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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
219/621

219話 「パンツぶっかけ事件簿 その2『延焼事故』」


「なっ…ファテロナさん、どういうことですか!?」


「簡単なことでございます。この場にいる皆様はお嬢様の指揮下に入り、スザク様たちの軍と勝負するのです。これで数に不足はありません。どちらが武勲を挙げるか、正々堂々と勝負できます」


「それはあまりに無茶苦茶ではありませんか。彼らはハピ・クジュネの力になるために集まってくれた者たちなのですよ。グラス・ギースはグラス・ギースの都市で集めればよいことでは?」


「たしかにここはハピ・クジュネではありますが、あくまでハローワークの緊急招集に応えただけにすぎません。出席が義務付けられたので集まっているだけであり、まだ明確な答えは出していない状況のはずです。我々が勧誘したとて何か問題があるのでしょうか?」


「それは…そうですが。半分は我々からの呼びかけでもありますし…」


「グラス・ギースも対等な仲間と考えておられるのですよね? グラス・ギースが戦力を増すことは、あなた方にとって喜ぶべきことではないのでしょうか?」


「うう…し、しかし、彼らは報酬なしでは動きませんよ」


「報酬はございます。もしお嬢様が勝ったら、お一人につき『二千万の報奨金』を出します!」


「に、二千万!? そんなお金がグラス・ギースにあるのですか!?」


「いえ、あんなケチくさい領主様が出すわけがありませんし、そもそもそんなお金はありません。だからハピ・クジュネが出してくださいませ!」


「ええええ!? うちがですか!? なぜですか!?」


「賠償金です。コレの、この白い汁のです!!」


「で、ですからそれは捏造だと…」


「ほほぅ、クジュネ家の実印の価値も随分と安くなったものでございます。これで言い逃れできるのならば、今後ハピ・クジュネと取引する際には誰もが慎重になるのではありませんか? あなたの気持ち一つで左右される程度の安い証明ですからね」


「うっ、それは…」


「皆様方も命をかけるのです! 報酬はもっとあってよいとは思われませんか!」


「そういや…そうだよな。死ぬかもしれないんだし」


「俺が死んだら女房と子供が食いっぱぐれちまうよな…」


「…ん? でもさ、スザクのやつが変態だろうがなんだろうが、俺たちには関係なくないか? やっぱりハピ・クジュネ側の条件のほうがいいよな」


「そうだな。明らかにグラス・ギースより発展しているしな」



 ここで意見が二つに分かれる。


 参加するだけで1200万か、2000万か。


 あまり実績がない者からすれば後者のほうがメリットはあるだろう。


 ただし、ハピ・クジュネ側には軍への就職と、活躍すれば土地や市民権も得られるボーナスがある。


 今のところは、まだ七割がハピ・クジュネ側といった様相であった。



(まさかグラス・ギースが逆に謀略を仕掛けてくるなんて…。これも仕返しなのだろうか? でも、こんなもので状況は変わらない。いや、変えさせない! まずは皆を安心させないと!)



「死傷の際の保険金もこちらが負担いたします! 家族の生活保障も任せてください! ハピ・クジュネにはそれだけの経済基盤があるのです!」


「ふふふ、スザク様。墓穴を掘りましたね」


「…え?」


「最初から保険金込みでのお話でしたので、私も強い違和感を覚えておりました」


「どういうことでしょう?」


「よもや、ここにいる皆様方を『捨て駒』にしようなどとは思っておりませんよね?」


「そんな馬鹿な! ありえません!」


「そうでしょうか? お金で雇えるような安い命ならば、遠慮なく最前線に投入できるものです。皆様もご存知ではないのですか? 西側では植民地の住人に市民権や土地をちらつかせ、数だけ集め、結局は大半を捨て駒にするのが当たり前です! そうして激しい消耗戦で敵が弱ったところに正規軍を送り込む! 美味しいところはすべて横取りです!」


「ち、違います。あくまで足りない戦力を補うための…」


「では、あえてお嬢様にお訊ねいたしますが、面倒な雑事がありましたらどうされますか?」


「雑事って、お茶淹れとか掃除のことよね? そういうものは、スレイブのメイドがやるのではなくて?」


「それでスレイブが怪我をしたらどうします? 事故で死んでしまったら?」


「残念だけど、新しいのを買えばいいんじゃないかしら? 雑用専門ならけっこう安いわよね」


「家族への保障はどうされますか?」


「そういうものは、買った時の値段に組み込まれているでしょう? そもそもスレイブになるのだから、最初からそれくらいの覚悟は必要ですわ」


「では、スレイブに権利はないのでしょうか?」


「違うわ。自らの意思で契約を選ぶのですから、その段階でスレイブの権利は行使されているということよ。主人を選ぶこと、それ自体が彼らにとって人生のすべてなの。だからお互いの同意がとても大事になりますわ」


「ありがとうございます。お嬢様は、あえて上流階級の物の考え方を示してくださいました。また、傭兵やハンターの皆様方の生きざまについてまで語られていたように思えます。さぁ、皆様はどう思われましたか? どちらの意見が真実を語っているのでしょうか?」



 さきほどまでの浮ついた会話とは違い、スレイブのことなのでベルロアナはすらすらと饒舌に語る。


 その冷静で強い意思が乗った言葉に、この場にいる者たちの目が覚めた。



「スザク、てめぇ! 俺らをハメようとしやがったのか!」


「よくよく考えてみれば怪しいよな! 話がうますぎるぜ!」


「俺たちを使い潰すつもりだったんだな! このやろう! ふざけやがって! 何様のつもりだ!」


「おいおい、あんな話を信じていたのか? どうせ傭兵なんてそんな扱いだろうぜ。最初からわかっていただろうによ。覚悟が足りないぜ。だが、それなら金をもっともらわないとな!」


「けっ、いつも俺たちを騙そうとしやがる! だから金持ちってやつはよ! マジで軽蔑だな!」


「落ち着いてください! 落ち着いてください!! 僕が提示した条件は本当です! 信じてください!」


「女の子のパンツに汁ぶっかけるやつを信用しろっていうのか!」


「この性犯罪者がー! 切腹しろーー!!!」


「どうせ使い捨てにされるなら、俺は可愛いほうを選ぶぜ!」


「おお、そうだ! パンツ姫のほうが可愛げがあるぜ! 本心を語ってくれたしな!」


「スザク、てめぇは汁でも生産してろや!」



 凄まじいバッシングがスザクに向けられる。


 結局のところ人間は、自分のことにならないと真剣に考えられないものなのだ。


 汁をぶっかける変態と見た目だけは可愛いベルロアナの対決という、世にも奇妙な争いになっているが、だんだんとグラス・ギース側の支持者が増えているようだ。



「見てください。すべてお嬢様のお力でございます。キャロアニーセ様もお喜びになられるでしょう」


「お母さまが? それは嬉しいけれど…一つ訊いてもよいかしら? これはいったい何の騒ぎなのかしら? その説明がまだ…」


「ぶわっ!」


「どうしたのファテロナー!?」


「お嬢様はなんとなんと……立派に成長なされました。もうナンナノ、こいつ! 超笑えるー!! お腹いたいよーーー!」


「ファテロナ! お腹が痛いの? 気をしっかり持って!」


「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー! ウヒヒヒッ!」


「なんかあの二人を見ているとおもしれーよな」


「ああ、メイドのほうは元賞金首なのにな。そんな人間でも受け入れちまう度量があるってことだ。あの若さでたいしたもんだよ」


「おっしゃ! 俺たちが味方してスザクの野郎をぶちのめしてやろうぜ!」



 ベルロアナとファテロナの仲睦まじい様子もまた人気の要因となり、情勢は一気に逆転。


 ついにグラス・ギースが七割の支持を得る。



「こんな…はずでは……なぜこうなったんだ…」



 一方で落胆するスザクは、なんとも哀れである。



(まだ人生経験の浅いスザクでは、ファテロナさんの作った流れには対抗できないか。というか、あの人に武器を与えちゃ駄目だな。こんなに荒らせるなんて逆に才能だよ。まあ、正攻法じゃ普通にやっても勝てないから完全な邪道だけどね)



 ちなみにあの白い汁は、牛乳と片栗粉をゼリー状に加工したものだ。そもそも本物ならばすぐに乾いてしまうため、ぷるんぷるんは維持されないだろう。


 その段階から、すでに嘘である。調べれば一発で終わりだ。


 がしかし、捏造や言いがかりであれ、疑念と不安を爆発させるためのきっかけになれば何でもよいのである。


 と、呑気にアンシュラオンが見学していると、まさかの延焼事故が発生。



「けっして皆さんを使い捨てにするつもりなどありません! 今回の作戦には『勝機』があるのです!」


「あぁん!? 翠清山の魔獣が相手だぞ? どんな手があるってんだよ! 消耗戦以外はないだろうが!」


「そうだ、そうだ! 俺たちを使い潰すつもりだろう!」


「違います! 実は今回の作戦には【ホワイトハンター】も参加してくださるのです!!」


「ホワイトハンターだと? ホワイトハンターといったら、第二級の殲滅級を倒せる化け物じゃねえか! 嘘こきやがって!」


「なぁ、たしか『シルバーライト〈銀架の右手〉』の団長がホワイトハンターじゃなかったか? ほかにはあまり聞かないよな」


「マジかよ。ってことは、この作戦にあいつらが参加するのか?」


「いやいや、それはないだろう。あいつらは南部にいるはずだ。ハピ・クジュネに来たという話は聞いていないぞ。シルバーライトは一万人規模のA級傭兵団だから、いればすぐにわかるだろうぜ」


「スザク、てめぇ! どういうことだ! また俺らを騙そうとしてやがるのか!」


「安心してください! 今この場におられるはずです!」


「ああん? どこのどいつだ!?」


「それは―――」



(まさか…この場でか?)



「あの四大悪獣の一角であるデアンカ・ギースを倒した英雄―――」



(おいやめろ、スザク! やめるんだ! 今は駄目だ! このタイミングでオレを巻き込むな!!)



 心の中で念じるが、そんなものは何の役にも立たない。


 無情にもその名前が告げられる。




―――「ホワイトハンターのアンシュラオンさんです!」




(スザッククウウウウウウウウウウウウウウウウ!)



「ちょっと急用を思い出したよ。オレは帰るね」


「兄弟、今呼ばれてなかったか?」


「さぁ、知らないな。幻聴じゃない?」


「アンシュラオンさん! こっちです! ここですよー!」


「じゃあ、さよなら!」



 スザクの声を完全スルーして逃げようとするが、海兵たちが集まってきて強引に壇上への道を作る。


 その中には、シンテツもいた。



「こら、逃げるな。早く壇上に上がれ」


「全部おっさんのミスが原因じゃないか。この状況で上がれっていうのか?」


「スザク様の窮地を救えるのはお前だけだ。ライザック様との約束を忘れるなよ」


「あんなカオスな場に行く約束はしていないけどね。せめて場を整えてからにしろよな」


「アンシュラオンさん! ああ、よかった! まだいてくださったのですね!」


「ちっ…」



 足止めをくらっている間にスザクが下りてきて、がっしりとアンシュラオンの手を握る。


 さすがに振りほどくわけにもいかず、嫌々ながらも壇上に向かう。


 本当に嫌だったので全体重をスザクに乗せてみたものの、そんな子供じみた抵抗など関係なく、結局は壇上に引き上げられてしまった。



「ご紹介いたします! 此度の作戦に参加してくださる、ホワイトハンターのアンシュラオンさんです!」


「あいつがホワイトハンター?」


「まだ子供じゃないのか?」


「スザク、嘘じゃねえだろうな!」


「それはハローワークが証明してくださいます! 彼こそ単独で右腕猿将を討ち取り、見事猿神の軍勢を撤退に追い込んだ、ハピ・ヤックを救った真の英雄なのです!」


「おおおおお! マジかよ! 右腕猿将っていえば、名有りの討滅級魔獣だろう!? それを一人で討伐かよ!」


「それ以前にデアンカ・ギースを倒したってのは本当なのか!? 殲滅級だろう? とんでもない怪物って聞いたぞ」


「だが、討伐されたのは事実らしいぞ。ハローワークの討伐リストに印が付いていたからな」


「じゃあ、本当にあいつが…! し、信じられねぇ! そんなやつが参加するなら勝確じゃねえか!」


「うおおおおおおおおおおお! 金儲けだぁああああ!」


「そんな隠し玉を持ってやがるとは…さすが汁王子だぜ!」


「汁王子も、なかなかやるじゃねえか!」



 この瞬間、会場が本日一番の盛り上がりを見せる。


 やはり彼らは強い者に対して興味津々なのだ。羨望や嫉妬、憧れと恐怖、さまざまな感情が渦巻いていた。



「ふぅ…助かりました。アンシュラオンさん、ありがとうございます!」


「いや、助かってないよね? なんか汁王子とか呼ばれてたよ?」


「もう諦めました。どのみち無実が明らかになっても、彼らが飽きるまで遊ばれることになるでしょうし…」


「イタ嬢と関わると不幸になるんだよ。覚えておきな。人生の先輩からの忠告だぞ」



 パンツ姫に汁王子。


 そこに変態紳士まで加われば、もはや世紀末である。




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