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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「白い魔人と黒き少女の出会い」編
22/607

22話 「戦艦の事情」


 クルマは沈黙。


 戦艦に攻撃されて無事であった存在は、まずいない。当然の結果だ。


 それを確認した砲手が司令室に伝達。



「目標、撃墜しました」



 その言葉は、人の命を奪ったという報告。何人乗っていたかはわからないが、殺したということだ。


 その報告を聞いた指揮官の男は、静かに目を瞑る。



「運が悪かったな。間が悪かった。…それも言い訳か。殺した者の台詞ではない」


「いえ、まさに運が悪いのです。仕方のないことです」



 隣にいる副官の男が答える。


 たしかに運が悪かったのだ。わざわざこのルートを走らなければ、鉢合わせることもなかったのだから。



「このルートは誰も使わないと聞いていたが?」


「事前の情報では、そのはずです。民間人が使うものは東に二百キロほど行った先のルートとなります」


「では、軍人か?」


「そのわりには一般車両のようでした。ただ、西側のクルマでしたので、他国の軍関係者かもしれませんが…」


「その場合は最悪だな。調査に来られると面倒だ」


「グラス・ギースやハピ・クジュネの領主が断るのでは?」


「それができればな。RBやニアージュあたりが出てくれば抵抗はできまい」


「やつらは南の地の入植で手一杯だと思いたいですな」


「希望的観測で動かねばならないほど、我々には余裕がないということだ。起こったことは仕方がない。しかし、本当に捕捉されたのか? 視認防壁があったのだろう?」


「そのはずですが、自壊したようです」


「自壊? そのようなことがあるのか? 術式に詳しくないから細かいことは知らないが、あまり聞かないぞ。普通は損耗して効力が消えるとかではないのか?」


「はい、普通はありえませんが、ここに来るまでに劣化したのかもしれません」


「…そうか。長旅だったからな。だが、そうだとすれば防げた事故だぞ。苦しいのはわかるが、今が一番大事な時だ。油断するなよ」


「申し訳ありません。即座に対処いたします」



 この戦艦には捕捉を防ぐための術式結界がかけられていた。視認を完全に防ぐものではなく、周囲と同化することで見えにくくするものである。


 主に敵戦艦からのレーダーや観測手による捕捉を誤魔化すためのものだ。



(普通のクルマに戦艦レベルのレーダーがあるとは思えん。とすれば、かなり目の良い武人が乗っていたのだろう。敵ならば倒せてよかったが、地元の人間であったらもったいないことをしたな。だが、今は誰にも見つかるわけにはいかない。民間人の排除もやむをえないか…)



 その男、煤けた深い金髪、梅幸茶ばいこうちゃの色合いの髪をした壮年の男が呟く。髪の毛は逆立っており、ライオンのタテガミのようだ。


 金髪自体は西大陸に多い髪色である。この男もまた身体的特徴によって、自身が西側の人間であることを図らずとも主張していた。


 腰には立派な金色の剣が輝いている。やや成金趣味のデザインだが、かなり高価なものだと思われる。


 その剣を無意識に触りながら、司令官の男は改めて東大陸にやってきたことを実感した。



(補給もままならない、まったく何もない荒野。そこらじゅうに溢れている強力な魔獣たち。自由を手に入れたのはいいが、すべてゼロからの出発か。気が滅入るな。しかし、司令官の私が弱気になっていれば部下たちも動けない。どんな犠牲も覚悟して前に進まねばな)



「予定通り、南西に進路を向けて先発隊と合流するぞ。まずはナージェイミアを隠す。すべてはそれからだ」


「了解しました」





  ∞†∞†∞





 戦艦が遠ざかっていく。


 それを感覚で把握しながら、さらに用心のために五分ほど、じっとする。


 その後、何も起こらないのを確認してから顔を上げた。



「もう行ったよ。こっちへの敵意は消えたかな」


「なんだよ…いったい。どうなってんだ?」



 炎上したクルマから二百メートルくらい離れた場所に、アンシュラオンとダビアはいた。


 お互いに傷はないが、クルマは完全に大破である。回収も不可能なほど粉々だ。



「ごめん。クルマは捨てるしかなかった」


「それはいい。命あっての物種だからな。むしろ助けてくれてありがとうよ」


「乗せてもらった恩があるからね。当然だよ。ただ、もしかしたらオレのせいかも。あの戦艦を見ちゃったから攻撃された可能性があるんだ」


「見ちゃったって…相手はそんなことまでわかるのか?」


「うーん、あれって術式だったのかな? 妙に見えにくいからコードを壊しちゃったんだよね。たぶん、あれで気づかれて方向もバレたっぽい。あれってレーダーの一種だったのかもしれないなぁ」



 戦艦を覆っていた蜘蛛の巣ようなもの。


 おそらく隠密系の術式だったのかもしれないが、見えにくいのでアンシュラオンが眼力で破壊してしまったのだ。


 術式に干渉して式を変更して自壊させる。簡単にいえば、数式の値を変更して式を成り立たせなくするのである。


 姉が使った『破邪顕生はじゃけんしょう』に若干近いが、アンシュラオンの場合は、高い術士因子が勝手に自分の意思を汲み取って発動してしまったようだ。


 その結果が、これ。



(術って難しいな。剣同様、自分で上手く制御できないとトラブルも増えそうだ。そのうち本格的に術を学ばないとな)



「助けたんだから、クルマが壊れたのはチャラでいいよね?」


「ボウズが悪いわけじゃない。悪いのはいきなり撃ってきた相手だ! 俺のクルマがぁ…! ちくしょう! いったいどこの馬鹿だ! 賠償請求してやるぞ!」


「そんなことしたら、もれなく銃弾のプレゼントが来るかもしれないよ」


「洒落にならねえよ! 泣き寝入りか!?」


「命があっただけよかったじゃん。物はまた買えるけど、命はそうはいかないしね」


「はぁ…しょうがねえな。運が悪かったと諦めるしかないか」


「まあ、次に出会ったらお返しくらいはしたいけどね。それに見合うだけの物は奪いたいよ」


「完全に強盗の発想だな」


「それも荒野のルールでしょ?」


「違いねえ」



 ダビアがこうしてクルマの心配をできるのも、アンシュラオンが助けたからである。


 彼にとっては、それ自体が驚きだ。



「というか、よく間に合ったな。何をやったんだ?」


「一発目は直前に修殺で迎撃して、二発目は水泥壁すいでいへきで膜を張って防御して、三発目は当たった瞬間に凍らせて爆発を遅らせて、その間にクルマを壊してダビアを引っ張り出して、ここまで跳んだんだ」


「いや、おかしいだろう!? あの一瞬にどんだけやってんだ!?」


「そんなに速くなかったし問題ないよ。姉ちゃんの攻撃に比べれば、あんなの楽勝だよ」


「それはなんだ? お前のつらい家庭事情に同情すればいいのか? それとも感謝すればいいのか?」


「オレもわからないよ。今は感謝かな。ダビアも助かったしね」



 パミエルキの攻撃を防御していた自分にとって、あの程度の攻撃は生ぬるいの一言である。その点だけは姉に感謝したいものだ。


 本当は偽装工作のために着弾と同時に火気を発してクルマに火を付けたのだが、そこは言わないことにしておく。


 激しく燃えてもらわないと相手が調べにくるかもしれない。仕方なかったのだ。



「それにしても、いきなり攻撃してくるなんてね。西側の連中ってのはこんなに好戦的なの?」


「たしかに横暴な輩は多いが、いくら荒野とはいえ警告もなしに撃つことは少ないはずだ。相手を確認せずに撃てば国家間の問題になるかもしれないしな」


「まあ、間違って同じ西側の人間を殺したら揉めるよね。それでも躊躇なく撃ってきたってことは、何かの極秘作戦中だったとか?」


「可能性はあるな。北部は魔獣が強いせいで西側の入植が失敗に終わっている地域だ。まだ未練たらしく資源を探しに来たのか、単に移動中だったのか。そのあたりはわからんがな」


「新しい国家が入植しに来た可能性は?」


「入植はどこでもいいわけじゃない。できるだけ豊かで敵が少ない場所がいいに決まっている。こんな場所に入植地を作ったとしても、結果的にマイナスになるだろうよ。個人が趣味で植民地を所有する場合もあるが、国家事業としてやるには厳しいだろうな」


「うーん、いろいろなケースが考えられるんだね。相手を絞るのは難しいか」


「魔獣以外にもあんなやつらがいるとなると、北部もだいぶ危険なエリアになってきたな。商売がやりづらくなるぜ」


「個人的な意見だけど、やっぱりあの戦艦のことは秘密にしておいたほうがいいかもしれないね。触れ回ったりしたら狙われるかも」


「そこまで馬鹿じゃねえよ。秘密にしておくさ。命は惜しいからな」


「そのほうがいいね。いつもオレが守れるわけじゃないしね」



 そう言いながらも胸には熱いトキメキが満ちていた。



(戦艦まであるなんて面白くなってきたぞ! 相手を殺し、破壊するための兵器。最高だね! オレもいつか欲しいな)



 ここは異世界。


 のどかでありながらも、身の危険が常にある未開の土地。


 それに心躍らせるのであった。




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