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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
248/620

248話 「出撃アンシュラオン隊 その3『成長する女性たち』」


 サナたちは自らの力だけで魔獣を撃破している。


 傭兵隊が苦戦していたことを考えると、その破壊力は突出していた。



(いい感じのチームになってきたな。実戦を積んで形になりつつある。今ではオレに頼ることを考えず、この隊でどうやって打開しようかを考えられるようになった。これは大きな進歩だろう)



 この半月、アンシュラオン隊は制圧戦闘に参加していなかった。


 がしかし、もともと隊の練度を高めることが最大の目的だったため、練習や鍛錬はもちろん自発的に魔獣との演習を重ねていたのだ。


 アンシュラオンが立っている装甲車も、一度交通ルートまで戻って商人からクルマを買い取り、大量に買った武器を溶解して鉄板として貼り付けた森制圧専用のものだ。


 クルマの屋根は高く作られており、ホロロが監視と狙撃をしやすいようにしながらも、武器商人から買い取った四つの軍用機関砲を装備している。


 アンシュラオンは戦闘に参加しないが、装甲車に近寄る魔獣がいれば、石を投げて排除している。それくらいは問題ないだろう。


 では、さらに細かく隊員の力と特徴を見ていこう。



(前衛は生粋の戦士であるマキさんだ。彼女の長所は、まさに攻撃にこそある。あの爆発力は他のメンバーの追随を許さない)



 マキはやはり強い武人だ。


 炬乃未の武器を手に入れたことで本来の攻撃力にさらに磨きがかかり、アンシュラオンを除けば混成軍の中で最強のアタッカーの一人だろう。


 ただし、集団戦闘ゆえの弱点もある。



(マキさんは他人と動きを合わせるのが苦手だ。今まで同じレベル帯の武人がほとんどいなかったせいで、単独で戦うことに慣れすぎてしまった。これはチーム戦で大きなハンデになる)



 またもやサッカーでたとえて申し訳ないが、マキは守備をしないワントップ型のストライカーだ。


 得意な形でボールをもらえば単独でゴールにまで持っていける実力があるが、能力が高い相手に複数で徹底マークされると身動きが取れない。


 今も新たに出現した上位種で根絶級の『アーバルトグリフィ〈串刺突撃扇鳥〉』の集中砲火を受けている。彼女が強い相手だと魔獣も理解したからだ。


 防御にやや不安のある彼女は、ひたすら攻撃することで短所を補っているが、これだけの過酷な連続戦闘となると、やはりスタミナ面が心配になる。


 しかし、今はチームだ。彼女は一人ではない。


 マキの背後に現れたユキネが、肩を蹴って跳躍。


 滑空して突っ込んできたアーバルトグリフィを切り裂いて叩き落とす。


 ユキネは着地すると同時に二本の剣からそれぞれ二つずつ、四つの剣衝を放ち、相手の注意を引いてマキから魔獣を引き剥がした。


 そうしてマキに余裕とスペースが生まれると、一気に爆進!!



「うらららららららっ!!」



 炎をまとった拳で滅多打ち。


 上位種数匹を一瞬で爆散させる。



「ちょっとユキネさん、私を踏み台にしないで!」


「ちょうどいい足場だったものだから、ついね。ごめんなさいねー」


「あなたも隠れていないで、もっと前に出なさいよ!」


「冗談でしょ? マキさんみたいに真正面から戦うなんて御免よ。どうせなら楽して勝ちたいもの」


「もうっ、あなたって人は…!」


「ほら、また来たわよ。どんどん減らさないと抜かれるわよ」



 ユキネは常にマキの背後に隠れながら、絶妙のポジションを維持している。


 マキの手が足りなければ手数で援護し、攻撃に晒されたら、もっとも火力が高い相手を狙い撃ちして敵の勢いを削ぐ。


 サナが前に出たそうにしていたら、すっと位置をずらしてスイッチ。彼女を援護して離脱まで面倒を見る。


 もしマキが単独で問題なさそうならば、剣衝を飛ばしてゲイルたちの援護も怠らない。まさに何でも屋だ。


 ただし、アピールも忘れない。


 彼女も剣士で攻撃力自体は高く、実際に切り込んで点数を稼ぐこともある。


 あくまで得点源はマキでありつつ、たまにゴールを狙ういやらしさも兼ね備えた『上手い動き』をする武人なのだ。


 それができるのも自らの力で長年世渡りをしてきたから。他人の特徴を見抜き、周囲に合わせることで厳しい現実を生き抜いてきたからだ。



(ユキネさんは、器用なバランスタイプのアタッカーだ。攻守両方をそつなくこなし、マキさんと撹乱役のサナの邪魔をしないで立ち回っている。あの位置をキープすることでチーム全体に貢献しているんだ。すごいバランス感覚だよ)



 ユキネは二刀流なので攻撃型の剣士だと思っていたが、どうやら違うらしい。


 ライザックほど防御型ではないが、左手の剣はガードと姿勢制御にも使っており、常にバランスを重視した戦い方が目立つ。


 急な方向転換の際は左の剣を地面に突き刺して、それを軸に回転しながら攻撃することもあった。


 時には側転や宙返りもするので、まさに踊り子らしい曲芸のような動きをたまに交ぜてくるのだ。



 なぜならば―――【魅せたい】から



 自分を表現し、見てもらい、魅了する。


 彼女の舞うような戦いに魔獣すら惑わされ、味方は驚きと喜びをもらって奮起する。


 マキとは違う意味で『戦場の華』なのだ。



(戦い方がトリッキーで時々イラっとすることもあるけど、こんなに戦いやすいなんて初めてだわ! 後ろを気にしなくていいなんて最高よ! 悔しい、悔しい! でも、いないと困るわ!)



 マキ自身も戦いやすさを実感していた。何も気にせず目の前の敵だけに集中できるため、その爆発力がさらに生きるからだ。


 実力が近い者かつ調和を得意とするユキネの存在が、今では頼もしく感じる。


 彼女とは性格的に合わないところもあるが、戦闘に関しての相性はばっちりだ。



(こんなに強い女の武人は初めて見たわ。言うだけのことはあるじゃない。一番は譲ってあげるけど、二番くらいは目指してもいいわよね?)



 ユキネもまたマキの実力を認め、前衛の二番手に徹する。


 このツートップは、白の27番隊を象徴する存在となるだろう。



「お前ら、気張れよ! 一匹たりとも中に入れるな! 射撃にも注意しろ!」


「おおおおおおっ!」



(ゲイルたちもオレの隊にはすでに必須の存在だ。マキさんとユキネさんが、ああやって自由に動けるのも彼らが盾になってくれるからだ。正直、経験では向こうのほうが何倍も上なのに、文句も言わずに役割に徹するプロ根性は尊敬に値する。あれこそ本物の傭兵だ)



 彼らは敵が現れると勇敢に突進して勢いを止める。ここまでは傭兵隊がやっていたことと同じだ。


 唯一違う点は、強力なアタッカーがいるため無理に当たり続けるわけではなく、丸盾を巧みに操って移動を阻害するだけで十分なことだ。


 だからといって手は抜かず、全力で行ったり来たりを繰り返し、一番地味で一番重労働な役割を負ってくれていた。


 彼らこそディフェンスの要。チーム全体の生命線である。



「…ふー、ふー! きょろきょろ!」



 司令塔のサナは安全な位置にいることが多いが、その運動量はかなりのものになっている。ほぼずっと前後左右に走りっぱなしだ。


 その間も周囲を観察し続けているので、普通ならば疲労とともに頭の中がごちゃごちゃになって判断力が低下するだろう。


 しかしながら、これまでの修行でひたすら体力を鍛えていたこともあり、これだけ走り続けても呼吸困難には陥っていない。


 さらに無駄なことを考えないので、目で見た通りに状況を判断することができる。苦しいから何々したい、あれが欲しいといった雑念がないことが現状では良い効果として表れている。


 そして、彼女も炬乃未の武具によって守られていた。


 安全な内側にいても防ぎきれない羽根が何本か飛んでくるが、強固なプレートと金属糸が編まれた陣羽織は、ことごとくそれらを弾き飛ばす。


 前に出て接近した敵との間合いが近すぎた場合も、右腕の『剛腕膂将ごうわんりょしょうの篭手』で―――ぶん殴る!!


 拳を受けた魔獣がのけぞり、宙に浮くほどのパワー!


 そこに左手で取り出した銃で爆炎弾を連射。敵が炎に包まれる。


 続いて闇市場で買った腕輪から水刃砲を起動させて、腹を切り裂く。


 その際に属性反発が発生。術式が暴発して炸裂し、腹の中身を粉々に吹き飛ばした。



(今のサナには、接近戦でも十分に対応できるだけの武器がある。近距離は右手の篭手と刀に任せ、左手を使って銃や術符も自在に扱える器用さは健在だ。よく動くテクニシャン系の司令塔だな)



 まだまだ粗い点は多いが、サナは子供だ。この歳でこれだけ戦えることが怖ろしい。


 ただし、隊の役割の中に入ってしまうと、どうしても作業に追われて防御が疎かになってしまうことがある。


 炬乃未の防具に助けられてはいるが、それ以上の攻撃を受ければ危険だと思える場面も多く、たまにひやっとさせられる。



(この隊はサナによって動かされている以上、戦闘不能になったら隊自体が止まってしまう可能性が高い。かといって防御重視だとあの子の長所が生かせない。本当ならばサナを専門に護衛して、サポートしてくれる人材が欲しいんだが…あいつじゃ駄目だな。期待したオレが馬鹿だった)



「ぎゃーーー! 助けてーーー!」


「アイラさん! 今行きます!」


「小百合さぁーーん! うぇーーんっ! 耳をかじられたよー!」



 アイラは相変わらず敵に追われて、小百合に助けられる始末だ。


 もし彼女が強くなればサナとマンツーマンで動き、サポートすることで隊全体を助けることができるのだが、今はまだ囮としての役割しか果たせない。


 そもそも強くなれるのかすら怪しいところである。



「敵、多数接近。五百以上の群れと推測されます」



 ホロロが敵を発見。


 いちいちかまっていたらキリがない数だ。



「よし、『Gモード』でいこう。小百合さん、頼むよ」


「承知しました! みなさーん! Gモードでいきますよー! 注意してくださいね!」



 ここで隊列に変化が起こる。


 後方にいた装甲車が先頭に出て、マキとユキネがクルマの両脇に移動。


 ゲイルたちは真横に広く展開して防御重視の構え。


 その代わりにサナとアイラが真ん中後方に下がり、後方の守備を担当する。


 これは部隊全体がGモード、『突撃ガトリングモード』に入った時の隊列だ。


 その主役は、小百合とホロロである。



「射程範囲に入りました」


「いきますよおおおおおおお!」



 小百合が装甲車の屋根に積まれた機関砲の射手席に座ると、魔獣の群れに何百という銃弾を浴びせる。


 もちろんすべて術式弾だ。


 雷撃弾の雨が注がれ、魔獣たちが次々と感電して動けなくなっていく。


 もう一基の機関砲はすべて爆炎弾であり、こちらも銃弾の雨を受けた魔獣が炎で焼かれていった。



「アル先生、突っ込むぞ!」


「了解ネ」



 いないと思っていたら、さりげなく装甲車の運転を任されていたアルが、アクセルを全開にする。


 こちらもジュエルモーターを使ったブースターを二基買い付けたので、点火して一気に加速。


 機関砲で撃たれた魔獣の群れに、速度を上げた装甲車が突っ込み、敵を跳ね飛ばしながら切り刻んでいく。


 クルマの前面にはブルドーザーのように『ブレード』が付いていた。


 これは文字通りのブレードで、実際に馬鹿でかい三本の刃が回転することで、敵を巻き込みつつ破砕することができる。


 あまりに敵が大きいと詰まって動けなくなるが、そういったものはマキやユキネが対処してくれるので問題はない。



「ホロロさん、ガンガンやっちゃおう!」


「かしこまりました」



 続いてホロロがスナイパーライフルをしまうと、今度は両手の篭手に残った二つの機関砲を―――合体!


 こちらは南部から流れてきた中古の巡洋艦に搭載されていたガトリング砲を強引にクルマに載せたものだが、それをホロロが両腕にはめて持ち上げる。


 炬乃未が作ってくれた篭手には、さまざまな重火器と合体できるための補助アームが付いており、グレネードランチャーやバズーカといったものを固定することが可能になっていた。


 そして、普通の武人でも持つのが大変そうな機関砲を軽々持てるのは、彼女の『給仕竜装』にそなわっている補助具『竜測器昇りゅうそくきしょう』のおかげだ。


 ジャラジャラと何千発もの大量の弾丸が装填された長い弾帯を引きずりながら、ホロロが敵を捕捉。



「ターゲットロック。殲滅します」



 フル―――バースト!


 小百合の射撃と装甲車の突撃で倒し損ねた魔獣に対して、ガトリングが火を噴く。


 次々と叩き込まれる弾丸は対艦用の大きなもので、一発一発がクルマすら破壊できるほど高火力だ。


 これには魔獣も涙目。


 上位種のアーバルトグリフィも、数十発受けた段階で原形が残らないほどに粉々になって吹き飛ぶ。


 ホロロは戦気が扱えないが、それを重火器によってカバーしているのだ。凶悪なまでの反動は補助具の力で強引に押さえ込み、ばらつきはあるものの高い命中率を誇っていた。


 さらにバイザーの『凝視輪捉鏡ぎょうしりんそくきょう』は、敵を確実に捕捉して逃がさない。


 木々や岩の裏に逃げても関係ない。障害物ごとすべてを破壊していく。


 しかしながら、Gモードには唯一の弱点がある。



「…弾切れです。補充をお願いします」



(今のでいくら使ったんだろう。中古で仕入れていなければ三千万くらいはいったかな? あー、金金金。もっと金が欲しいなぁ。金がいくらあっても足りないよ!)



 当たり前だが、弾は有料である。


 ホロロのガトリング砲には貫通弾を使っているので、爆炎弾よりは多少安いが、それでも数千発も撃てば中古でも数百万はかかる。


 小百合のほうは普通に術式弾なので、撃つだけで湯水のように金が流れていくわけだ。


 ちなみにこの弾帯はアンシュラオンが夜なべして、一発一発地道に装填することで経費を削減している。おそらくまた今晩も装填作業に追われるだろう。なんとも涙ぐましい努力である。


 が、払った金の分だけの戦果はあった。


 五百いた魔獣の群れが、ほとんど跡形もなくなって消えている。


 残っているのは傷ついて瀕死のものばかりなので、それをサナたちが追い込んであっさりと壊滅。


 チームワークと武具と兵器と金の力をすべて使えば、これだけのことが可能だと証明した戦いであった。




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