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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
250/619

250話 「出撃アンシュラオン隊 その4『中央突破と言ったら中央突破だぁあああ!!』」


「鷹魁とクラマは、そのまま前方の敵を倒してください。鬼鵬喘は行き過ぎないように注意を。ガンセイは弾幕を張って敵を寄せつけないように」



 隊列の中央やや前にいるのは、司令塔であるソブカだ。


 装備は準装のプレートメイルの上から臙脂色の法衣を着て、右手に細剣、左手に小盾を持っている。


 彼はサナと同じく中衛だが、その役割は彼女とは若干異なっていた。


 アンシュラオン隊が、突撃に向いた矢尻のような三角形の隊列をしているのに対し、赤鳳隊は円形の隊列を採用している。


 これはあらゆる状況に対応できる万能型の陣で、ソブカの指揮能力を最大限生かすために最適な形なのだ。


 ソブカの統率の値はライザックに劣らずかなり高く、指揮下にいる隊員の能力に強力なプラス補正がかかっている。


 グランハムやサナが自ら汗を流して縦横無尽に動くのに対し、ソブカはあまり動かずに指揮に徹することで、部隊全体の力を引き上げていた。


 それはまるで、コンダクター。


 前線やサイドにボールを回し、攻撃の方向性を決めるオーケストラの指揮者である。


 組長という立場があるので簡単には死ねないがゆえの位置取りだが、場合によっては彼も前に出る。


 クラマが飛び出したスペースをカバーし、突っ込んできた魔獣に細剣で迎撃。


 ソブカは一見すると優男に見えるかもしれないが、叩きつけた刃が魔獣の筋肉に止められても、力ずくで強引に断ち―――切る!!


 少し剣先を突き出す防御寄りの構えだが、いざ攻撃に転じた際のパワーと速度は相当なものだった。


 それからも華麗かつ強引な剣技で次々と魔獣を斬って伏せる。



(ソブカはアズ・アクスの術式剣を買うために、必死に修行していたらしいな。ゴリゴリの武闘派じゃないけど、あれだけ戦えるなら合格点だ。攻撃寄りのバランスタイプといったところか)



 ソブカの戦い方はクラマに似ていた。


 自らの身体を相手の前に晒し、一瞬の勝負にすべてをかけるスタイルだ。


 ただし、クラマが反射神経と身のこなしでそれを成すのに対し、ソブカは優れた観察力と思考力で、相手の行動を予測して必殺の剣を叩き込んでいる。



(まるで自分の命を天秤にかけているような戦い方だ。『殺せるものなら殺してみろ』って感じか。マフィアっぽいといえばそうなんだが、あいつははっきり言って物が違う。普通の武人が闘争にかける想いとは本質的に異なるんだ)



 ソブカがまとう戦気は、触れる者を焼き尽くす激情の赤と、冷静さの青が複雑に絡み合った独特なものだった。


 ゼブラエスの戦気も温度が高すぎて青に昇華していたが、彼にもその兆候が見られる。それだけ強い意思を持っている証拠だ。


 意思が力になる世界において、ソブカの覚悟はそこらの武人を何倍も凌駕するエネルギーとなって、周囲に強烈に迸っていた。


 やはりこの男こそ赤鳳隊の中核である。



「怪我をした人は中に来てください。治療します」



 ソブカよりも中央にいて装甲車に乗っているのは雀仙だ。


 彼女の特異能力は極めて貴重で負傷者自身はノーリスクで治せるため、この部隊で一番安全な場所にいるのは当然だろう。


 基本的に攻撃に参加することはなく、術式によるさまざまな防護結界を展開させて、隊の防御を固める役目のようだ。



(女性の詮索はしない主義だけど、雀仙さんもまだ能力を隠しているっぽいんだよな。術士の能力はかなり高いから他にも術は使えそうだしね)



 後衛には、戦士のラーバンサーと剣士のファレアスティが陣取り、がっしりと背後を警戒している。


 本来ならば前衛と中衛に配置されるはずの二人が、ソブカと雀仙を守るためだけに後ろに回っているのだ。このチームにとって両者がいかに大切かを物語っている。


 ラーバンサーは、拘束具に似たギチギチに絞めつけられた変わった服を着ており、それだけを見れば覆面を被ったミイラ男だ。


 敵が近寄ると、服から布が伸びて魔獣を絡め取って拘束。


 続いて装備していた杭打ち機で頭部を破壊。


 魔獣の生命力は強いので、それだけで死なないこともあるのだが、数秒後にふらふらと身体を揺らし始め、バタンと倒れて動かなくなる。



(あれは『毒』だな。脳に直接注入しているから耐性があっても影響は避けられない。戦い方を見ていると、おそらくは防御型の変則タイプの武人だろう。あの拘束具自体も特殊な防具っぽいし、何よりも薬品の臭いがきつい。誰がどう見ても普通じゃないよな)



 ラーバンサーは『拷問士』として、裏社会で多少は名が知れた男らしい。


 そのため常時さまざまな薬を所持しており、離れていても薬品臭がかなりする。隠密には向かないが、その臭いを嫌がって魔獣があまり近寄らないことも自衛策になっているのかもしれない。


 タイプ的には防御型で自らは積極的に攻撃せず、近寄ってきたら毒針や杭打ち機で迎撃するにとどめているようだ。



「ソブカ様は私がお守りする! 魔獣ごときが近寄るな!」



 ファレアスティも後方で、ソブカと同じ細剣を使って近寄る敵を切り伏せている。


 鎧とマントも髪の色と同じ青で統一されているので、それだけ見ればどこぞの女騎士かと思えるほど端麗な姿だったが、思わず魔獣がおののくほど威圧感もすごい。


 彼女はスピードとテクニックを併せ持つバランスタイプの剣士で、クラマほど素早くはないが、的確に相手の弱点を狙い打つことで、守りながらも機先を制する上手い戦いをしていた。



(ファレアスティさんも、ユキネさんには及ばないけど悪くない腕前だ。スキルを見る限りは、もともと小百合さんと同じ事務系なんだろうけど、あそこまで鍛えているのはすごいな。相当鍛錬したのがわかる)



 彼女も気迫で実力以上の力を発揮している。


 その力の源泉は、ソブカを守るという使命感と『愛情』からだ。


 だからこそ腑に落ちない。



(あれだけ好意をあからさまに出しているのに、ソブカが妻にしない理由がわからないんだよなぁ。そのあたりを訊こうとすると睨まれるし、他人の色恋沙汰には関わらないほうがいいんだけど…気になる。オレだったら雀仙さんもファレアスティさんも妻にしちゃうけどね)



 すぐに女性を欲しがるアンシュラオンと比べられるとソブカも迷惑だろうが、好意を持った美女二人が近くにいるのに手を出さないのは理解しがたい。


 彼は彼で成り上がることへの欲求が異様に強いので、そのせいで性的な欲求が湧かないのだろうか。人の趣味はそれぞれだが、あれだけの美形なのでもったいないとも思える。


 評価を総合すると、赤鳳隊は強かった。


 前衛の鷹魁、クラマが絶妙のコンビネーションで前線を維持。


 中衛のソブカ、鬼鵬喘、ガンセイが高い火力で敵を撃破。


 中央の雀仙は、補給や治療を担当。


 後衛のファレアスティ、ラーバンサーが後ろの敵から中を守り、重要人物の護衛も担当する。


 どこにも穴がないソブカらしい安定した隊であった。


 こうして二つの隊が魔獣の群れを掻き回し、互いのテリトリーの見分けがつかないほど、戦場はぐっちゃぐちゃ。


 そして、準備が整った時、アンシュラオンが叫ぶ。




―――「傭兵隊!! 突撃だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」




 大声が森を突き抜け、遠く離れている傭兵たちの鼓膜を震わせる。



「痛ぇーー!」


「なんて声量をしてやがる!? 鼓膜が破れたかと思ったぞ!?」




―――「ちんたらするなぁああああああああああ! 中央突破ぁああああああああああああああ!!」




「うるせーーー! 聴こえてんだよ!」


「あいつ、こっちが動かないと叫び続けるぞ!」


「ちっ、鼓膜が破れる前に行くぞ!」



 アンシュラオンの指示で、増援でやってきた傭兵隊二千が進軍を開始。


 二つの隊が掻き回した戦線を押し上げていく。



「俺らも行くぞ!! 遅れて来た連中に手柄を横取りされてたまるか! こっちが先に戦っていたんだからよ!」



 最初に戦っていた傭兵隊も動き出す。


 今こそが勝機だと誰もが理解したのだ。



「サリータ、あたしらも行くよ! このまま見て終わるなんて、あまりになさけないからね!」


「………」


「ん? 何をしているんだい?」


「疲れた身体で、こんな重いものを着て走れるか。盾もこんなに大きなものはいらない!」



 サリータが重装備の鎧と大型の盾を捨て、予備で取っておいた少し軽めの鎧とスパイク付きの盾を取り出す。


 これらは炬乃未が選んだ武具である。



「よし、これならばまだ走れる。ベ・ヴェル、行くぞ!」


「それは使いたくないって言ってなかったかい?」


「そんなことを言っている場合か。これ以上、後れを取るわけにはいかない!」


「あっ…待ちなよ! ったく、いきなりやる気になるんだからねぇ!」



 サリータが走り出したので、ベ・ヴェルも慌てて追う。


 すでに傭兵隊は混乱した魔獣と交戦に入っており、各所で激しい戦いが繰り広げられていた。


 彼女たち二人も、その戦いに参加。


 ただし、すでに左腕を痛めているサリータは、右手に盾を持って体当たりするのが精一杯だ。


 だがしかし、それで十分。


 魔獣の皮膚や各部位の突起が、盾に付いた鋭い棘に食い込み身動きを封じる。


 重さこそ前の盾よりも軽く、耐久性も低いが、妨害と防御を同時に行えることに最大の利点がある。


 そこにベ・ヴェルの大剣が炸裂。魔獣の頭部を叩き潰す。



(呼吸が続く。身体が動く。この重量だと負担が少ないからだ。盾も少し小さいせいで、無理に正面から当たろうという意識が減って、衝撃も逃がしやすくなった。…これがプロの意見か)



 炬乃未はああ見えて、何十年も鍛冶に携わっているプロフェッショナルだ。


 相手の力量を見抜く能力にも長け、サリータにどれくらいの実力があるのかも即座に理解していた。それに加えて翠清山のことも知っているので、実際にどんな武具が向いているのかも熟知している。


 それで導き出した答えが、この鎧と盾である。上手くいかないわけがない。


 そして、あれほどの実力を持つアンシュラオンでさえ、炬乃未が作った武器を信頼して命を託している。勝つためにはどうすればいいのか理解しているからだ。



(なんと自分は未熟なのだ! 恥ずかしくて死にたくなる! だが、今は生き残ることだけを考えるのだ!!)



 サリータは無我夢中で戦場に飛び込む。


 その先には、彼がいる。



「中央突破ぁああああああああああああああ!!」


「アンシュラオン! てめーはそれしか言えないのか!? もっと状況を見て指示を出せ!」


「中央突破と言ったら中央突破だ!! 死ぬ気で当たれぇええええええええええ! 突撃ぃいいいいいいいいい!」



 アンシュラオンの号令で、傭兵隊がひたすら突撃を仕掛ける。


 だが、『中央突破』と『突撃』以外の命令がない。


 それもそのはず。アンシュラオンが部隊指揮などできるわけがない。ただ勢いに任せて走らせているだけだ。


 しかも彼の統率は驚異の『F』なので、命令されればされるほど能力に【マイナス補正】すらかかっていく。



「敵が分断されたぞ! 各個撃破だあああああああああ!」


「ちげーよ、馬鹿野郎!! こっちが前に出すぎて囲まれてんだよ!!」


「うるさい! 撃破と言ったら撃破だ! 突撃ぃいいいいいい!」


「ちくしょううううう! あとで覚えていろよ!!」



 せっかくの数の有利が、強引な突破によって台無し。


 囲まれて乱戦になって泥臭い消耗戦になる。それを避けるための二隊の行動だったのだが、全部おじゃんである。


 しかし、だがしかし!


 なぜか声に合わせて身体が動いてしまう。


 彼が掲げる白い旗を追いかけて走ってしまう。戦ってしまう。


 攻撃されたら、それ以上の攻撃をもって返し。


 抵抗されたら、それ以上の突撃をもって返し。


 逃げ出したら、それ以上の勢いで追いかける。


 これでもかと感情を剥き出しにして、ただただ魔獣に向かっていく。


 吹っ飛ばされても、貫かれても、殴られても関係ない。




「中央とっぱぁああああああああああ! ちゅーーーおーーーー突破ぁああああああああああああああああ!」



「行けいけいけいけ、いけぇええええええええええええええええ! 立ち止まるなぁあああああああああああああああ!」




 このでたらめな号令に突き動かされ、傭兵隊が怒涛の勢いで魔獣たちを撃破していく。


 止まらない、止まらない、止まらない!!


 激闘は四時間以上に及んだが、一気に押して森の第二階層の終わりが見える五十キロ付近にまで突入。


 そこにアンシュラオンが、白い旗を突き立てる!



「今からここは、オレたちがぶんどる!! 一歩でも入ってきたら、ぶち殺す!!」



 凄まじい声量が森の奥に突き刺さり、その剣幕に驚いた魔獣たちがどんどん後退していく。


 そして夜になった頃、ついに魔獣たちの姿が完全に消えた。



「よぉおおおしっ! オレたちの勝利だ!!」


「何言ってやがる! どんだけ被害が出た!?」


「それがどうした! 叫べ! オレたちのほうが強いって叫び続けろ!!」




―――「ここはオレのものだぁああ嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああ!」




「ぎゃーー! うるせーーー! 誰かこいつを止めろよ!」



 誰もが死力を尽くして戦ったのでボロボロ。


 アンシュラオン隊も赤鳳隊も傭兵隊も、すべての者たちが息を切らしている。


 だが、勝った。


 アンシュラオンの旗を目指して走った者たちが、グランハムでさえできなかった第二階層の突破を成功させたのだ。


 その事実は、戦闘に参加した者すべてに強烈な達成感を与える。



「かった……勝ったのか…」


「ぜっ、ぜっ…はーーはーー! とんでもないねぇ…! こんな戦い、常軌を逸しているよ。…でもすごい。あいつはすごい…」


「…ああ。本当に…すごい……」



 サリータもベ・ヴェルも泥まみれのズタボロであったが、だからこそ勝った時の衝撃と余韻は凄まじかった。



(なんだこの湧き上がる熱情は! 熱い…熱い…! 今、私は生きている!! この世界に生きているんだ!! こんなにも世界がはっきり見えるなんて…!)



 今までぼんやりとしていた世界が、初めて眼鏡をかけた時のように、くっきりはっきり見える。


 死んだ魔獣もいれば、人間側にも傷ついて倒れている者もいる。勝った者と負けた者がいる。本来それは嘆くものなのだろう。争い自体が愚かだからだ。



 それでもなお―――美しい



 その闘争の先に、生きる意味がある。


 それを白い少年が生きざまで見せてくれたのだ。


 初めて触れた熱量にサリータの胸の鼓動が止まらない。




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