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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
222/618

222話 「綱引き その3『海の男、ガイゾック!』」


 アンシュラオンの拳が炸裂。


 しかも闘気をまとっているので、通常の戦気よりも濃縮されており、攻撃力も跳ね上がっている。


 こんなものを受けたら、マキでも即死は免れない強力な一撃だろう。


 ゼブラエスと戦うときは『物理無効』スキルがあるため、最低でも闘気以上の力を練らないと攻撃が通らない。アンシュラオンにとっても闘気での攻撃は一般的なものだった。



「いいねぇ…!! ドスンときたぁああああ!! 腹がいてぇええええーーーーぞおおおーーー! こんなすごいパンチは初めてだぁああああ!!」



 がしかし、ガイゾックも左手の縄を引っ張って、再び地面に降り立つ。


 その腹は赤くなっていたが、破裂することも断裂することもない。


 それどころか腹をパンパンと叩き、大笑い。



「はははは!! こいつは燃えてきたぜ!」



 ガイゾックの身体から、さらに強大な『闘気』が噴き上がる。


 それによって一気に室温が上昇!


 サウナのような強烈な熱気によって会場内が蒸し風呂になる。人々からも大量の汗が噴き出し、水蒸気が舞い上がる。


 闘気の波動は、それ単体で敵を滅するだけの力がある。余波を防ぐだけで、スザクたちが四苦八苦しているほどの圧力だ。



(この男、強いな。オレの闘気拳を受けきったぞ。この感覚、どうやらオレと【同レベルの戦士因子】を持っているらしい)



 『情報公開』を使わずとも、同じ戦士だからこそわかる。


 因子同士が共鳴し、互いの戦気から実力が嫌でも伝わってくるのだ。



 ガイゾックの戦士因子は―――『8』



 アンシュラオンと同レベル帯の戦士である。


 ちなみにスザクの戦士因子の覚醒限界が『7』、ライザックが『6』、ハイザクが『8』となっている。(ライザックはその分だけ剣士因子が高い)


 家族そろって化け物ぞろいだが、きっかり最初から限界値まで鍛えているのはガイゾックだけだ。


 彼は因子を技ではなく戦気の増強と身体能力強化に使っているからこそ、こうやって打ち合えるのだ。



「よほどの修羅場を潜っているな、ガイゾック! あんたは強い!」


「あたぼうよ!! こちとら毎日、命張って海に出てんだ! よっしゃ、次は俺様の番だぜ! 次は顔面に当ててやる! 覚悟しろ!」


「ルールがわかったからには、簡単に直撃できると思うなよ!」



 ガイゾックが荒縄を引っ張るが、アンシュラオンもゼブラエス仕込みのパワーで対抗する。


 引き合いで負けなければ、戦闘技術はこちらのほうが上だ。打ち負けることはない。



「たしかにお前は強ぇ! だが、ロープの扱い方は海賊のほうが上だぁぁああ!」


「っ―――!」



 パワーで押さえていたところに、ガイゾックが突然縄を緩めてフェイント。


 アンシュラオンの体勢が崩れると、その瞬間に一気に引き寄せる。


 これは魚を釣り上げるテクニックの一つだ。


 子供の頃から沖に出て、何十メートルもある魚型魔獣を釣っていたガイゾックにとっては、ごくごく当たり前の技術でもあった。



「ほーらよ! さっさと来い! 抱き寄せてやるぞ!」


「気持ち悪いことを言うなよ! 誰がおっさんのところに行くか!」


「がははは! 嫌でも来てもらうぜ! 海の大渦を味わえ!」



 アンシュラオンもすぐに対応して防御姿勢に入るが、ガイゾックが足を地面に叩きつけると『闘気の渦』が生まれた。


 覇王技、『渦旋闘気流かせんとうきりゅう』。


 『闘気波動』を制御して渦を生み出し、相手を巻き込んで攻撃する因子レベル4の技だ。


 本来は直接相手を巻き込むが、今回はフラッグファイトなので足場を破壊することに使ったのである。



「足場への妨害はありかよ! ルール説明がずさんだろう!」


「がははは! すまねぇな! 説明は苦手なんだ! 身体で覚えろ!」



 アンシュラオンは足に命気を展開することでダメージは負わないものの、足場が安定しないことで引っ張られ、そこに再び全力パンチ!!


 真上から叩きつけられた大きな拳が、ガードすら打ち破って、宣言通りに顔面に直撃。


 ビシシッと頭蓋骨に亀裂が入った音が響く。



「嘘!! アンシュラオン君の骨にヒビを入れたの!? 私が全力で殴っても、びくともしないのに!」



 実際にアンシュラオンと戦っているマキだからこそ、その凄さがわかる。


 ガイゾックのパワーは完全にマキの攻撃力を凌駕していた。その体躯もそうだが、拳の強さ、溢れ出る闘気の圧力は尋常ではない。


 これがガイゾック。


 幾多の外敵からハピ・クジュネを何十年も守り続けてきた海賊の頭領である。



「どうだ、俺様のグレートパンチはよ! いてぇだろう!」


「…いいね。ガツンときた。本気で一瞬視界が真っ暗になったよ」



 だが、頭から出血し、頭蓋骨に亀裂が入ったアンシュラオンは、何事もなかったかのように笑う。


 むしろ嬉々として、この勝負を楽しみ始めていた。



「下界に来てから、こんな重い一撃を受けたのは剣士のおっさん以来、二回目だ。あんた、デアンカ・ギースよりいいパンチをしているよ」


「当然だ!! 旗をかけている男は強ぇからな!! 背負っているもんが違う!!」


「…熱い…熱いよ!! 想いを背負っているやつは本当に強い!」


「そろそろ本気を出してこい。安心しろ。縄は切れやしねぇ。俺とお前の魂が支えているからな!!」



 戦士因子8同士の武人が引っ張るのだから、こんな縄など簡単に切れそうに思えるが、互いの戦気が絡み合って強化されているため、むしろこの場で一番頑丈なものになっている。


 もし縄が切れても、どちらかが気合を入れ損ねたことが原因なので、それによっても勝敗が決まる。



「はは…はははは! 本当にガチムチの戦いなんだな! いいよ、本気でやろう!! あんたはオレに相応しい相手だ!」



 アンシュラオンも戦気を解放。


 低出力モードが解除され、体表から白く輝く戦気が噴き出す!


 建物が揺れ、地面が唸りを上げる。


 暴風が吹き荒れて壁の塗装が剥がれ、内部が削れるほどの圧力が襲う。


 誰もが飛ばされないように足を踏ん張るだけで精一杯だ。


 だが、それは当然。


 この勝負は、前のめりでないと見ることは許されない!!!


 歯を食いしばれ! 足を踏みしめろ! 一秒たりとも見逃すな!



「ガイゾック、死ぬなよ!」


「それはこっちの台詞だぜ。ばっちこーーーい!」


「ならば遠慮なく! 全力でいくぞ!!」



 アンシュラオンは縄を引っ張るが、ただ引っ張るのではない。


 ガイゾックと同じようにフェイントを仕掛けて相手の体勢を崩してから、拳を腹に叩き込む!!


 その際にも縄をがっしり固定して、衝撃がもっとも伝わるように工夫。


 激しい閃光とともに、本当のアンシュラオンの全力の拳が炸裂!!


 突き抜けた衝撃だけで、ガイゾックの背後の壁が吹き飛び、空が見えた。



「ごぶっ…的確に急所を抉りやがる…な!」


「師匠に教わった拳さ! 生物を殺すためだけに鍛えられた力だ!」



 ガイゾックが吐血。


 一発目と同じ箇所を寸分違わず狙ったため、さすがに闘気をまとった腹筋でも一部断裂。内臓にまでダメージが通った。



「拳ってのは、ただ殺すための力じゃねえ。アンシュラオン、お前の拳には想いがある! 気持ちが乗っている! 俺様と同じく闘争が好きな大馬鹿野郎の拳だぁあああああ!」



 だが、倒れない。


 倒れない。倒れない。倒れ―――ない!!


 ガイゾックは、倒れない!!



「これなら遠慮はいらねぇな! とびっきりのをくれてやるぜええええ!」



 ガイゾックも全力の練気で右手に闘気を集める。


 集めて集めて集めて、たっぷり時間をかけてアンシュラオンと同等の力を生み出す。


 普通の戦闘ならば、こんなに悠長に溜める暇はないが、フラッグファイトのルールであれば極限まで力を高める時間がある。


 それはまるで、真っ赤なマグマが腕に巻きついたような、海底火山の―――噴火!!



「どらっしゃああああああああ!」



 ガイゾックの拳が地面を抉りながら低空で迫り、アンシュラオンの腹を、ぶっ叩く!!



「ぐっ―――はっ!!」



 アンシュラオンの防御を貫いて、身体中を闘気が駆け巡る。


 武術服の腹部が弾け飛び、腹に真っ赤な拳の跡が刻まれた。ミシミシと筋肉と骨が軋む音が聴こえる。


 その威力を証明するように、さきほどの一撃同様、アンシュラオンの遠く背後にあった壁が吹き飛び、貫通して外が見えた。



「外の連中を退避させろ!! 誰も近寄らせるな!」



 シンテツの怒号が響くが、この熱量の中でどれだけ伝わったかはわからない。


 今、世界の中心は、まさにこの二人であるからだ。



「がはは!! いいのが入ったな!!」


「あーー! 目が覚める!! いいぞ、いいぞ、ガイゾック!! 今のはよかった!!」


「なんだ、まともに入ったと思ったら、わざとくらったのか! お前もフラッグファイトの良さがわかってきたようだな! その痛みも苦しみも悦びになる! それが闘争だ!」


「あんたがどうしてこの勝負を選んだのか、その理由がわかったよ。だったら真正面から受けてやらないと面白くない!」


「そうか! そうかそうか!! お前、いい男だな!!」


「あんたも―――ねっ!!」



 アンシュラオンが、今度は縄を引っ張らずに前進。


 一気に間合いに入り込むと、跳躍してガイゾックの顎に一発!!


 首の筋肉がギチギチと伸びるも、なんとか耐えることに成功。


 が、食いしばった歯がバキッと一本折れた。


 普通ならば頭ごと消し飛んでいるはずなので、逆に歯一本だけで済むほうがおかしいともいえる。さすが因子レベル8の戦士である。



「…ぺっ。ますますイケメンになっちまったぜ! ありがとうよ!」


「べつに縄を使わなくてもいいんだよね?」


「がはは! 気づいたか! 普通のやつは名前に惑わされて、絶対に縄を使わないといけないと思い込むもんだ。それと比べて、お前は柔軟な発想力を持っているようだ―――なっ!」


「あっ!」



 今度はガイゾックが縄を使って、アンシュラオンの右手を巻き取って拘束。


 その間に捕まえてからの―――頭突き!!


 ドゴーーーンッ! と凄まじい音が響き渡り、アンシュラオンが地面に埋まる。



「いってー! なんだよ、その石頭は!!」


「いってー!!」


「いやいや、そっちが痛がるのはおかしいだろう?」


「お前は身体が硬すぎるんだよ!! 何で出来てやがる! 人間っつーか、魔獣みたいな骨と筋肉をしてやがるな! 因子の質もやべぇ! まるで高純度の極上のウォッカだぜ! 洗練されすぎていて怖くなる!」


「顔も名前も知らない母親からもらったもんだ。どうだ、羨ましいだろう?」



 たしかに両者の戦士因子は8同士。同格に思える。


 がしかし、アンシュラオンの因子は、完璧に淀みなく覚醒している最上級のクオリティなので、雑味が混じっているガイゾックを数段上回っていた。


 その段階で出力に差が出るうえ、肉体もパミエルキと同じ規格だ。体細胞そのものが常人とは異なっている。


 鋼鉄のように硬く、時には軟体であり、そうでありながらゴムのようにしなやかで、力を出す時には凝縮して質量が何十倍にもなる。


 だからこそ、この体格差を物ともしないのだ。



「ちっ、お前みたいなやつを相手に普通にやっていられるか! こんなもん、いらね!! 見づらいだけだ!」



 ガイゾックが自ら眼帯を取るが、そこには普通に左目があった。



「なんだよ、『伊達眼帯』じゃん」


「何事も見た目が大事なのさ! 眼帯をしていたほうが海賊っぽいだろう?」


「その格好全部がパフォーマンスか。そのあたりが、どうにもいいかげんなんだよなぁ」


「領主ともなれば、そういうものが必要なんだよ。だが、ここからはガチの殴り合いだ!! 男と男、旗と旗をかけた真剣勝負だぜ!!



 邪魔な上着も脱ぎ捨て、ハイザクと同じムッキムキの頑強な身体が露わになる。


 まだ齢五十を過ぎたあたりの身体は脂が乗っていて、まさに武人として全盛期といった様相だ。



「うおおおおお! 燃えろ! 俺様の海賊魂!!」



 細胞全部に闘気が満ち溢れ、全身が炉に入ったように真っ赤に染まる!


 ぶしゅーぶしゅーと蒸気を発している姿は、まさに蒸気機関車を彷彿させた。



「これからが本番だ! フラッグファイトの真髄を味わえ!!」


「つーか、次はオレの番だからな!! おらっ!」


「ぐぼっ…! お、お前、まだ準備中だろうが…!」


「油断しているほうが悪いのさ!」


「今度は俺様の全力パンチをくらええええええ!」


「さっきからずっと全力って言ってばかりじゃないか。どれが全力なんだよ!」


「うっせーーーー! どらっしゃーーー!」


「ぐぶっ…てめっ…オレの綺麗な顔ばかり狙いやがって!!」


「お前の背が低すぎるんだよ。顔面が一番殴りやすい!」


「このやろっ!!」


「ぐえっ…金的はやめろ!」



 アンシュラオンとガイゾックが激しい殴り合いを演じる。(一部卑劣な攻撃もある)


 その一発一発が炸裂するたびに、衝撃が建物を駆け巡り、壁に穴があき、亀裂が入って溶解していく。


 まさに灼熱の熱風。


 それだけ互いの旗にかける情熱が凄まじいのだ。




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