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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
218/618

218話 「パンツぶっかけ事件簿 その1『ファテロナの狙い』」


「お嬢様、皆様に手を振ってください」


「こ、こうかしら…? えへへ」


「おおー! パンツ姫!! いいぞー!」


「可愛いは正義だーー!! 俺はベルロアナを応援するぞー!」


「もしかして、あの娘ってスザクより偉いのか?」


「実際にスザクが頭を下げているもんな。グラス・ギースが昔、盟主だった話は本当らしい」


「あんなに可愛いのに、やっぱり領主の娘ってことか。意外と頭がいいんだな」


「そりゃ上流階級だしな。ちゃんとした教育を受けているんだろうさ。俺たちとは環境が違うぜ。でも、なんか妙にアホっぽくて可愛いんだよなぁ。あれが演技とは思えないぜ」


「ほんとほんと。あのギャップがいいよな」



 馬鹿がひっくり返って『鹿馬』となる。


 ベルロアナは、相変わらずぽかーんとしたアホ丸出しの表情だが、今後はそれも意図的にやっていると思われるはずだ。スザクもすっかり信じ込んでしまったようである。


 こうして会場は異様な盛り上がりを見せているが、当然ながらアンシュラオンだけは首を横に振っていた。



(そんなわけがないだろう。あのアホ面がちゃんと物事を考えているわけがない。自分のスレイブ以外の話は、たぶん何も理解していないぞ。スザクがなんで土下座までしているのかすら覚えていないはずだ。ついさっきの話題ですら忘れているんだ。あいつはマジもんの馬鹿だよ)



 以前領主城で会話した時は、まだ多少ながらまともな会話をしていた気がするが、それは安心できる実家であり、自分がもっとも得意とするスレイブの話題だったからだ。


 がしかし、それ以外はまるで何も知らないし、興味がないので覚えられない。


 知らない場所にいる緊張状態も相まって、さらに頭の回転が悪くなっているに違いない。


 何十回と説明しても理解できない人がたまにいるが、各人の理解力の差は思った以上にあるものだ。



「マキさん、あの印籠ってすごいの?」


「そういうものがあるとは聞いたことがあるわ。たしか正統後継者か、それに認められた者が持つと光ったはずよ」


「ほんとだ。家紋のところが光っているね。でも、実物を見たことはないし、本物かどうかはわからないかな」


「そもそもベルロアナ様がいらっしゃるのだから、それはあまり意味がないかもしれないわね。私が気になるのは、どうしてベルロアナ様を単独で派遣したかよ。絶対領主の考えじゃないし、キャロアニーセ様だと思うのだけれど…それでも危険な決断だったはずよ」


「こんな状況じゃ領主は動けないし、母親も病気だっけ? 代理があいつしかいなかったことは間違いないけど、印籠まで渡しているところを見ると、もしかして最初からハピ・クジュネの作戦を妨害するつもりだったとか? 実際に両都市とも、けっこうギスギスしているよね。話を聞く限り、かなりきわどい工作もしているようだし」


「そうね。正直、乗っ取りの話に関しては、私もちょっとイラッとしているわ。ベルロアナ様に関してはキャロアニーセ様からも頼まれているし、もし本当のことならば、私はベルロアナ様側に立つわ。ごめんなさい」


「謝ることはないよ。オレだって全面的にハピ・クジュネに味方しているわけじゃないし、意見が割れたら妻の側に立つのは夫として当然さ。スザクやライザックよりもマキさんのほうが大事だしね」


「アンシュラオン君…ありがとう」



 言い換えれば、イタ嬢への私怨よりマキのほうが大事、ともいえる。


 もう離れた都市なので、「ちょっとイラつく」くらいに怒りの温度が下がっていることも要因だろう。


 それよりはファテロナのほうが問題だ。



(ファテロナさんは完全にスザクを狙い撃ちしている。どう考えても準備万端でやっているよな。もちろん目的は、ハピ・クジュネを下げることでグラス・ギースの存在感を高めることだろうけど、扱いが難しい問題を上手く調整しているのが気になる。かなり頭が良くないと考えられない策だ。ファテロナさんが考えたとは思えない)



 何か策を生み出す時、必ず立案した人間の傾向性が滲み出るものだ。


 ライザックが仕組んだグラス・ギース乗っ取り計画も、彼らしいえげつないものであるが、今回の策もなかなかにして攻撃的だ。


 ファテロナとイタ嬢という、頭が変な二人が演じるからまだ緩和されているものの、普段ならばもっとシリアスな雰囲気になるだろう。


 逆にいえば、それすらも計算されて練られている策なのだ。



(ぬぐうう…!! 馬鹿にしおって! スザク様にこのような真似をさせるとは、まさに失態だ!)



 シンテツは土下座するスザクを見て、歯が折れんばかりに強く歯軋りしていた。


 たしかにライザックの策は明確な敵対行為ではあったが、そもそも未遂に終わったことだ。


 このような重大な場面でなければ、そんなこともあったと一笑に付して終わっていたかもしれない。それだけ今の両都市の力関係には差がある。



(この程度で意趣返しをしたつもりでいるのならば、それこそ浅はかよ! なんら立場は変わらないではないか! 傭兵たちは我々が雇い、作戦は実行される! これが成功すればハピ・クジュネは大きく飛躍し、力関係はもはや永遠に変わらぬ! 今だけの屈辱だ! 落ちぶれたグラス・ギースのことなど後回しで―――)



 と、シンテツがちらっと顔を上げた時、不気味に笑うファテロナと目が合う。


 その冷たい瞳の中にある『茶目っ気』に、なぜか背筋が凍った。激しく嫌な予感がする。


 そして、その予感は的中。



「スザク様、ハピ・クジュネがグラス・ギースに行った無礼は、これにて落着。以後、両者ともに一切の蒸し返しをしないことといたします。よろしいですね?」


「はい。了承いたしました」


「ですが!! あなた様がお嬢様に行った『個人的な無礼』に関しては、許すわけにはまいりません!!」


「―――へ!?」


「みなさーん! ミテー! この汁ミテー!! スザク様がお嬢様のパンツにぶっかけた汁を見てーーー!」



 ファテロナが突然、懐からビニールに入った薄紫の下着を取り出す。


 そこには白くてどろっとした液体が、たっぷりとかかっていた。



「これはスザク様がお嬢様に送りつけたものです。下着を盗み、あまつさえ劣情を抱いて汁をぶっかけ『俺のものになったら、たっぷりとシモの世話をさせてやるぜ、ぐへへ』というメッセージカードまで同封されておりました!!」


「えええええええええええ!?」


「贔屓目に見てもお嬢様の御容姿はなかなかのもの。そうした感情を抱くのは殿方ならば致し方のないことですが、これこそハピ・クジュネがグラス・ギースを下に見ている明らかな証拠ではないのですか!! それ以前に女性に対して、あまりに非礼で卑劣な行いかと存じます」


「ななな…なにを! ご、誤解です! 僕はそんなものは知りません! 何かの間違いです! そもそも僕は婚姻をお断りした身ですので、前提条件が矛盾しているのでは!?!」


「なんら矛盾はしておりません。これが押収されたことを知ったあなたは、自ら断る体裁を取って逃げたのです。そして、今回の旅でお嬢様をその毒牙にかけるために、いやらしい企みを画策していたのではありませんか?」


「なななな! 何を根拠にそのような…!」


「証拠はあります! 先日のパレードで『あなたから贈られたドレス』が破け、お嬢様のパンツが丸見えになった一件です!」


「あ、あれは誰が見ても事故で…」


「いいえ、違います。ちょっと跳ねただけで、あんなに簡単に破れるドレスがあるでしょうか? 最初から細工がされていたとしか思えません!! それをやったのはスザク様…あなたですね!」


「ええええええええええええ!?」



 やはりファテロナだ。予想の斜め上から攻めてきた。


 しかもさきほどベルロアナに対し、あえてドレスを破いてパンツを見せたのは自分だと告白しておきながら、平然とスザクのせいにしている。



「嘘です! これだけは絶対に嘘です! 身の潔白を主張します!」


「ええい、いまさら言い逃れとは見苦しい! このメッセージカードの端には、しっかりとクジュネ家の『実印』があるではありませんか!」


「ちょ、ちょっと見せてください! こんなものは偽物に決まって…え!? 本物!? どうして!」


「乗っ取りうんぬんは都市間ではよくあること。都市を統べる以上、謀略のやり取りがあるのは仕方ありません。しかし、これはスザク様の異常な性癖によるものです! もはや人格を疑うレベルでございます!」


「う、嘘だ…違います! そ、そうだ! 普通に考えて実印のあるものは使わないでしょう!?」


「これがあるからこそ、お嬢様に圧力をかけられるのです。ハピ・クジュネの領主の息子という立場を利用したと考えることができます」


「馬鹿な! そんなことをする必要性がありません! これは罠です!」


「おやおや、ただ否定することしかできないとは、それでもクジュネ家の人間ですか?」


「知らないのですから、それ以上の弁明ができないのです! これこそ僕の知らないところで起きたことですって!」


「あなた方は、さきほども同じように誤魔化そうとしましたね。そう何度も同じ手が通用するでしょうか? 会場の皆さんはどう思われますか!! 彼の言葉を信用できますか!?」


「スザクのやつ、変態だったのかよ」


「同じ男として、さすがにそれは引くな。ドン引きだ」


「ただの性犯罪者じゃねえかよ。やっぱりボンボンなんて、そんなもんなのかね」


「イケメンほど心が歪んでいるもんさ。あー、俺は不細工でよかったよ」


「スザクさん、幻滅しました…」


「俺はやると思ってたね! ああ、予想通りさ!! スザクは、ああいうやつなんだよ!」



 スザクがイケメンの好青年であるがゆえに、それに嫉妬している者たちは簡単に同調を始めていた。


 その異様な状況にシンテツも思わず青ざめる。



(こちらが本命か! 私の失態を利用して、スザク様の個人攻撃に切り替えるとは!! なんて陰湿なやり口だ!)



 いきなりこの話だけが出たら、さすがに誰もが言いがかりだとわかるだろう。むしろファテロナのいつもの奇行で終わってしまう。


 しかし、さきほどの一件があったからこそ、「まだ余罪があったのか!?」という疑念の目が向けられることになる。


 縁談と乗っ取り話は、あくまでこの『作り話』に信憑性を与えるための準備でしかなかったのだ。


 内容も個人の性癖に関するものであり、あまりに馬鹿らしいからこそ、シモの話が好きな傭兵連中の食いつきもよい。



「このような無礼、許すわけにはまいりません。お嬢様もそう思われますよね?」


「そのようなものは初めて見るけど…」


「私が事前に確保していたので、お嬢様の目には触れなかったのです。下着はお嬢様のものですよね?」


「そう…みたいね。ところで、この白いものは何なのかしら? 変な粘りと弾力があるわね」


「ああ、お嬢様の無垢な手が、ビニール越しとはいえ白いものを…はぁはぁ!! た、たまんねー! ケ、ケガサレルぅうううううう!! ヤメテェエエエエ! いひーーー!」



 どこかで見覚えのある下着だと思ったら、某変態紳士が被っていたものだ。なんとも懐かしいものである。


 ファテロナはベルロアナの発言に激しく悶えながらも、必死に暴走を我慢してスザクに迫る。



「スザク様、この責任をどう取られるおつもりですか! キリッ!(エア眼鏡)」


「せ、責任とおっしゃられても…僕にはなんのことやら、まったく身に覚えがないのです!」


「言い逃れはもううんざりです。こうなれば、もはや『決闘』しかありません! はっきり白黒つけましょう!」


「け、決闘!?」


「私も無駄に事を荒立てるつもりはございません。ですので、今回の作戦の中での勝負をご提案いたします!」


「…勝負とは、どのようなものですか?」


「スザク様の軍と、我々グラス・ギースの軍、どちらが大きな武功を挙げるかの勝負でございます」


「ファテロナさん、それはさすがに無謀ではありませんか?」


「なぜでしょう?」


「それは…その……人数が違うかと……」


「グラス・ギースが、たいした戦力も出さないと思っておられるのですね? たかだか八百程度で何ができるのかと笑っているのでしょう? 都市の兵をいれたとしても、せいぜい三千くらいだろうと高をくくっていらっしゃるわけですか」


「い、いえ! 当然ながら質も大事です。あなた方の戦力は、この作戦の肝になると考えています! なんら我々と違いはありませんよ!」


「なるほど、あくまで対等の立場として扱ってくださると。光栄でございます。しかしながら、スザク様のおっしゃるように我らの戦力は微々たるもの。なぜこれほど少ない兵でやってきたのか、疑問を抱いている方々もいらっしゃることでしょう。その理由こそ、お嬢様自らの力で人々の支持を得て『独自の戦力を確保』することなのです」



(まさかこの女…! だからここでか!)



 この瞬間シンテツは、ファテロナの策をすべてを理解した。


 なぜ彼女がこのタイミングを選んだのか。


 その狙いは―――



「ということで傭兵とハンターの皆様方、どうかお嬢様に力を貸してくださいませんか! ぜひとも『お嬢様の軍』に入り、一旗揚げてみようではありませんか!!」



 この場にいる者たちを『掠め取る』ことだ。




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