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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
220/618

220話 「綱引き その1」


「オレを出しに使うなんて、兄弟そろっていい根性をしているよ。どうせ今日のことは全部ライザックが考えたことなんでしょ? あいつになんて言われたの?」


「兄からは『アンシュラオンさんが翠清山に行きたがっているから、遠慮なく作戦に使え』と言われております」


「都合のいいことばかり言っちゃって。前半は本当だけど、後半部分はあいつの願望だよ。最初に言っておくけど、オレはこの作戦に参加するつもりはないからね」


「そんな! アンシュラオンさんだけが頼りだったのですよ! ア・バンドの時のように一緒に戦えるのを楽しみにしていたのに!」


「ハローワークの顔を立てて話を聞きに来ただけさ。オレの担当はアズ・アクスの鍛冶師の救出だからね。君には悪いけど、べつに魔獣退治を本格的に手伝うつもりはないんだ」


「しかし、この状況でいまさら撤回はできませんよ。まさかグラス・ギースがあんなことをしてくるとは完全に想定外でしたし…」


「そこは都市間同士のやり取りだからね。民間人のオレがどうこう言える立場じゃない。それに、オレがこんなところにいたら逆に利用されちゃうよ?」



 アンシュラオンの予想通り、ファテロナが満面の笑顔で近寄ってきた。



「アンシュラオン様、お久しぶりでございます」


「ファテロナさんも元気そうで何よりだね。相変わらず美人だ」


「うふふ、ありがとうございます。裸であなたと触れ合った日から、一日たりともお忘れしたことはございません」


「お知り合いなのですか!? それに裸とは!?」


「半分は本当だから困るんだよなぁ。知り合いなのは本当さ」


「アンシュラオン様こそ、わがグラス・ギースの英雄! 悪獣デアンカ・ギースを打ち倒し、災厄の悪夢を光に変えた本物の武人です! ここで再会できたのは、まさに天啓ではないでしょうか! ぜひ再びグラス・ギースのお力になってくださいませ!」


「何を言うのです! アンシュラオンさんは、すでにハピ・クジュネに家を構えているのですよ! 当然、ハピ・クジュネの味方に決まっています! そうですよね、アンシュラオンさん!」


「グラス・ギースの英雄まで奪おうとするとは、あまりに強欲ではありませんか?」


「アンシュラオンさんがグラス・ギースを立ったのは、そちらに魅力がなかったからではないのですか?」


「おや、噛みついてきましたね。ようやく本気になりましたか?」


「これだけは譲れませんよ!」


「それは我々とて同じことです」



 アンシュラオンが勝負の決め手となることは明白なので、スザクも今回ばかりは譲るつもりはないらしい。



「いや、どっちにも協力する予定はないんだけど…」


「アンシュラオンさん、こちらをどうぞ」


「手紙?」


「もし断られたら、これを渡せと兄から言われていたものです。内容はわかりませんが、読むだけ読んでみてくれませんか? お願いします!」


「ライザックが? うーん、嫌な予感がするけど…」



 そう思いつつも読まねば先には進まない。


 仕方なく手紙を読むと、興味深いことが書かれていた。



(…急所を突いてきたな。相変わらず抜け目がない)



 読み終えた瞬間、手紙を火気で燃やす。


 内容は『小百合に関すること』だった。



(積極的に参加すれば、ハローワーク内での小百合さんの不正をすべて揉み消す、か。オレもずっと気になっていたし、こっちだけじゃ手に負えない面があるのは事実だな。領主と違って一般人のオレの場合は、スレイブの罪を消すだけの権力がない。いつか必ず追及されるだろう。しかしまあ、時間を与えると危険なやつだよ。全部罪状を調べてあったしな)



 ライザックはこの一ヶ月弱で、アンシュラオンに関するほぼすべての情報を集めていた。


 当然、周囲にいる者たちの素性や経歴、財産に至るまで、わかる範囲で全部である。


 その中で着目したのが、妻である小百合の不正だった。


 ハローワークは大組織だ。父親が支部長であっても揉み消すのはなかなか大変だろう。そもそも親に知られるのは面倒であるし、権限にも限度がある。


 その点、ライザックならば少なくともハピ・クジュネ支部には手を回せるので、今までのことは揉み消せる。


 インサイダー取引に関しても端末は支部長のものなので、最悪は彼を犠牲にすることで対処可能である。さらに支部の力でグラス・ギース支店での一件もなかったことにできるはずだ。(課長の家庭に入った亀裂は戻らないが)


 これだけでは半分脅しになってしまうので、追加報酬についても言及されている。



(アロロさんとロリコンたちの生活は、都市が存続する限り永劫に保証し、その他各種、オレが望むあらゆる支援を確約する、とある。要するにハピ・クジュネの全面支援を受けられるってことだ)



 以前ライザックと交わした協定は、あくまで鍛冶師救出に関することだけだったが、今回は翠清山制圧作戦全体に対するものだ。


 見返りも用意されていることから、これは『新たな取引』と考えるべきだろう。



(サナにはまだハピ・クジュネでの生活が必要だ。これだけ発展していて平和な都市は、そうそうあるものじゃない。しかし、作戦が失敗すれば、立ち直るのも難しいほどに混沌とするだろう。そうなればオレたちも違う都市に行くしかない。せっかくの安住の地が台無しだ。それを見越したうえでの内容か)



 がっつりと作戦に関わるデメリットはあるが、報酬は非常に魅力的だ。


 しかし、それを黙って見ているファテロナではない。



「秘密のお話ですか。楽しそうでございますね。私も交ぜてくださいませ」


「いえ、おかまいなく。もうこれ以上、あなたに場を荒らされたくはありません」


「それはハピ・クジュネの都合でございます。グラス・ギースにも交渉する余地はあるはずです。アンシュラオン様、ぜひお力を」


「あのさ、さすがに無理がない? イタ嬢がオレにしたことを忘れたわけじゃないでしょ? そもそもあいつが嫌がるんじゃない?」


「お嬢様を侮ってもらっては困ります。そのあたりは万事抜かりありません」



 ベルロアナは、こちらの様子が気になるのかチラチラ見ている。


 が、まるで初対面のように人見知りした態度が気になる。


 普通ならば「あー! あの時の!」と、アイラのごとく突進してくるだろう。



「なんだあいつ? トイレでも我慢しているのか?」


「お嬢様は、あなたのことを覚えておりません」


「嘘でしょ!? あれだけのことがあって忘れる?」


「どうやらショックが強すぎたようでして、救出時も意識混濁状態でした。そこに元からの馬鹿…いや、バカが加わって覚えていないのです。事件自体は覚えていても顔までは記憶に残っていないようです」


「オレが忘れるならともかく、あいつが覚えていないって…こっちがショックだよ。まさかそこまでとはね。でも、だからといってオレがグラス・ギースに協力する理由はないよね? 金はあるの?」


「お金はありませんが、無いのならば身体で支払うしかありません」



 そう言うと、ファテロナは胸を押しつけて密着する。



(むぅ、やはりでかい。質量はマキさんに匹敵するレベルだ。だが、ただ大きいだけではない。妙に張りのある弾力が心地よい刺激を与えてくる。なんというか…ゼラチンではなく寒天で作ったゼリーのような。それでいて押しつけるときは、ぶにゅんと潰れて一気に柔らかくなる。なんだこれは? 癖になる感触だ。くっ…おっぱいまで癖が強いとは、侮れない女性だ!)



 悔しいが、おっぱい博士として無視するわけにはいかない見事な乳だ。


 タイプが違うので誰が一番とはいえないが、妻たちと同等以上は間違いない。



「ご興味を抱いていただけましたか? どうやらキシィルナ様を妻にされたご様子。幼女趣味でなくて安心いたしました。それならば、私もどうぞご笑味ください」


「それはまずいよ。本当に笑い話になっちゃうって」


「何か不足でも? このファテロナ、いささか美貌には自信がございます。ちなみに『処女』です。いまだ誰にも穢されたことはございません」


「美人なのは認めるけど…それって毒があるからだよね。血以外の体液も全部毒なんじゃない?」


「うふふ、あなたには毒が効かないではありませんか。存分に味わってくださいませ。ぺろり、ぺろぺろ。ああ、毒の効かないお身体…はぁはぁ、本当に効かないのか、もっと試してみたくなります」



 こうやって耳を舐める様子は処女には見えないが、実際に彼女の身体は毒まみれなので、『毒無効』スキルがない状態で体液に触れると即死亡するだろう。


 『毒無効スキル』も『坐苦曼ざくまん』のような薬を使えば、一時的に付与できるものの、まさに一分間で百万円取られるようなものである。ぼったくりにも程がある。


 ただし、それだけの価値がファテロナにはあるかもしれない。



(ぶっちゃけると、美貌という観点からすれば随一なんだよなぁ。姉ちゃんに雰囲気が似ているところもグッドなんだけど…この人、何をするかわからないから怖いんだよ)



 実はファテロナは、今まで出会った中で一番の美女だ。


 マキも凛々しく、小百合も可愛く、ホロロも美人ではあるが、単純な美ではファテロナには敵わない。


 が、その美は『毒薔薇』のような蠱惑的な魔性を帯びたものだ。


 容姿とおっぱいが文句なしでも、頭がヤバイ女性なので、はっきり言えば手を出したくはない。



「お望みならば、お嬢様も一緒にどうでしょう? あなたがグラス・ギースの領主になってみるのも面白いのでは?」


「さっきあれだけスザクたちを責めておいて、今ここでそれを言う? それこそ、ないない。イタ嬢だけは絶対に無理。生理的に無理。吐き気がするからやめてよ。ファテロナさんは魅力的だけど、今のところは間に合っているから大丈夫だよ」


「それは残念です。ですが、このままあなた様をハピ・クジュネに渡すわけにはまいりません。こうなれば一生、お傍を離れぬ覚悟でございます! お嬢様と一緒にあなた様と寝食を共にいたします!」


「一生つきまとうってこと!? やめてよ!」


「うふふ、離しませんよ」


「ファテロナさん! いいかげんに離れてください! アンシュラオンさんは僕のものです!」


「汁王子様は同性も欲望の対象ですか? なんともそそります」


「どう思われても結構ですが、絶対に渡しませんからね!」


「それは私とて同じことです」



 右腕をスザクが引っ張り、左腕をファテロナが引っ張る。


 これでは大岡裁きの子争い、まさに綱引きだ。



(なんでこんなことになったんだ? どっちに味方してもデメリットがあるじゃないか。普通ならばハピ・クジュネ側につくのが一番だが…そうなるとファテロナさんは本当にストーカーになりかねない。実際にマキさんたちも追ってきたからなぁ…。ファテロナさんはいいけどイタ嬢は駄目だ!)



「離してください!」


「そちらこそ。往生際が悪いですよ」



 二人が必死に引っ張り合いをしていた時だ。


 アンシュラオンたちの視界が、一気に暗くなる。


 そして、そこに何かが凄まじい勢いで降ってきた。



「ちょいとごめんよ!」



 アンシュラオンは即座にスザクとファテロナを振りほどき、弾き飛ばすと同時に、自身も回転して回避。



 直後―――ドゴオオオオンッ!



 激しい破壊音を響かせて、壇上が吹き飛ぶ。


 最前列にいた傭兵たちは、その衝撃の余波を受けて飛ばされ、人混みの上に落ちていった。



「おもしれぇことをしているじゃねえか。俺も交ぜろよ」


「父さん!!」


「これはこれは。乱暴でございますね」



 そこにいたのは領主のガイゾック・クジュネであった。


 手に握っているのは、かなり太いロープ、荒縄だ。


 それを床に叩きつけただけで、壇上は完全に破壊されて直径五メートルほどが消え去っている。凄まじいパワーである。



「スザク!」


「は、はい! すみません! まさかこんなことになるとは…なんとお詫びすればよいか!」


「こいつがお前が言っていた凄い男か!! よくぞ見つけた! よくやった!」


「…へ? 怒っているんじゃないんですか?」


「ああ? 俺はごちゃごちゃしたやり取りは嫌いなんだよ。そんなもんはライザックに任せればいい。結局、やることは同じだ。勝負は大いに結構! 勝ったもんが強い! それだけだ!」


「それはそうなんですが…」


「おう、アンシュラオン! 息子たちが世話になっているようだな! 話は聞いているぜ」


「やれやれ、子供の晴れ舞台に親が出てきてどうするのさ。黙って観戦してなよ」


「悪いな。お前を見た瞬間に、もう我慢できなくなっちまったよ。俺と勝負しようや。それで全部解決だ」


「と、父さん! 何を言い出すのですか! そもそもそんなスペースもありませんよ!」


「スザク、俺だってそれなりに考えているんだぜ―――っと!!」



 ガイゾックが荒縄の先端をアンシュラオンに投げつける。



(本気で投げたな。死人が出るのはまずいか)



 戦気をまとっているので、このままよけてしまうと背後の傭兵たちが数十人は死ぬだろう。


 仕方なく左手で受け止めつつ、戦気の波動も完全に相殺する。


 一見すると軽く止めたようだが、実際は砲弾をキャッチしたに等しい達人芸だった。



「おお、受けたな!!」


「受けるしかないでしょ。ここで誰か死んだら、また話がややこしくなる」


「そいつはな、【決闘の申し込み】だ」


「はぁ? 決闘?」


「さぁ、錨を上げろ! 帆を上げろ! 海賊の旗を掲げろ!」




―――「『フラッグファイト』の始まりだぁあああああああ!!!」





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