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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
『翠清山の激闘』編
207/620

207話 「アンシュラオン家の経済事情」


 夕暮れ。


 ゆったりとした雰囲気が流れる中、アイスを食べていたアイラが、ふと気づく。



「あっ、私の夢って踊り子になることじゃん!」


「それがどうしたの?」


「だからさ、アンシュラオンと一緒になったら踊り子になれないよねー。ユキ姉だって踊り子としてやってきたんだから、それを捨てるのってどうなのかなーって」


「ああ、そのことね。私は未練はないから辞めちゃうかもしれないけど、アイラが続けたいなら大丈夫だと思うわよ」


「なんでー? 一座を抜けちゃうんでしょ? どこでやるの?」


「実際に訊いてみたほうが早そうね。ホロロさん、生活費ってどれくらいもらっているのかしら?」


「いきなりお金の話ですか。はしたないですね」


「そんなに嫌そうな顔をしないでよ。お金の話は大事だもの。もうすぐ身内になるのだから、そういうことも先に訊いておきたいのよ」


「私は、あなたたちをまだ信用しておりません。アイラだけではありません。女を売り物にしている軽薄なあなたもです」


「あいたた、これは手厳しいわね。でも、せっかく生まれ持ったものなのですから、使わないと損でしょう? あなただって綺麗だから好まれたのでしょうし」


「それは否定しません」


「あら、自分に自信があるのね。いいじゃない。素敵な男性の近くには、それに似つかわしい相応の女性がいるものよ。あなたがアンシュラオンさんから信用されて、愛されている理由がわかるわね」


「おだてても動じません。私はご主人様の忠実なメイドですから」


「そのご主人様が私たちの面倒を見るように言ったら、あなたは従うのかしら?」


「当然です」


「ねぇねぇ、アンシュラオンさん。お金のこととか訊いてもいいかしら?」


「ん? そういう面倒なのはホロロさんと小百合さんに任せてるから、二人に訊けばいいんじゃない?」


「そうなのね、ありがとう! ということで、教えてくれるかしら?」


「………」


「許可はもらったわよ?」


「…わかりました。ですが、ご自分の立場を忘れないようにしてください」


「わかっているわ。メイドとはいえ、妻でもあるあなたのほうが、私よりも上なのでしょう? そこはわきまえるわ」


「調子のよい人ですね。だから信用できないのですが…ご主人様のご命令ならば致し方ありません」



 ものすごく嫌そうにホロロが承諾する。


 同性から見ても、女を売り物にする女性はあまり好まれない傾向にある。しかもお金目当てにも見えてしまうので、嫌悪と警戒が先に来るのはやむをえないだろう。


 ただ、ユキネはユキネで、長年旅一座でスケベな客相手に身体を見せてお金を稼いできた経験があるため、それを処世術の一つとして受け入れている節がある。


 こんな厳しい荒野で女性が生きるのだから、それくらい可愛いものだ。



(女性が増えれば、それだけ個性が増えるのも仕方ないよな。性格や育った環境で考え方も全然違うものになるしね。でも、最初にホロロさんが身内になってくれてよかったよ)



 ホロロは真面目で献身的なので、基本的にずぼらな自分にとっては最高のパートナーでもある。


 また、小百合も事務系に特化しているため、財産管理を任せられる優秀な人材だ。こうしてみると、案外ちゃんと考えて求婚していたのかもしれない。


 そして、これによってアンシュラオン家の財務状況が明かされることになる。



「それで、いくらもらっているのかしら?」


「生活費として、ご主人様からは『十億円』を預かっております」


「すごーい! そんなにあるのね!」


「十億? そもそも一億円って…いくらだっけー? えーと、一万円が何枚?」


「アイラ、そこまで馬鹿だとさすがに呆れられるわよ。生活費ってどれくらいの範囲なのかしら?」


「日々の食費や交際費、服飾や飲食等の雑費も含まれています。邸宅の管理費等、それ以外の資産は別枠として小百合様が管理しておられます」


「それだけで十億円はすごいわね」



 地域によって物価も経済も異なるが、今の日本に置き換えると、だいたい四倍の価値があると思えばわかりやすい。


 つまり、生活一般で使えるお金が『四十億円』あるわけだ。



「出費はどれくらいなの?」


「ハピ・クジュネは物価が少し高いですが、現状ではほとんど支出がありませんので、まったく減っておりません」


「普通に暮らす分には、一人あたり毎月二万もあれば十分だものね。そう考えるとすごいわー。各人が自由に使えるお金はあるのかしら?」


「ハンターや傭兵での活動や内職その他、自らの労働で稼いだものは、そのまま取得することが可能です。また、各自に毎月百万円の生活費が支給されることになっておりますので、無理に働く必要性はありません」


「百万円がお小遣い! 本当にお金持ちなのねー!」


「え? 百万円って…どれくらいー? 私のお小遣いが毎月五千円だから…何回分?」


「はぁはぁ、それ以外の資産はあるのかしら!?」



 もうユキネの目が「¥」になっているため、アイラは完全に無視状態だ。



「そちらは小百合様にお訊ねください」


「小百合さん、どんな感じなの?」


「そうですね、軍事費関係はアンシュラオン様が管理しておられますので具体的な額は不明ですが、こちらで運用しているのは四十億ほどになります」


「す、すごーい! 中級商会の総資産レベルじゃない!」



 もともとアンシュラオンは六十億近い資産を持っているので、だいたい計算は合うはずだ。


 それ以外にもスザクの邸宅を買ったことで、軍関係者や近隣の人々から差し入れも日々もらっている。こちらは生前のスァクラーシャの人徳のおかげだろう。


 しかし、これだけにとどまらない。



「二十億は貯蓄して、残りの二十億を投資に回しています。現在の出費は利回り分だけで賄えますので、アンシュラオン様から預かった時から損失は一切ありません」


「投資は、どんなふうにやっているの?」


「一番確実なのは不動産ですね。スザク様に加えてライザック様との繋がりもできましたので、ハピ・クジュネの土地をいくつか購入し、その賃貸で儲けます。ただ、こちらは利益が出るまで時間がかかりますので、ハローワーク経由で『西部国際金融市場』にアクセスして、株式の売買や空売り市場でも資産を回しています」


「それって…損をすることもあるのよね? 投資が上手くいくなんて、そうそう聞く話じゃないもの」


「そうですね。普通にやればそうでしょうけど、ハローワーク本部の売買計画や増資情報を基にしてやっているので、基本的に損をすることはありません。ご存知かもしれませんが、ハローワークは巨大な組織なので取引先はメガバンクばかりで、傘下も西側の有名企業が大半を占めています。それらの動向もだいたいわかりますので、面白いほどに儲かりますよ」


「そ、そんなことができるのね…。取引は毎回ハローワークに行くのよね?」


「その必要はありません。ハピ・クジュネ支部から特殊な小型端末をゲットしましたので、家からでもアクセスが可能です。この端末からアクセスすると個人投資家より一秒早く優先決済ができるので、競り負けることもありません。便利ですよね」


「そ、そう…なのね。さすがに頭が混乱してきたけど…すごいわ」



 もうユキネが理解できないレベルで事が起きているようだ。


 とりあえず資産運用は上手くいっているようだが、主人であるアンシュラオンは頭を抱える。



(それってインサイダー取引なんだよなぁ。しかも完全に世界ぐるみの不正に加担しちゃってるし…。部屋でずっと端末をいじっていると思ったら、そんなことをしていたのか)



 内部の有益な情報を知りながら取引を行うのは、ご存知インサイダー取引と呼ばれる犯罪行為である。


 ただし、ハローワーク自体が世界の根幹のシステムに関わる組織なので、こうした不正も日常的に行われているはずだ。何も知らない個人投資家だけがいつも食い物にされるのは、どの星でも同じなのだろう。


 ともあれ小百合の投資によって、すでに数十億の稼ぎが出ているので、その利益分だけで支出が間に合ってしまうようだ。


 彼女が偉いところは、それを自分の物にしない点だろう。しっかりと家計全体の利益として計上している。



「お小遣いもたしかにありますけど、ほかに欲しいものがあったら『おねだり』すれば買ってくれますよ。そうですよね、アンシュラオン様?」


「まあね。可愛い妻たちにおねだりされるのは楽しいからね。ただ、その際はしっかりと胸を押しつけるように!! 絡みつくように、ねっとりと!」



 これはアンシュラオンが考案した「おねだりシステム」であり、あえて小遣いを低く設定することで妻たちのおねだりを誘発する制度だ。


 が、今のところ誰も無駄遣いをしないため、ほとんど発動したことがないのは残念である。



「じゃあ、もし私たちが踊り子を続けたいって言ったら、どうなるのかしら?」


「個人でやる分には問題ありませんし、ステージが必要ならば用意しますよ。劇場でも借ります? ハピ・クジュネの観光区の中央にセントラルホールがありますよね」


「そこまでしちゃうと人数が足りないかしら?」


「なら、バックダンサーを雇えばいいですし、そのあたりの劇団を丸々買い取ってもいいかもしれませんね」


「げ、劇団ごとー!? そんなのいくらするのー!?」


「うーん、アイラさんが二百万だとすると、仮に五十人程度の一団なら最低一億円、優れた芸人さんもいるなら二億か三億もあれば十分じゃないでしょうか? 公演すれば収益も出ますし、もし売れなくて赤字でも他で補填しますから、趣味で続けてもいいですよ。一度相場を調べておきますね。アンシュラオン様、大丈夫ですよね?」


「小百合さんの好きなようにやっていいよ。オレが決めるルールは二つだけ。身内で大きく揉めないこと、ストレスを溜めないこと。以上! ハピ・クジュネで面倒事が起きたら、カットゥさん経由でライザックに文句を言えば、向こうで勝手に何とかするでしょ」


「了解しました! …というわけですね。おわかりになりましたか?」


「ふ、ふえー! 何を言っているのか意味がわからないよー!?」


「今彼女が言ったこと、そのまんまよ。本当のお金持ちなら、ラポット一座丸ごと買い取ることだって可能なのよ。もしアイラが本当に踊り子として成功したいのならば、普通にやっていたら駄目よ。ただでさえ才能がないんだから」


「才能がないって言われたー!?」


「芸の道はそれだけ厳しいの。お尻を振っているだけじゃストリッパーにしかなれないわよ。それに世の中で成功している人は、誰もが実力だけでのし上がったわけじゃないわ。お金持ちや権力者が後ろにいて、その後ろ盾で舞台が用意されるの。特に女の場合は、身体を武器にしないと成功は無理よ」


「ユキ姉、シビアだよねー」


「あなたより芸暦が上だもの。現実くらい嫌でもわかるわ。ああ、待ち遠しいわ。早く座長に話をつけないと!」


「なんかよくわからないけど、いいのかなー? お金で家族の縁が切れちゃうみたいで、ちょっと嫌かも」


「身体は離れても心は繋がっているわ」


「えー、本当ー? お父さん、絶対反対すると思うけどなー」


「その時は力ずくで認めさせるわよ。嫌ならアイラは残ってもいいわ」


「ユキ姉だけずるいー! 私だって成功したいもんー!」


「なら、割り切るのよ。こんなにすごい玉の輿はないわ! なんとしても身内になるわよ!」



 アンシュラオンは、すでにハピ・クジュネの最高責任者であるライザックと『協定』を結んでいる。


 それだけの権力者が後ろにいるのだから、この都市でできないことのほうが少ないだろう。



(まあ、その分だけ厄介事を押し付けられるんだけど、それくらいはいいか。オレにとっては女性たちが荒んで、喧嘩に巻き込まれて心が休まらない生活を送るほうが地獄だよ。金と住居と自由。この三つを与えておけば女性は基本的に笑顔だからなぁ)



 愛がすべて! 愛だけあれば幸せ!


 というのは間違いではないものの、現実はそう簡単ではない。


 ユキネがお金に興味を抱くように、世間一般の家庭ではお金がとても大切なのだ。さもしいようだが、金を持っていて実際に配分できる人間だけがハーレムを作れるのだろう。


 が、その二人のやり取りにホロロがキレる。



「お二人とも、そのへんにしてください。さすがに我慢の限界ですよ」


「じょ、冗談よ。そんなに怖い顔しないで。ねぇ、アイラ? ちょっとはしゃいだだけだもの」


「そうだよー! お金持ちな男が好きなのは誰だって同じ―――いたーーい! なんか棒でお尻をぶたれたー!」


「海軍の皆様が使っておられる『精神注入棒』です。今後、何か粗相がありましたら、これで殴りますのであしからず」


「この人、こわすぎぃいいいい!」



 海軍では私的制裁用の棒があり、教育?のために尻をフルスイングする習慣がある。


 もともとはイギリス海軍が使っていたムチを参考にして取り入れたものらしいが、ハピ・クジュネにもその文化が伝わっているようで、殴りやすいように改良された逸品である。



「ユキネ様もご理解くださいね。あなたはお金のほうで締め上げますから」


「え、ええ。わきまえるわ。な、仲良くしましょう」


「我々のすべては神のため、ご主人様のために存在します。邪な考えは容赦なく断罪しますので、その身を粉にして働きなさい!」


「ひー! とんでもないところに来ちゃったよーー!」



(上下関係は重要だな。ジュエルの力で意思を感じ取れるし、ホロロさんがいれば大丈夫か)



 ということで、このままホロロが教育係になりそうである。




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