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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
260/619

260話 「序列って大事だよね」


 侵攻開始、二十一日目。


 ホロロたちが朝食の準備をしている頃。


 サリータがコテージから出てきたので、アンシュラオンが出迎える。



「おはよう。気分はどうかな?」


「あっ…お、おはよう…ございます」


「前も言ったけど、そんなに緊張しなくていいよ。オレたちは敵対しているわけじゃないんだ。でも、少しお節介だったかもね」


「いえ、目が覚めた気がします」


「それならよかった」


「あの…どうして自分たちにそこまでしてくれるのですか?」


「それも前に言ったけど、君たちに興味があるからさ」


「女だからですか?」


「半分ハズレ。正しくは『素敵な女性』だからだよ」


「っ…そ、そんなことは…」


「いくらオレだって、女性だからと誰にでも興味を抱くわけじゃないからね。君は美しいし、一般人からの基準でいえば十分強い。それだけでも欲しい理由にはなるさ。それとね、実をいうと妹の親衛隊が欲しかったんだ」


「小百合さんたちがおられるのでは?」


「もちろん彼女たちもサナの世話をしてくれる。でも、オレの妻だし、サナのものじゃない。あの子はいろいろあって言葉を話せないから、その分だけ他人よりもたくさんのものをあげたいんだ。あの子に低い評価を与えてきた世の中に、本当の価値を見せつけてやらないとね」


「…そのお気持ちは少しだけわかります。自分もずっと見返したかったのです。理不尽で厳しいこの世界に、あの人が生きた証を残したかった。無駄ではなかったと証明したかったのです」


「やっぱり君は素敵な女性だね。多くの女性が無為に過ごして人生を浪費している間に、必死になって生きる意味を探してきた。そんな女性は全体の数パーセント程度しかいないよ」


「うう…」


「ん? どうして顔を逸らすの?」


「い、いえ…だ、男性に慣れていなくて…」


「傭兵の世界なんて男ばかりじゃないか。昨晩だって何人もの傭兵を倒したよね?」


「それとこれは…違うのです」


「そう言われると見せたくなっちゃうね。ほいっと」


「あっ!」



 サリータの顔を掴んで引き寄せる。


 身長差がかなりあるので、彼女が屈む形となった。



「いい顔だ。女性としての美しさもありながら、戦いの中で生きてきた強さと逞しさも垣間見える。やっぱりサナの親衛隊に欲しいなぁ」


「…はぁ…はぁ」


「ああ、ごめんね。今離すよ」



 アンシュラオンが手を放しても、サリータの顔は真っ赤なままだった。


 魅了の効果もあるのだが、もう一つの理由に彼女自身も気づく。



(顔が…見える。真っ黒じゃない)



 夢の中の結婚相手の顔も真っ黒で見えなかったが、今にして思えば、すべての男の顔がずっと見えていなかったのだ。


 男と張り合う中でいつしか敵対心や対抗心ばかりが増していき、自分の世界に入り込みすぎて異性として見れなくなっていた。


 むしろ、そうしないと傭兵業界ではやっていけなかっただろう。自衛の意味を含めて当然の結果ともいえる。


 しかし、アンシュラオンは違う。


 初めて見た瞬間から顔がしっかりと目に入ってきた。だからあれほど過剰に反応してしまったのだ。



(胸がドキドキする。心が熱くなる。こんな感情は初めてだ。この人は違う。自分が今まで経験してきた誰よりも『生きている』! もう迷わない。ここで動かなければ一生後悔する!)



「アンシュラオン様、お願いがあります! 自分とベ・ヴェルをしばらく、この隊に置いていただけませんか? 作戦が終わるまででもよいのです!」


「期間限定は寂しいな。ずっといてくれるならいいよ」


「ず、ずっと…!?」


「ごめんごめん、大丈夫だよ。オレは強制しない主義なんだ。君が望む限り、好きなだけいてくれてかまわない。そして、心が決まったら正式に入ってほしいな。その際は君もスレイブになってもらうけどね」


「スレイブになると強くなれるのですか?」


「みんなの例を見ていると、そうみたいだね」


「そんなに簡単に限界を超えられるのでしょうか?」


「簡単かどうかはわからない。スレイブになると行動が制限される部分もあるから、それなりの対価は支払っていると思うよ。スレイブについて特別な感情とかはある?」


「特に考えたことはありません。そういう生き方もあると思っているくらいです」


「それは助かるよ。偏見があるとトラブルになるからね。隊にいる間はオレの命令には従ってもらう。それもいいね?」


「もちろんです」


「ただ、うちもそれなりに機密が多いからね。本当の身内でない人は、今回みたいに違うコテージに泊まってもらうよ」


「問題ありません」



(あっ、この条件だとアイラも別にしないといけないのか。まあ、そうなるとユキネさんも一緒になっちゃうから、彼女たちはべつにいいかな。アイラの場合は逆に分けるほうが危ないし)



「オレの条件はそれくらいかな。わからないことは小百合さんかホロロさんに訊くといい。衣食住は保証するから、そこは安心してね」


「わかりました。よろしくお願いします!」


「じゃ、オレは見回りに行ってくるよ。ついでに熊退治の人選もしないといけないからね」



 そう言うと、アンシュラオンは行ってしまった。


 残されたサリータは、ぎゅっと胸の前で手を握って惚けていた。



「…アンシュラオン様。…アンシュラオン様……アンシュラオン様…」


「なんだい、乙女みたいな顔をしてさ」


「うひっ!? べっ、ベ・ヴェル!? いつからそこにいた!?」


「あんたらが見つめ合っている時からだよ。あいつは気づいていたけど、そっちは夢中だったらしいねぇ。ニヤニヤ」


「こ、これは…違う! 断じて違う!」


「どう見ても完全に恋する乙女だったけどねぇ。それにしても、せっかくの申し出だったんだ。最初から正式入隊でよかったんじゃないのかい?」


「それは…いきなり甘えるわけにはいかん」


「相変わらず不器用な女だね。まあいいよ。あたしも昨日今日で信念をコロコロ変えるようなやつだと思われるのは癪だ。しばらくあいつらと一緒にいて、どんな場所なのか見てみようじゃないか。それからでも遅くはないさ」


「すまないな。付き合わせてしまって」


「あたしだって強くなれるならなりたいよ。薬で強くなる邪法とかも訊くけど、あいつらの強さはそんな次元じゃない。もっともっとヤバいもんだ。その正体には興味があるからねぇ。ちまちま傭兵をやっているより、よっぽど効率がいいさね」


「あー、いたいた! 二人とも御飯ですよー! 早く来てくださいねー!」



 小百合が二人を見つけて手を振っている。


 昨晩あれだけ戦ったのに、何事もなかったような明るい様子に器の違いを感じさせる。



「飯だってさ。これが一番の楽しみだからね。さっさと行くとするかねぇ」


「ああ、そうだな」



(私は今日から新しい人生を歩む。そして、自分を変えるのだ)





 こうしてサリータたちは、アンシュラオン隊に帯同することになった。


 それに一番喜んだのは―――



「やったー! これで私のほうが先輩だよね!? 先に入ったんだからそうなるよねー。よかったー! 一番下っ端じゃなくなったー! もう荷物を持たなくていいんだねー!」



 なにかと雑用を命じられるアイラであった。


 尻を振ればホロロに棒で叩かれ、歩いていればアンシュラオンにたるんでいると怒られて重い荷物を持たされる。


 ユキネに助けを求めても、彼女は彼女でマキと張り合うために忙しいので、結局は誰も助けてくれない。


 さらに戦闘では囮役にされる始末だ。散々である。



「でも、そんな日々とはお別れなんだねー! やったー! 今日から二人は私の代わりにがんばるんだよー!」


「むっ、たしかにそうなるな。我々は入ったばかりなのだ。雑用くらいはしないといけないだろう。上下関係は大事だからな」


「サリータさん、話がわかるー!」


「こんな頭の緩そうなやつの下になるのかい? やってられないねぇ」


「こらこら、ちゃんとアイラ先輩って言わないといけないんだよー!」


「アイラ、ご主人様から大切な言いつけがあります。心して聞きなさい」


「なになにー? ちゃんと後輩の面倒を見ろって? もう、しょうがないなぁー」


「『アイラが一番下だからよろしく』だそうです」


「ええええええええ!? なんでー! こういうのって先に入った人が偉いんじゃないのー!? 一座だって年齢より芸歴重視なんだよ!?」


「仕方ありません。トラブル防止のために、ここではっきりと【序列】を示しておきましょう。これはご主人様公認のものですので絶対順守となります」



 ホロロが紙にアンシュラオン隊の序列を書く。


 すでに漠然とは理解しているが、はっきり示されるのは初めてである。



―――――――――――――――――――――――

〇序列


1位 サナ・パム

2位 マキ・キシィルナ

3位 小百合・ミナミノ

4位 ホロロ・マクーン

5位 ユキネ

6位 サリータ・ケサセリア(暫定)

7位 ベ・ヴェル(暫定)

8位 アイラ・マーフーバ


※番外(協力者枠)

ロリコン、ロリ子、アロロ


―――――――――――――――――――――――



「私が一番下だーーーー!?」



 驚愕の最下位。


 圧倒的―――最下位!



「なんでなんで! おかしいよー! 絶対間違ってるってー!」


「おかしくありません。この序列はアンシュラオン様にとっての重要度がそのまま形になったものですから、より序列が上の者の意見が優先されることになります。また、序列が上の者が危険に晒された場合は、下の者は命をかけて守らねばなりません。これがわが隊の絶対の掟です」


「階級社会…いや、絶対階級社会ってやつかしら?」



 ユキネも自分の順位を確認。



「その通りです。ご主人様が提唱なされている『平等で公正な社会形態』の在り方です。能力や性格、容姿その他あらゆることが考慮されて導き出された結果となります」


「私は五位か。これは単純に人数の少なさで拾われたって感じね。序列に変動はあるのかしら?」


「そう伺っております。それによる切磋琢磨も期待してのことのようです」


「ホロロさんたちが妻であることも考慮されているのよね?」


「当然そうなります」


「なるほどね。となると四位まではかなりがっちり固まっているから、チャンスは少ないかもしれないけど、要するにアンシュラオンさんに気に入られればいいのよね?」


「やや俗的な言い方ですが、間違ってはいません。ご主人様のスレイブになれば実感しますが、受ける愛が大きければ大きいほど力が湧き出てきます。この序列は、受ける愛の量でもあるわけです」


「ふーん、面白い仕組みね」


「今、一般人の私でもこの順位になれるのならば、自分はもっと上に行けると思いましたね?」


「あら、そんなことは思っていないわよ」


「ふふ、かまいませんよ。私もあなたに負けるつもりはありませんから」


「それは楽しみね。ぜひ試してみたいわ。ふふふ」


「二人ともこわいよー!?」



 現状でユキネは五位。高い数字ではあるがスレイブ・ギアスもかかっていないうえに、単純に他のメンバーが弱すぎるだけである。


 そしてこの序列は、単純な強さよりも『貢献度』や『希少性』が重要視されていることがわかる。


 たとえばユキネは強いが、代わりが絶対にいないわけではない。最悪はゲイル隊のような助っ人で代用も可能になる。


 一方で、すでに特殊な能力を持っている小百合やホロロの代わりはいない。妻でもあり忠誠度も極めて高いのだから、優遇されてしかるべきであろう。



「とりあえず一番下でなくてよかったけど、あたしがサリータより下なのは微妙だねぇ」


「ベ・ヴェルは、ご主人様への信仰がまったく足りていません。あなたよりサリータのほうが、その点に関しては優秀です」


「そこで優劣がつくのかい。あたしにもあいつを好きになれって? そんな馬鹿な話が―――ふにゅにゅううう! いたたた! 鈴が刺さってるって!!」


「どうするかは自由です。しかし、序列は絶対です。わかりましたか?」


「わかった、わかったから! だから鈴はやめてくれよ!」



 魔石獣を出さずとも少量の鈴くらいは操作できる。


 一番怖い女性に一番怖い能力が付与された気がしないでもない。



「マキ先輩、小百合先輩、ホロロ先輩、よろしくお願いいたします!」


「あら、いい呼び方ね。なんかしっくりくるかも」


「ですねー! 気分がいいです! 職場ではあまり後輩が入ってこなかったので嬉しいです!」



 年齢は三人のほうが上なので、サリータがそう呼ぶことに違和感はない。


 もともと『体育会系』の雰囲気があったので、小百合の能力によって性格が浄化されたことにより、従来の要素が強化されたと思われる。


 嫉妬や強情さが完全に消えたわけではないが、今では清々しい表情で目上の女性と接することができていた。



「サナ様もよろしくお願いいたします!」


「…こくり。ぐいっ」


「あっ…」


「…ぶんぶん! ぐいぐい」


「あ、あの、これは…」


「それはサナ様が気に入ってくれた証拠ですよ! よかったですね、サリータさん!」


「そうなのですか! 光栄です! ああ、なんて可憐な…まるで宝石のような美しさだ…」



 サナもサリータを気に入ったようで、ぐいぐい引っ張っている。


 彼女は本質をよく見るので危ない人間には近寄らない。それだけサリータの人格と個性が良いものである証拠になる。


 そして、サナはベ・ヴェルのところにも行くと、ぽんぽんと叩いて上半身を下ろせと促す。



「な、なんだい? 頭を下ろせって?」


「…こくり」


「よくわからないけど…これでいいかい?」


「…なでなで」


「え? なんで頭を撫でるんだい??」


「サナ様はとても慈悲深いのです。あなたが私に痛い目に遭わされたので慰めてくださっているのです。感謝しなさい」


「な、慰める!? あたしを!?」


「…なでなで」


「くうう、こんな小さな子供に慰められるとは…あたしも落ちたもんだねぇ」



 六十センチ以上の身長差なので、まさに大人と子供だ。序列が上とはいえ、こんな形で撫でられるのは気恥ずかしいものがある。


 だが、不思議と悪い気分ではない。



(やれやれ、なんだか変なところに来ちまったよ。でもまあ、たまには…いいか。あたしも長いこと独りだったからねぇ)



 ベ・ヴェルもサリータ同様、激しい気性と反発心でここまでやってきた。ただそれは、ホロロが指摘したように劣等感の表れでもある。


 自分に対する価値を見い出せない。自分が誰かの上にいないと怖くなる。そんな弱い心が彼女に虚勢を張らせていたのである。




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