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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
197/618

197話 「ライザックの武 その1『風聯』」


 ライザックとソブカが通路に出ると、腰に剣を帯びた一人の女性が立っていた。


 ロイヤルブルーの鮮やかな長めの髪をサイドアップでまとめた美人で、メガネをかけているせいか全体的に理知的に見える。


 体型はすらっとしており、しっかりと引き締まっているものの、胸はそれなりに大きい。マキと小百合の中間くらいのスタイルといえるだろう。



「ファレアスティ、甲板に出ます。いつものアレです」


「はい、ソブカ様」


「ソブカ、側近の女一人で護衛は大丈夫か?」


「私にとって一番大事なものは信頼関係です。その点において彼女に勝るものはありませんよ」


「強いかどうかは問題ではないということか。酔狂なやつだ」



 その言葉が癇に障ったのか、ファレアスティはキッと強い視線をライザックに向ける。



「ライザック様はご自分の心配をなさるとよろしいでしょう。常勝などありえませんので、いくらあなたでも油断すると首を持っていかれますよ。そもそもこのような制度は馬鹿げています。即刻廃止すべきです」


「これが海賊の流儀だ。部外者がしゃしゃり出るな」


「あなたが死ぬのはかまいませんが、くだらぬ面子のためにソブカ様を巻き添えにしないでください。もしやるのならば、ハイザク様かスザク様への引継ぎを終えてからお願いいたします。ちなみに死体は海に放り投げますので、処理に関してはお任せください」


「相変わらず気の強い女だな。よくこんなやつが近くにいて精神を病まないものだ」


「当人の前で言うものではないと思いますが? それにあなたのせいで、私の水聯すいれんが無くなったのです。責任を取ってください」


「わかったわかった、俺が悪かった。ソブカ、なんとかしてくれ」


「ファレアスティ、ここはライザックの家です。家主には好きにする権利があるのですよ」


「ですが、計画の発案者である自覚が足りないと申し上げるほかありません」


「それもまたライザックの魅力です。我々は黙って見物といきましょう。もし何かあっても、それはそれで運がなかったということです。また違うやり方を考えればよいだけです」


「ソブカ様がそうおっしゃるのならば…」



 まだまだ不満げであったが、ここはおとなしく引き下がる。


 そんなファレアスティを見て、ライザックが頭を掻き毟る。



「まったく、うるさい女は苦手だ。女は静かで従順に限る」


「けしかけたのはあなたですがね。苦手なのは、火乃呼さんに似ているからでしょう」


「女がでしゃばると良いことがないのだ。俺の母がそうだったよ。いつも争いの種を撒き散らす」


「いつの時代も男は女には勝てませんよ。なにせ我々人類のトップが女神様なのですからねぇ」


「その女のために働くのが、我々男という名の下僕か。報われんものだな。ソブカ、お前もさっさと結婚して苦しめ」


「そんな結婚の勧め方がありますか? 私は遠慮しておきます」


「目の前にちょうどいい女がいるではないか。健気にもお前のために女を捨てているやつがな」


「彼女は私の秘書ですよ。それ以上の関係ではありません」


「だ、そうだぞ。残念だったな」


「ライザック様が瀕死の時は、私が介錯しますのでご安心ください。さっさと負けて死んでください」


「心よりの応援、痛み入る。さて、いくとするか」





  ∞†∞†∞





 アンシュラオンとアルは、海兵に案内されて軍船の甲板に出ていた。


 大型軍船なので甲板も広いが、所々に砲台や銃火器が設置されているのがわかる。壁には剣や斧、槍といった武具もあった。


 船同士の戦いでは白兵戦も珍しくはない。常に戦の準備をしている様子がうかがえる。



(さすがライザックの軍船だな。造りそのものが全然違う)



 甲板の床は分厚い鉄板で出来ており、さらに核剛金の術式で強化しているため、見た目以上の耐久力を誇っているようだ。


 アンシュラオンが軽く蹴ってみたが凹むことはなかった。砲弾の一発か二発くらいならば耐えられるかもしれない。


 これだけならば普通の船の甲板なのだが、その中央部分には、なぜか幅三十メートルはあるリングが設置されていた。


 こちらも金属製で出来ており、ちょっとやそっとで壊れることはないのだろうが、なかなか違和感のある光景だ。



「なんでリングなんてあるんだ?」


「海賊たちは、よくああいう場所で殴り合いをやるアル。一度海に出ると長いからネ。そういう娯楽も必要ヨ。暗殺もあそこでやるアル」


「なんだかなぁ。暗殺ってのはもっとこう、隠れてやるんじゃないのか? これじゃパフォーマンスだ」


「実際そうネ。たまに観客も来るアル。ライザックの目的は公平さのアピールによる不満の解消ヨ。むしろ見てもらったほうがいいネ」


「なるほどな。一般人の不満を放置しておくと治安悪化に繋がるか。不正をしても捕まらないやつらを見ているとイライラするもんな」



 たとえば日本の国会議員ならば、それができるかはともかくとして、ひとまず制度として選挙で落とすことが可能だ。それによって民意を示して溜飲を下げることができる。


 一方、官僚やその他組織の職員に関して文句があっても、簡単に辞めさせることはできない。そうなると不満が溜まり、暴力的な事件が起きる可能性が出てくる。街の治安も悪化するだろう。


 がしかし、いつでも自分の力で殺しに行けるとなれば、上記と同じくできるかはともかくとして、その手段が用意されていることで民は安堵するものだ。


 人々は可能性がゼロになる閉塞感が嫌なのである。少しでも可能性があることで極端な行動に出ることを防止できる。


 ただし、結局は自分でリスクを冒す者は少ないため、実際に挑戦するのは物好きだけとなるのだが。



(かなり無茶でリスクはあるが、総合的には悪くないシステムだ。しかし、殺されたら終わりの一発勝負でもある。負けたらどうするんだ? それとも、いざとなれば周りの連中が助けるのか?)



 周囲には自然と海兵たちが集まり始めていた。その数は、いつしか二百人近くに及んでいる。


 この船にいるのは全員がライザック親衛隊なので、一目見た瞬間に街にいる海兵とは質が違うことがわかるだろう。一人一人がシンテツ級の実力者だ。


 仮にライザックが負けても、彼らがここで目撃者と挑戦者を殺してしまえば誰にもわからない。権力者が約束を守ることは少ないのだ。


 そんなことを考えていると、海兵たちの集団が二列に分かれた。


 そこにライザックが現れる。



「また俺に挑戦しようという馬鹿が来たか! ただの馬鹿は嫌いだが大馬鹿者は好きだぞ! どんどん来い!」



 豪快に声を張り上げながら、海兵が作った道を歩く。


 屈強な海兵たちは、その太い腕を胸の前でクロスさせた状態で、彼が通る姿を見守る。


 そこには主に対する敬愛と敬意、憧れと誇りが見て取れた。



「お前ら! 海賊の誇りを持っているか!」


「おおおおっ!!」


「戦う者には敬意を払え! 逃げるやつには侮蔑と屈辱を与えろ!!」


「おおおおっ!!」


「死は怖れるものではない! 戦わないことを怖れろ!!」


「おおおおっ!!」


「勝者には祝福を! 敗者は海に捨ててしまえ!!」


「おおおおっ!!」


「俺が死んだら、次はお前たちの時代だ! 自らの力で栄光を勝ち取れ!」


「おおおおっ!!」


「待たせたな! 俺がライザック・クジュネだ!」



 まるでプロレスの入場シーンを彷彿させる派手な登場の仕方が終わると、ライザックはコートを脱ぎ捨てる。


 その下には戦闘用の胸当てが装備されており、腰には二本の剣を差しているのが見えた。



(あれがライザックか。思っていた人物とは違ったな。こいつは『本物の武人』だ)



 アンシュラオンの予想は、良い意味で裏切られることになった。


 ライザックは自分が死んでも、けっして部下に仇討ちをさせるような男ではない。発せられる波動から、それがひしひしと伝わってくる。


 闘争の中に生き甲斐を見い出し、生きる意味を悟るタイプの男。


 つまりは、武に生きる大馬鹿野郎である!!



「老師、懲りないな。それとも俺の部下になりたくてやってきたか? あの家で老体の身では夜が寒かろう」


「馬鹿を言うでないアル。生涯現役、それがミーの矜持ネ」


「それは残念だ。今日は珍しく連れがいるようだな」


「まあネ。あとで紹介するアル」


「紹介できるだけの体力が残っていればいいがな。さぁ、リングに上がれ」


「んじゃ、ちょっと行ってくるアル」


「オレはどうすればいいんだ?」


「そこで見ていればいいヨ」



 アルは、アンシュラオンたちを外野に残してリングに上がる。



(ライザックの力を見る好機か。遠慮なく観戦させてもらおう)



 ただ、ルールがわからないので、隣にいた海兵に話しかけてみた。



「ねぇ、この戦いはリングの外に出てもいいの? 出たら負けになったりする?」


「出ても問題ない。甲板すべてがリングだが、一応の区切りをつけているだけにすぎない」


「じゃあ、最初から陸でやれば?」


「船こそ我々の陸だ。それに陸地だと邪魔が入りやすいからな」


「たしかにね。さすがに一斉に来られると分が悪いか」


「勘違いするな。ライザック様は負けぬ。余計な手間と時間をかけぬためだ。この船にやってくる度胸がある者だけに、戦う権利が与えられるのだ」



 船に直接来る、という条件があれば、冷やかしや弱い者は迂闊に近寄れなくなる。


 メール連絡だけだと会社を休みやすくなるのと同じだろうか。電話連絡文化がまだまだ残っているのは、そういった圧力をかけるためでもあるわけだ。



「サナ、よく見ているんだよ。二人ともかなりの手練れだ。勉強になるぞ」


「…こくり。じー」



 戦いは、特に合図もなく始まった。


 ライザックが剣を抜く前にアルが動く。


 すすっと地面を音もなく移動。


 一気に懐に潜り込むと、後ろ手にしていた拳を抜いた。



 その拳は―――閃光



 目にもとまらぬ速度で放たれた拳が、ライザックに襲いかかる。


 ライザックはまだ迎撃の態勢が整っていない。


 だが、拳が完全に伸びきる前に、鞘の途中まで抜いた剣で対応。柄を下から拳に叩きつける。


 この場合は単純な力勝負になり、老いているとはいえ戦士であるアルのほうが有利となるはずだった。


 しかしながら、結果は押しきれずに逆に弾かれる。アルは後退を余儀なくされた。


 そこからライザックの間合い。


 二本あるうちの一本の剣を完全に抜いて斬撃。


 アルは後方に下がるが、刀身から風の刃が生まれて追尾。


 回避したものの、袖の一部がすぱっと切られる。



(あの剣、風をまとっているのか? だが、風気とは違うようだが…)



 アンシュラオンも、その剣が普通ではないことに気づく。


 ライザックの剣は刀身の周囲に風が渦巻いていたが、あれは風気ではない。



「悪いが最初から武器を使わせてもらうぞ。老師ほどの達人相手に、さすがに素手だけとはいかんからな」


「どうぞ、好きにするネ。それにしてもアズ・アクスを潰そうとした男が、アズ・アクスの剣を使うとは皮肉アル」


「そんな言葉で動揺するほど安い男ではないぞ!」



 ライザックが剣を振るごとに風の刃がアルを襲う。


 アルはぬるぬるっとその攻撃を回避するが、風の圧力が強くてなかなか近寄れない。


 準魔剣、『風聯ふうれん』。


 アズ・アクスの筆頭鍛冶師であり、炬乃未の父親でもある杷地火はじかが作った『侯聯こうれん』シリーズの一本だ。


 侯聯シリーズは、四つの基本属性をコンパクトなサイズで最大限発揮することを追求したもので、四本とも扱いやすい片手剣でありながらも、威力はそこらの大剣を遥かに凌駕する代物だ。


 熟練した凄腕の鍛冶師が打った質の良さに加えて、最大の特徴は、良質な魔石を使った高い属性攻撃の追加効果にある。


 風聯の場合は常に風の力をまとっており、風気と同等の力を発揮できる優れものだ。こうして離れた間合いからでも風鎌牙と同じ攻撃が可能なのだ。



「さらに上げるぞ!!」



 ライザックが発気。


 溢れ出る戦気を吸って、風聯が発する風も増強されて暴風に至る。


 見れば、風聯の柄にはジュエルが付いており、彼の戦気をエネルギーに変換して剣に送っているようだ。


 これはスザクが使っていた『インジャクスソード〈無刃剣〉』と同じもので、現代の技術では再現が難しいため、海底遺跡から発掘された他の術具から移植したものだ。


 言ってしまえば、ハピ・クジュネとアズ・アクスが共同で作り上げた剣こそが、この侯聯シリーズなのだ。




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