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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
273/619

273話 「鬼熊決戦 その1『ソブカの策』」


 熊たちが全滅。


 その光景に誰もが動けないでいた。


 当然サナが暴れたせいではあるが、最後の一撃があまりに強すぎて大きなクレーターが生まれていたからだ。


 いまだそこにはバチバチと力の痕跡が残っており、いかに強大な力が放出されたかがわかる。



(アンシュラオンが強いことは知っていたが、まさか妹までここまでの強さだとは! もしや我らは根本的に見誤っていたのではないのか? これはホワイトハンターというレベルを遥かに超えている)



 力の放出が終わっても、ロクゼイの身体は恐怖で震えていた。


 もし自分があの力の中心部にいたら、今頃は跡形もなく消し飛んでいたことだろう。隊そのものが抹消だ。


 この熊狩りに参加する前まで、彼はサナたちのことを若干下に見ていたところがある。ロクゼイほどの武将ならば、それも致し方がないだろう。


 が、これを見たら逆らう気すら起きない。力の次元が違いすぎるのだ。


 そんな時である。


 遠くから赤鳳隊の装甲車が走ってくるのが見えた。



「あー! 逃げた人たちだ! いまさら来ても遅いのにー!」


「待ってください。何か変じゃないですか?」



 アイラなどは恨み言を述べるが、後ろに向かって機関銃を撃っていることから様子がおかしい。


 彼らが近づくにつれて、装甲車の上に赤鳳隊以外の人間が乗っていることがわかった。



「あっ、マキさんですよ! マキさーん!」



 小百合がマキの顔を確認。


 それ以外にユキネやアル等、巣穴に入ったメンバーもいるようだった。



「え? どうしてマキさんたちがいるのー? だって、中に入ったよねー?」


「みんな! 迎撃準備をして! すぐに来るわよ!」



 マキが叫ぶ。


 その顔には、わずかばかりの焦りが見えた。



「来るって何が―――」




―――「グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」




「ひぃいいっ! な、なにこの声!?」



 地鳴りのような咆哮が赤鳳隊の向こう側から響く。


 明らかに人間の声ではないので魔獣だろう。


 その正体こそ、レザダッガ・ベアを率いるボス。



―――――――――――――――――――――――

名前 :レザダッガル・ベアハマー〈人喰地猟大鬼熊〉


レベル:95/99

HP :12870/12870

BP :1320/1320


統率:B   体力: AA

知力:D   精神: B

魔力:C   攻撃: A

魅力:D   防御: B

工作:B   命中: C

隠密:E   回避: C


☆総合: 第三級 討滅級魔獣


異名:森の人喰い進化の大鬼熊

種族:魔獣

属性:鬼、土、岩

異能:突然変異体 、人喰い強化、集団統率、嚙み砕き、グレートベアクロー、ベアハッグ、暴れ回り、穴掘り、囲い込み、物理耐性、銃耐性、執着心

―――――――――――――――――――――――



 『レザダッガル・ベアハマー〈人喰地猟大鬼熊〉』である。


 普通のレザダッガ・ベアと比べると倍くらい大きいのはもちろん、身体に赤いラインが入っており、頭部には鬼のような二本角が生えている。


 両腕も太く大きくなっていて、爪などはもはや武器を超えて『兵器』に近いレベルまで進化していた。


 怒り狂ったベアハマーの爪を受けた岸壁が、あっさりと抉り取られるほどの威力である。


 HPも一万超えで、まさに人喰い熊のボスに相応しい貫禄だった。



「なにあれーー!? めっちゃ化け物じゃん!」


「あれがボス熊ですよ」



 装甲車からソブカが飛び降りる。



「いったいどういうことなの!? お兄さんたちは逃げたんじゃないの?」


「まさか。命を惜しむような生き方はしていませんよ。あなた方が挟み撃ちされないように少々動いたまでです。だいぶ危険な賭けでしたがね」


「こちらも死にそうになったのだぞ。中に入って、わざわざあいつを引っ張り出してきたのだからな」



 ファレアスティの服はかなり汚れていた。


 見れば、ソブカや他の隊員も土や泥で汚れているので、本当に穴の中に入ったのだろう。



「いやー、ほんとほんと! マジで喰われるかと思ったぜ!」



 鷹魁に至っては熊に噛まれたのか、鎧にいくつもの歯型の欠損が見られる。


 熊が金属を食べるかはさておき、かなりの歓迎を受けたらしい。



「今は話している暇はありません。怪我人を収容したら一度後退します。前衛のメンバーは援護をお願いします」


「ここで迎え撃つんじゃないのー?」


「この惨状では足場も悪いですし、あなたたちの疲労もかなり溜まっているはずです。とっておきの場所がありますから、そこまで退きましょう」



 隊全体の損耗具合を考慮し、ソブカたちが怪我人を回収して一度後退。


 半分食われてしまったゲイル隊の傭兵も、雀仙によって治療が行われて一命を取り止める。


 本気を出した雀仙の力は相当なもので、一気に身体を再生させることができた。その分だけ自身の細胞が傷つくため貧血のようにふらついていたが、それに見合うだけの能力といえる。


 そこで改めてアイラが事情を訊く。



「でも、本当にどこから入ったの?」


「外に熊が出現したということは、他にも出入口があると思うのが普通です。あの状況下ではその可能性が高かった。それゆえに我々は反転してからの攻撃ではなく、第二の穴を探して内部に侵入することを優先しました」



 囲みを突破したソブカには、二つの選択肢があった。


 一つは反転して熊の背後から攻撃を加え、サナたちを援護することだ。それによって簡易的に挟み撃ちの構図が生まれ、負担を減らすことができるはずだった。


 が、あえてソブカはもう一つの選択肢を選ぶ。


 サナを信じてあの場は任せ、自分たちは熊が現れた方角の裏側に走って、出てきた穴を探すことだ。



「もしキシィルナさんたちがボスを引き連れて入口に向かった場合、サナさんたちは巣穴前で挟み撃ちにされる危険性がありました。これだけは避けたかったのです」



 一番最悪なことは、外と巣穴側両方から熊に襲われ、逃げ場のない挟撃を受けることだ。


 マキたちは表の状況を知らないため、普通にやっていれば最悪の未来を導いてしまっただろう。



「それなら入口から入ればよかったのに」


「すでに潜入班がボスを近くまで誘導していた場合、我々も逃げ場を失います。そうなれば全滅の可能性もありました。ああやって外側に逃げたことで、我々への警戒を緩めることができたのです」


「それって結局、失敗したらお兄さんたちだけが生き残ったってことじゃん」


「そうとも言えますが、その際は敵の背後から攻撃を仕掛けて、できるだけ分断するつもりでした。正直なところ、あなた方ではこの動きはできなかったでしょう。こういった一糸乱れぬ行動は、部隊統率が完璧である我々のほうが向いています」


「こうやって別の場所から出てきたってことは成功したんだよね? でもさ、ボス熊が無視して入口に向かっていくこともあるんじゃないのー?」


「そこはロクゼイさんの案を採用させてもらって、しっかり『爆破』しましたから大丈夫です。まあ、そのせいで怒り狂ったわけですが…」


「えええええ!? そりゃ怒るよー!」



 ソブカが別の入り口を発見および侵入し、巣穴入口へのルートを爆弾で破壊。


 ついでに小熊がいた寝床にも大量の大納魔射津を投げ込み破壊し、挑発して外側に誘導したことで、挟撃のリスクはなくなった。


 また、巣穴前のサナたちが苦戦しているようならば、ボスを他の場所に誘導して引き剝がすこともできる。リスクはあったが、大胆かつ柔軟性のある策だった。



「それにしてもこんな暗い中で、よく違う穴を見つけられたね」


「ガンセイの人形をフル稼働させたこともありますが、ハンターQも内部で調べてくれていたおかげですよ。彼のほうからこっちを見つけてくれましたからねぇ」



 暗いうえに熊がどこから出てきたのかを突き止めるのは、ハンター以外には困難だ。そこが唯一の懸念材料だった。


 がしかし、ちょうどその頃、先に侵入していたハンターQも別の出口の存在に気づいて内部から調査を開始していた。


 どうやらボスのベアハマーは、何かあったときのために他の逃げ道を用意していたようだ。


 ハンターQが事前にそれに気づかなかったのは、完全には堀り終えずに途中まで掘っておくという周到さからである。これならば外から発見されることはない。


 今回は煙玉が投げ込まれたことを臭いで知ったベアハマーが、穴を掘って侵入者を排除しようと囲い込んだのである。放置していたら、まさに内部で挟み撃ちにされるところであった。


 通常このようなことはあまりない。特殊個体ゆえの変わった行動といえる。


 と、のんびり話していると、鬼熊がへし折った木々を投げつけてきて装甲車に激突。



「うわわわっ!」


「砲撃を足場に集中! 移動を妨害してください!」



 赤鳳隊は熊の足元、主に地盤への攻撃を続ける。


 いくら熊が速かろうが、地面がでこぼこしていれば足を取られてしまう。完全に時間稼ぎを狙ったものだが、意外と効果はあったようで熊の勢いが落ちる。


 だが、相変わらず諦めることなく追いかけてきた。ものすごい執着心だ。



「ちっ、しつこいな!」


「まだですよ、クラマ。あの特殊個体は相当な強さです。他の魔獣もやってくる可能性もありますから、比較的安全な第二階層まで引っ張ります。勝負はそこで決めます」


「わかってるさ。さすがの俺もあれに飛び込む勇気はないよ」


「むしろ、ついてきてくれたほうがありがたいですよ。熊は、ほぼあれで全部のはずですからねぇ。小熊を殺した甲斐がありました」


「えー!? 子供も殺しちゃったの!?」


「強者のアンシュラオンさんならばともかく、弱い者に選択肢はないのです。結果を出すためならば致し方ありません。そもそも殲滅が目的ですからねぇ」


「そっかー…。お兄さんはマフィアだもんね。やっぱり怖いなー」


「怖がらせるのが商売ですからねぇ。光栄ですよ」



 鬼熊のほかに巣穴に残っていた熊も一緒に出てきているため、相手側は十二頭。そのうち二頭がベアルなので、戦力としては包囲してきた群れと遜色ない戦力だ。


 それらはマキやユキネ、鷹魁といったメンバーが壁となり、周りが機関砲や銃撃で援護して、なんとか動きを遅らせることに成功する。



「そうそう、お兄さんが間に合わなかったら、クラマ君が死んじゃう可能性だってあったよねー? そもそもサナちゃんがあそこでがんばらなかったら、入口から熊が入っていたしさ」


「子供だからってなめんなよ! 俺らはいつだってソブカのために死ぬ覚悟があるんだぜ!」


「えー? 死んでもいいの?」


「俺だって死にたくはないけど、赤鳳隊はみんな、その覚悟があってやってんだ。姉ちゃんは違うのか?」


「ん-、私はやっぱり死にたくないかも。痛いの嫌だしね」


「なんだよ、少しは根性見せろよ」


「根性とか関係ない気がするよー?」


「クラマ、生き方も覚悟も人それぞれです。たしかに今回の結果を見れば、我々は少し命を軽く見ていたのかもしれませんね。サナさんのほうが正しかったのかもしれません」


「あれはたまたまだろう。普通ならソブカの判断のほうが正しいぞ」


「しかし、結果がすべてです。こうしたことも起こりえると判断材料に入れねばなりませんでした。とはいえ、さすがに完全に想定外のことばかりが起きていますがねぇ。まさか熊たちを全滅させているとは…。我々の苦労はなんだったのかと問いたくなります」


「サナちゃんがやったんだよー! すごかったんだ!」


「それには非常に興味がありますが、まずはボスを退治しましょう。サナさんはまだ戦えるのですか?」



 ソブカがちらっとサナのほうを見る。


 すでに雷の放出は終わっており一見すれば普通の状態だが、あれだけの力を使ったのだから実際のところはわからない。


 同じジュエリストとして、ホロロがサナの様子をうかがう。



「サナ様、休んでいてください。我々が戦います」


「…ふるふる」


「たしかに我々も消耗していますが、あれほどの力を使ったあとでは…」


「…ふるふる。ぐっ!」



 「家族を守るのは自分だ!」と言わんばかりに元気をアピールする。


 相変わらずの頑固さだ。



「ミーが少し魔石を見るネ。しかしまあ、派手にやったヨ。どんだけ力を引き出せば、ああなるアル?」


「老師、サナ様は大丈夫なのですか! 自分が不甲斐ないばかりに迷惑をかけてしまいました!」


「ユーも腕が折れてるヨ。雀仙に治療してもらうといいアル」


「自分は大丈夫です! それよりサナ様が心配です!」


「ちっ、なさけないねぇ。ますます自分に苛立つよ。おチビちゃんがいなかったら確実に死んでいたからね」



 すっかりサリータはサナの虜になっているようだ。さきほどから、ずっと傍にいる。


 ベ・ヴェルも活躍どころか再び死にかけたことで、かなり苛立っているらしい。



「明らかにジュエルに変化があるヨ。でも、暴走はしていないアル。魔石にも身体にも問題はないネ。でも、やっぱり魔石の使用は限定するほうがいいアル。まだユーは子供ネ。焦っちゃダメヨ」


「…こくり」



(まだ子供なのに、これだけの力を引き出せるネ。成長したらどんな化け物になるか今から楽しみアル。アンシュラオンの気持ちもわかるヨ。見ているだけでワクワクするアル。兄弟そろって面白いやつらネ)



 装甲車が第三階層を抜けて第二階層に戻ってくると、少し広い場所に出る。


 そこはあらかじめ、ソブカがボス熊との決戦になった場合にそなえて、罠を準備していたポイントでもあった。


 装甲車が通り過ぎ、鬼熊たちが入ってきた瞬間、地下からボンという音がして落とし穴が発動。


 鬼熊たちが罠にはまる。




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