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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
25/606

25話 「『姉魅了』効果、炸裂!」



(ようやく街か。というか、この城壁は『長すぎ』じゃないか?」



 東門がある場所は移動の要所ということもあり、城壁自体は薄めに造られているのだが、そもそもが長い。


 リングを付けて一般人と同じ道に戻ったのはいいが、そこから五百メートル以上は歩いている。それが城壁自体の『厚み』なのだ。


 南門の城壁などは三キロメートルくらいあったし、こうなると城壁と呼んでいいのか迷うレベルだ。



(城壁というより岩場か? 武人がいるから規格外のものも造れるんだろうけど、これだけのものとなると相当苦労したんだろうな。東門の警備も厳重だし、セキュリティ的には合格だな)



 ようやくにして門を出て最初に見えたのは、【一般街】と呼ばれる区域。


 名前の通り、一般的な都市に必要な施設のある区域である。そこは今まで見た村とは違い、明らかに進んだ文明がある場所だった。


 形だけみれば西洋の街並みに似ているが、至る所にジュエルを使った機器が存在し、街灯にもジュエルがはめ込まれていることがわかる。


 ダビアの話ではジュエルはあくまで媒体で、中身は術式を使っているようなので、ファンタジーの魔法文明に似ているかもしれない。


 ただ、すべてが便利というわけでもない。



(あれは井戸かな? 一杯五十円? もしかして水は有料なのか?)



 井戸の看板が気になったので、ちょうど水汲みに来ていたおっさんに訊いてみる。


 おっさん以外もいるのだが、中年男性が一番話しやすいのである。気を遣わないでよいのがグッドだ。



「ねえ、その水は有料なの?」


「そうだよ。お金を入れると鎖が外れるから、自分で持ってきた容器に入れるんだ」


「へー、そうなんだ。このあたりは水ってないの? 少し行けば森とかあるでしょ? 小さいけど湖とか川があるよね」


「そこまでが危険だからね。持ってくるのにもコストがかかるんだ。君はこの都市は初めてかい?」


「うん、今着いたばかりなんだ」


「そうか。それならしっかりと覚えておかないとな。この都市は見ての通り、城壁に囲まれているから安全なんだけど、その分だけ物資は不足しやすいんだ」


「出入りも厳重だし、入るまでも大変だよね」


「安全を重視するか、利便性を選ぶかだね。その中で安全を選んだのがこの都市なんだよ。水は専門の商人が運んでくるから、飲み水に関してはそれを使うのが一番安全だよ」


「溜め池っぽいのが途中にいくつかあったけど、あれは?」


「外の第三城壁内部のものは、まだ浄化していないから飲まないほうがいい。お腹を壊してしまうからね。工業用水ってやつだよ。都市内部にも大きな貯水池ちょすいちがあるけど、そっちも基本的には生活用水として使われるね」


「お金がない人はどうするの?」


「下級市民以上になれば、生活用水に関しては定期的に配られるシステムがあるんだ」


「そうなんだね。ありがとう。助かったよ」


「早くここの生活に慣れるといいな」



 水は基本的に商人が持ってくるものを使っているようだ。綺麗なものは飲み水として売りに出され、それ以外は煮沸して生活用水に回される。


 グラス・ギースにも多少の森はあるので池は存在するが、城塞都市ゆえに万一にそなえて普段はあまり使わないらしい。



(城塞都市だからな。篭城戦になったら中に閉じ篭って耐えるしかない。水の管理が厳しいのはしょうがないのかな。でも、水が制限されるのってきついよね。日本は水がたくさんあったけど、ここでは水も一つの資源か。これをもらっておいてよかったよ)



 アンシュラオンは水色の丸い石を取り出す。ダビアがお礼として一個くれたものだ。


 これは『吸水石』または『吸水玉』といって、五センチ大の球体をしているが、これ一個で水を五十リットル貯えることができる【術具】だ。


 そのわりに重さは変わらないという優れもので、水の輸送に大いに役立つ代物である。業務用なので、なかなか一般人に手に入るものではない。その響きが、ちょっと心をくすぐる。


 ただ、水を放出する時は小出しにできず、一気にドバーっと出るため、準備をしていないと大半が無駄になる。それだけが唯一の弱点だといえるだろうか。


 どれだけ水が入っているかは色合いでわかる。最初はくすんだ水灰色だが、水が入ると下から徐々に鮮やかな水色になっていく。



(自分一人なら命気で代用できるし、水はべつにいらないかな。それより目的のものだ)



 しばらく一般街をぶらぶらしてみたが、スレイブ商人というのは見つけられなかった。



(たしかにスレイブは一般的じゃないな。もっと街の外れにあるのかな?)



 東門から出て、一般街から十キロ以上移動すると、町並みの様子がだいぶ変わってきた。


 立ち並ぶ店や家々は明らかに一般街よりも質が劣り、中にはボロボロの家屋も見受けられるが、その分だけ人々の生活の匂いが如実に広がっていた。欲求や勢いのようなものが感じられるのだ。


 このあたりは下級街と呼ばれる区域で、グラス・ギースの四割を占める中心地である。



(生活臭が出てきたな。さっきの一般外は表面おもてづらをよく見せるためのもので、ここからが本格的な居住区か。期待できそうだ)



「よし、スレイブ商人を探そう!」



 少年は欲望赴くままに下級街に乗り込むのであった。





  ∞†∞†∞





 一時間後



「…酷い目にあった」



 アンシュラオンはぐったりとうな垂れて、路地裏の壁に寄りかかる。



「裏街はやばいな。猛獣だらけだ」



 アンシュラオンは、スレイブの店があるとすれば裏通りだと思って意気揚々と入ったのだが、そこは予想以上の魔窟であった。


 まず、いきなり水商売系のお姉さんに拉致された。


 歩いていたら、いきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 無駄に文字数を使って申し訳ないが、たった一時間で計十三回もの拉致被害を受けたのだ。


 当然だが誰もが初対面の女性であり、まったく見覚えはない。



「昼間だぞ!? なんだこれ!? ここいらの女性は全員発情期なのか!?」



 商売系の女性ならまだしも、普通にしか見えない女性も襲ってくる。


 その様子にさすがに恐怖した。まるで見境のない獣である。



「まったく…まともなやつはいないのか」


「…あの」


「何か用?」


「あの…ちょっと来て」



 そこには一人の少女がいた。さきほどの女性たちと比べれば、まだまだ幼い蕾といったところだろうか。


 その少女が、こちらに向かって手招きしている。



(んー、可愛いけど、そんなに好みってわけじゃないかな。でもまあ、女の子が呼んでいるんだ。行かないわけにはいかないよね)



 男に厳しく女に優しいのがモットーだ。


 仕方なくアンシュラオンが行くと、少女は手を握って引っ張る。



「なんだい? どうしたの?」


「あのね、お母さんが大変なの…」


「え? お母さん?」


「うん、だからね…来て」


「金もないし、何ができるとも思えないけど…」


「大丈夫。…ここに入って」


「いや、だからね…オレじゃ…」



 一軒のボロ屋に入ったアンシュラオンは、それを見た。



 ベッドに横たわった―――裸の成人女性を。



 少女の言うことを聞いてやってきたら、いきなり家に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と知らない女性に胸を押し付けられる。



「だかぁらぁああああ!! どうなってんだよぉおおおおお!」



 アンシュラオンは慌てて逃げ出すと、安全であろう表通りにまでやってきた。


 さすがに表通りは平和であり、そういった女性たちは見受けられない。



(なんだこの街? そういう街なの!? そういうの専門の街なの!? グラス・ギースって、エロ街とかいう意味じゃないよな!?)



 恐るべき遭遇率に驚く暇もない。出会った女性のほぼ百パーセントが襲ってくる。しかも子供を使ってまで落とそうとしてくる。


 自分が有名人ならばわかる。権力者かお金持ちならばわかる。


 が、ただの一般人である。やはり違和感がある。



(たしかにオレは可愛いかもしれんが、そんな魅力なんて―――って、魅力!?)



 そこでアンシュラオンはステータスの『魅力』の存在を思い出す。


 そして、周囲を歩く人間を片っ端から情報公開で調べていく。


 結果、ほぼすべての人間が「E」か「F]であった。



(オレの魅力は、A。もしかしてAって貴重なのか? Aだから、そんなに女性を惹きつけるのか!? 馬鹿な。女性限定なんて説明はなかったぞ。それ以外にスキルだって持っていないし…)



 だが、考えられるのはそれしかない。


 もしかしたら魅力が下位の人間に対して、A以上の人間は何かしらの効果を発揮するのかもしれない。


 実際、ロリコンやダビアもかなり友好的だった。単に好いやつだと思っていたが、それが魅力の効果だったらどうだろう。


 村人や話しかけるおっさん、その他諸々のほぼ全員が、アンシュラオンに親切に接してくれる。そのこと自体がおかしい。



(そういえばゼブ兄が街にいくと、なぜか人がたくさん集まってくるとか言っていたな。あの人の魅力はSSSだ。なら、やっぱりそれが原因か? でも、女性限定なんて言ってなかったよな。待てよ、オレを襲った女性はみんな…大人だった。オレより年上のお姉さんだ。…まさか)



 アンシュラオンを襲った女性はすべて「大人の女性」である。


 ここで一つの仮説に思い至る。



(オレのステータスにある『姉に対してのみ、魅了効果発動』とか、スキルにある『姉の愛情独り占め』というのは、他の女性に対しても通じるのでは? 普通に考えれば姉弟の姉だが、『お姉さん』とも読み取れるわけだしな…)



 アンシュラオンは自分のことを可愛いとは思っているが、それだけでお姉さんたちがあんなに好意的になるだろうか。


 さっきの門番のお姉さんも、初めて出会った子供の言いなりになって同僚を左遷していた。


 もともと嫌いなやつだったという線もあるが、普通はそこまでしないだろう。


 もしこれらのスキルが「お姉さんタイプの女性が、ついつい守りたくなってしまう、ついつい愛情を注ぎたくなってしまう」スキルだとすれば辻褄が合う。


 スキル以外にも、アンシュラオンの容姿そのものが超絶美少年だ。男が美少女を好むように、一般的に美少年を愛さない大人の女性はいない。


 そう、アンシュラオンは、生まれながらに『お姉さんに愛され補正』を持っている人間なのである。


 当然、彼自身がそう願ったせいでもあるが。



(嬉しい悩みだけど、裏路地で生きていける自信がない! ほんと、スレイブ店ってどこだよ、まったく―――って、ええ!? あれか!?)



 疲れきった顔でふと大通りを見つめると、目の前の看板に「スレイブ、入荷しています」の文字が、おおっぴらに書かれてあった。


 まったく普通に書いて置いてある。



「普通に大通りかよ!! いいのか、あれ!? ねえ、いいの!?」



 アンシュラオンは完全にロリコンの説明を忘れていた。


 勝手に「スレイブ = アダルト」と思っていたが、半分は職業案内も兼ねているので、表通りにあってもまったく問題ないのだ。


 ともかく、目的の場所は見つかった!!



「よしっ!! 気を取り直して行くぞ!!」



 暗い気持ちが一転、明るく弾むような足取りで店に向かうのであった。




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