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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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192話 「魔人への忠誠、変質の条件」


「最初はホロロさんからでいいかな? 約束していたもんね」


「ホロロさん、がんばってきてくださいね!」


「ありがとうございます、小百合様」



 順番としては二番目の妻である小百合が先なのだろうが、ホロロを快く送り出す様子が微笑ましい。



(あの時から仲良くなったな。小百合さんが上手く間を繋げてくれているのは助かるよ)



 闇市場の一件から両者の距離も縮まり、よく会話をしている光景が見られる。そのことから派生し、マキとホロロの関係も良好のようだ。


 当人いわく「身内以外は愛せない」とのことだが、逆に家族となった者は誰であれ受け入れることができるのが強みである。



「ホロロさんはそこに手を置いてね」


「はい」



 用意する物はサナの時と同様に、ギアスの術式が付与されたジュエルを機械にはめてから、筒の中に触媒としての思念液を注ぎ、その中に媒体となるホロロのジュエルを入れる。


 あとはアンシュラオンも手を置いて念じれば、ギアスの術式が機械を通じてジュエルに移される仕組みだ。



(誰でも錬金術師と同じ真似ができるんだから、相変わらず怖ろしい技術だ。モヒカンの話じゃ、初めて生まれたスレイブ国家にいた錬金術師が開発したとか言っていたけど、すごいものを遺したものだよ)



「それじゃ、いくよ。気分を楽にして」


「あなた様についていくと決めた時から、私の心はすでにご主人様のものです。ああ、神よ」



 ホロロは目を瞑り、祈りを捧げる。


 神とはもちろん、目の前にいるアンシュラオンのことである。



「ホロロさん、あなたをオレのスレイブにするよ。いついかなる時もオレとサナの近くにいて尽くしてほしい。妻として、メイドとして、その生命が尽きる瞬間まで絶対の忠誠を誓ってくれ」


「はい、喜んで。この身、この心、この魂のすべてを捧げます」


「その代わり、オレはあなたに力を与えると約束しよう。生活を保証し、愛を与え、富める時も病める時も、喜びの時も哀しみの時も、全力で守ると誓う」


「すべてに同意し、全面的に受け入れます。神よ、どうかギアスの祝福をお与えください」



 ギアスが組み込まれたジュエルが色を失うと、思念液の中に溶け込んでいく。


 そこにアンシュラオンとホロロの思念が混じり合い、ジュエルに『誓約』が刻まれていくのだ。


 そして、今回も光が生まれて意識が呑まれていく。



 そこは大きなみやこだった。


 大勢の人々が行き交う巨大な都市で、その中心部には、それに相応しい白い大きな城がそびえていた。


 そこにホロロがいた。


 今と同じ若々しい姿であり、メイド服を着ていることも同じであるが、何よりもその背後には何十人ものメイドを引き連れて通路を歩いている。


 メイドたちは大人の女性もいれば子供もおり、中には亜人のような者もいる。全員に共通していることは、首輪に色とりどりの宝石をはめていることだろうか。


 映像の中のホロロもまた、チョーカーに『紫のジュエル』を付けており、先頭を堂々と歩いていた。


 彼女たちがたどり着いた部屋も大きく豪奢であったが、そこにいたのは―――



(サナだ。大人のサナだ! なんて可愛いんだ。こんな可愛い女性は、ほかにいないよなぁ…うっとり)



 以前の映像で見た大人になったサナがいた。


 今の愛らしい姿をそのまま成長させたような童顔で、スタイルを大人にした日本人らしい美女である。


 ただし今回は前のようにボロボロではなく、黒いドレス風の服を着ていた。無表情だが、どことなく笑顔を向けているようにも見える。


 ホロロはサナにかしずき、身の回りの世話をしていた。他のメイドにも指示を出し、護衛もしているようであった。


 サナの傍には、いつも彼女がいた。


 その様子から、心から敬愛の念をもって接してくれていることがわかる。



(ホロロさん、ありがとう。サナのために尽くしてくれて…本当にありがとう。あなたに出会えてよかった。だからオレも…あなたに力を…)



 その輝きがジュエルに吸収されると同時に、一気に思念液を飲み込んでいく。


 あっという間に二十リットルはあったであろう液体が空っぽになり、ころんと『瑠璃色のジュエル』が筒の中に転がった。



「これで…終わりだよな?」


「………」


「モヒカン、終わりだよな?」


「あ、ああ…そうっす。でも、こんなの初めて見たっす」


「お前も映像を見たのか?」


「映像? 何のことっすか? その液体のことっす。全部なくなったっす。高いっすよ、それ」


「お前は金のことしか考えていないのか。って、二回目だなこれ」



 どこかで見たやり取りである。


 まさにグラス・ギースのモヒカン一号と同じ反応だ。



「ホロロさんは何か見えた?」


「映像…ですか? 私は見ませんでしたが、とても温かい光に包まれて……ううっ…」


「どうしたの!? 何か違和感があった!?」


「そ、そうではなく…申し訳ありません。あまりの快楽に…少し…ぽっ」



 ホロロが股を閉じてスカートを押さえている。


 どうやら彼女には映像が見えない代わりに、強い力に抱かれる快感が走っていたようだ。それによって少しだけ下着を汚してしまったらしい。



「何か異常はない?」


「はい、大丈夫です。とても清々しい気分です。魂まで愛されているのがわかります。まさかギアスがこれほどのものとは…。このような充実感と幸福感は、人生で一度も味わったことがありません」



 ギアスと聞くと悪いイメージしかないが、ホロロの発言からすると、完全に受け入れた場合は強い安心感を抱くらしい。


 たとえれば、絶対に破られない愛の約束を交わしたようなものなので、常に愛されている感情が湧き上がるのだろう。女性からすれば夢のような術式である。



「よかった。無事に成功したんだね。あとはチョーカーにはめればいいんだけど…アル先生、どう?」


「ふーむ…」



 アルが完成したジュエルを調べた結果。



「全部じゃないけど、変質の兆候が見られるヨ。少しずつ侵食が開始されているアル。やっぱり【因子情報が書き換えられている】ネ」


「テラジュエルになったのか?」


「まだそこまでじゃないアルが、飛躍的に品質が向上しつつあるヨ。もともと『C+』だったけど、現状では『B+の魔石』と呼んで差し支えないアル」


「やっぱりギアスが原因だったのか。どういう原理なんだ?」


「わからないアル。こんなこと普通は起こらないヨ。ユーは何者ネ?」


「そんなこと言われてもな。オレはオレだよ」


「もしこれがユーの特異能力だとしたら、とんでもないことになるアル。絶対に他人に知られちゃいけないヨ」



 アルが真剣な表情で訴えるのは珍しい。それだけ危険を伴うことなのだろう。


 なぜならば、アンシュラオンがギアスをかければ、それだけで『全員がジュエリストになる』可能性を示しているからだ。


 もしテラジュエルに変質し、それを扱えるだけの訓練を積めば、世界で十数人しかいない『ジュエル・パーラー〈星の声を聴く者〉』が、何十人も、あるいは何百、何千人と量産されるかもしれないのだ。


 そんなことが起きたら世界中のパワーバランスがひっくり返ってしまう。


 大国でも大騒ぎになり、アンシュラオンを味方に引き入れようとする者や、逆に殺そうと刺客を送る者が大勢出てくるだろう。



「それはさすがに勘弁だな。アル先生は黙っていてくれるんだろう?」


「もちろんネ。たとえ言いふらしても誰も信用しないヨ。そうしている間に消されて終わりアル」


「まあ、そうなるだろうな。関わったのがあんたでよかったよ。モヒカンもわかったな? 命が惜しければ協力することだ」


「ひ、ひぃいい…巻き込まれたくなかったっす…」


「だが、オレが何人か実験した時は、こんなことは起きなかったぞ? 映像も光も出なかったし、逆にちょっと頭がおかしくなってしまったくらいだ。その失敗があったから今回も少し怖かったしな」


「いろいろと要因はありそうヨ。そもそもユーの思念は強すぎるから、普通の人間では受容できない可能性が高いアル。メイドみたいに全面的に受け入れつつ、ユーとある程度の時間を接して慣れる必要があるかもネ。賦気と一緒よ」


「それはありそうだな。一緒にいると自然と影響を与えるから、普段の生活で波動に馴染んでいく。それが準備期間になるのか」


「それ以外に考えられるのは、魔獣鉱物を媒体にしている点ネ。たぶん普通の媒体では耐え切れないアル」


「魔獣の力が強くないと結晶化すらしないからな。癖が強い反面、耐久性が高いのかもしれない。ホロロさん、もし何か異常があったらすぐに教えてね」


「私は大丈夫だと確信しています。ああ、これで神と一つになることが…うふふふ」



(今のところ条件は二つあるようだな。一つは、オレに対してすでに絶対的な忠誠を誓っていること。高い受容力があるから反発しないで術式が構築されるんだ。実験の相手は恐怖と抵抗心が強くて、そこに強引に術式が入り込もうとして精神が壊れる結果になってしまった。最初から従順であればあるほど効果は発動しやすいんだ)



 それはサナを見れば一目瞭然だろう。


 底無しの受容力を持っているから、どんなことでもすぐに吸収できるのだ。



(もう一つは、媒体自体が強くあればあるほどいいこと。これは当然だな。ただ、魔獣鉱物以外の地層鉱物でも大丈夫なのかは実験が必要だが…たぶん問題はないだろう。品質が大事ってことだ。ただ、ほかにも条件があるかもしれないから、今後も引き続き調査は必要か)



「やりましたね、ホロロさん! おめでとうございます!」


「ありがとうございます。次は小百合様ですね。成功をお祈りいたしております」


「任せてください! ドーンと決めてきますよ! アンシュラオン様、小百合もよろしくお願いします!!」



 続いて小百合の番である。


 彼女もホロロ同様、同じように準備をしてギアスをかける。



「小百合さん、あなたをオレのスレイブにするよ。いついかなる時もオレとサナの近くにいて尽くしてほしい。妻として、その生命が尽きる瞬間まで絶対の忠誠を誓ってくれ」


「はい、喜んで! あなたの小百合は、いつでもお傍におります!」


「その代わり、オレはあなたに力を与えると約束しよう。生活を保証し、愛を与え、富める時も病める時も、喜びの時も哀しみの時も、全力で守ると誓う」


「すべて同意して受け入れます! わが夫とサナ様のために全力で尽くさせていただきます! 愛のためなら小百合は死ねます!」



 すると、光が広がって映像が見えた。


 映った場所は、ホロロと同じ巨大な都市である。


 ただし彼女がいるのは城ではなく、都市にあるこれまた巨大なハローワークであった。


 ハピ・クジュネのものが馬小屋に感じるほどの大きさで、その規模と人数の多さは、それだけで街かと思えるくらいだ。


 そこに今と変わらない容姿の小百合がいた。


 働いている姿も今と同じだが、着ている制服と居る部屋が違う。


 彼女がいるのは、そこで一番の権力を持つ者が座る席であり、周囲には頭が良く、仕事ができそうな優秀な者たちが彼女の命令を待っている。



(はは、小百合さん。随分と偉くなっちゃって。でも、やっていることは同じなんだよなぁ)



 相変わらず自由にやっているので、突飛な命令に困惑した部下たちが四苦八苦している姿が映っている。


 だが、雰囲気は良く、明るい彼女の性質が組織全体に行き渡っているようだ。そこでは職場不倫も不正アクセスも起こらない。何よりも彼女が許さない。


 そして、その職員の誰もが宝石を身に付けていた。小百合も結婚指輪をしているのが見える。というか、常に見せつけている。


 そんな彼女は、とても幸せそうだ。



(小百合さん、いつも変わらない笑顔を見せてくれてありがとう。あなたのおかげで、オレだけじゃ得られなかった幸せを味わうことができた。だからオレも…あなたに力を…)



 映像が光に吸収され、思念液を全部吸った術式がジュエルに収まっていった。


 ころんと筒の中にグリーンのジュエルが転がり、契約は終了した。



「小百合さん、大丈夫?」


「………」


「小百合さん!? まさか何かあったの!?」


「うう……」



 小百合がうずくまったので、何事かと慌てて近寄るが―――



「さいっこううううううううううううう!!」


「どわっ! びっくりした!」


「アンシュラオン様! 最高です!」


「だ、大丈夫なの? 痛いところとかないの!?」


「小百合はいつでも健康で丈夫ですよ! ああ、これで本当に結婚成立ですね! 小百合はあなたの本当の妻になりました! いやったぁあああああああああああああああ!!」



 アンシュラオンに抱きついて大喜びだ。まったく異常はない。


 そして、ジュエルを調べているアルも頷く。



「こっちも変質しているヨ。まだ力が揺らいでいるけど、品質的には『A-』ってところネ」


「夢兎はそんなに強い魔獣じゃないんだよな?」


「そうアル。希少種でも『C+』か、せいぜい『B-』が精一杯ネ。ワンランク上がるだけでもジュエルにとっては一大事ヨ」


「ともあれ、ギアスが成立したならよかったよ。でも、迂闊に普通の人にかけられないのは困ったけどね」


「それなら『代理契約』で対応できるかもしれないっす」



 ここでまさかのモヒカンが意見を述べる。



「今までの話を聞いている限り、旦那の力が強すぎるのが問題っす。どうも旦那には術者の資質があるみたいっすから、術式が転換される際に独自の術式に組み換えている可能性があるっす。それで機械が対応できなくて、思念液のほうに負荷がかかっているっす。だから全部なくなって、ジュエルのほうも変質するっす。なんで品質が上がるのかまでは、さすがにわからないっすが…」


「モヒカン…お前、いきなりどうした? 急に博識になったな」


「これでも正規優良店のスレイブ商人っす。毎日何十人、多い時は一日何百人も契約を見届けてきたっす。これくらいはわかるっす」


「代理契約ならば大丈夫なのか?」


「奥さんたちに『旦那に忠誠を誓う』という項目を入れてもらえば、代理契約でも同じような効果が出るっす。大規模工事とか大きな仕事をする時は、だいたい代理契約っすから安全性は実証されてるっす。契約者の思念が重要っすから、たぶん大丈夫っすよ」


「ふむ、なるほどな。それが本来の社会の形態だ。一人で全部する必要はないのか」



 社会はピラミッドになっており、会長の命令が社長に下りて、社長や取締役から、その下にいる各部署の責任者に通達され、最後に末端の部下たちに届く。


 つまりはネズミ講のように、どんどん増えていく形式を取っているのだ。人数が多すぎて、こうするのが効率的だからだ。


 もっと身近な例でいえば、子沢山の家系だと思えばいいだろう。この場合でも子供たちは各家で面倒を見ながらも、一族の当主の意見が絶対的に優先される仕組みである。



(ひとまず上手くいってよかったが、あの映像はやはり未来のものなのだろうか? どうしてそんなものが見えるんだ? それに、サナの時に見た映像とはまったく違う光景にも違和感がある。もしかしたら時系列が違うのかもしれないが…うーむ、謎だ)



 いまだに謎は残るものの、こうしてホロロと小百合との間でスレイブ契約が成立するのであった。



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