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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
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27話 「求めしもの、それは白スレイブ」


 なぜか意気投合し、モヒカンの案内で裏口から出る。


 そこは両側の大きな建物によって完全に外からは見えない死角道になっていた。明らかに違法の臭いがする。


 それもまた、アンシュラオンをワクワクさせるのだが。



「いいな、この感じ。オレが住んでいた街の裏道を思い出させる」


「どんな街っすか?」


「小学生が歩いている表通りのすぐ裏に風俗店が羅列していた街だ。あの荒んだ空気はたまらんよ。まあ、行政の一斉撤去に遭って大半が潰れちまったけどな。ニュースにもなったし」


「それは不運っすね」


「まったくだ。あの薄汚れた空気が良かったんだが…綺麗好きのお偉いさんにはわからないらしい。対外的には潰れて当然だとも思うけどな」



 あの街並みは今でも思い出す。不思議なことに小学生の頃はまったく気がつかなかったので、それなりに住み分けができていたのだろう。


 裏の人間は表通りには出てこない。そのルールがあったからこそ容認されていた空間である。


 ここにはそうした懐かしい匂いがあるのだ。今なお現役で。



「それにしてもお客さんほどの美形なら、さっき言っていたように普通にモテると思うっすけどね。何が不満っすか?」


「オレはモテたいんじゃない。従順な子を支配したいんだ」


「歪みすぎっす。さすがっす」


「お前の中で、オレはいったいどんな人間になっているんだよ」


「美形お子様超外道っす」


「お前も遠慮がないな。べつにいいけどさ。自分が歪んでいるってことを否定はしないよ。オレはきっと自分以外を信じちゃいないんだ。それは昔からさ。だからスレイブがいいんだ。完全に自分の支配下にあるものしか信じないし、愛せない。完全支配下にあるものは裏切らないし逆らわないからな」


「素晴らしいと思うっす。その通りっす」


「そう思うなら、お前も十分狂ってるよ」


「好きでこんな商売やっている身っすからね。似たようなものっすよ。でも、そんなお客さんだからこそ、ここにある商品には満足してもらえると思うっす」


「それは楽しみだ」



 陰道を五十メートルほど進むと、一軒の建物が見えてきた。


 よくもこんな大きな建物があったものだと思うほど、そこは周囲のごちゃごちゃした建物に囲まれて外からは見えない状態になっている。


 建物は木造で見た目もさきほどの店に似ているが、シックな色合いの木が使われていて、表のものよりも高級感がある。扉や窓の造りも、より繊細で煌びやかだ。


 おそらく常連だけを招く特別な場所なのだろう。



(こういう場所は金持ちの常連しか来られないもんだ。ここまで上手く運ぶとはな。これも魅力のおかげか?)



 話が上手くいくことに驚くが、これも魅力の効果かもしれない。


 この魅力値というものは人を引き寄せたり、あるいは協力を取り付けたりする力も指している。


 たとえば【王】や指導者などは、例外もあるが総じて魅力が高い。


 人々を導く特別な人間にそなわっている人徳であり、吸引力である。自然と人は魅力ある人間に寄ってくるのだ。


 そして、その人間に協力したくなる。不思議なものだが、それを魅力と呼ぶ。



(特に異名はないけど、オレも【王】の属性があるんだよな。ゼブ兄にもあるし。あっ、姉ちゃんにはなかったかな? ううむ、この属性も謎だ。スキルや属性には、まだまだよくわからないものが多いな…)



「どうぞっす」


「うむ」



 モヒカンが扉を開けると、中は少し薄暗くも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


 クラブや高い居酒屋のようにわざと照明を暗くしている感じで、それがさらに期待を膨らませる。



(こういう暗い空間っていいよな。なんだか自分が悪いことをしている気分になってドキドキする。それ以外にも、こういう店の場合は利点が多そうだな)



 暗いほうが人間は親密度が増すというし、女性の肌が綺麗に見えやすいという話もある。


 簡単な例を挙げれば、少し暗めの照明で鏡を見るとそこそこ綺麗に見えるが、美容院などの明るい場所で見ると、思った以上に肌が汚くてびっくりすることがある。


 後者が真実なのだが、わざわざ汚い顔を見て絶望することもないだろう。それならば照明を少し落として、自分の顔に満足する日々のほうがよい。どうせ見た目は変わらないのだから。



(ただ、そこで騙されないようにしないとな。魅力はあくまで魅力。真実を見極めるのは、いつだってオレ自身の目だ。油断はしないように気をつけよう)



「この人は特別っす。今後も失礼がないようにするっすよ」


「はい」



 入り口の見張りに声をかけて中に入る。


 見張りは傭兵風の男で、手には銃を持っている。衛士が持っていたものと同じ木製銃である。



「銃か。衛士も持っていたが、銃は一般的なのか?」


「そんなことはないっすね。まだまだ数は少ないっす。そもそもグラス・ギースでは一般人の銃の所有は禁止されているっす。持ち込みも禁止で、東門のところで回収していたはずっす」


「そうなのか? オレは別の入り口だったから気づかなかったな」


「そのリング…お客さん、武人っすか?」


「まあな。今回から始まったようなことを言っていたが、何かあったのか?」


「三ヶ月くらい前っすかね。街で酔って暴れた武人がいたっす。その時は制圧したんで問題なかったっすが、領主が怒って錬金術師に抑制リングを作らせたとか聞いているっす」


「ほお、この街には武人を制圧できるだけの力があるのか」


「武人といってもピンキリっすからね。ただ、あの時はけっこう暴れたんで苦戦して、結局門番の女衛士が倒したっす」


「女衛士…あのお姉さんかな? 赤い髪の」


「そうっす。門番っすけど、たぶん領主の親衛隊より強いっすね」


「さすが門を守っているだけはあるか。ますます好きになったよ。それより、お前たちは銃を持っていてもいいのか?」


「商会なら登録をすれば持っても大丈夫っす。商品を守るのも商会の義務っすからね。おおっぴらに持っているとお客さんを威圧するっすから、こうして見えないところで武装しているっす」


「逃げ出そうとするスレイブを撃つためでもあるだろう?」


「誤解しないでほしいっす。ここにあるのは【上物】っす。逃げることはないっすし、万一逃げたとしても傷つけるなんて馬鹿な真似はしないっすよ。まあ、実際に見たほうが早いっすね」



 中は少し迷路のようになっており、いくつかの扉を経てようやく目的の場所にたどり着く。


 そこは大きな部屋で、展示場といってよいほどの広さがある。


 真ん中に通路があり、その両脇にいくつもの個室が並んでいるという構成だ。部屋は木と岩を使った大理石のような上品な造りで、見るだけでもなかなか趣がある。



 その個室には―――スレイブがいた



 男女のスレイブが、それぞれ扉のない個室でゆったりとくつろいでいる。そこに鎖といった野蛮なものはない。



「鎖で繋がれているわけではないんだな」


「勘弁してくださいっす。うちは優良正規店っすからね。お客さんたちが安心して利用できるように健康には気を遣っているっす」


「こんな裏店を作っておいてよく言うな。まあ、鎖で縛るのも悪くないがな」


「思った以上に鬼畜っす」


「鎖は支配の象徴だし、そそるものはある。が、ないならそれでもいい」


「プレイ用のものならあるっす」


「必要になったら借りるさ。むろんオレが求めているものは、鎖などで縛らなくても言うことを聞くやつだ」



 これまた勝手な思い込みで首輪に鎖かと思っていたが、まったくそんなことはなかった。


 それも当然。どう見ても、ここにいるのは【高級スレイブの類】だ。そんなことをすれば商品の価値を下げるだけである。



「ああ、そうっす。扉はないっすが、部屋の入り口には…」


「術式で見えなくしているんだな。声も聴こえていないようだ」


「わかるっすか?」


「この前、見たからね。あっちのほうが凄かったけど」



 この術式は、あの戦艦が使っていた術式に似ている。


 肉眼では見えない蜘蛛の巣のようなものが、本来扉がある場所に張り巡らされて視認を邪魔しているのだ。


 それを可能にしているのは、個室のネームプレートに付けられているジュエルだろう。そこから力が発せられているのがわかる。


 ただ、戦艦のものは軍事用だったせいか、これよりも複雑な構造をしていたようだ。こちらはあくまで一般用なのだろう。



「すごいっす。術士の素質があるっすか?」


「たいしたことはない。で、この子たちは? ずいぶんと若いようだが」



 そこにいたのは全員、若い男女のスレイブ。はっきり言えば【子供のスレイブ】だ。


 本当に若い子ならば幼稚園生くらいから、成長していても中学生くらいが精一杯といったところだ。


 この世界の容姿と年齢の基準がわからないものの、おそらくアンシュラオンの見立て通りだと思われる。



「いろいろと訳ありのスレイブっす。身寄りがなかったり保護されたり、自分で契約を付けられない【白スレイブ】たちっす」



 通常のスレイブは自分の意思で契約内容を作ることができる。子供であっても保護者や保証人がいれば、好きな条件を出して契約書を生み出せる。

 

 が、身寄りがなく保護されたり、自分で書く能力がなければ当然契約書は作れず、スレイブにはなれない。


 しかしそれに対しても裏道があり、また違った需要が存在する。


 それはつまり―――



「白スレイブか。売り手ではなく【買い手側が自由に契約を作れる】ということだな? どんな命令でも聞くように。だから白だ」


「その通りっす! さすがっす!」


「なるほど、これは…面白い。いや、素晴らしい! 素晴らしいぞ、モヒカン! これこそオレが求めていたものだ!!」


「お客さんなら、やっぱりそう言ってくれると思ったっす。嬉しいっす」



 いわゆる白ロムなどと同じ意味で、契約情報が記録されていないものを指しているのだろう。


 いまだ何の穢れもない、まっさらな無垢なスレイブ。


 これこそアンシュラオンが求めていた【物】である。



「これは劣等スレイブということなのか? 自分の意思すら尊重されないんだろう?」


「それも白ってことっす。等級も買い手の権限によって決められるっす。個人の意思については、うちは尊重しているほうっすよ」


「うちは…か。それだけでも運がいいか」


「実際に運がいいっす。多くは金持ちが養子として連れていくっすからね。正規の手続きじゃないんで、そのほうが都合がいいっす。子供がいない家庭が単純に跡取りにしたり、あるいは遺産相続用の隠し子にでっち上げたり、たまに子供の影武者にするってのもあるっすが、概ね裕福な人生を送るっす」


「使い道は道楽だけではないか。こうなったら素性もくそもないからスレイブですらなくなるんだな。それもまた好都合だ」



 過去の情報がないので、そのまま本当の子供として処理される。


 そうなれば、もはやスレイブと本物の区別はない。そこに利用価値があるのだ。



(なかなかどうして裏側も、きな臭い世界じゃないか。これでこその自由な世界、フロンティアだ。ますます面白くなってきたな)



 制度自体に文句を言うつもりはない。ここの生まれでもないし、彼らには彼らの文化があるのだろう。


 アンシュラオンも地球においてそこまで綺麗だったわけではない。人間の裏側もよく知っている。知っているからこそ、それをすべて受け入れるわけではない。



(すべてはオレの自由。その中から気に入ったものだけを吸い取ればいい。せいぜい利用させてもらおうじゃないか。オレはオレだけの世界を生み出してやる。その第一歩がここから始まるんだ)



「では、見せてもらうとしようか、自慢の白スレイブとやらを」




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