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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
221/619

221話 「綱引き その2『覇の旗を掲げろ! 荒縄フラッグファイトだぁあああああ!』」


「フラッグファイトをやる!! てめぇら、覚悟はいいかぁあああああああああああ!!」


「フラッグファイト!? まさかガイゾック様が!?」


「いったい何年ぶりだ!? ライザック様とやった以来か!?」


「これは一大事だ! 早く準備をしろ!」



 ガイゾックの声を受けて、第一海軍の海兵たちが慌しく動いている。


 しかし、一番困惑しているのは、当のアンシュラオンである。



「フラッグファイト? 何それ?」


「互いの『旗』をかけた本気の決闘だ。面白いぜ!」


「全然説明になってないじゃん」


「考えるな! 感じろ! やればわかる!!」


「ライザック以上に強引なやつだな。でも、どうせ断っても追いかけてくるんでしょ?」


「当然だ! 受けたからには、最後までやってもらう!」



(オレの力を試すつもりか? わざわざこんな勝負を仕掛けるんだ。ガイゾックにも何か考えがあるんだろう。どうせあの状況のままだと答えは出ないだろうし、乗ってみるのもいいか。領主のお手並み拝見といこう)



「いいよ。領主自らが挑む戦いだ。他人をけしかける領主より、よっぽど好感が持てる」


「それでこそ武人だ!! おい、準備はできたか!!」


「はっ!」



 海兵たちが、大量の海賊の旗を持ってきた。


 よく式典で旗手が持つような大きなサイズの公式エンブレムが、ずらっと並ぶ。


 こうしてドクロが並ぶ光景は圧巻だ。改めてここが海賊の本拠地であることを思い知る。



「俺様は当然、海賊の旗をかける! お前の旗は何だ?」


「旗なんて言われてもな。そんなものはないよ」


「旗は『象徴』だ。自分がもっとも大事にするもんが形になったものだ。男ならば誰だって自慢の旗を掲げているもんさ! そうだろう!!」



 ガイゾックが右手を大きく上げる。


 そこには何もない。ただ手があるだけだ。


 しかし―――



「俺様の人生が、旗になる!!」



 ガイゾックから溢れ出る『何か』。


 想いや気迫、感情や情緒といったものが周囲の神の粒子と反応し、旗の形を生み出す。


 そこには【海】が見えた。


 ガイゾックが幼い頃に遊んだ海。冒険と称して自作した船で駆け巡り、時には波や渦、大嵐に見舞われて沈んだ記憶。


 それでも何度でも挑み、挑み続け、感動や畏敬の念にまで昇華された気持ちが溢れて、【愛】に至る!!



「俺様が海にかける情熱!! 『海の女神様』を崇拝する気持ちが、すべてここに宿っている!! 飲む酒、食う魚、抱く女、一緒に海を駆ける仲間たち!! どうだ、見えるか!! 俺様の愛が見えるかああああああああああああああああ!!」



 旗を突き立てると、凄まじい気迫が会場全体を津波のように呑み込む。


 その瞬間、誰もがガイゾックの人生を鮮烈に追体験した。



「うう…ガイゾック様! あの時のことは忘れておりませんぞ!」


「あなたに誘われて一緒に馬鹿をやって、共に戦場で戦った日々はいまだにこの胸の中に!」


「これだ! これがガイゾック様だ!! 俺たちのおかしらだぁああああ!!」



 第一海軍の海兵たちが涙を流す。


 同じ酒を飲み、同じ魚を食らい、一緒に海という戦場で戦った記憶が、彼らを旗の下に導くのである。


 旗とは人生そのもの。男が生きた証。愛の記憶なのだ。



「さぁ、アンシュラオン! お前の旗は何だ!! 譲れないもんを見せてみろ!!」



(オレの旗…か)



 真っ先に思い浮かぶのは愛するサナや妻たちだが、ガイゾックが言っているものとは少し違う気がする。


 男だけにしか伝わらない大馬鹿の世界、その根源たるものを見せてみろと言っているのだ。


 であれば、背負うものが一つだけある。



(オレも『武』にはこだわりがある。それがこの世界での人生のすべてだったからだ。姉ちゃんには勝てない。ゼブ兄にも敵わない。師匠にも足元にも及ばない。だが、その三人以外に負けるつもりは―――ない!!)



 アンシュラオンから、いつもとは違う強い気迫が漲る。


 損得勘定をしている時のように打算的でもなく、面倒くさいと思う自堕落な気持ちでもなく、本当にただ一つだけ、自分の中にはっきりと存在している『塊』がある。


 それこそ、あの身内の人類最強三人組によって培われた【武】だ。


 アンシュラオンが手を上げると、掌に想いが集まっていく。


 海にも負けない巨大な山々で過ごした日々。闘争しかなく、ただ闘うことしか存在せず、幾千万の魔獣とひたすら闘い続けた人生。


 しかし、そこには【愛】があった。


 姉の異様に重い愛、ゼブラエスの兄弟愛、陽禅公の師弟愛。


 それらの愛が形になり―――旗となる!!




「オレが背負うのは【覇の旗】だ! これだけは譲れない!」




 パミエルキもゼブラエスも陽禅公を慕って修行を続けていた。あんな師匠でも人々の憧れであり、希望だ。


 そして、その陽禅公にも憧れているものがあった。その前の覇王であり、ハウリング・ジルのようなもっと前の覇王であり、それらは武そのものに捧げられる熱い憧憬。


 アンシュラオンも武に人生を捧げた以上、目指すべきは覇!


 その武への愛の波動が集まって『覇王』の旗を生み出したのだ。



「オレが負けたら姉ちゃんにどやされる。ゼブ兄にしごかれる。師匠に笑われる。あの地獄の日々が意味のないものだったとは言わせない! ガイゾック、オレの旗は安くはないぞ!」



 アンシュラオンが覇の旗を突き立てると、ガイゾックの海以上の衝撃が会場全体に吹き荒れた。


 低レベルの者は、いきなり雲すら越える上空に放り出されたような浮遊感に襲われ、レベルの高い者はあまりの濃縮された闘争心に畏怖する。


 それと同時に、ワクワクする。


 まだ世の中には、こんな世界が残っていたのか!!


 俺たちが目指す場所は、まだまだ先にある!!


 同じことの繰り返しの人生に飽きていた者、慎ましく生きるしかなく我慢していた者、高みを望んでも届かず絶望していた者たちが、希望を与える輝きで満たされる。



「アンシュラオン君…! これがあなたが見ている世界なのね! なんて深くて大きい!」


「やべぇ…兄弟、こいつはすげぇ!! こ、怖くすらあるぜ!!」


「…はっ…はっ!!」



 マキやゲイル、サナもその波動に感化されて胸がドキドキする。


 これが旗! 旗の力だ!!


 巨大な海と山が対峙する光景に、場は席巻されていた。



「いい風だ!! ビリビリきやがる!! 見える、見えるぞ! お前の背後にある旗がな! こいつはとんでもねぇ! 久しぶりに熱くなってきたぜ!!」


「父さん、いったいどういうつもりなんですか!?」


「口先でいくら言ったって、傭兵どもに伝わるわけがねえだろうが! はっきり見せればいいんだよ。俺らは海賊。こっちの流儀でやるぜ!」


「ぐっ…! 本気なのか! 二人の気迫が強すぎて近寄れない…!」


「スザク様、一度こうなったガイゾック様は止められません! 離れてください!」


「いくらフラッグファイトといっても、この二人が暴れたら傭兵たちも巻き込まれる! いや、建物自体が壊れる! もう滅茶苦茶だ!」


「仕方ありません、被害が出ないように我々でなんとか支えましょう! 海兵は壁を作れ!!」


「おおおおお!」



 スザクはシンテツたちと一緒になって、傭兵たちの前に人壁を作る。


 この密集状況で避難するのは難しい。パニックになってしまうため、自分たちが盾となって防ごうとしているのだ。


 しかしながら、ここから逃げ出す者などいない。


 溢れ出る二人の背後に浮かび上がる『旗』を見て、いったい誰が逃げるというのか!!


 誰もが夢中になって二人に魅入る。


 そして、自らも前のめりになって壁を作り、『リングのロープ』を生み出す。



「ははは! ここにいる連中は、よくわかってやがる!! いいか、フラッグファイトのルールは簡単だ! 交互に全力で殴りあう! それだけだ!!」



○フラッグファイトのルール


1、お互いに旗を出し、大地に掲げること(概念的な波動でよい)

2、お互いの攻撃を避けてはならない(防御行動は可能)

3、攻撃は交互に順番に行うこと

4、勝負はどちらか一方が負けを認めるか、戦闘不能になるまで継続される。(殺してもかまわない)



 これが通常の一騎討ちとはだいぶ異なる『フラッグファイト』のルールになる。


 フラッグファイトとは、文字通り【旗】をかけた戦いであり、古来から伝わる武人の『決闘作法』の一つだ。


 一方が旗を生み出して勝負をもちかけ、相手がそれに応じて旗を生み出せば、条件が整って勝負が成立する。


 簡単にいえば殴り合い。お互いの意地をぶつけあって、お互いが倒れるまで続ける果し合い。


 相手が性質の違う剣士や戦士であっても同じ条件となる。参加条件が「武人であること」だけだからだ。



「発想がガチムチすぎるだろうに。いったい誰が考えたんだ? そもそも先に殴ったほうが有利に決まっているじゃん。五目並べかよ」


「細けぇことは気にするな! そいつもフラッグファイトの魅力だ! そしてもう一つ、この『荒縄フラッグファイト』には特別ルールがある! この荒縄をけっして離すな! 離した瞬間に負けが決まる!」


「チェーン・デスマッチか。だいたいのことはわかったが…」


「じゃあ、いくぜえええええええ!!」



 ガイゾックから、燃え滾る熱い戦気が噴き上がる。


 彼の戦気は豪胆な性格通り、猛々しく、それでいてスザクのように渦が加わった『マグマ』のような性質だった。


 それはもはや戦気の域を超えて『闘気』となり、右拳に集まる。



(戦気の上位気質か。ライザック以上に激しい闘争本能を持っている証拠だ)



「というか、そっちが先行かよ! コイントスくらいしろよな!」



 という抗議も気にせず、ガイゾックが拳を振り上げる。


 だが、まだ距離があるため、どうするのかと見守っていると、左手が―――ぐいぃんっ!!


 互いの左手に巻きついている縄が引っ張られ、アンシュラオンが引き寄せられる。



(この腕力…! 足が浮く!)



 アンシュラオンのような達人は戦う際、常に足裏にも意識を向けており、戦気を使って固定したり、あるいは滑らせたりと高度な微調整を行っている。


 対象に力を伝えるためには、何よりも地面が大切だからだ。場合によっては大地を命気で固めて頑強にすることもある。


 だから、たとえ右腕猿将に引っ張られても、アンシュラオンはびくともしないだろう。



 それが―――浮く!



 床ごと破壊し、強引に引っ張られたアンシュラオンの顔面に、幅五十センチ以上はあるガイゾックの拳が激突。


 ドゴンッと力が突き抜け、直撃!!



「父さん、最初から全力じゃないか! ハイザク兄さんが全力で殴ったようなものだ! 僕なら死ぬ!!」



 スザクが驚愕するのも当然だろう。


 ガイゾックはハピ・クジュネ最強の武人である。しかもクジュネ家の血統遺伝を引き継いだ戦士タイプなので、そのすべてを身体能力強化に回している。


 そんな彼が全力で殴れば、討滅級魔獣とて一撃かもしれない。


 だが、スザクの心配をよそにガイゾックは笑う。



「どうだ、わかったか? 身体で覚えるのが一番だろう?」


「…ああ、理解したよ」



 ガイゾックの拳が離れると、そこにはアンシュラオンの右手があった。


 直撃の瞬間にガードしたのだ。


 しかしながら、その衝撃の強さによって鮮血。鼻血が垂れる。


 そして、これによって荒縄フラッグファイトの特徴が明らかになった。



「縄を持った左手は自由に使っていいってことだ―――なっ!!」



 今度はアンシュラオンが縄を持った左手を引っ張る。


 当然ながらガイゾック自身も引っ張って抵抗する。


 まさに綱引き! 互いに全力のパワーをもってぶつかる意地の張り合い!



「ガチムチはオレの範疇じゃないけど、今は付き合ってやるよ!」


「そいつは楽しみだ! だが、俺様にパワーで勝てるかな! 自慢じゃねえが、俺より力持ちは見たことがないぞ! まだまだ息子のハイザクにも負けるつもりはないからよ!」



 ガイゾックの身長は、アンシュラオンの二倍近くある。


 さらに見るからに筋肉の塊である彼の体重は、おそらくは二百キロ以上はあるだろう。アンシュラオンが四十キロ程度なので、実質的な体格差は五倍だ。


 この差は、すべてに影響を及ぼす。


 大男が小柄な小学生を殴る構図を想像してほしい。普通ならば圧倒的なパワー差が生まれるだろう。地球の競技ならば絶対に認められない階級差といえる。


 だが、この男は『覇の旗』を持つ者だ。常識は通じない。



「あんたの腕力はすごいが、ゼブ兄ほどじゃない!」



 アンシュラオンの左腕の上腕二頭筋が、強力な血流が流れるとともに、ばごんと肥大化。


 ゆったりとした武術服の上からでも、明らかに大きくなっていることがわかる。



「おおおおおおおおおおお!」


「ぬううっ!! 俺様を引きずるだと!!」



 最初は抵抗していたガイゾックも、そのパワーに負けて引きずられる。


 それも当然。あの戦うことしか頭にない筋肉馬鹿のゼブラエスと毎日戦っていたのだ。


 嫌でもパワーは身に付く!



「お返しだぁあああああああ!」



 そして、アンシュラオンも闘気をまとった拳で、ぶん殴る!


 拳はガイゾックの腹に直撃。


 ミシミシと筋肉が悲鳴を上げ、巨体が宙に浮き上がる。




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