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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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193話 「炬乃未からの依頼」


「見てください! 輝きが違いますよ! あはー、綺麗です!」


「私のものも、前より輝きが増したように思われます。素敵ですね」



 小百合とホロロが、ギアスがかかったジュエルに何度も触れてニコニコしている。


 普段は感情を表に見せないホロロも満面の笑顔だ。よほど嬉しかったのだろう。


 また改めて術式と命気による補強をしておいたので、ずっと付けっぱなしでも問題ない。むしろ簡単に取れると困るので、基本は身に付けたままが好ましいだろう。



「いいなぁ、私も何か欲しいわね。せっかくアンシュラオン君から腕輪をもらったのに、戦闘中だと外しちゃうもの」



 コッペパンで出会った時の腕輪のことだ。サナのペンダントと一緒に買ったものだが、はめるジュエルがないのならば単なるアクセサリーでしかない。



「マキさんはギアスはまだ無理だけど、ほかに面白いジュエルが手に入ったら覚醒させて使うのもいいかもね。もう少し待ってくれる?」


「約束よ?」


「うん、約束だよ」



(マキさんも他の女性がいると意識するんだよね。いい傾向だ)



 これでジュエルの覚醒とギアス付与が終わり、アルとモヒカンの仕事は終わった。


 残るは炬乃未の用事だけだ。



「オレに頼みたいことがあるんだよね? 上に行く?」


「もしよろしければ、結界が張られているここでお伝えしたいのですが、かまいませんか?」


「オレの家にまで来るくらいだ。他人には聞かれたくない内容なんだよね。じゃあ、ここで聞くよ」



 テーブルと椅子を用意して、皆で座る。


 ちなみにロリコン夫妻は、薬の買い手がついたか確認しに街まで行っているので不在だ。


 スザクの邸宅を購入したことで海軍からは『スザク派』という認識を持たれたらしく、さらに護衛を増やしてくれたので大丈夫だろう。


 もちろん完全には信用しておらず、モグマウスも忍ばせているため、襲われてもそう簡単に誘拐はされないはずだ。


 そして、場が落ち着いたところで炬乃未が事情を語り始める。



「単刀直入に申し上げますと、アンシュラオンさんには姉たちの【救助】をお願いしたいのです」


「まあ、どう考えてもその話だよね。でも、救助とは? ライザックと揉めて自発的に出て行ったんだよね?」


「最初は父と姉自らの意思で出て行ったはずです。それは間違いありません。しかしながら、現状ではほぼ囚われている状況にあります」


「その言い方だと、火乃呼かのこさんたちの居場所はわかっているんだよね?」


「はい。実は最初から行き先を告げて出て行ったのです」


「家族なんだし、そのほうが自然か。半分はアピールの意味もあったんだろうしね。それで、どこにいるの?」


「『翠清山すいせいざん』はご存知ですか?」


「端っこの麓までだけど、この前のスザクとの盗賊壊滅作戦で行ったよ。その時に猿の魔獣の大軍と戦ったんだ。オレがこの家を買うきっかけになった出来事でもあるね」



 炬乃未にア・バンド殲滅戦と魔獣の軍勢の話を教える。


 彼女には補助具作成に使ってもらうために、デリッジホッパーや右腕猿将のジュエルを渡しておいたこともあり、特に魔獣に関して興味深そうに聞いていた。



「そうでございましたか。そこまで状況は悪化しているのですね。わたくしも魔獣の侵攻の話を耳に挟みまして、本日参るきっかけになったのです」


「もしかして、お姉さんたちは翠清山にいるの?」


「その通りです。もともと翠清山は、古来より清らかな水と鉱物が採掘できる場所として、鍛冶師ならば知らない者はいない霊峰でもあります。父や姉がそこに向かったのは自然の流れなのです。我々も修練のために何年かに一度は山に入って鍛冶に集中します。ですので、鍛冶の設備も存在しております」


「なるほど、そこなら好き勝手鍛冶ができるんだね。買い手はいくらでもいるから、他のところに卸しても十分やっていけそうだ。でも、翠清山にはあんな猿の魔獣がたくさんいるんだよね? 危険じゃないの?」


「これもお伝えしなければなりませんが、翠清山の山神たちは、そこまで凶暴な魔獣ではなかったのです。山から出ることは滅多にありませんし、ましてや人を襲うこともほとんどありませんでした」


「オレと戦った時は、すごい好戦的だったけど? 殺す気満々だったよ?」


「当然、人間が自分たちのテリトリーを侵せば反撃してきます。犠牲になった者たちも大勢いますが、その大半は密猟者たちです。そのような無法者とは違い、わたくしたち鍛冶師は礼節をもって彼らと接します。赴く際は山に立ち入る許可を受けるために、手土産を渡すといった取引も行っておりました」


「魔獣とそこまで親交があったの? ちょっと驚きだな」


「それだけ彼らは高い知性を持っているのです。猿神に関しては、ほとんど人間と変わらないでしょう。姉たちが山に入ったのは二年ほど前ですから、その当時は魔獣は人間を警戒はしていても、襲いかかるほどではなかったはずです」


「でも、今は違う。あいつらは人間と全面戦争を開始した。その理由に心当たりはある?」


「一年ほど前に、海軍が大規模な山の調査を行ったようなのです。そこで山神との間で衝突が起こり、双方にかなりの被害が出たと聞いております。それから一気に険悪になりました」


「海軍がわざわざ山に行ったの? お姉さんたちを助けるため?」


「わたくしも最初はそう思ったのです。ライザック様が姉を想って、ついつい過激な行動を取ったのかとも。ですが、どうやら違うようなのです」


「ライザックは、お姉さんたちが翠清山にいることは知っているんだよね?」


「はい。ハピ・クジュネにとってアズ・アクスは重要な存在ですから、出て行った時から監視していたと聞きました」


「お姉さんの救助が目的じゃないなら、ライザックの目的は何なの?」


「そこまではわかりませんが…あの御方は、あまり山神のことを好ましくは思っていないように見受けられます」


「そりゃ普通の人間から見れば、魔獣は厄介者でしかないからね。嫌うのも当然だ。ただ、今までのライザックの行動から、かなり頭が良いことはわかる。理由もなくそんなことはしないよね。今のところ山に入る理由なんて三つくらいしか考えられないよ」



 一つは、アズ・アクスの鍛冶師を連れ戻すこと。


 もしそうでないのならば、二つ目の『魔獣狩り』か、三つ目の『資源の確保』だ。



「偶発的な衝突だったのならば、資源の確保が一番妥当な理由かな。今炬乃未さんが言ったように、豊富な水と鉱物資源があるんだよね? それだけでも価値があるし、あれだけの山脈なら食糧だってたくさんあるはずだ。その調査の可能性が高いね」


「そうかもしれません。しかし、魔獣を刺激するだけの愚かな行為でもあります」


「実際、スザクたちも危なかったからなぁ。あの魔獣の強さから考えると無駄に争うのは得策じゃないね。武具を使う魔獣なんて珍しいよ」


「そのことなのですが…右腕猿将が持っていた武器を見せてもらってもよろしいですか?」


「あの術式剣のこと? いいよ」



 アンシュラオンが『バッドブラッド〈止血防止の悪童〉』を取り出す。人間が扱うには大きすぎるため、はっきり言って使い道があまりないものだ。


 しかし、それを見た炬乃未の表情は曇る。



「やはりそうです。これはおそらく【父が打ったもの】です」


「え!? 杷地火はじかさんが? だって、魔獣の武器だよ?」


「父は猿神への土産として、毎回刀剣を打っておりました。猿神は刀剣が好きで、群れの長に珍しい剣を捧げることで入山の許可をもらっていたのです。この武器には見覚えがありませんので、かなり昔に打ったものだと思いますが、この打ち方は父のもので間違いございません。また、鎧を着ていたとのことですが、防具といったものは今まで納めたことはありませんので、新たに作ったと思われます」


「ちょっと待って。すごく嫌な予感がしてきたんだけど…」


「アンシュラオンさんのご想像通り、父たちは【山神に協力している】ものと思われます」


「嘘でしょ!?」



 この情報には、さすがのアンシュラオンでも驚きである。


 開いた口が塞がらない。



「ええと、情報を整理すると、昔から杷地火さんたちは翠清山に入るために、あの猿たちに武器をプレゼントして友好関係にあった。だから二年前も、それを伝手にして翠清山に行った。そこならば鍛冶の素材には困らないし、山神も守ってくれるから隠れ住むにはもってこいだ。ここまではいいよね?」


「はい」


「そして一年前の海軍との衝突で、魔獣が人間に対して攻撃的になった。今回の魔獣の侵攻は、その延長線上で起きたことなんだよね?」


「わたくしが知る限りでは、その通りでございます」


「でも、ディムレガンだって亜人とはいえ人間だよね? 魔獣の攻撃対象にはならないの? …いや、だからこそか。炬乃未さんは、杷地火さんたちが『身を守るために魔獣に協力している』と考えているんだね?」


「おっしゃるように、ディムレガンもやはり人間です。一度憎しみが生まれた以上、魔獣からすれば簡単には受け入れがたい存在でしょう。しかしながら、武具を提供する協力者になるのならば、害される危険はほとんどなくなります。逆に父たちの存在が侵攻の決め手になった可能性もございます」


「ふむ…たしかにオレも、あいつらがどこから装備を得ているのか疑問だったんだ。明らかに魔獣用にカスタマイズされているからね。魔獣の鍛冶師がいるのかと疑ったくらいだもん。だが、よりにもよってアズ・アクスのディムレガンたちか…最悪だ」



 バッドブラッドは卍蛍に匹敵する業物だ。


 刃と刃が衝突した際に共鳴現象を起こしていたのは、打ち手が近しい者だったからだろう。


 そんなものが大量に魔獣の手に渡ったらと思うと、考えるだけでぞっとする。


 仮に防具だけであっても耐久力が高い魔獣が鎧まで着込んだら、もはや普通の人間に勝ち目はない。



「お姉さんたちとは連絡を取り合っているの?」


「一年前の出来事で、翠清山は完全に立ち入り禁止になってしまいました。その前に最後の文をもらったときは、他愛もない安否確認くらいでしたので、残念ながら現在の状況はわかりません」


「それは心配だね。酷い扱いになっていなければいいけど…。翠清山は今も立ち入り禁止なの? ホワイトハンターなら入れるかな?」


「わたくしもハローワークに問い合わせてみましたが、階級に関わらず海軍以外の立ち入りは禁止されているそうです」


「海軍以外…となると、ハローワークよりもライザックの命令のほうが上なのか」


「ライザック様は、都市の重要機関すべてと独自の繋がりがあります。ハローワークにも強制力を行使できると聞いたことがございます」


「癒着と不正か。あそこも終わってるね。ところで、さっきからやたら情報が正確だよね。炬乃未さんの情報の出所はどこなの? ライザックじゃないみたいだし…軍の関係者に知り合いでもいるのかな?」


「軍ではないのですが…お客様の一人に情報通の御仁がおられまして、そこから情報を得ております」


「そいつは誰なの?」


「ずっと父が打った剣が欲しくて何度も通われたのですが、そのたびに殴り帰されていたお客様です。父は使い手に相応しくないと判断すると剣を売らないのです…」


「それ、経営として大丈夫?」


「値段が高いのでなんとか…。それで三年ほど厳しい鍛錬を積んだらしく、久方ぶりに意気揚々とやってこられたのですが、その間に例の一件が起こってしまいました。父がその剣を翠清山に持っていったことを知り、お客様もかなり落胆しておられましたね。それ以後、その御仁を通じて情報を得てきたのです」


「ああ、武器類は全部持っていったとか言っていたね。そいつも不運なやつだなぁ。でも、そいつは海軍じゃないのに、どこから情報を仕入れているんだろう?」


「どうやらライザック様の取引相手らしいのです。長年の付き合いがあるらしく、ご自分の剣のこともあり、情報を提供してくださっております」


「剣士なのかな? もしそうなら質の高い剣は諦められないよね。それで炬乃未さんのお願いは、火乃呼さんたちの救助なんだよね。オレに助けに行ってほしいってことでいい?」


「誠に身勝手なお願いだと承知しております。わたくしができることは何でもいたします。今回作る武器も、すべて無償で製作いたします。ですから、どうぞ…なにとぞ姉たちをお助けくださいませ」


「家族だもんね。心配になるのは当然だ。いいよ。オレがやれることは全部やってみる」


「よ、よろしいのですか?」


「そんなに驚くことはないでしょ? 君はオレならばやれると思ったから、ここに来たんだ。その期待には応えたい」


「し、しかし、あまりに危険で…」


「大丈夫だ!!」


「っ…」


「オレなら大丈夫だよ。魔獣相手は得意なんだ。簡単にやられるほど弱くはないさ。君が見込んだ男なんだ。もっと信じてほしいな」


「…はい。ありがとう……ございます」



 炬乃未から涙がこぼれる。


 それだけずっと気に病んでいたのだろう。家族が凶暴化した魔獣の中に取り残されていると考えれば、その気持ちも当然だ。



「ただ、緊張状態から一年経っているのが気になるね。まだ無事だといいけど…」


「武器を提供している限りは大丈夫だと思います。それにわたくしどもの家系は、ディムレガンの中でも戦闘タイプに属しまして、多少の荒事にも対応できます。特に父や姉はかなり頑強なので、そこらの魔獣には負けません」


「自分の武器も持っているんだろうし、安全であることを祈りたいね。翠清山のどこにいるのかはわかる?」


「父が毎回訪れる『琴礼泉きんれいせん』という場所がありますので、今もそこにいる可能性が高いと思われます。地図もございます」


「場所がわかっているなら楽勝だ。じゃあ、すぐに行こう」



 アンシュラオンが席を立つが、その前にアルが制止する。



「ちょっと待つネ。ライザックに無断で行ったら関係が悪化しかねないアル」


「山はハピ・クジュネの所有物じゃないんだから、べつに問題ないだろう? 黙って入ればわからないさ」


「あの男を甘く見ないほうがいいネ。監視しているだろうし、自分のやることを邪魔されるのが嫌いヨ。もし何かの考えがあって動いているのなら、なおさらアル。いくらスザクと仲が良いとはいっても、ライザックは別の命令権限を持っているネ。こじらせないほうがいいヨ」


「ライザックは面倒くさいやつだなぁ。だが、ハピ・クジュネに暮らしている以上、あんまり派手にやるとまずいか。家にはアロロさんやロリコンたちもいるし、スザクにも迷惑がかかる」


「そこでミーの出番アル。前に言ったことを覚えているネ?」


「別口でライザックと会う方法があるとか言っていたな」


「そうアル。ライザックにユーを認めさせるヨ。頑固な男だけど、損得勘定ができる男ネ。アズ・アクスも絡むなら、先に話をつけておいたほうが楽アル」


「何事も根回しが重要か。わかった。じいさんに任せるよ」


「ライザック様との交渉では、わたくしの名前を出してもかまいません。なにとぞよろしくお願いいたします」


「君は鍛冶のことだけ考えてくれればいい。それ以外の面倒事はこっちで処理するからさ。大丈夫。なんとかするよ」


「アンシュラオンさん…本当になんと御礼を申し上げればよいのか…」


「御礼は成功してからね。まずはライザックをなんとかしないといけないし、すべてはそこからさ」



(どちらにせよ深く関わることになっちゃったな。だが、アズ・アクスの力はオレたちにとっても必要だ。彼らを味方につけることができれば、さらに戦力が増えることになる。原石集めもできるし、けっして悪い条件じゃないな)




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