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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
24/606

24話 「門番のお姉さん」


 一晩野営し、ようやく東門に到着。


 視界は荒野から一転し、東門は周囲を森に囲まれたような場所にあり、道なりに進むと第二城壁に組み込まれた二階建ての楼門ろうもんが見えてくる。


 楼門は少しせり出ており、それを土台にやぐらが設置されている。敵が来た場合、そこから銃撃して迎撃するのだろう。


 門自体は南門よりだいぶ小さくなっているので、馬車数台程度ならば横に並んでも軽く入れるが、大きな輸送船などは入れないようになっている。


 商人の何人かはここで小さな馬車に乗り換え、商品を積み替えている光景が見受けられた。街中に入るにはそちらのほうが便利なのだろう。



(南門から入った無差別な人間を、ここで見定めて振るい落とすって感じだな。明らかに警備も厳重だ)



 衛士の数もだいぶ増えたし、並んでいる列の合間にも監視の目が光っているのがわかる。本来はそれが普通なのであり、南門の警備が緩いことのほうがおかしいのだが。


 そして予想通り、ここでようやく審査が行われるようになった。


 まずは身分証有りの人間と、無しの人間で分かれる。



「身分証って何?」



 昨晩、一緒に宴を楽しんだ商人のおっさんに訊いてみる。



「市民権を持っている人に配られるカードとかさ。俺は持ってないけどね」


「オレもないや」


「じゃあ、一緒にあっちだな」



(そういや、ダビアから市民権がうんたらってのは聞いたな。有るやつと無いやつ、ってことか。オレは持ってないから、あっちか)



 アンシュラオンもそのままおっさんと列に並ぶ。


 だが、その商人のおっさんともすぐに別れることになる。アンシュラオンが男の衛士に止められたからだ。



「そこの小僧、お前はこっちだ」


「オレのこと? どうして?」


「そういう決まりなんだ」


「決まりって…大雑把だな。理由を述べよ、五文字以内で」


「五文字!? 短すぎる!!」


「俺は言えるよ。『い・や・だ・か・ら』。はい!」


「はい、じゃない! ちくしょう、見事に五文字に収めやがって!」


「悔しかったら言ってみなよ」


「ええと、『き・ま・り・だ・か・ら』。ああ、くそっ、入らない!」


「はは、残念。バイバイ」


「待て待て!! 駄目だって!」


「なんで?」


「そうなっているんだから仕方ないんだ! さあ、あっちだ!」


「うっ、持病のしゃくが…」


「おい、大丈夫か?」


「むさいおっさんが近づくと発病するんだ。だからおっさんこそ向こうに行ってよ。そして、阿波踊りしながら死んで! はい、五秒以内に!」


「どんな持病だ!? そこらじゅうにおっさんはいるだろうが!」


「あんたは特別むさいんだ。自覚してよ」


「こいつは…!」


「助けて! 子供が襲われてるよ! いやらしいことをするつもりなんだ!」


「お、おい、やめろ!」



 アンシュラオンの声で、周囲から衛士に厳しい視線が向けられた。その中に「変態よ」「ロリコンだわ」「ショタコンめ」といった罵詈雑言も並ぶ。



「お前のせいで評価が下がったじゃないか!」


「事実でしょ。諦めなって」


「くそっ! 子供だからって…」


「どうするの? オレと戦うつもり?」


「うっ…」



 アンシュラオンの赤い瞳が衛士を射抜く。


 まるで目の前に凶暴な獣がいるかのごとく、一歩も動けなくなる。



「おいおい、あまり逆らわないほうがいいぞ」



 ここで見かねた商人のおっさんが口添え。



「えー、どうして?」


「普通、逆らわないだろう?」


「だって、ムカついたから。いきなり不躾ぶしつけじゃない?」


「グラス・ギースは特に出入りに厳しいからな。入りたいなら、おとなしくしていたほうがいいぞ」


「そうだけどさ…ちぇっ」



 アンシュラオンだって逆らうつもりはなかったが、単純に男の言うことに従うのが嫌だっただけである。


 ダビアや商人の男のようにフレンドリーな相手は好きだが、当然ながらそれ以外の男と仲良くするつもりはない。



(なんだよ。ムカつくな。いきなりこの街が嫌いになったよ。やっぱり男は駄目だな)



「しょうがないなぁ。行ってくるよ」


「ああ、気をつけてな」



 商人の男と別れ、一般人とは違う道を進んでいくと、また何か揉めていた。


 どうやらアンシュラオンの前に【選別】された若い男がいたらしい。



「なんだよ! 前はこんなのなかったぞ!」


「今回から始まったんだ」


「おい、何をするんだ! やめろ!」


「痛くないから、じっとしていろ」



(何やってんだ? ケツでも掘られるのか?)



 目の前の男が何やら喚いている。


 だが結局は言われるがままに腕を差し出すと、そこに『腕輪』がはめられた。



「ほら、行っていいぞ。悪さはするなよ」


「ちっ、面倒くさい」


「じゃあ、次」



(オレの番か。だが、あれは何だ? 何か変な感じがしたな)



 アンシュラオンは腕輪に違和感を感じた。変なものならばあまり付けたくない。


 が、ここで揉めるわけにもいかない。逆らっても面倒なだけだと、今さっき知ったからだ。



(まあ、いいか。嫌だったら外せばいいし。でも、野郎相手に触られるのは我慢ならんな。おっと、あれは…まさか!)



 いかつい衛士の隣に、赤い髪のお姉さんがいる。


 二十代後半だろうか。まだ若くスタイルも良い女性だ。


 着ている鎧は周りと大差ない造りだが、武器を持っていない代わりに、両腕ににび色の篭手こてをはめていた。


 打撃用の手甲というべきか。おそらく金属製である。



(この感じは武人かな? 隣の衛士よりは確実に強いな。いや、問題はそこじゃない。お姉さんであるということだ!)



 実は、ここでようやくアンシュラオンは「お姉さん」に出会ったのだ。パミエルキ以外に出会う初の年上女性である。


 むろん、お姉さんを通り越している御方々(おんかたがた)には出会っているが、残念ながら彼女たちは除外させてもらう。



(顔立ちは明らかに美人だ。胸も大きくてスタイルもいい。これは当たりだ!)



 姉好きの自分としては、年上女性に対応してもらうのならば、ぜひともあっちがいいに決まっている。もうおっさんには飽きているのだ!


 よって、即決。



「わかったなら、お前もさっさと手を…」


「お姉さん、怖い!!」


「きゃっ、な、なに?」



 男を素通りして、隣のお姉さんに抱きつく。


 鎧越しであるが、大きな胸に顔をうずめる。



(あー、久々の乳だー。幸せだなー)



「あらあら、ふふふ。どうしたの?」



 女性はいきなり抱きつかれたので驚いたが、アンシュラオンが(見た目は)可愛い子供だとわかると顔を緩ませた。



「おい、何をしている。早くこっちに…」


「あの人、怖い! 助けて! 顔がすごく悪い! きっと悪人だよ! 捕まえて!」


「顔が悪い!? 悪人!?」


「大丈夫よ。顔は悪くても、そんなに悪い人じゃないわ。…たぶん」


「ええ!? ひでえよ!」



 男の衛士は、お姉さんに顔が悪いと言われてショックを受けていた。


 うむ、ざまあみろ。


 もちろん彼にまったく恨みはない。単に態度が悪い男だったことを悔やんでいただきたい。



「お姉さん、ここで何をするの? 怖いよ」


「大丈夫よ。ちょっとこれをはめるだけ」


「何これ?」


「うーん、悪さできないようにするやつ、かな」


「…? どういうこと? 心がわかるの?」


「ふふ、そんなことはできないわ。でも、武人の力をちょっと封じ込めることができるのよ。あなた、武人でしょ?」


「なにそれ、知らない(嘘)」


「あら、知らないのね」


「入り口でこっちに行けって言われただけだよ。…僕、何か違うの? 変なのかな?」


「そんなことないわ。人より生体磁気が多いだけよ。それはとても強い証拠なのよ。良いことだから大丈夫よ」



(あいつが持っていたのは、生体磁気を感知するアイテムだったのか。だからオレはこっちか)



 入り口にいた衛士は蓄音機に似た形の道具を持っていた。今の話を聞く限り、それが生体磁気の量を調べるものらしい。


 ただし、詳しい情報まではわからず、あくまで一定量以上の生体磁気を発している人間を感知するだけだと思われる。


 ちなみに「生体磁気が多い人間 = 武人」ではない。


 多ければ多いほど活力に溢れているので肉体的には有利になるが、武人の因子が覚醒していなくても生体磁気が多い人間はいる。


 一方、生まれながら生体磁気が少ない武人もおり、能力だってそれぞれ違う。もともと特殊な能力を見抜くのは一般的には不可能である。


 それゆえに、ここでは単純に「体力」「精神」の値を重視して選別しているのだろう。少しでも強そうなやつに対する抑止として選別が行われているようだ。



「君は大丈夫そうだけど、決まりだから付けさせてね」


「付けると悪さできないの?」


「悪さする元気がなくなる…かな。ほら、無駄に元気があるから余計なことに力を使っちゃうのよ。わかるかな?」


「あっ、わかるよ。昔、隣に住んでいたおじさんがそうだったもん」


「そうなの?」


「うん、おじさんの家ね、時々子供が増えるんだ」


「あら、そうなの。…たしかに元気ね」


「うん。でもね、同じ年齢の子がよそからやってくるんだ。弟のはずなのに年上ってあるのかな? そのたびに隣のおばさんが怒って家を出て行くんだけど…どうしてだろう? 家族が増えたら楽しいはずなのにね。おじさんに訊いてみたら、元気が有り余っているからつい悪さしちまう、だって。それと同じかな?」


「あ、ああ…そっち…ね。そ、そう…ね。そうならないように…これは必要なのよ」


「子供が増えるのは悪いこと?」


「それはその…子供が増えるのは良いことよ。でも、そのおじさんがちょっと悪い人なのね。そういう人が暴れないように、このリングが必要なの。…わ、わかってくれる?」


「う~ん、よくわからないけど、お姉さんが付けてくれるなら我慢するよ」


「よかった。いい子ね。じゃあ、じっとして」


「もっと強くぎゅってしてて。それなら大丈夫だから」


「ふふ、はいはい。ぎゅっ」



 お姉さんは、抱きしめて頭を優しく撫でながら付けてくれた。年上女性の良い匂いと温もりに包まれて感謝感激雨あられである。


 子供のフリ作戦は大成功だ。



(くくく、今のオレは可愛い子供なのだ。容姿がいいのはすでに確認済みだからな。せいぜい利用するか)



 まあ、そのせいで姉に溺愛されるわけなので、収支はどっこいどっこいかもしれない。



「これって外してくれるの?」


「ええ、街を出るときにね」


「そっか。じゃあ、またお姉さんにしてもらいたいな。あの人、怖いし。ずっと睨んでるよ。あの人がいたんじゃ、一生外に出られないかも。会いたくないし」


「あの人は左遷させるから安心していいわよ」


「ええ!?」


「そんな顔じゃ子供が怯えるでしょう? 砦の配置に戻すわ」


「そりゃないよ! ここのほうが楽なのに…。それに子供なんて滅多に来ない…」


「ほらほら、邪魔邪魔。さっさとあっちに行きなさい。あとで辞令は出しておくから」


「くそ…俺の顔は生まれつきなのに…ひでぇや」



 強面のおっさん衛士は排除されてしまった。


 どうやらお姉さんのほうが立場は上らしい。



(いやー、よかったよかった。これで出入りも快適になるから、少しは街が好きになれそうだ。それにしても、こんなのがあるんだな。対抗術式かな…?)



 左腕に付けたリングが黄色く輝いている。今のところ異常はないが、生体磁気を抑制するものらしいので、力を発動させると何かあるのかもしれない。



(まあ、街で暴れることもないだろうけど…。こんなものを作る技術もあるのか。さて、ようやく街のお出ましだぞ!)



 門を抜ければ街があるはずだ。


 ようやくグラス・ギース、その中核エリアに到着である。



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