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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
247/621

247話 「出撃アンシュラオン隊 その2『フォーメーション』」


 崩れた戦線に白の27番隊が出撃。


 まず最初に飛び出すのは、前衛を担当するマキだ。


 一気に魔獣に接近すると『六鉄功華ろくてつこうか』を装備した拳の一撃を繰り出す。


 先端に付いた牙が、アーブグリフィの身体に突き刺さって大きな穴を穿ち、そこに拳の衝撃が突き抜けると―――ボンッ!


 魔獣の身体が豆腐のように崩れ去り、宙に浮いた頭部と脚だけがボトボトと地面に落ちる。


 一撃。


 たった一撃で文字通り粉砕である。


 この威力にはマキ当人も驚きを隠せない。



(すごい! これが本物の武器の力なのね! 炬乃未さん、ありがとう)



 手にしっかりとフィットして、力を入れる際には自身の力を何倍にも押し上げてくれる。


 打撃の衝撃もほとんどこちらに返ってこないので、放った力がダイレクトに攻撃力に転化されていることがわかる。


 素材も単純に硬くて自身の手を保護しつつ、攻撃してきたアーブグリフィのクチバシが逆にへし折れるほど頑強だ。


 脚に装着した『六鉄蹴華ろくてつしゅうか』も篭手同様に、軽く蹴るだけで面白いように魔獣が消し飛んでいく。


 今まで使っていた鉄の篭手など、これと比べたら何の役にも立たない鉄くずに思えるほどだ。


 そして、真の武具を手に入れた彼女の力は、まだまだこんなものではない。



「はぁあああああああ!」



 下がる傭兵隊を追う魔獣に、マキが『炎龍掌えんろんしょう』を放つ。


 放出系が苦手な彼女の場合、威力は五割から七割程度に減衰するのだが、この篭手を装備していると―――大炎龍!


 肥大化した爆炎が木々ごと魔獣を呑み込み、一瞬で消し炭にする。



(半分程度の消費で二倍の効果が出ているわ! 今までは消耗が激しくて躊躇っていたけど、これなら自信を持って放出技が使える!)



 篭手には火系の技をサポートする効果もあるため、燃費の悪いマキでも十分に高火力の技を使えるようになった。


 苦手分野の克服は、彼女に強い安心感と自信を与える。



「あなたたちは一旦下がって! 私たちが受け持つわ!」


「す、すげぇ。なんて威力だ。だが、敵はどんどん来るぞ! 独りで支えられるのかよ!?」



 これだけの数の魔獣が相手だ。いくらマキでも単独で戦うのは無謀である。


 が、その心配はいらない。



「さて、お仕事の時間よ。今日も働きましょうか」



 敵陣に空けた穴をさらに広げるのは、続いて飛び出してきた二刀流のユキネだ。


 彼女はマキの背中を守るように動きながら、死角から向かってきた敵を切り裂く。


 鋭い右の剣の一撃は魔獣の肉をすぱっと切り裂き、骨に亀裂を入れる。


 一撃で倒したマキと比べるとパワーでは圧倒的に劣る彼女だが、一撃で倒せないのならば二撃目を加えればいい。


 即座に左手から二の太刀が繰り出され、アーブグリフィの首を撥ね飛ばす。



「はぃいいい!」


「やぁ!!」



 それからもマキが敵を粉砕し、ユキネが近くでカバーする戦い方を継続。


 付かず離れず、かといって互いを意識したコンビネーションは、見ているほうをハラハラさせながらも強烈に惹きつけてやまない。



「次は俺らの出番だ! 黒鮭こっかい傭兵団、出るぞ!」



 マキとユキネが敵に打撃と混乱を与えたら、続いて出撃するのはゲイル率いる戦士隊十五人だ。


 彼らの主武装は、中型の丸盾と片手で持てるバトルアックス。


 まずは被弾しないように盾を前に向けて魔獣を押し込みつつ、相手の動きを封じたら斧を叩き込んでいく。


 それで敵が怯んだら再び盾で押して、倒すことよりも相手を寄せつけない動きに徹していた。


 この際に最低三人以上、基本はゲイル隊の半数の七人か八人が密集して同時に盾を突き出し、『シールド・ウォール』を形成するところがミソだ。


 強い魔獣になればなるほど体長が大きくなる傾向にあり、頭上から攻撃される可能性が高まる。


 それを防ぐために人数を使って、前と上を同時に防いでいるのだ。パワーのある戦士が七人程度集まれば、魔獣の体当たりだけでは簡単には崩せない。



「ゲイル! 羽根を飛ばしてくる! マキさんたちを守って!」


「任せておけ!」



 扇を広げたオスが羽根を射出しても、七人の戦気で強化された壁は簡単に貫けない。すべて受け止めてマキたちを射撃から守る。


 ゲイル隊は十五人なので、この壁を二つ作り、マキとユキネの両側をがっしりカバー。対処しきれない魔獣もこれで防ぐ。


 彼ら自身にも敵を倒す力があるので、基本は削りつつも、倒せるときは積極的に魔獣を仕留めていくから頼もしい。


 一番素晴らしい点は、余計な動きをしないこと。


 経験豊かな熟練した戦士たちなので、自分の役割に徹して功を焦らない。まさに縁の下の力持ちである。



「サナ、出番だ。敵をさらに掻き回してこい」


「…こくり」



 前衛が壁を作ったら、今度は中衛で『司令塔』となるサナの出撃となる。


 彼女はマキとユキネ、ゲイルたちが作った安全な中央内部の空間に陣取り、戦況をじっと見つめる。


 そして、魔獣が固まっている地点を見定めると、そこに爆発矢を打ち込んで敵陣を吹き飛ばす。


 それが目印となって部隊全体が方向転換。


 マキを先頭にして突っ込み、次々と混乱した魔獣の群れを各個撃破していく。



「…じー。きょろきょろ」



 サナは常に戦場から目を離さない。


 彼女の静かな瞳は危険な場所をいち早く発見し、最初の一撃を加えつつ、標的を隊全体に教える役割を果たす。


 もちろん彼女自体も積極的に攻撃に参加。


 マキとユキネの間をすり抜けて飛び込むと、黒兵裟刀こくひょうさとうで敵を切り裂く。


 すっと抵抗なく入り込んだ刃は、そのまますり抜けてアーブグリフィを切断。


 脇差は刃が短いことだけが唯一の難点だが、主に脚を狙うことで敵の機動力を殺ぐことに注力する。


 一撃を加えたら即座に安全な陣の中に退避。術符や術式弾を使って追撃するのにとどめ、彼女自身は無理をしない。



(いい動きだ。任された役割を見事に果たしている。グランハムの動きを何度も見させた甲斐があったな)



 その動きは、時折グランハムのものと重なる。


 彼があれだけ見事に動けるのも、必要なところに必要なだけ支援を行う判断力と調整力があるからだ。


 『観察眼』を持っている彼女には、彼と同じ司令塔の資質があった。


 また、アンシュラオンが教えた「ひたすら相手が嫌がることをやれ」を実践できるため、魔獣からすればたまったものではないだろう。


 今もマキが生み出した炎で発生した煙を、風圧波の術符で魔獣側に送っているところだ。


 湿度の高い森なので火が出ると大量の煙が出る。魔獣たちは煙を嫌がって行動範囲が狭まり、結果的に勢いが削がれることになった。



(悪くない連携だ。付け入る隙がない。だが、相手は数で攻めてくる。それに対処するには、こちらも人員を増やす必要がある)



 これだけでも隊としては十分機能しているが、敵の数が多いために対処しきれない部分が出てくる。


 真後ろに流れ込んだアーブグリフィが、ゲイル隊を攻撃しようと迫ってきた。



「小百合さん! カバー!」


「お任せください!」



 そこに『琵秀刀びしゅうとう香澪かれい』を抜いた小百合が跳躍。


 魔石の力によって強化された彼女の脚力は、一瞬で必殺の間合いに到達。


 刃一閃!


 濡れた刀身がアーブグリフィの脚を切り裂き、続いて放たれた二撃目が胴を薙いで、ばっさりと切断。


 この刀は軽く、切れ味強化の術式がかけられているので、普通の刀が一回斬る間に二回斬ることが可能である。


 だが、魔獣の生命力は強靭であり、斬られながらもクチバシで攻撃を仕掛けてきた。


 そこに―――蹴り!


 これだけの跳躍力があるということは、それだけ脚力が増したことを意味している。


 繰り出された小百合の足がクチバシをあっさりとかち上げ、空いた首に剣撃一閃。


 ぼとっとアーブグリフィの首が落ちて絶命。


 それからも小百合は空いたスペースを埋めるように動き回り、隙間に入ろうとする敵を牽制し続ける。


 サナも同じように縦横無尽に動いているが、両者の違いは攻撃と防御の比重だ。


 サナは主に攻撃に関しての指揮を執り、小百合は遊撃としてチームの防御の穴を埋める。


 こちらも突破されなければよいので、無理に切り込むことはせず、銃や術符も使って相手の力を殺ぐことだけに集中している。



(小百合さんの性格は大胆だが、意外と周りを見ている。細かい気遣いができる人だから、手伝ってもらっている側も不快な思いはしない。物資の補給も彼女がやってくれるからありがたいよ)



 損耗したゲイルたちの盾や斧も、さりげなく小百合が交換している。


 怪我人が出ればすぐに駆けつけ、穴を塞いだり救助したりと、跳躍力を生かした立ち回りが役立っていた。


 ただし、それでも手が足りないことはある。


 千人単位で戦っていた傭兵たちが苦戦したくらいだ。相手の物量はとどまることを知らない。


 そういう場合は、彼女を投入する。



「アイラ、行け」


「えっ!? わ、私!? ま、待って! まだ準備ができていな―――」


「そんな暇があるか! 今まで何をしていた! いいからさっさと行け!」


「ぎゃーーー!」



 アイラを強制出撃させてカバーに向かわせる。


 彼女の役割は、同じ中衛であるサナと小百合のお手伝いなのだが―――



「ひっ、ひーー! こ、来ないで! 来ないでよーー!」


「ピギイイッ! ピギイイイッ!」


「こわっ! 魔獣こわ! 目がマジすぎるって!」


「アイラ、何をやっている! 少しは攻撃しろ!」


「だ、だって、すごい勢いで攻撃してくるんだよ!? 無理、こんなの無理!! あぎいっ! 手! 手に刺さった! あいたたたた! 肉が抉れる!」


「ぐりぐり、ぶちっ。ごくん」


「あーーーーーー! 私のお肉を食べたーー!?」



 クチバシで腕の肉を抉られて食われるアイラ。


 なかなか自分の身体の一部が食べられる光景にはお目にかかれないので、貴重な体験ともいえる。


 よほど美味しかったのか、アーブグリフィはアイラに狙いを定めて集中攻撃。その様子を見た他の個体もアイラに群がってきた。



「ひーー! 食われるー!! ユキ姉、助けてー!」


「アイラ、こっちは忙しいのよ。自分でなんとかしなさい!」


「ええええええ!! そんなー!? この、このこの!」



 アイラが無我夢中で剣を振るが、そのどれもが魔獣にダメージを与えられない。


 これは剣が悪いのではなく、彼女がへっぴり腰だからだ。



「なんだそのなさけない剣気は! 薄っぺらでナヨナヨしおって! もっと腰を入れろ!」


「これが精一杯だよー!」


「そんなんで立派な剣士になれるか! 死ぬ気でいけ!」


「私は踊り子になりたいのーーー!! ぎゃっ! 痛いイタイイタイ!!」



 クチバシにつつかれまくり、アイラが半べそをかきながら逃げ惑う。


 だが、これによって魔獣の注意が彼女に向き、他の部分への圧力が減った。


 つまりはヘイトを集めたのだ。



(あいつは本番では本当に役に立たない。すぐにパニックに陥るし、攻撃も防御もまったく駄目だ。どうやって扱うかずっと迷っていたが、痴漢に遭いそうになった時みたいに妙に悪目立ちするんだよな。ならば、それを逆に利用してやればいい)



 アイラは、言ってしまえば『部隊の穴』だ。相手はそれを見つけて攻撃を集中させてくるだろう。


 しかし、それがわかっていれば、あえて穴を作ることで敵を集めることができるのだ。


 そして、風を切って向かっていった弾丸が、アイラに群がったアーブグリフィの目に命中。


 そのまま強烈に回転した銃弾は、脳を抉りながら突き抜けて絶命させる。


 次々と放たれた貫通弾は的確に頭部に当たり、敵の数を着実に減らしていく。時には射線上にいた二匹を同時に仕留めることもあった。


 その凄まじい命中率を誇る狙撃は、装甲車の上から発射されていた。



「新たな群れが接近しています。皆様、ご注意ください」



 スナイパーライフルを持ったホロロが、周囲に警戒情報を送る。


 彼女の優れた視力はバイザーによってさらに強化され、こんな密林に隠れている遠くの存在すら容易に見つけ出す。


 これらの情報は彼女の魔石によって精神波として各隊員に送られる。


 直接脳内に響くため小声でしゃべっても、あるいは声を出さなくても伝達が可能であることも強みだ。


 現在での効果範囲は、およそ百メートル。


 この範囲の中ならば、チームの連携が大幅に崩れることはない。



(狙撃もすごいがホロロさんの最大の役割は、最後尾から戦況全体を監視する『目』だ。それがサナの指針にもなっている)



 サナから見えない遠い場所にいる魔獣も、ホロロがあえて木を狙って撃つことで敵がいることを彼女に教える。


 そこにサナが爆発矢や爆炎弾を打ち込んで炙り出し、また隊全体で突撃して撃破していく。


 前衛を担うマキ、ユキネ、ゲイル隊。


 中衛を担う、サナ、小百合、オマケのアイラ。


 そして、後衛を担うホロロ。


 アンシュラオンがいない状態でも、並の傭兵団を遥かに凌駕する戦果を叩き出す。


 これがアンシュラオン隊、白の27番隊の力である。




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