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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
237/618

237話 「作戦開始 その1『出陣』」


 九月末、秋の風が少しずつ肌に感じられる心地よい日。


 ハローワークに大勢の傭兵とハンターが集まっていた。


 これから長い戦いに出る傭兵団やパーティーが持ち寄った物資も集められたため、広いハローワークの敷地が完全に埋まっている。



「第一陣で出発する者は、街の入り口まで移動を開始しろ!」



 グランハム率いるザ・ハン警備商隊が案内を担当し、それぞれの整理番号に応じて出発隊を編成していた。


 人数が多いため三つのグループに分けて出発する予定で、まずは第一陣に割り振られた者たちが移動を開始する。


 最初のグループは、主に大きな傭兵団に所属している者たちだ。


 彼らには最低限の規律があって移動の際の手間が少なく、物資も多いので後に回すと邪魔になることも考慮されていた。



「兄弟、先に行っているぜ!」


「ゲイルも気をつけてね」


「これだけの面子だ。むしろ出会った魔獣がかわいそうになるな。じゃあ、現地でな!」


「うん、またね」



 ゲイルは第一陣に配属されているので、先に出発となる。


 とはいえ最終的には現地で落ち合うため、単純に順番の問題にすぎない。


 第一陣はおよそ一万人おり、彼らがいなくなったことで一気にスペースが空く。言ってしまえば、第一陣に割り当てられた彼らこそが傭兵隊の主力といえた。



「お前はいつ出発なんだ?」



 見送りに来たロリコンが訊ねる。



「オレは第三陣。つまりは最後さ。このペースだと昼過ぎかな?」


「ホワイトハンターなんだから、主力の第一陣じゃないのか?」


「ゲイルはまだいいけど、他の男臭い傭兵集団と一緒に動きたいと思う? 高校の部活の更衣室みたいな臭いが充満しているんだぞ。絶対にお断りだね」


「そういうところはブレないよな」


「生理現象だから仕方ないよ」


「ほかの集団は荷物が一杯だが、お前はあまりないな。普通の大型馬車で収まるくらいだ」


「だいたいはポケット倉庫に入っているからね。ロリコンも物資集めに協力してくれてありがとうな」


「この作戦が終わるまで一般の商人は移動できないし、どうせ暇だから気にするな。家のことも任せておけ」


「だからって、あんまりだらけるなよ。アロロさんの掃除も手伝えよ」


「わかってるって。留守中のことは心配するな」


「ベルロアナ様がご出発されるぞー!」


「おー、パンツ姫のご出陣だってよ!」


「こいつはぜひ見物に行こうぜ!



 そうこうしている間に、第二陣の出発が近づいていた。


 第二陣は中核となる者たち、つまるところは形式的に参加するベルロアナを中心とした部隊だ。ここにはファテロナや七騎士たちも含まれている。


 護衛としてザ・ハン警備商隊も、第二商隊と第三商隊が随伴することになっていた。



「皆様、行ってまいります! どうぞご支援をよろしくお願いいたしますわー!」



 ベルロアナは馬車から身を乗り出して手を振っている。


 ちなみに街を出たら輸送船に乗り換えるので、この馬車は完全にパフォーマンスだ。


 彼女の場合は一番強固な武装商船に乗って行くため、途中で魔獣と出会っても簡単にやられることはないだろう。


 大勢の見物客に見送られながら都市の入り口に向かう彼女を見ながら、アンシュラオンは嘆息する。



「やれやれ、あいつはこれから何をしに行くか理解しているのか? どう考えても邪魔なんだよなぁ」


「所詮はお飾りネ。でも、ああいう若いのがいると華があっていいアル」


「華ねぇ。オレからすると悪臭漂うラフレシアなんだけどな。って、なんでアル先生もいるんだ?」


「都市に残っていても暇アル。一緒に行くヨ」


「参加申請はしたのか?」


「そんなもん、べつにいらないアル。勝手についていくだけネ。ミーは縛られるのが嫌いヨ」


「申請すれば金がもらえるぞ?」


「どうでもいいヨ。金は使い切るのが面倒くさいアル」


「相変わらず、ぶっ飛んだ価値観で生きているな。さすがだよ」


「とりあえず着いたら教えてくれアル。じゃ、おやすみネ」



 そう言うと、なぜか馬車に積まれていた樽の中に入っていった。


 どうやらそこを寝床にするらしいが、知らない人間がうっかり蓋を開けたらジジイがいるなど、どこの恐怖体験だろうか。



「一人余計なやつが増えたけど、まあいいか」


「達人の老師が来てくれるのは素直に嬉しいわ。それだけ安全性が高まることを意味しているもの」


「腕は確かだからね。それにテンペランターがいるのはありがたい。魔石に何かあっても対処が可能だ。有能なじいさんは一家に一台は必要だと思い知るよ。みんなも準備はいい?」


「はいはーい、ばっちりですよー!」


「問題ありません」


「…こくり」



 今回アンシュラオンが連れていくのは、サナ、マキ、小百合、ホロロ(+アル先生)といった面子である。


 これくらいならばハピナ・ラッソで手に入れた大型馬車で十分間に合うため、そこに荷物を載せて移動することにしていた。


 ただし、時間短縮の観点から輸送船に乗り込む必要があるうえ、実際に山に入る際は邪魔になるので、馬は外して荷車だけ手押しで持っていくか、ポケット倉庫に仕舞うのが現実的かもしれない。



「アンシュラオン、準備はいいか? そろそろ行くぞ」


「グランハムは第三陣でいいの? 指揮は?」


「先導は海軍がやってくれている。私率いる第一警備商隊は最後尾で尻を叩く役割だ。癖の強い者が多いからな」



 第三陣はそれ以外の者たち全員なので、傭兵団やパーティーに属していないような風変わりな者が大勢いた。


 会議場で見たパンツ一丁で大量の包丁を身に付けているじいさんや、両目に眼帯をしている青年等、相当濃いメンバーといえるだろう。


 本来アンシュラオンは第一陣で出るべきなのだろうが、後方からのほうが全体が見渡せることもあって、あえて第三陣を希望したのだ。



(こうやって数多くの傭兵やハンターを見る機会は案外少ないもんだ。まるで展覧会だよ。眺めているだけで面白いや)



 傭兵やハンターの装備はそれぞれなので、対人戦が得意な者、集団戦が得意な者、対魔獣戦が得意な者等々、眺めているだけでも特徴がはっきり出ていて面白い。


 そして当然、その意気込みもまちまちだ。



「よっしゃ! ガンガン倒して、がっぽり稼いでやるぜ!」


「まあ、それなりに結果を出せばいいんだろう? ほどほどにやろうぜ」


「後ろからついていけば、おこぼれくらいはあるに違いない。前に出る必要性はないな」



 といったように、前向きな者、ほどほどな者、やる気がない者がいるのは仕方がないことだ。



「空気がたるんでいるね」


「まだまだこれからだ。しばらくはこれでいい。では、第三陣も出発するぞ!」


「がんばってこいよー! 気をつけてなー!」



 ロリコンに見送られながら、残った面々がハローワークを出る。



「おーーい! 待ってよーーー!」


「ん?」



 ちょうどその時、後ろから走ってくる人影が見えた。


 ピンクの髪に間の抜けた顔をした少女、アイラだった。



「あっ、いたいた! よかったー! 間に合った!」


「なんだアイラか。無理して来なくてもいいんだぞ」


「ガーンッ! 久しぶりなんだから、もっと感動の再会を演出してよね!」


「べつに十日かそこらじゃないか。久しぶりというにも微妙だぞ。というかお前は足でまといなんだから、おとなしく街で待っていろ」


「もう準備費の二百万は使っちゃったから無理だよー!」


「何に使ったんだ?」


「ふふーん、聞きたい? 見せてあげなくもないけど、どうしようかなぁ」


「べつにいいや。じゃあ、またな」


「待ってよー! 見せるからー! ほら、この剣だよ! どう? すごいでしょ!」



 アイラは腰に下げた二本の細剣を見せると、両手で持ってお手玉のように空中で回転させる。


 このあたりは普段から曲芸でやっているので手先は器用なようだ。



「ふむ、少しはまともなようだが、二本で二百万だったのか?」


「そうだよー! すごい高級品だよねー! デザインも綺麗だしさー」


「どこで買ったんだ?」


「港の露店だよ」


「お前、カモられたな。その剣に一本百万の価値はないぞ。せいぜい五十万ってところか」


「えーー!? うそー!?」


「こんなのアズ・アクスなら二十万もしないぞ。装飾が凝っているからその分が加算されても、やっぱり五十万もしないだろうな」


「ショックー! 騙されたー!」


「見る目もないのに露店で買ったお前が悪い。ああいうところは闇市場と同じで掘り出し物を探しに行くためにあるんだぞ。まあ、武器はいい。で、防具はどこかにしまってあるのか?」


「防具? そんなのないけど…」


「無いだと? ほかに服は? コート類はどうした?」


「えーと、この服だけだけど…? ほかに何かいるの?」



 アイラは剣を持ってはいるが薄着だ。


 しかもサンダルである。



「山をなめるなーーーー!」


「わー!? びっくりした!? いきなり大声はやめてよー」


「馬鹿かお前は。そんな軽装で行ったら絶対に遭難して死ぬパターンだろうが。遠足じゃないんだぞ」


「だってー、服を持ってこいなんて旅のしおりに書かれてなかったよ?」


「それが常識だからに決まっているだろう。せめて厚着くらいはしてこい。ほれ、死にたくないのならば、さっさと帰れ」


「ええええ! いまさら帰れないよー!?」


「アイラ! また勝手に走って行って!」


「あっ、ユキ姉」



 そこにユキネもやってくる。


 彼女もギリギリセーフで間に合ったようだ。



「アンシュラオンさん、ごめんなさい。かなり遅れてしまったわね」


「それはかまわないけど、そっちは大丈夫なの?」


「ええ、細かい事情は移動しながら話すわね」



 ユキネは、美しい紋様が描かれた亜麻色の鎧を着ていた。


 全体的に動きやすい軽鎧ではあるものの、垂れ下がった数本の布からは淡い微弱の光が放出されている。


 どうやら普通の鎧ではないらしい。剣も細剣であることはアイラと同じだが、こちらも特殊な形状なので術式武具のようだ。



「ユキネさんはちゃんとした装備をしているじゃないか。どうしてこんなに差が出るんだ?」


「アイラ、まさかそのまま来たの? 座長が用意してくれた荷物はどうしたの?」


「え!? あれの中身って服だったの!?」


「服だけじゃないわ。防具と一緒に食料だってあったのよ」


「だって、小さかったから…」


「大きさは関係ないでしょう。あれにポケット倉庫が入っていたのよ」


「えええーーー!? 知らなかったよー! ど、どうしよう!」


「あなたって子は…。今から戻っても間に合わないから、もうこのまま行くしかないわね。私の物資を分けてあげるから、それで我慢しなさい」


「うう…ごめんなさい」


「まったく、こいつは何も変わっていないな。いいよ、こっちで全部面倒を見るからさ」


「え!? いいの?」


「一応、お前も女だ。下手にうろつかれて何かあったら困るからな。予備の武具や食料にも余裕はあるから、一人や二人増えたって問題ないよ」


「やったー! ありがとー!」


「ありがとう、アンシュラオンさん! お言葉に甘えちゃうわね」


「ユキネさん、アンシュラオン君が優しいからって、あまりたからないでね」


「はーい、ごめんなさーい♪」


「………」



 最初からアンシュラオンの甘い発言を期待していたであろう反応に、マキがちくりと釘を刺すが、注意を受けてもユキネは飄々とした態度だった。


 それにまた若干マキがイラっとする。



(真面目な元公務員と旅一座の芸人じゃ、育った環境がまったく違うからな。考え方も違うだろうし、これからもいろいろとありそうだよ。でも、一緒に戦ううちに仲良くなることもあるはずだ。何よりも強い武人同士ならば嫌でもわかり合えるさ)



「それにしてもユキネさんは、こうして装備を整えると印象が変わるね。凄腕の傭兵みたいだ。風格があるよ」


「ありがとう。そんなこと言われたらがんばっちゃうわ」


「実際にお姉ちゃんは有名人だもんね。ハローワークから表彰されたこともあるんだよ」


「そうなの?」


「たまたま襲われていた大きめの商隊を助けただけよ。ホワイトハンターのアンシュラオンさんと比べたら本当にたいしたことはないのよ。でも、まさかあなたがホワイトハンターだったなんて、ますます好きになっちゃう」


「知らなかったんだ。てっきり浜辺で出会った時には知っているのかと思ったよ」


「参加申請に行った時に聞いたの。やっぱり私の目に狂いはなかったんだって嬉しかったわ」


「座長と揉めてるって聞いたけど?」


「ああ、それね。最初は普通に話していたんだけど、アンシュラオンさんに妻が三人いるって話したら少し揉めちゃってね」


「そうそう、そんなやつのところに金で売れるかって、お父さんが怒っちゃったんだー」


「うーん、改めて自分を客観的に見ると、そう思われても仕方ないかなとは思うけどね。普通の感性なら、そっちが正しいよ」


「アンシュラオンさんは普通じゃないからいいのよ。で、昨日まで揉めていて合流が遅くなってしまったの」


「二人とも、このまま作戦に参加するってことでいいんだよね? 座長さんは了承しているの? それとも飛び出してきちゃった?」


「私はこの作戦に参加するわ。そして、ちゃんと結果を出す。それが座長と交わした約束なのよ。自分の意地で抜けるなら自分で稼いだお金でやってみろと言われたの」


「なかなかしっかりした人みたいだけど、この作戦自体がけっこう危ないからなぁ。賭けとしては怖いね」


「そこはアンシュラオンさんがいるおかげだと思うわ。座長もハローワークであなたのことを聞いて驚いていたもの。あのガイゾック様に勝つなんて誰だって驚くわよ」


「まあ、どっちにしてもこれが終わったら一度挨拶に行くよ。そこではっきり白黒決めよう」


「ええ、そうしてくれると助かるわ」


「あのー、私は特に何も言われなかったけど…」


「誰もアイラには期待していないってことだ。まずは死なないように気をつけろ。いや、その前に服を着ろ。ホロロさん、お願いね」


「かしこまりました」


「うう…暑いから嫌なんだよねー」


「我慢なさい。あなたもご主人様の隊に入るのならば、それなりの品性が必要ですよ。はい、尻は振らない」


「あいたー! また叩かれたー!」



 ホロロに服を着せられて、ようやく普通に見られるようになる。


 そして、こうやって気を遣うことには理由があった。



(防寒対策という意味合いもあるが、アイラなんて完全に性的な意味でも無防備だ。オレから見て魅力はなくても、飢えた男からすれば極上の獲物になる。そういう意識を植えつけることから始めないとな)



 アンシュラオンの周囲だからこそ女性が多いが、傭兵・ハンター混成部隊の大半は男だ。女性など1%にも満たない。


 作戦は最低でも三ヶ月はかかるので、それだけの間、男は性的欲求を抑圧しなくてはならないのだ。


 参加している者全員が善人ではない。むしろ半分以上は金が目的の人間だ。


 グランハムは不正を許さないと言っていたが、女性が襲われてからでは遅い。アイラとユキネを保護したことも、それが最大の理由である。



(あっちにいる彼女たちも本当は保護したいんだけど、そんなことを言ったら怒るよな。少しずつ様子を見てからにしよう)



 アンシュラオンの優れた視力は、かなり後方を歩いている二人の女傭兵にも向けられていた。サリータとベ・ヴェルである。


 それ以外にも多少ながら女性傭兵はいるが、アズ・アクスでの会話からもわかるように、傭兵の中で女性がやっていくのは思っているより大変に違いない。


 ここでまた余計なお節介をすれば、関係がさらに悪くなってしまうだろう。


 こうしてアイラとユキネの二人を新たに加えたアンシュラオン一行は、住人の大きな拍手で見送られながら、第三陣としてハピ・クジュネを旅立つのであった。




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