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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
268/619

268話 「共闘 その2『信頼される者』」


 前衛メンバーでクラマだけが孤立。


 上手く立ち回れず無為な時間を過ごしていた。



(俺だってできる! 赤鳳隊の一員なんだ!)



 業を煮やしたクラマが、赤鳳隊士が引き付けていた熊を狙って飛び込む。


 懐に入ってからの高速の斬撃はさすがに見事で、熊を傷つけることはできる。


 熊の反撃も紙一重でかわし、カウンターでさらにダメージを与えていった。これが彼の真骨頂である。



(いけるじゃないか! このまま続けていけば切り裂ける!)



 がしかし、それは独りよがりな行動でしかない。


 すぐに他の熊が囲みを突破してきて、無防備なクラマに激突。



「が―――はっ!?」



 小柄な身体が吹っ飛び、巨木に亀裂が入るほどの衝撃が走る。


 ついでに骨にもきっちり亀裂が入り、呼吸が止まってしまう。


 クラマの長所は、掠めるほどの紙一重で攻撃をかわしつつ、反撃を叩き込むハイリスク『ローリターン』の戦法だ。


 なぜローリターンなのかといえば、一撃一撃が弱いからだ。


 これは彼の肉体が成熟していないことで、剣気の威力が低いことが挙げられる。子供のクラマは戦気の総量が少ないのである。


 それを速度と技量と度胸で担っているのだが、これが多数相手となると厳しくなる。



「く…そ……邪魔が入らなければ…」


「何をやっているの! せっかく囲ったのに逃げられたじゃない!」


「うるさい! 俺がソブカの敵を倒すんだ…! 戦わないと何も得られない! もう自分を偽るのはうんざりだ!」


「クラマ…」


「俺を束縛するものは、全部ぶっ壊してやる!!」



 彼の目に宿る炎はソブカと同じ。


 ラングラスの血を引きながらも、自己を押し込めて偽ってきた者たちが宿す『激情の炎』だ。


 あまりに強すぎる憤怒は、自身すら燃やしてしまう危うさを持つ。



(この子は危ないわ。このままじゃ、いつか身を滅ぼしてしまう。誰かが…大人が導いてあげないと!)



 そんな彼の腕を掴んだマキが、強引に引っ張り上げる。



「いてて! まだ骨が…!」


「ついてきなさい。私と一緒に動くのよ! ほら、さっさと走る!」


「俺はあんたの舎弟じゃないんだぞ!? 命令するなよ!」


「今は私のほうが上よ! 自分で走らないなら引きずっていくわ!」


「そんな馬鹿力で引っ張られたら腕が抜ける! わかった、わかったよ!」



 今度はマキと一緒に前に出るが、今までと同じ動きはさせてくれない。



「鷹魁さんがいないんだから、もっと動いて敵を掻き回すのよ! 動きも止めちゃ駄目! 私たちみたいな防御が固くない武人は、ひたすら動いて的を絞らせないように立ち回るの!」


「これじゃ中途半端で倒しきれないよ!」


「独りで戦っているわけじゃないのよ! 周りをよく見て! ほら、あっち! 敵が包囲網を突破しようとしているわ! お尻を叩いて! そっちからも来るわよ! 敵を引き付けて!」


「くっ、やりにくい! いつもと違うから…」


「言い訳はいらないわ! 自分がやれることを探しなさい!」



 マキは鷹魁のように身体を張って止めてはくれない。


 彼女がかわした敵の攻撃がクラマにも届きそうになるので、いつ何時も周囲から注意を逸らすことができない。


 いつも以上に感じる敵の迫力に、毛が逆立つ。



(圧力がすごい! 鷹魁は、いつもこんな中でやってんのかよ!)



 他人のポジションをやると、その景色がよく見えるものだ。


 最前線で戦う者が、いかに命がけかを知るだろう。



「あなたは一度下がって! ユキネさんと一緒にカバー!」


「前の手が足りなくなるだろう!」


「それは彼がやるわ」



 マキの視線の方角には、鬼鵬喘。



「よくもやりやがったなぁああああ! 細切れにしてやるぜえええ!」



 頭を抉られてかなり出血しているが、逆にそれでパワーが漲ったようだ。


 鷹魁が押さえていた熊を背後から滅多斬りにして切断。


 最初こそ独断で失敗したが、もともと赤鳳隊随一の攻撃力を誇っている武人だ。


 他の熊に対しても一直線に突っ込んで、迷いのないチェンソー攻撃を繰り出して圧倒している。


 その近くには必ずサナがいて、敵の攻撃が鬼鵬喘に集中しないようにカバーに入っていた。


 優秀な援護者がいるからこそ、鬼鵬喘は攻撃力を発揮できているのだ。



「ちっ、あいつ! 俺より子供のくせに鬼鵬喘を使いこなしてやがるのかよ! だったらなんで俺の時はサポートに入らないんだ!?」



 サナは他人のカバーに徹しているが、クラマが飛び出した時は簡単に見捨てていた。


 その答えは、一緒に下がったユキネが教えてくれる。



「『信頼』の差でしょうね」


「は? それなら鬼鵬喘のほうが信頼はないだろう。俺より命令違反が多いしさ」


「よく見てみなさいな。同じ問題児でも、あなたと彼には決定的な違いがあるのよ」



 鬼鵬喘も攻撃型なのでクラマに似たタイプではあるが、やはり成人男性ゆえの強い腕力もあるし、何よりもどんなにダメージを受けてもくらいつく執念がある。


 殴られても吹っ飛ばされても、果敢に相手を潰すために突っ走る。頭や腹を抉られても止まらない。何度でも挑戦する。


 だからサナも「こいつは死ぬまで走る」という確信を持って、際どい位置まで突っ込むことができるのだ。


 だが、クラマは攻撃が効果的でない場合はすぐに離れてしまうため、後ろでカバーするには怖い武人に見える。



「同じ隊にいるだけで信頼されるわけじゃないわ。ただ結果を出すだけでも駄目。結果を出すために努力を続けるから周りは信じてくれるの。私だって隊に馴染むために必死だもの。でも、その必死さを周りは見ているものよ。ほら、前に行って粘ってきなさい! やれることを必死に見つけるのよ!」


「ユキネ姉ちゃん…。ああ、わかってるよ! これ以上、なめられてたまるか! 俺だってソブカ隊の一員だぁああ!」



 クラマが熊の前に出て、いつもの高速剣撃を動きに合わせて叩き込む。


 すでに知っての通り、それだけでは致命傷には至らない。他の熊が近寄ってくれば離れるしかない。


 が、それでも集中力を維持しながら熊にくらいつく。


 ボールがこぼれても、ドリブルが通じなくても、シュートが弾かれても、必死にボールを追い続ける。


 背後から狙ってきた別の個体の攻撃もくらうが、身体を抉られながらも耐え抜き、ひたすら粘る。


 小さな身体で受け身を取り、すぐに起き上がって懐に入り込む。



(はぁはぁ、苦しい! だが、俺は止まらない! ソブカの役に立つんだ! 俺が【ソブカの剣】だ!)



 ここでクラマの斬撃に変化が見られた。



 相手を倒す剣から―――繋ぐ剣へ



 絶対に退かないという強い気迫によって、獰猛な熊も気圧されて動きが止まり、周囲の負担を減らす。


 そこにマキが走り込んできて、熊の後頭部にハイキック。


 首の骨に深刻なダメージを与える。



「クラマ、追撃!」


「任せろ!」



 熊がぐらついたところで、クラマの追撃。


 今までと違うのは、しっかりと相手を観察していることだ。



(相手はまだ体力がある。ここで俺がやることは、とどめを刺すことじゃない! それなら、こうだ!)



 自分が決めにいっても、おそらくは数秒の時間がかかるだろう。


 その間に熊が動き出せば、周りが反撃の一撃を受けるかもしれない。


 ならば、ここは躊躇なくアシストの選択。



 顎を―――貫く!



 熊の顎はかなり硬いが、突きだけに全剣気を集中させたため、鼻の上まで貫通して縫いつける。


 クラマは刀を刺したままマキとスイッチ。



「はぁああああ!」



 熊の最大の武器である噛みつきを奪ったおかげで、安全な状態でマキが拳のラッシュ。


 腹をぶっ壊しながら内臓も吹っ飛ばし、熊が絶命。


 マキ単体でも倒せるには倒せたが、余計な消耗を強いられただろう。仲間と一緒に動くからこそ効率よく倒せたのだ。



「はぁはぁ…やったのか…」


「いい動きだったわ。でも、ユキネさんがカバーしてくれていたことを忘れちゃ駄目よ」


「わかってるよ! 次は何をすればいい!? 勝つためならば何でもやってやる!」



 マキたちに導かれてクラマの動きが光ってくる。


 それに応じて、少しずつ周りもクラマを利用するようになっていった。


 サナも時折、彼のカバーに入ったり、あるいは囮に使うような動きを見せ始める。


 それは彼のがんばりを周囲が認め始めたからだ。



「見てください、ファレアスティ。調子に波があったクラマが、あんなにも必死になっていますよ。感動して涙が出そうです」


「驚くべきことですが、ソブカ様たちが甘やかすのも脱却できない原因でした」


「そう言われると反論できませんね。どうにも身内には甘くていけません。厳しくしていただけるキシィルナさんたちには感謝したいものです」


「前衛は、あのままキシィルナをリーダーで構成できそうですね」


「ええ、門番としての実績がありますからねぇ。堂々としているところも安心感があります」



 前の面子は個性派が多く、それだけ扱いが難しい。彼らを束ねるにはグラス・ギースで男相手にガンガン命令していたマキが適任である。


 すでに門番として有名人だったこともあり、クラマも命令されることに不満はあまり感じていないようだ。


 こうして一つ目のグループを撃破。


 あえて戦闘メンバーを減らしたので多少手間取った部分はあるが、それは今後を見据えてのことである。


 二つ目のグループを見つけてから、ソブカが動く。



「前だけに負担をかけてはいけません。次は我々も上手く連携を取りますよ」



 ここでメンバー交代。


 ソブカが中央に出る。


 隣にはラーバンサーとファレアスティが控え、最前線には引き続き鷹魁を配置。


 サナとマキとユキネ、クラマと鬼鵬喘を下がらせる代わりに、傭兵隊のゲイルとアル先生が参加する。



「老師、攪乱をお願いします」


「了解アル」



 ライザックと親しいソブカは、アルの力をよく知っていた。


 さきほどまではマキとクラマが突っ込むことで敵を倒していたが、今回はアルがその役割を単独で果たす。


 流れる身のこなしから熊の懐に入り込み、雷神掌を叩き込んで感電させる。


 次の瞬間には消えており、熊の背中に張りついて発剄。


 衝撃が内部で爆発し、背骨を損傷した熊の動きが急激に鈍る。


 弱った熊を鷹魁が仕留めている間に、アルは次のターゲットへ。


 激しくベアクローを振る熊の攻撃を軽々とかわし、軸足の関節部分を蹴透圧で破壊。


 それで倒れてきたところを戦刃で前足を斬り落として、こちらも半分無力化する。


 アルが移動するたびに熊は手傷を負い、群れ全体の勢いがなくなっていった。



「ジジイ、つえー!! 俺が勝てないわけだぜ!」



 動きはアンシュラオンに近く、攻撃力もマキに近いレベルかつ、暗殺稼業を生業にもしているために、初めて見る魔獣でもすぐに急所を見極める洞察力が光る。


 ここまで見事に攪乱すれば、残りの仕事は簡単。


 ソブカが前に出て、弱った熊の頭部を叩き斬る!


 彼は命をかけるように魔獣の前に身を晒すが、クラマとは違って一撃の強さがある。燃え滾る怒りをそのまま叩きつけ、剣先で砕き斬るのだ。



(戦いはいいですねぇ。血が滾ります。流れる血が多いほど私は強くなる!)



 ソブカの戦気に『凄み』が宿っていることがわかるだろうか。


 これがまだ若いクラマと、マフィアの世界で命の取り合いをしている彼との違いだ。


 横から迫ってきた別の個体は、ラーバンサーが服で絡め取ったところをファレアスティが斬撃を繰り出す。


 彼女も目や鼻といった急所を狙って、敵の勢いを削ぐことに集中。わが身を盾としてソブカには絶対に近寄らせない。



「傭兵隊、前へ! 魔獣を追い詰めてください!」


「おうよ! 任せておきな!」



 ソブカたちが前に出たら、そこから広がるようにゲイル隊が熊たちを外に追いやり、包囲していた赤鳳隊士と挟み撃ちにする。


 熊の反撃は苛烈なので、ゲイルたちでさえ一撃でもくらえば致命傷になりかねない。できるだけ防御重視で細かい傷を与えるにとどめる。


 そこをアルが動き回ってとどめを刺していく。


 アルが強すぎることもあり、戦いはソブカたちが優勢だ。



「私たちの出番はなさそうですね」


「そのようですね。怪我が少ないのならば、それに越したことはありません」



 今回、小百合と雀仙は待機だ。(ホロロは見張り)


 せいぜい周囲を警戒するくらいしかやることがない。



「雀仙さん、これからも仲良くしましょうね!」


「はい、こちらこそ喜んで……あっ、小百合さん! なぜ胸を触るのですか!?」


「スキンシップです! 私の国ではこうやって親睦を深めるのです!」


「え!? 本当ですか? あっ、ちょっと…そこは…あはんっ!」


「これはなかなかいい身体をしておりますねー! あなたも一緒に妻になりませんか!?」



 小百合が雀仙にセクハラをしている間に、二つ目のグループも撃破することに成功。


 簡単に勝ったように見えるが、最初に鬼鵬喘とクラマがつまずいたおかげで、逆に馴染むための時間が取れたのだ。


 クラマを助けたマキたちの母性と、それを見ながら的確な部隊調整を行ったソブカの手腕の結果といえる。


 そして、ここでマキとユキネが重大な事実に気づいてしまう。



「なんだか妙に調子が良いのよね。いつも以上に力も入るし、身体のキレがいいのよ」


「たしかにそうかも。どうしてかしらね?」



 その理由は、ソブカのほうがアンシュラオンよりも指揮能力が高いからである。


 アンシュラオンは統率が驚異の「F」なので、前も言ったが能力にマイナス補正がかかる。


 その代わりに女性たちには特殊な補正がかかっているとは思われるが、普段の戦いにおいてはソブカに指揮してもらったほうが高い補正がかかるのだ。


 だが、その数値は見えないため、なんとなくそんな気がするとしか言いようがない。


 ギリギリでポンコツぶりがバレずに済んだアンシュラオンであった。




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