しつつ、流れるように剣を繰り出して傷を増やしていく。


 相手の呼吸を読んで、どう動くのかを事前に察知し、踊りながら剣を繰り出す光景は、まるで―――舞踏会


 男女のペアが、アクロバティックで情熱的な踊りを披露する光景を彷彿させる。いや、相手は魔獣なのでサーカスの催し物といったほうが近いだろうか。


 だが、ユキネの瞳はどこかぼーっとしており、ベアルの挙動を見ていなかった。


 高等戦技、奥義『寿宴迦武踊じゅえんかぶよう』。


 光属性の上位属性である『寿気じゅき』を使った戦気術で、寿気を身体に満たすことで相手と同調し、考えるよりも速く剣を振る身体強化系の奥義だ。


 下位属性の『陽気』が簡易的な身体強化や他への影響力を行使するのに対し、寿気は当人の生命力を著しく活性化させる属性である。それによって生体磁気も増して戦気の量も倍増。


 戦気が倍増すれば、身体に与える影響も倍増し、攻撃力も倍増!


 凄まじい勢いでベアルを切り刻んでいく。



「私だってね! 狙った相手を全力で獲りに行く時だってあるのよ! なめんじゃないわよ!」



 第七級の達験級に至るためには、何かしらの奥義を身に付ける必要がある。


 マキの場合は攻撃特化の技によって到達したが、ユキネは周りと同調することにすべてを費やした。


 そのおかげでこのレベルまで到達したものの、彼女にとっては屈辱でもある。



「私がどれだけ男に媚びへつらってきたかわかる!? スケベなおっさんに胸やお尻を見せて、何が楽しいってのよ! コンチクショオオオオオ!!」



 そんなことはベアルには関係ないが、今までの鬱憤を熊に叩きつけて―――打ち倒す!


 数えきれないほどの切り傷を与え、ベアルが意気消沈したところに渾身の突きで心臓を破壊。


 マキとの連携で弱らせていたとはいえ、単独でのベアル撃破の功績を挙げる。



「よっしゃああああああああああ!」


「ユキ姉、素が出ちゃってるよー!」



 いつもの彼女とは異なる、激しい勝利の雄たけびが響き渡る。


 若い女が臭い毛皮を着せられ、さまざまなストレスに晒されれば、時にはキレることもあるだろう。


 そう、これがユキネの本来の性格。


 マキに劣らぬ激しい気性を持った女性の素の感情であった。



「やっぱり猫を被っていたわね。サナちゃん、こっちもやるわよ!」


「…こくり!」


「今までの相手とはレベルが違うわ! 注意して!」



 今度はサナとマキが鬼熊に立ち向かう。


 鬼熊の爪はあまりに大きく、くらえばマキでも一発ノックアウトもありえる。


 さらにそれを地面に叩きつけることで衝撃波が発生。


 大地を割りながら勢いよく迫ってくる。


 マキとサナは跳躍して回避。


 そこに鬼熊が巨体を揺らしながら突進してきた。


 サナは跳躍した直後なのでかわせない。



「サナ様! これを!」



 小百合が投げた石をサナが蹴ると―――ピョーーーンッ!


 石に付与した『跳躍移転』の力によって体当たりをかわし、回転しながら、すれ違いざまに鬼熊の背中を切り裂く。


 サリータ戦では見せなかったが、触れたものに能力を付与できるため、こんなトリッキーな使い方もできるのだ。さすがに鬼熊の質量だと厳しいが、単純に敵に投げるだけで吹き飛ばすことも可能だ。


 そして、獲物を逃がした鬼熊の前には、魔石獣を展開させたホロロが待っていた。



「神に逆らった罰を受けなさい!」



 鈴羽が大量に突き刺さり、『警告の囀鈴てんりん』が発動。熊の動きが音によって感知できるようになる。


 続いて『束縛の嘶鈴せいりん』によって、ショックダメージを与える。


 ただし、今回は相手の肉体が頑強すぎるうえ、怒り狂っているので動きを止めるまでには至らない。


 その代わりに『悔恨の鈴籠すずかご』に閉じ込めることには成功。



「マキ様、申し訳ございません。もうエネルギー切れで、これが精一杯です」


「ホロロさん、十分よ! あとは任せて!」



 ホロロとマキがスイッチ。



「あなたたちに恨みはないし、あなたが私たちを恨む気持ちもわかるけど、私は自分の家族を守るために全力を尽くす!」



 マキの戦気が真紅に染まり、鬼熊と真っ向勝負。


 腹に全力の紅蓮裂火撃を叩き込む!


 強烈な打撃とともに爆発が起こり、腹の肉を破壊して焼いていく。



「グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」



 鬼熊は激しく暴れ回り鈴籠を破壊。


 反撃で大きな爪が真上からマキに振り下ろされる!



「はぁあああああああああ!」



 それをマキは両腕の篭手で受け止める!


 押し込まれて足が半分大地に埋まっても、彼女の意思は止まらない。


 ひたすら根性で耐え抜く。



「きっくぅううう! 腕の骨にヒビが入ったかも!」



 耐久力があまりないマキが、どうしてわざと攻撃を受けたかといえば、背後に回り込むサナの姿が見えたからだ。


 マキはがっしりと熊の爪を掴んで動きを封じる。


 その間にサナが完全にフリーなタイミングで、熊の首の後ろに黒兵裟刀を叩きつけた!



「グフフウウウッ!」


「っ―――!」



 がしかし、鬼熊の二本角から大量の蒸気が発生し、サナを包む。


 思わず電気ポットの湯気に触ってしまったかのように―――アッチアチ!


 普通の人間や魔獣だったならば、即座に大火傷で死んでいただろう。


 ただし今のサナは、それ以上に熱い炎に包まれている。


 戦気がダメージを軽減し、炬乃未の防具が守り、ダメージを最小限に抑えることができた。



「…じー」



 ここでサナは気づく。


 黒兵裟刀では駄目だ。


 実に素晴らしい武器だが、あくまで補助的なものだ。致命傷は与えられない。


 何かないか。


 一撃で熊の首を断ち切ることができる強い武器は。


 そして、一瞬の思考の果てにポケット倉庫から出したものは、真っ黒な刀。


 その名は『劫魔刀ごうまとう黒千代くろちよ』。


 炬乃未が初めて『満足のいく出来』と称した正真正銘の名刀であり、今後の末永い発展と希望を託して作った刀だ。


 これまでは扱いこなせない武器であったが、手に持った瞬間に刀から伝わる波動を感じた。



―――〈私を使いなさい〉



―――〈私があなたを守るから〉



「…っ! …こくり!」



 名工が作るものには、魂が宿る。


 彼らが生み出す『鍛気たんき』によって、その武器特有の個性を生み出すことができるのだ。


 その代表的なものがガンプドルフが使う魔剣や聖剣といったものだが、炬乃未が生み出した武具にも『使用者を護る』という強い願いが込められていた。


 黒千代を抜いたサナが、再度鬼熊に向かって飛び込む。


 鬼熊の爪はマキが腹を殴り、小百合が薙刀で妨害して防ぐ。


 首を大きく曲げての噛みつきからも、陣羽織が削れながらも守ってくれて、完全に抜け出ることに成功する。



「…ぎろり」



 サナの目が赤く輝く。


 戦気が急速に刀身に凝縮され、より鋭い気質である『剣気』に変化。


 さらに魔石からエネルギーが注入され、そこに青雷も絡みつく。



 黒千代―――【一閃】!



 凄まじい速度で振り抜かれた一撃が、熊の脊椎に入り込んで破壊。



 そのまま筋肉を断ち切り―――切断!



 鬼熊の首が、宙に舞う。


 同時に青雷が駆け抜け、残された胴体を焼き尽くす!



「うらぁあああああ!」



 そこにマキのとどめ。


 爆発集気からの赤覇・烈火塵拳!


 内部から焼かれた鬼熊の身体を、さらに外部から爆炎が包み込む。


 打撃の衝撃も合わさり、腹の半分が吹き飛ぶほどの高威力の一撃を受け、鬼熊の命の炎が潰える。


 だが、地面に転がった鬼熊の顔は、その最期の瞬間までサナを睨みつけていた。



「…じー」



 両者の怒りと怒りが絡み合った戦場には、マイナスのエネルギーがこれでもかと渦巻いていた。


 普通に暮らしている人間がこうした感情を受けると、ぎょっとしてしまって、戸惑い、苦しみ、迷うことになる。戦うことに疑念を抱いてしまうかもしれない。


 しかし、武人は違う。


 戦うために生まれ、戦うために存在している者たちは、倒した相手の恨みすら誇りにすることができる。


 互いに全力で殺し合った結果、どちらかが生き残る世の成り立ち。世の理不尽。世の不思議さ。


 それらすべてを吸収し、彼女は新たな意思を生み出す糧としていくだろう。


 闇を知るからこそ光を知る。光あるところに闇もある。両者を知らねば本物の人間にはなれないからだ。


 鬼熊戦、決着である。




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