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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
230/618

230話 「炬乃未の想い その1『サナの武具』」


 作戦開始、五日前。


 この日、炬乃未このみに呼ばれてアズ・アクス工房までやってきた。


 ついに頼んでいた武具が完成したのだ。



(思えばハピ・クジュネに来たのは、これが目的だった。アズ・アクスに関してはまだまだ問題が残っているけど、ひとまず素直に嬉しいな)



「いらっしゃい。裏に行きましょう。炬乃未が待っているわ」



 アンシュラオンたちが店に入ると里火子りほこが出迎え、工場の裏手にある大きなスペースに通される。


 ここはバランバランにもあったような実際に武器を試す場所で、周囲をパーティションで覆っており、周りから見えないようになっていた。


 特注武具の大半はカスタマイズされていて、武器の形状からもさまざまな情報が得られてしまう。武人が能力を隠すように、特殊なものはあまり他人に見せないほうがよいだろう。


 このパーティションにも術式阻害ジュエルが付いており、透視や追跡といった術式を妨害できるようになっている。



「本日は遠いところ、御足労いただき誠にありがとうございます」



 そこで炬乃未が待っていた。


 最初に出会った頃とは違う、意思がはっきりした顔つきだ。



「お招きありがとう。でも、そんなに畏まらなくてもいいよ。オレと炬乃未さんの仲じゃないか」


「いいえ、ライザック様と話をつけていただいた御恩は、簡単に返せるものではございません。わたくしだけでは到底不可能なことでした」


「君の家族は無事助け出してみせる。任せておいて」


「…よろしくお願いいたします」


「そんなに心配しないでよ。君も力を貸してくれている。オレたちの力が合わされば何でもできるさ」


「アンシュラオンさん…ありがとうございます」



(たぶん炬乃未さんは何も知らないんだろうな。単純に家族を心配しているだけなんだ。オレの役目は、こういう人を謀略から守ることだ。こんなに心が綺麗な女性が哀しむような結果にはさせない。絶対にだ)



 アンシュラオンにとっての最優先は、炬乃未の笑顔である。


 すでにグランハムにも金より女性のほうが大事と伝えているので、場合によってはディムレガンの安全を優先するつもりだ。


 そこに迷いは一切ない。それもまたアンシュラオンの流儀である。



「さっそく見せてほしいんだけど、いいかな? もう待ちきれなくてさ! ずっとワクワクしているんだ!」


「かしこまりました」



 炬乃未が緊張した様子で大きなつづらを持ってくる。


 そんな娘に母親の里火子が声をかけた。



「大丈夫よ。自分を信じなさい。私から見ても合格点を超えて、今までで一番の出来だもの。お父さんが見たらびっくりするわね」


「お母さん…」


「誰かのために本気で打ったものが、悪いわけがないの。さぁ、アズ・アクスの本気を見せてあげなさい!!」



 その言葉で震えていた手が止まる。


 そして、つづらを開けると、そこには輝かんばかりの光を放つ武具が産声を上げていた。



「まずは、サナさんのために作ったものをお渡しいたします。こちらが補助具の『剛腕膂将ごうわんりょしょうの篭手』となります」



 最初に取り出したのは、右腕をすっぽり覆ってしまうほどの篭手である。


 篭手というと、ガントレットのようなゴツイものを想像するかもしれないが、どちらかというと女性が日焼け対策で使うロングのアームカバーに近いデザインだった。



「この補助具は、アンシュラオンさんが回収した右腕猿将の右腕を利用したもので、内部には筋組織と神経を使い、外部には強靭な体毛を移植しております。甲の部分の金属はわたくしが打ったもので、その中には右腕猿将のジュエルが格納されておりまして、装備した者の腕力を劇的に引き上げることができます」


「これがあの猿の右腕? かなりお洒落じゃないか。まるで別物だ」


「外皮の加工は母の仕事でして、見た目にもこだわってもらいました。サナさんが成長しても使えるように伸縮性も考慮に入れてありますから、腕の動きを阻害することはないはずです」


「そいつはすごい! サナ、ちょっと装備してごらん」


「…こくり!」



 さっそくサナの右腕にはめてみる。


 肩口まである大きな革の手袋を身に付ける感覚であろうか。最初は違和感があるが、慣れれば装備していることを忘れるくらいフィットする。


 脇に擦れても大丈夫なように内側にも毛が移植されており、摩擦を軽減してくれる心遣いもありがたい。このあたりの配慮もさすがあった。



「これは装備した瞬間から能力が発動するの?」


「装備者が意識を集中させた時だけ効果が発揮されます。ただし、攻撃や防御の際には誰もが無意識に腕に信号を送っておりますので、装備している間は自動的に切り替えが行われます」


「そのまま普通に戦えばいいってことか。さっそく試してみよう! ほら、オレの手を殴ってごらん」


「…こくり。…ぐっ!」



 サナがぐっと腕を引き絞り、アンシュラオンの手をぶっ叩く。


 いつもならば、ぽすんと空気が抜ける音がして止まるが、今回はぐぐっと受けた手が押された。



「へぇ、こいつはすごいや。明らかにパワーアップしているね。ただ、みんなにはちょっと効果がわかりにくいかな? マキさん、代わりに受けてもらえるかな?」


「わかったわ。サナちゃん、いつでもいいわよ。思いきり殴ってちょうだい」


「…こくり」



 アンシュラオンを基準とすると、すべてのものが弱く見えてしまう。


 そのため再度マキに拳を放つと―――ドゴン!



「っ…!」



 サナの拳を受けたマキの表情が変わり、瞬時に足を踏ん張って防御の態勢。


 直後、後方に吹き飛ばされて、床が焦げる臭いが漂ってきた。


 驚いたマキが攻撃を受けた自身の篭手を見ると、そこにはくっきりと打撃痕が残っている。


 今までのサナならば絶対にありえないことだ。



「このパワー…下手をしたら私と互角かも」


「サナはまだまだ体術が未熟だから、達人のマキさんのほうが何倍も上かな。でも、ただ装備するだけでこの腕力が得られるのは大きいよね」


「ええ、単純に腕力が上がるだけでも、すべての攻撃力が倍増するもの。しかも、この腕力で剣を振るのよね? 考えるだけで怖ろしいわ」



 マキが思わず冷や汗を流すレベルの出来だ。おそらく攻撃の値だけでも二段階は向上しているだろう。


 これによってサナの非力さの改善が見込まれ、強敵相手にもダメージを与えられる可能性が高まった。



「唯一の注意点としましては、ジュエルの力を使い切ってしまうと再充填する時間が必要になることです。魔力珠からエネルギーを供給することで回復を促せますので、翠清山に行かれる前にいくつか用意されるとよろしいでしょう」


「アル先生が使っていたやつだね。わかった。準備しておくよ」


「仮にエネルギーが切れても優れた防具であることには変わりませんので、そのままご使用いただくことも可能です。では、次はこちらを」



 続いて炬乃未が取り出してきたのは、またもや篭手だった。


 ただし、こちらはしっかりとした金属製の篭手である。



「反対側の左手には、この『護了黒洲ごりょうこくすの篭手』をお付けください。こちらは防御に特化しておりまして、篭手自体もそこらの攻撃ではびくともしませんし、微量ながら周囲に障壁を展開して防御力を向上させます」


「これも便利だ。右腕に頼ると、どうしても防御が疎かになるからね。よく考えられているよ」


「ありがとうございます。こちらも同様に魔力珠をセットすることで長時間の使用が可能となります」



 サナは両手に武器を持つことが多いため、盾が装備できない。通常の半分以下の小さな盾もあるが、あれも武器の取り回しが悪くなるので向いていないのだ。


 そのため単純に強固な篭手の存在は地味にありがたい。相手の攻撃を躊躇うことなく受けることができるため、そのまま反撃が可能になる利点がある。


 次に炬乃未が取り出したのは、脇差だ。



「こちらは脇差の『黒兵裟刀こくひょうさとう』です。黒千代とセットでお使いください」


「これはいい刀だね。剣気の伝導率がすごい」


「黒千代ほどの攻撃力はございませんが、質の良い鉱石を使っておりまして、さまざまな場面で安定した力を出せるように調整しております。特に今おっしゃったように剣気の伝導率にもっとも力を入れておりますので、サナさんが成長なさった暁には必ずや力になることでしょう」


「サナ、持ってごらん」


「…こくり。ぐっ。ぶんぶんっ」


「長さもちょうどいいね。切れ味も試したいな」


「こちらに『試し切り用の剣』をご用意しました。今現在、アズ・アクスにいる人間の鍛冶師が打った自信作です。遠慮なくお試しくださいませ」


「剣と剣か。これは面白い。サナ、やってごらん」


「…こくり」



 サナが固定されている剣に黒兵裟刀を叩きつけると―――シュパッ


 激突する金属音すら鳴らず、まるで木刀を切ったようにスパッと刀身が真っ二つになった。


 いくら『剛腕膂将ごうわんりょしょうの篭手』を装備しているとはいえ、素の剣の質が違いすぎた。


 それを見た里火子が笑っていたので、おそらくこの剣を持ち出したのは彼女だと思われる。ディムレガンと人間の鍛冶師の格の違いを見せつけるのが目的だったのだろう。


 そして、現に見せつけられた。



(里火子さんもディムレガンとしてのプライドが高いんだなぁ。怒らせないようにしないと。それにしても、やはり鍛冶師としてのレベルが違いすぎる。どんな事情があっても、ディムレガンの鍛冶師は絶対に保護しないと駄目だな)



「では、最後にこちらをお持ちください」



 炬乃未が取り出したのは、黒い陣羽織であった。



「『黒仙陣羽織こくせんじんばおり』です。胸や各部位のプレートの金属はわたくしが担当し、羽織の部分は母の能力である『金属熱糸きんぞくねっし』で縫ったものですので、軽いうえに見た目以上の防御性能を誇っております。そうですね…実際に見ていただいたほうがよろしいでしょう。お母さん、お願い」


「ええ、任せておいて」



 あらかじめ透明の箱の中に用意していた全身鎧に、里火子が大型銃をぶっ放す。


 ロリコンに渡したような対魔獣用の強力なものだ。それを受けて全身鎧の胸部が凹んでしまった。



「このようにフルプレートでも、至近距離から大型銃の攻撃を受けると損傷します。しかしながら、この陣羽織は―――」



 陣羽織を設置して再度里火子が銃で撃つ。


 が、羽織部分に当たった銃弾は衝撃が吸収され、はらりと地面に落ちてしまった。


 今度は金属部分に向かって銃を撃つが、こちらも弾をいとも簡単に弾きつつ、傷一つ付いていない。



「ごらんの通り、金属糸の部分は衝撃そのものを吸収しますし、金属部分も極めて頑丈です。金属自体に柔軟性があり、多少傷ついたり損傷しても自動的に修復する能力もあります。長期戦となる山では必ず役立つでしょう」


「すごい! これはすごいよ、炬乃未さん! きっとサナの命を守ってくれるはずだ! こういうのが欲しかったんだ!!」


「は、はい…アンシュラオンさんとサナさん、お二人のことを想いながら…作らせていただきました」



 アンシュラオンが炬乃未の手を握ると、熱いと思えるくらいの熱量が宿っていた。


 もう彼女の手が凍りつくことはないだろう。彼女は自分の生き方を見つけたのだ。



「サナさんの戦闘スタイルも見せていただいたので、銃を取り出しても邪魔にならないようにしています。小物を入れられるポケットも多数用意しました。あとで確認をお願いいたします」



(炬乃未さんはすごい。サナに足りないものを的確に見抜いたうえで設計している。だからこんなにも生命が息づいているんだ。『ものづくり』ってのは、こうじゃないとな!)



 元日本人だからこそ、真剣に物を作る大切さと難しさを知っている。


 ただ技術があるだけでは駄目だ。ただ集中するだけでは駄目だ。


 相手を想い、実際に何が必要で、何を求めているのかをシンクロするほどに考え抜いて、それでようやくたどり着ける境地がある。


 炬乃未は間違いなく鍛冶師として一流であり、なおかつ現在進行形で進化していることがわかるだろう。




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