表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
272/618

272話 「サナ覚醒 その2『グラサナ・カジュミライト〈庇護せし黒き雷狼の閃断〉』」


 サナの隣に体長八メートルはある『青い雷をまとった狼』が出現。


 荘厳で美麗、勇壮で可憐。


 強さと美を併せ持った美しい青雷狼だが、その目は真っ赤に燃えて怒り狂っていた。


 魔石は宿主に影響を与えるが、主人の影響も受ける相互依存の関係にある。


 サナの激しい怒りを受けて、青雷狼がベアルを睨みつける。


 ベアルは突然出現した謎の存在に困惑。誰がどう見ても自身より上位の魔獣だからだ。


 それでも巣穴に侵入されている怒りから、果敢にも立ち向かおうとするが―――



―――「バウッ!」



 青雷狼の軽い威嚇の一声。


 それは下賤なる者に対して「控えろ!」と命令する程度の威圧だったが、音とともに放たれた青雷がベアルを貫き、感電。


 身体中が一瞬で焼け焦げ、焼き魚のように白濁した目になって倒れる。


 焼けた肉の臭いが漂う中、そのままぴくりとも動かなくなった。



「…死んだ? 死んでいる!?」


「嘘だろう!? 何もしていないじゃないかい!」


「たった一声で、我々があれだけ苦労した相手を殺したのか…!」



 サリータの言った通り、ベアルは死んでいた。


 火傷は直接の死因ではなく、感電と精神崩壊によるショック死である。


 『サンダーカジュミロン〈帯電せし青き雷狼の凪〉』の咆哮には、雷と精神感応波が交っているので、物理的なダメージと一緒に神経や精神をズタズタに引き裂くのだ。



「…ふぅううう! ふぅううううううう!!! ふっ、ふっ、ふーーー!!」



 しかし、それだけでサナの怒りが収まるはずもない。


 彼女の中にある黒い世界は、初めて覚えた怒りの感情によって支配されていた。


 誰しも経験があると思うが、一度怒り狂うと歯止めが利かなくなるものだ。



―――〈てめぇら、全員ぶっ殺す!!〉



 言葉にこそ出せないが、サナの意思に従って青雷狼が身体と融合を開始。


 超圧縮された雷が鎧のように巻きつき、手足には雷の爪が生え、頭には狼の頭部をデザインした雷の仮面が生まれる。


 『雷狼化したサナ』が左手を熊の群れに向けて



 雷撃―――招来



 一直線に放たれた巨大な雷が熊三頭を貫き、焼き殺し、通り過ぎた直後に発生した咆哮の精神衝撃波によって他の五頭の動きが止まる。


 そこにサナが駆けると、手に生まれた雷爪を振り払う。


 雷の刃は熊を易々と切り裂き―――ボンッ


 さきほどのベアルのように雷撃が体内で激しく暴れ回り、電子レンジで卵が爆発するように上半身が吹き飛ぶ。


 次の熊には跳躍して顎を蹴り上げる。


 雷爪は両手足にあるため、熊の顎が切り裂かれて、雷撃の追加ダメージによって爆散。


 レザダッガ・ベアは耐久力が高いから厄介だ、という話はどこにいったのかと問いただしたくなる威力である。


 今の彼女は身体中が凶器だ。頭だろうが腕だろうが、腹だろうが尻だろうが関係ない。当たった箇所を強引に引き裂いてしまう。


 その動きも明らかに今までの彼女とは別物だった。


 移動速度はもはや雷光の如く。一瞬で次の獲物にまで到達する。これはサンダーカジュミロンの速度そのものだ。


 稲光が発せられるごとに熊が排除されていく。



「…ふーーー! ふっふっ!!! バンバン! バンバンッ!」



 しかも怒りに満ち溢れているため、すでに死んでいる熊に何度も攻撃を叩きつけて、挽肉のように細切れのボロボロになった個体もいた。


 怒れる青雷狼に周囲の者たちはまったく近づけない。



「な、なんという! あれがアンシュラオンの妹の力か!」



 サナはロクゼイたちが担当していた熊も蹂躙。


 彼女が通り過ぎたあとには、黒焦げになった熊の形をしたものだけが残る有様だ。


 熟練の精兵たちも、その様子に言葉が出ない。



「あれでも力を抑えておられるのです。半分程度でしょう」


「あれで…か」



 ホロロにはサナが『半覚醒』状態であることがわかる。


 たまたま二人がやっていたのを見て覚えたのかはわからないが、魔石獣を身体にまとわせることで、スキルだけを覚醒させている状態といえる。


 もし以前のように好き勝手動き出したら、それこそ味方もろとも全滅だろう。サナが意識を失わずに敵をはっきり見定めていることで、こちらへの被害は出ていない。


 しかし、半分程度の出力でさえ、猛将のロクゼイが恐怖を覚える迫力だ。


 サナは鳥籠に囚われていたベアルにも雷光の速度で急接近。


 両足を雷爪で切断し、胸を何度も引き裂いて絶命させる。


 眠っていたベアルにも容赦なく襲いかかり、首に爪を突き立てる。


 そのショックで熊は目を覚ますが、起きたら目の前には怒り狂った青雷狼がいるなどと、まったくもって不運でしかない。


 気が済むまで刻まれたあとに、掌から雷撃放射。身体全体が焼け焦げて絶命した。


 そして、死んだ熊を足蹴にして、遠吠え。



―――「バォオオオオオオオーーーーーンッ!」



 これはサナがしゃべっているのではなく、雷同士がぶつかり合って響く音である。


 当然、魔石獣の意思が反映されているので、翻訳すれば「雑魚が! 死んで詫びろ!」といったところだろうか。


 その姿は、まさに魔獣そのものだ。



「ね、ねぇ、あれって…止まるの!?」



 あまりの暴れっぷりにアイラが訊ねるが、誰も答えを出せない。


 唯一、魔石には発動時間があり、エネルギーが尽きたら魔石は力を失うという極めて当たり前の弱点がある。


 これだけの力の放出だ。そのうち枯渇して戻るだろうと思えた矢先であった。


 サナの体表からいくつもの細い雷が生まれると、触手のようにウネウネと動き、何かを探し始める。



―――〈エネルギーが足りない〉


―――〈力が足りない〉


―――〈相手を滅ぼす力が足りない〉


―――〈守る力が足りない〉



 魔石はサナを守るためだけに生まれた存在である。


 その命令を遂行するために、さらなる顕現を欲していた。だが、思念液で補充された分だけでは足りない。


 探す、探す、探す。


 自分の養分になるものを探す。


 熊は駄目だ。こんな低俗な魔獣など養分にもならない。土や石などは論外。植物も駄目だ。


 無い、無い、無い。


 どこだ、どこだ、どこだ。


 雷がバチバチと走りながらエネルギー源を探す。


 もちろん補充するのに適したものでないといけない。できるだけ高エネルギーかつ純粋なものがいい。



 そこで―――見つける



 灯台下暗し。


 そのエネルギー源は、まさにすぐ近くにあったのだ。


 青雷が迸り、連絡要員として派遣されていたモグマウスを―――貫いた!



「チュキッ!?」



 突如頭上から降り注いだ青雷が、一匹に命中して爆発!


 ただ爆散するだけではない。砕けた命気の塵が青雷に吸い込まれていく。


 それによって青雷が太く大きくなり、同様にサナと融合している雷狼が肥大化。よりくっきりとした狼らしい形状になっていき、サナの臀部から雷の尻尾まで生え始めた。


 それで満足するかと思いきや、隣にいた二匹目に襲いかかる!


 再び爆散したモグマウスの塵を吸収して、また雷は大きくなっていく。


 モグマウスはサナに対して反撃などできるはずもないので、一方的に吸収し、そのたびに強大になる。



―――【喰って】いる



 この光景は、まさに食事そのものだ。


 より強い者がより弱い者を喰って強くなるように、モグマウスの力を吸収して力に変えているのだ。


 モグマウスは命気の塊である。もともとはアンシュラオンの生体磁気なので、高純粋エネルギー体と呼べるだろう。


 アンシュラオンの命気や賦気を受けてきた彼女にとって、これは非常に馴染みのあるものであり、自分の身体の一部とも呼べる存在だ。


 だからこそ吸収できるし、不純物なしの超高等エネルギーとなりえる。ほぼ100%エネルギーとして喰らうことができるのだ。


 しかしながら、これはアンシュラオンの力である。


 熊を薙ぎ払い、猿を打ち倒し、廃墟の街を一撃で土砂に埋める破壊の力の一部だ。


 そこらのものとは格が違う!



「っ―――はぁはぁ! っっっ!!」



 サナがびくんと大きく跳ねた。


 目を見開きガクガクと痙攣し、汗が噴き出し涙が流れ、鼻血まで垂れる。


 それは高濃度のアルコールのようなものだった。本来ならばモグマウスが傷の具合に応じて薄めて与えるものを、直接原液のまま飲み込んでしまった状態といえる。


 サナはしばらく痙攣を続け、口から泡を吹いて朦朧とする。


 だが、心配する必要はない。


 これは一時の症状であり、結果に到達するための過程にすぎない。


 彼女の体内では激しい代謝が行われ、今取り入れたエネルギーを分解吸収している。


 ペンダントの明滅も激しくなり、青いジュエルの中で爆発がいくつも発生。


 それを数百回続けたあと、時間で言えば三十秒程度だったのだろうか。



 青雷から―――【黒雷】へ



 青い輝きの雷は、サンダーカジュミロンの象徴だった。


 それゆえに青いジュエルは、まだその原形をとどめていた。なんとかギリギリ討滅級と呼べるランクで収まっていた。


 それが―――進化!


 外に無駄に発散していた力を圧縮して、自分の力にしようと凝縮を始めた。


 それはサナ自身にも影響を及ぼす。


 彼女の美しい長い黒髪が、可愛い顔が、か細い腕が、柔らかいお腹が、しなやかな足が、さらなる漆黒に染まっていく。



(震えて…動けん! それどころか…ひざまずきたくなる!! この俺が…! ライザック様の親衛隊長の一人である俺が!! 命乞いをしているのか!!)



 その圧力は、あまりにも規格外だった。


 もはや人間のものではなく、むしろ人間に対して強烈な敗北感を与えてくる。


 ロクゼイは必死に耐えるが、海兵の中には足が震えて立つことができず、膝をついてしまった者もいた。


 だが、それは責められない。それができることが羨ましいとさえ思えてくる。



 なぜならば目の前にいるのは―――【上位魔人】



 人間がけっしてあらがえない存在であった。


 同じ力をわずかでも受け入れた小百合とホロロは、サナを前にして恭しくひざまずく。誰が自分たちの主人なのかを知っているからだ。



「サナちゃん…どうしちゃったの? なんかすごっ! というか、真っ黒! 可愛い顔がよく見えないよー!!」



 ただ一人アイラだけは、それを見ても震え一つ起こさず、ぼけっと状況の変化から取り残されていたが。


 サナの変化が終わると、今度は収束した黒雷が強力な力点となり、じわじわと周りに広がっていく。


 周囲一帯が、光さえも通さない完全な黒に染まった。



「…ぎろり」



 サナの赤い瞳が、下等な熊たちを見下す。


 小百合とホロロにも同じ『魔人化』現象が起きたが、愛の深さが与える力に比例するものだとすれば、彼女はまるで別格。


 白い魔人が愛する少女に手を出す者が、いったいどうなるのか。


 サナが掌を向けると黒い雷が凝縮し、一つの小さな点となって熊たちに向かう。


 それは小さな点でありながらも純粋な力の塊。あまりの力の圧縮に周囲が耐えきれず、木が、土が、岩がいとも簡単に吸い込まれていく。


 大地が揺れ、視界が歪み、黒い球体から無数の漆黒の雷が出現し―――蹂躙!


 破砕、爆砕、業砕、雷砕、滅砕!!


 黒雷が熊たちの身体を貫き、感電させ、身体の表面も内面もすべて焼き尽くし、わずかに存在していた『知性』すら崩壊させる。


 もはや自分が何であったのか、自分の特技が何であったのか、なぜここにいるのか、なぜ存在しているのか。



 すべて―――否定!



 否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定!!!




―――〈お前など世界に必要ない。消えろ〉




 脅しでもない事実を宣言された哀れな魔獣たちが、掻き消える。


 逃げ惑う暇もない。目の前に出現した謎の黒い雷に呑まれて存在を抹消されていく。


 それは個体データごと世界から削除する、まさにデリート作業でもあった。


 これは、すべての存在に与えられる【罰】であり【災厄】なのだ。


 もうそこには何も残っていない。


 ただ黒雷で抉り取られた痕跡しかない。


 黒き世界が収束し、すべての黒雷がジュエルに吸い込まれていく。


 それに伴って【黒雷狼こくらいろう】が解除されて青い雷に戻り、サナの肌の色も元に戻っていった。



「…はっ、はっ、はっ!」



 サナは荒い呼吸を繰り返しながら呆然としている。彼女自身も何が起こったのか理解していないのだろう。


 それも仕方ない。これはまだ誰も理解していないことだ。


 だが、事実だけは知っている。歴史だけは知っている。



―――【グラサナ・カジュミライト〈庇護せし黒き雷狼の閃断〉】



 これこそサナがペンダントとして身に付けているテラジュエルの名であり、魔石獣である『グラサナ・カジュミュイオン』の力の源だ。


 これが序列一位。


 精神攻撃を得意とする小百合たちとは違い、圧倒的な殲滅力を秘めた破壊の権化である。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ