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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
26/606

26話 「スレイブ商館とモヒカン」


「らっしゃいっす!」



 店に入ると、ラーメン屋のような掛け声が聴こえた。


 店を間違えたと思い、一度戻って看板を見たが、ちゃんとスレイブ商会加入店と書いてある。


 店の名前は、『八百人やおじん』。


 入り口だけ見れば少し洒落たレストランである。もし看板がなければわからなかったに違いない。



「ねえ、ここスレイブ屋?」


「ええ、そうっす! いらっしゃいっす!」


「うっ、暑苦しい。どうしてモヒカンなの?」


「趣味っす。カッコイイっす」


「世紀末なら似合っただろうけどね」



 スーツなので身なりは良いが、なぜかモヒカンだ。


 やや痩せ型で年齢は三十半ば。細長の顔、目は一重で眉毛はない。



(正直、印象は悪いな。パチンコ屋や風俗店の店員にいそうだ。もう『臭い』がすごい)



 鼻が臭いという意味ではなく、男から発せられる雰囲気が完全に裏側のものだ。非合法な臭いがプンプン匂ってくる。



(まあ、スレイブ商にお似合いかな。とりあえず話してみよう)



「八百人って、どういう意味?」


「ああ、よく訊かれるっすね。創業者が、ここに来れば八百人のスレイブに出会える、って意味で付けたらしいっす」


「今、何人いるの?」


「ええと、今は……ちにん、っす」


「もう一回言って。聴こえなかった」


「えっと、その…………八人……っす」


「詐欺じゃんか」


「今は、っす! 一昨日、工事用にって大量の発注があって、ほとんど出してしまったっす!!」


「同じじゃん。表の看板は嘘ってことでしょう?」


「それはその…見栄えってものがあるっす。あの看板を設置したのは四日前っすから、その時にいたことには間違いないっす」


「汚いやり方だな。まあいいよ。で、残っているのはどんなの? 売れ残りなら安くしてくれるんだろうね」


「いきなり買い叩かれそうっす。どうして強気っすか?」


「なんかその顔、ムカつくんだよな。イラっとする。殴っていい?」


「恐ろしく凶暴な人が来たっす。怖いっす。暴力は苦手っす」


「ほら、スレイブのリストとかないの? 早く見せてよ」


「あるっす。ここっす」



 アンシュラオンが急かすとモヒカンは名簿を持ってきた。


 そこには名前や性別、技能を含めたスレイブの等級と値段が記されていた。同時に細かい使役条件も書かれている。


 それはいい。そんなことはいい。問題は一つだ。



「…男ばかりだ」


「そりゃ、労働者は男が多いっすから」


「女はいないの?」


「女性もいるっすが…今はいないっすね。ところでどんなものをお望みっすか? ご要望があれば受けるっす」


「ラブスレイブ」


「…あの、何歳っすか?」


「二十は超えているよ。何か問題あるの?」


「いや、ないっす。特に制限はないっすけど…」


「はっきり言えって。こっちは客だぞ。なんだこの店は! 茶も出さないのか! 女将を呼べ!!」


「突然の激怒っす。茶は出すっす」


「まったく、しつけのなっていないモヒカンだ」


「そして突然横柄になったっす。もうモヒカン呼ばわりっす」


「お前の名前なんかに興味ないからな。それで、ラブスレイブは?」


「その、ラブスレイブのほうは違う店舗に置いてあるっす」


「裏通りか?」


「ええ、まあ。知ってるっすか?」


「ラブスレイブはいきなり男を襲うのか?」


「へ? なんすかそれ。そんなことはないっすけど…何かあったっすか?」



(じゃあ、あれはやっぱり単純にオレが襲われただけか。…そのほうが怖いけど)



 むしろ普通の一般女性が襲ってくるほうが怖い。何も信じられなくなる。



「なんでもない。だが、ラブスレイブを扱うということは、当然そっち系の店も経営しているんだろう?」


「直接運営してはいないっすが、そういう店と提携はしてるっす。それを含めてのラブスレイブっすから」


「下種の発想だな。そんなに女の上に立ちたいのか!! このクズどもが!」


「お客さんは、どうしてラブスレイブが欲しいっすか?」


「オレに絶対服従の可愛い女の子を、情欲のまま好きにしたいだけだ」


「…もう一度いいっすか?」


「オレに絶対服従の可愛い女の子を、情欲のまま好きにしたいだけだ」


「…自分の耳が遠くなったかもしれないっす。聞き間違いっすか?」


「オレに絶対服従の可愛い女の子を、情欲のまま好きにしたいだけだ」



 三度聞いても同じだった。



「あの…自分らと何が違うっすか?」


「オレは客だぞ! どうしようが自由だ! このクズ野郎が!」


「恐ろしい横暴さっす。でも、こっちから強要したことはないっす。女の子のほうから、そうしたいと言うからやっているっす。斡旋してるだけっす」


「スレイブとはそういうものらしいな。一応訊いておくが、女の子がここで生きていくには夜の仕事しか道がないのか?」


「そんなことないっす。ちゃんとした普通の女スレイブだっているっす。手に職がなくても商店のお手伝いとかできるっす。子守りとか掃除とか、いろいろあるっす。単純に夜のほうが給料が良いだけっす」


「じゃあ、自分で望んでいるということか? 無理やり借金させる方向に持っていくこともあるんじゃないのか?」


「場合によってはそういうこともあるっすが、人の管理はけっこう徹底されているっすから、よほど悪いことをした女でない限りは普通に対応するっす」



(しかし、経済的な事情でスレイブになったロリコン妻のような女の子もいる。つらい話だな。…まあ、それはそれとしてだ。もう少し情報が必要かもしれないな。焦って安物を買っても失敗するだけだし)



 物事には順序がある。買う前にもっとスレイブを理解しなくてはならないだろう。そのためにはいろいろと知るべきだ。



「ちょっと確認するが、スレイブの中で性的なことがOKな子がラブスレイブ、で合ってるか?」


「合っているっすね。付け加えれば、むしろ【性的なことに特化】しているスレイブをそう呼ぶっす」


「たとえば、ラブスレイブの子に料理とかをさせるのは、あり?」


「契約内容にそうしたものがあれば問題ないっす」


「じゃあ、普通のスレイブに性的なことをするのは?」


「契約内容に沿っていれば問題ないっす」


「…それって、ラブもノーマルも同じじゃないか?」


「身も蓋もないっすが事実っす。実際、お客さんの言うように線引きが曖昧っす。だから意図的にラブスレイブで登録して、雇用後に言いくるめて料理で尽くす子もいるっす」



 哀しいかな、ラブスレイブのほうが人気がある。


 男でも女でも同じだが、自分の欲求を満たしたいと思う者は多いものだ。


 だから最初に需要が多いラブスレイブで登録しておきつつ、それ以外の契約内容も抱き合わせておき、最終的に上手く渡り歩くのだ。


 契約には反していないので問題はない。女性はしたたかである。



「逆はあるのか? 普通のスレイブで登録しておいて、実はエロもOKとか?」


「あるっすね。契約内容次第っすけど」


「その契約内容ってさ、曖昧なものも多いんじゃないの?」


「そこも線引きは難しいっす。うちらがやっているのは斡旋であって、その後は基本的に当人と雇用者の問題っすからね。それ以上のことは言えないっす」


「スレイブは嫌だったら逃げられるか? 契約になかったことをされたらどうするんだ?」


「貸し出しの場合は、一応便宜的に所有権がうちにあるっすから、最悪の場合は引き取れるっす。壊したら損害賠償も請求するっす」



(なるほど。やはり物扱いか。ロリコンの言っていた通りだな。レンタルの場合、スレイブ商たちは自分の利益を守るために女の子も守るようだ)



 貸し出しでもほぼ所有権は借主にあるのだが、人権保護のために救済措置が存在しているようだ。実際は店の利益を守るためであっても、そう言っておいたほうが耳障りもよい。


 そして、これがスレイブ商会加入店、というわけである。表のマークは正規優良店の証なのだ。


 違法な店だと、そういったことが無視されることもあり社会問題にもなっているが、この店は正規店なのでそういうことはない。


 ここまではロリコンの情報通りである。


 だが、抜け道もある。



「ただ、買取だとそこはグレーっす。相手に所有権が完全に渡ってしまうっすから、こっちはどうにもできないっす」


「女の子は逃げられないというわけだな?」


「そこは自己責任っす。所有者を選ぶのもスレイブの自由っすからね」


「だが、すぐに金が欲しい女の子は買い手が付けば断りにくいと?」


「まあ、そうっすね」


「グレーというか真っ黒じゃないか。そこが抜け道か。外道め」


「えと…お客さん…っすよね?」


「客だよ。スレイブを買って好きに楽しむんだ」


「おかしいっす。なぜかこっちだけ責められてるっす」


「オレは客だからいいんだ。で、レンタルと買取だと、どれくらいの値段の差があるんだ?」


「三倍から十倍っすね。商品によって差があるっすが、結局は買取がありがたいっす。そもそもレンタルを付けられない子も多いっす。手垢が付くと価値が下がるっすからね」


「そりゃ当然だな。じゃあ買取を前提に選ぼう。好きにしたいし、あとで揉めても困る」


「お客さんも外道っす」


「何とでも言え。オレには夢があるんだ。といってもな…ここのスレイブには、ろくなやつがいないな」



 男しかいないので、能力があろうが階級が高かろうが、そもそも論外である。



「ラススレイブは女が多いのか?」


「七割が女性っすね」


「男が三割もいるのか? 案外多いな」


「『上級街』のマダムに人気っす。その中にはシーメールも含まれるっすから、そっち系の需要もあるっす」


「ニューハーフか。人の趣味はそれぞれだしな。ううむ、やっぱりラブスレイブか…。素直になるべきかな」



(だが、そこまで性的なものに興味はないな。そもそも武人は闘争本能で性欲を制御できる。ならばオレが求めているのは、もっとこう…大きな枠組みだ。そう、【愛】に関わるものだ!)



「ラブとは愛!!!」


「どわっ!? びっくりしたっす! なんすかいきなり」


「ラブとは愛だ。愛とは、ただの性欲ではない。わかるか? モヒカン」


「へ? あっ、わ、わかるっす」


「嘘をつくなーー!! ガスッ!」


「ぶはっ! なぜか殴られたっす!!」


「お前のようなモヒカンに愛がわかるのか!? あぁん!?」


「モヒカンは関係ないと思うっすが…」


「オレが求めているのは、ラブだ。だが、性欲自体に価値はない! それは単なる煩悩と知れ! もっとこう、自由な翼をはためかせるものはないのか? そう、全部がオレの好きにできるみたいな、そういうやつだ!」


「急に要求が大きくなったっす。アジから鯛に変わったレベルっす」


「金に糸目はつけん。オレの言うことを何でも聞くスレイブ、そう、自由に契約ってやつが設定できるやつはいないのか? オレに絶対的に従順であること。それが最大の条件だ」


「………」


「どうした? いるのかいないのか、はっきりしろ」



 モヒカンはしばし考えた後、こう提案した。



「お客さん、もしよかったら裏に行くっすか?」


「風俗店か? 商売女で満足する男だとでも思ったか? やろうと思えば女には困らないんだ。嫌でも歩いているだけで襲われるレベルだからな…残念なことに」


「はっきり言うっすね。しかも自慢っす。いや、そっちではなく、もっと【特殊なもの】が置いてある場所っす。外道のお客さんなら、一見いちげんさんでも見せてもいいかなと」


「ほほぉ、面白い。オレを満足させられるものだろうな?」


「へへ、それはもう。期待してくださいっす」


「くく、悪い顔しやがってこの野郎、このモヒカンめ」


「いえいえ、外道のお客さんにはかなわないっす。では、こちらへどうぞっす」




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