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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
200/617

200話 「決着、ライザック戦」


 ここからライザックは防御を捨て、猛攻を仕掛けてきた。


 アンシュラオンの刀を弾き、強引に間合いに割り込んで拳や蹴りを放つ。


 それはもはや拳だけにとどまらない。身体であればどこでもいいからぶつけてくる、乱雑で苛烈なものだった。


 肘をぶつけ、膝をぶつけ、額を叩きつけてくる。


 間合いができれば躊躇なく二つの準魔剣で攻撃。


 圧す、圧す、圧す!!


 風聯と雷聯による属性反発もあり、まさに船に襲いかかる嵐のような猛撃であった。



「おおおおおお! おかしら! やっちまえええ!」


「見たか、これが海賊の力だ!!」



 ライザックの勇姿に周囲も湧き上がる。


 もはや完全にプロレス会場にいる気分である。


 だが、アンシュラオンは極めて冷静だった。


 無理に刀で反撃せず、一つ一つの攻撃を的確に防御し、回避する。


 剣で斬るには近すぎ、殴るには遠い。


 そんな絶妙な間合いを維持し、ライザックの攻撃をすべて中途半端なものにしてしまう。属性反発の波動も、常に周囲に水泥壁を展開して流す。


 それによって、いまだ無傷である。


 これにはライザックも舌を巻く。



(なんだこの技量の高さは! 攻めているのに、まったく当たる気配がない! これがデアンカ・ギースを倒し、猿の大軍を排除した者なのか! 魔剣士を圧倒したという話も信じるしかないようだな)



 ライザックはユニークスキルを使用して、通常時のガンプドルフと同レベルといったところなので、普通にやって攻撃が当たるわけがない。


 そして、ついにアンシュラオンが動き出す。


 刀で押し込みながら、ライザックの軸足を足で払った。


 ライザックもそれを読んで踏ん張っていたものの、なぜか身体が宙に浮いた。



(なんだ今のは!? 何をされた!)



 達人に投げられた時、素人は何をされたかわからない。それと同じことがライザックに起こったのだ。


 されどパニックを起こしている余裕はない。


 即座に高速の三連撃が、バランスを崩したライザックに叩き込まれる。


 覇王技、『三震孟圧さんしんもうあつ』。


 因子レベル2の技で、拳による高速の三連打を浴びせる技だ。当たった瞬間に戦気を爆発させているので、高威力の衝撃波も一緒にお見舞いする猛打である。


 筋肉が破壊され、骨が砕け、爆散するほどの力が炸裂。


 だが、ライザックもスキルで強化されている。


 なんとか耐え抜き、即座に反撃の剣撃を放つ。


 しかしながら、アンシュラオンはあっさりと切り払い、さらに間合いを変化させて『剣撃』と『拳撃』を交互に繰り出してきた。


 少しでも離れれば鋭い斬撃が襲いかかり、近寄れば圧倒的な技量とスピードによる打撃が飛んでくる。


 ライザックはその攻撃に圧されて下がるしかない。


 なぜならば自分がやりたかったことを、すべて相手側が完璧に仕掛けてきたからだ。



(馬鹿な! この打撃の質は間違いなく戦士のものだ! だが、剣の技量も強力な剣士そのものだ! この男も俺と同じ能力を持っているのか!)



 たしかに『バイキング・ヴォーグ〈海王賊の流儀〉』は強い。特に集団戦においてチート級の能力といえるだろう。


 だが、相手が悪い。悪すぎた。


 この世で『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』に勝る複合スキルは存在しないのだ。


 磨かれていない原石だったならば、バイキング・ヴォーグのほうが一時的には強い効果を発揮したかもしれないが、すでにアンシュラオンは超人の域まで鍛えられている。


 しかも最大の長所は、【因子制限がない】ところだ。


 ライザックが戦士と剣士の因子を覚醒値限界まで強化したとて、合計で10までしか使えない制限がある。こればかりは武人全員に当てはまる基本原則なので仕方がない。


 しかし、アンシュラオンは戦士と剣士の因子を、限界を超えて14までフルに使うことができた。


 何のリスクもなく、最初からすべての因子を無制限に使えるメリットは非常に大きい。



 才能が―――止まらない!!



 溢れ出る輝きの前では、海賊の流儀でさえかすんでしまう。


 次第にライザックに傷が増えていく。肉が切られ、打撲で血が滲む。痣の数も増えてダメージが蓄積していく。


 それでもライザックは笑う。



「なんという才能だ! 素晴らしい、素晴らしいぞ!! お前は海そのものだ! 無限の資源を秘めた宝の山だ! ならば、俺は挑み続ける!! そこに海があるのならば、けっして諦めはしない!! なぜならば、俺は海賊だからだあああああああ!」



 ライザックが完全に防御態勢に入った。


 すでに『心眼』を発動しており、全方位に隙がない。



「俺は両親ともに海賊だ!! その誇りは兄弟随一という自負がある! 絶対に退かぬ!! 返り討ちにしてくれる!」



 ライザックから凄まじい闘志と気迫が溢れ出る。


 弟たちとは違い、生粋の海賊としての誇りが彼を突き動かすのだ。



(いい気迫と判断力だ。激しく燃えながらも冷静さを失っていない。ライザック・クジュネ、あんたは優秀な男だよ。世間の評判なんて意味がなかった。実際に会ってこそわかることもあるよな)



 ここでスザクのように激情に任せて突っ込んでくれば、それまでの男と一撃で決める予定だった。


 しかし、ライザックは彼我の戦力差を冷静に分析し、自己の勝機がカウンターにしかないことを見抜いた。


 熱い闘争心を胸に抱きつつも頭は冷静。


 どんな逆境でも諦めず、最善を尽くす。


 むしろピンチになればなるほど闘志を燃やす、生来の負けず嫌い。


 それがライザック・クジュネという男だ。



「いくぞ、ライザック! もしお前が死んだら、その無念をオレが晴らしてやる! 未練なく海の藻屑になれ!」



 アンシュラオンが、剣気をまとった鋭い刀の一撃で首を狙う。


 特に手加減はしていない。首を落とすつもりで放った本気の一撃だ。


 今は卍蛍を使っているため、デアンカ・ギースの触手を切り落とした時以上の威力を秘めているだろう。



「津波を前に目は逸らさぬ!! 舵取りは俺の仕事だ!!」



 それをライザックは紙一重で見切り、両手の剣で切り払う。


 その際、強い『属性反発』が発生。


 風と雷が弾け、散弾のように噴射してアンシュラオンの視界を覆う。


 そうして目を塞いでおいて、必殺のカウンター。


 交差させた二本の剣で、はさみの形を作ってアンシュラオンの首を狙う。


 剣王技、『斬両鋏刃ざんりょうきょうじん』。


 因子レベル3の技で、剣気を変化させて鋏状にして斬る技だが、風と雷の属性反発が加わることで、因子レベル5の『風斬雷鋏刃ふうざんらいきょうじん』に昇華する。


 ただでさえ危険な技なのに、準魔剣の力が加わればガンプドルフの『雷王・麒戎剣きじょうけん』にすら匹敵する強烈な一撃である。



 だが、刃が捉えたのは―――刀だけ



 すでにアンシュラオンはその場にはいなかった。


 刀を手放して、さらに深く屈んで攻撃を回避しつつ、ライザックの腹に両手を押し当てる。


 覇王技、『水覇・双檄波紋掌そうげきはもんしょう』。


 水覇・波紋掌を両手で放つことで、二つの波紋が体内で激突し、さらに何倍ものダメージを与える因子レベル5の技だ。


 激しい衝撃が身体の中で荒れ狂い、ライザックが大量の血を吐き出す。



「ごばっ…! この程度で……俺は…負けぬ!!」



 いくらユニークスキルが発動中とはいえ、今の一撃で内臓がボロボロになったはずだ。


 だが、ライザックは驚異的な精神力で踏みとどまると、アルにも使った『風雷十文閃ふうらいじゅうもんせん』を放つ。


 使うには間合いが近いが、強引に叩き潰すつもりだ。


 しかしながら、目の前の男はそれすらも超える。


 風よりもはやく、雷よりも鋭く、アンシュラオンは動いていた。


 素早く拳撃を叩き込み、左の肋骨をへし折った。


 それによって、わずかにライザックの左腕に遅れが生じる。


 二刀流は強力な技が多いが、属性反発を使う技の場合はタイミングがもっとも大切だ。同時に力を叩きつけねば意味がない。


 その一瞬の遅れで技は完成せず、アンシュラオンは攻撃をギリギリ回避する。


 同時に蹴りでライザックの左手の甲を砕き、雷聯を弾き飛ばした。


 ライザックは残った風聯で攻撃を仕掛けるが、すでに死んだ間合い。


 こちらも難なく回避し、顔面にカウンターの蹴り。


 頬が砕け、歯が吹き飛ぶが―――



「まだだああああああああ!」



 左手でアンシュラオンの足を掴むと、リングに叩きつける。


 バギンッと衝撃でリングが破壊されるが、アンシュラオンは身体を丸めて受身を取っていたのでダメージはない。


 すでに左手が砕けているので、握力が弱かったせいもあるが、素早く身体を回転させると、あっさりと拘束から抜け出してしまう。



「逃がさん! 飛べ、風聯!!」



 だが、そこでライザックは風聯を『投擲』。


 風の力で加速した剣は、まるで投槍のように一直線にアンシュラオンに向かっていく。


 離脱の直後かつ、突然の攻撃にアンシュラオンはガードを選択。


 いつも通りの見事な防御を見せるが、風聯も準魔剣と呼ばれるほどの業物だ。


 ライザックの剣気で強化された風聯の一撃は、アンシュラオンの防御の戦気を切り裂き、左腕に突き刺さる。


 白い道着に赤い血が滲んだ。



(これで三回目か)



 アンシュラオンが、ふと笑う。


 下界に来てから自身を傷つけた存在は、人外のデアンカ・ギースを含めて、ガンプドルフとライザックで三人目となった。(マキとの勝負は、わざとなのでカウントしない)


 まさに海賊の意地。文字通り、一矢報いた形になる。


 それだけでも偉業ではあるが、ライザックはまだ勝負を諦めてはいない。



(はぁはぁ!! これだけやって刺し傷一つか! 冗談ではない! 素手では勝ち目がないぞ! 何か…なにか得物は!!)



 ピンチに陥ったライザックの視線の先に見えたのは、床に突き刺さっていた白い刀身。


 反射的にライザックが『卍蛍』を拾う。


 それを見たアンシュラオンは、引き抜いた風聯を手に取った。


 互いに得物を交換した状態となる。



「うおおおおおおお!」



 ライザックが使う卍蛍と、アンシュラオンが使う風聯が激突!


 両者ともに業物であり、打ち合うたびに美しい火花が散る。



(あの馬鹿女め、いい刀を打つではないか)



 ライザックは刹那の攻防を繰り広げながら、手に馴染む刀の感触を味わっていた。


 本当は火乃呼が打った刀を持ちたかった。彼女の才能と実力をもっとも認めているのは、ほかならぬ自分だからだ。


 そして、一人の戦友として共に戦えるのならば、これほど素晴らしいことはないだろう。


 ただ互いに距離感を見失っただけ。ちょっとしたすれ違い。だが、それが大きな欠落を招くこともあるのだと知った。


 その証拠に、さきほど蹴られた時に負傷した左目では、アンシュラオンが仕掛けた攻撃を見切ることはできなかった。


 アンシュラオンは斬り合いの中で雷聯を蹴り上げていた。


 相手がすでに心眼を使えていないこと、視界が完全でないことを見抜き、死角をついて小細工をしていたのだ。



 そして宙に浮いた雷聯を掴み、両手で―――切り裂く!



 ライザックがやったものと同じ、『風雷十文閃ふうらいじゅうもんせん』を叩き込む。


 一度見た攻撃をコピーできるのはサナだけではない。『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』を持つアンシュラオンにも可能なのだ。


 その圧力には耐えきれず、卍蛍が弾かれ、腕が裂け、衝撃は胸にまで到達。


 激しく血を噴き出しながら、ライザックがついに膝をつく。



「ごぼっ…ごはっ……これまで…か」


「終わりだ、ライザック」



 その首に刃をあてがう。


 さすがにもう抵抗する力は残っていなかった。




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