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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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191話 「ジュエル・パーラー〈星の声を聴く者〉」


「…ぱくぱく、もぐもぐ」


「サナちゃん、美味しい?」


「…こくり。もぐもぐ、ごくん」


「そうかそうか。特に後遺症もないみたいでよかったよ」



 意識を失ったサナは、あの二時間後に目覚めた。


 アンシュラオンが心配をするのをよそにホロロを引っ張り、昼食をねだったところを見ると、痛みや違和感はないようだ。



(サナが無事でよかったよ。カットゥさんたちも誤魔化せたと思うけど…。彼ら程度の実力じゃ技と区別できないはずだしね)



 大きな音と破壊音が聴こえたため、家から少し離れたところに待機していたカットゥが心配してやってきたが、技の練習をしていたと伝えて納得してもらったのだ。


 それを証明するために凍気を使った大技まで披露したので、真夏に雪が降るという珍気象まで起こしてしまった。


 それに関しては観光客も楽しそうだったので問題ないだろう。もともと昼間ということもあり観光区は賑やかで、花火が上がったくらいにしか思っていなかったようだ。



「それで結局、あれはジュエルの力だったんですか?」



 小百合が自分の指輪を触りながら訊ねる。



「そうらしいね。雷を操る魔獣だったから、その力が顕現したみたいだよ」


「私のジュエルとはだいぶ違いますね。こっちはうんともすんとも言いません。ウサギくらい出てきてくれれば面白いんですけどね」


「ウサギか…あの狼に食べられないといいけどね。ただ、アル先生が言うには、サナのものはテラジュエルに変質しているらしいから、根本的に力の規模が違うのかもしれないね」


「変質ということは、最初からそうだったわけじゃないんですよね? 何があったのでしょう?」


「うーん、オレにもよくわからないんだよね。サナとの絆としか思っていなかったし、術符でメンテナンスはしていたけど、それ以外は特に気にしたこともなかったよ」


「では、やはり愛のパワーではないでしょうか! 愛は次元すら超えると聞きます!」


「サナとの愛の力か。今回ばかりは、そう考えるのもいいなぁ。サナちゃんは最初に出会った時から、オレのことが大好きだったもんね!」


「…こくり」


「ほら! 今の見た! サナちゃんも頷いてくれたよ! ああ、可愛いねぇ。本当に可愛い子だねぇ。いつもいつもお兄ちゃんの想像を超えた成長をしてくれるなんて最高だよ。なでなでなで」



 サナは頷いているが、これはアンシュラオンによる記憶の捏造である。


 最初に出会った時、見事にガン無視されたことを忘れたのだろうか?


 だが、あの頃はまだジュエルを付けてなかったので、それ以後となるのは間違いない。



「考えられるのはギアスしかないんだよね。だから今、アル先生たちが準備をしているところさ。実際にやってみれば、また何かわかるかもしれないからね」


「小百合たちのギアスですね! 楽しみです!」


「いいなぁ、私もやりたいけど…駄目なのよね?」


「マキさんは精神が高すぎるから、あの機械じゃ無理みたいだね」


「機械が駄目なら、ギアスが扱える術者がいればいいのかしら?」


「…その手があったか。たしかにその通りだよ! 機械はあくまで簡単に大量のスレイブを生み出すために用意されたものであって、オレみたいな一人一人にこだわるタイプは機械を使う必要がないんだ! 術式をコピーできる『錬金術師の協力』があれば可能だよ!!」


「あのおばあさんは錬金術師だったわよね? 彼女はどうなの?」


「ナーラシアさんは引退なされるそうです。アズ・アクスとも取引がよくあった御方なので残念です」



 炬乃未が少し残念そうに教えてくれる。


 母親とは若い頃からの馴染みだったらしい。



「テンペランターの作業だけでも苦しそうだったから、体力的な問題なのかな? それとも呪いで怖くなったのかもしれない。もしそうだったら悪いことをしたよ」


「あれは仕方ないわよ。逆にこれから危険なことに関わらないで済むのならば、そのほうが幸せな人生かもしれないわ。でも、こうなると違う錬金術師を探すしかないのよね? 私のギアスはまだ先になりそうね。アンシュラオン君の愛の奴隷になるのを楽しみにしていたのに」



 マキはア・バンドのアジトで話した『愛の奴隷』に、ゾクッとした快感を得ているようだ。密かに心待ちにしているように見える。


 従来の彼女の性格ならばギアスに嫌悪感を示すだろうから、愛とは盲目なのだろう。それもまた幸せの形なのかもしれない。



「この都市におばあさん以外の錬金術師はいるの?」


「数名おられますが、彼女が一番の使い手でした。おそらく他の者では、アンシュラオンさんの出力に対応できるだけの技量はないでしょう」


「そっか…残念だな。また新しく探すしかないか。けっこう隠れて過ごす人が多いらしいから見つけるのは大変そうだな…」


「旦那、準備ができたっす」



 そこにモヒカンが食堂にやってくる。



「ちゃんと対策はできているんだろうな?」


「老師がいろいろ道具を使って結界を張ったっす。強力な術式攻撃には対抗できないそうっすが、普通の視認系、透視系、傍受系の術式は防げるそうっすね」


「それ以上はどうしようもないからな。これくらいで妥協するか」


「まだ盗聴を疑っているっすか?」


「当たり前だ。世の中を甘く見るなよ。いつどこで誰が狙っているかわからないぞ」


「気にしすぎだと思うっすが…あいた!」


「馬鹿者。一度の油断が大きな損害を招くんだ。肝に銘じておけ」



(モヒカンは大丈夫だと言い張るが、裏の世界を甘く見るわけにはいかない。もともと監視対象になっているし、どこで誰が繋がっているかわかったもんじゃないよ)



 なぜスレイブ館でやらないかといえば、盗撮や盗聴を恐れてのことだ。


 インターネットにしても、各人のノートPCやスマホのカメラを通じて簡単に映像を取得できる。ウィルスやハッキング、あるいは最初からネット自体がそういう仕組みになっているという話もあるくらいだ。


 これはサナのジュエルの力が発覚する前から準備していたことではあるが、機密の漏洩を防ぐためにも、できることはやっておくべきだろう。



「ところで、その額の絆創膏はどうした?」


「さっきの雷が地面を抉った時に、小石が飛んできてぶつかったっす。流血したっす」


「運の悪いやつめ。仕方なく家には入れてやったが、あまり女性に近寄るなよ。お前の不運が移るからな」


「扱いが酷いっす。不運は旦那に出会ってからっす。思ったっすが、思念液とかの消耗品を届けたら、自分はもういなくてもいいんじゃないっすかね? 早く帰りたいっす」


「自分だけ逃げようとするな。すでにサナのジュエルのことを知ってしまったお前も共犯だ。裏切ったら殺すだけじゃ済まないからな。覚悟しておけ」


「…やっぱり不運っす。人生終わった気分っす」


「モヒカンであることの運命を受け入れるんだな。さっさと行くぞ」



 アンシュラオンたちは食堂を出て、地下に移動する。


 白詩宮は三階建てなので、地下を入れて四階構造になっているわけだ。


 地下は一般家庭と同じく主に倉庫になっていたが、ちょうどいいので少し手を加えてギアスの実験場に変える予定だ。


 そして、階段を降りると奇妙な感覚があった。



(これが『結界』か。ちゃんと機能しているようだな)



 以前パミエルキが使っていた『追魂求逓ついこんきゅうてい』のような高度な術は妨害できないが、低級術式ならば完全に防ぐことができる結界が張り巡らされているのだ。


 地下にある大きな一室に行くと、そこにはアルがいた。


 ボロボロになった服はすでに着替えており、身体も命気で癒してあげたので元気である。



「準備はできているヨ」



 アルの近くには、スレイブギアスの機械が置かれていた。


 スレイブ館のものは移動させると目立つので、こちらはア・バンドから没収したものだ。



「いまだに半信半疑なんだよな。たかがギアスの媒体にするだけで変質なんて起こると思うか?」


「それを試すための実験アル」


「まあ、好きにすればいいさ。オレは自分の目的のためにギアスを使うだけだしな。で、サナは大丈夫なんだよな? またあの狼が出たりしないか?」


「やれる範囲で調整はしておいたアル。ただ、テラジュエルとなるとミーでは完全な調整はできないヨ。力が暴走しないように、いくつものバイパスを作ってやるくらいが精一杯ネ。それ以上の調整は専門家に頼む必要があるアル」


「テンペランターが魔石の専門家だろう?」


「世間では公表されていないけど、その上がいるアル。そこまでいくともう国家の秘密機関だったり、巨大組織の研究施設だったり、完全に裏側の連中になるけどネ」


「そんなやつらと関わるのは嫌だな。サナを実験台にさせるわけにはいかないぞ」


「それが嫌なら、あとは【魔石調整用の魔石】を持っている高レベルの術者に頼るしかないアル」


「ほぉ、魔石を調整するために魔石を使うのか。変な組織よりそっちのほうがいいな」


「でも、数は少ないアル。錬金術師を探すより大変かもしれないヨ。でも、魔石の力を引き出すには鍛錬と時間が必要になるから、今すぐは必要ないネ。まずは少しずつ扱えるようにするべきアル。特にあの狼を自由にさせないように調教するヨ」


「たしかにな。また暴れられたら大変だ」


「最初に言っておくけど、その娘は『ジュエリスト〈石の声を聴く者〉』ヨ。それをしっかり認識して行動するといいネ」


「ジュエリスト?」


「魔石の力を50%以上引き出せる者をそう呼ぶネ。ギアスの伝導率から考えても、90%以上引き出せる『エル・ジュエラー〈世の声を聴く者〉』になれる可能性もあるアル」



 人間に適応するジュエルの力を引き出す存在を、『ジュエリスト〈石の声を聴く者〉』と呼ぶ。


 すでに述べたように、ジュエルは常人でも最高で三割程度までは適合するのだが、50%以上適合する者は稀有なのだ。


 さらに、それが90%以上となると、がくんと適合者数は落ちる。


 おそらく武人全体の0.01%以下。仮に武人が一万人いれば、その中に一人いるかどうかの割合になるだろう。


 しかもジュエルには多様な形態があり、戦闘系のジュエルと相性が良い者となれば、もっと数は少なくなる。



「ジュエリストであるだけで各業界から引く手数多ネ。各国各騎士団や一流の傭兵団においても大変に重宝されるアルから、あまり知られないようにしたほうがいいヨ。ホワイトハンター並みに勧誘がすごいことになるネ」


「そういうデメリットがあるのか。特にテラジュエルだと危ないよな。宝石としても価値があるから強奪目的で狙われる可能性も出てくる」


「その通りヨ。だからジュエリストであることを隠してる者も多いネ。そして、もし完全にテラジュエルを扱えるようになれば、ジュエリストの最高位である【ジュエル・パーラー〈星の声を聴く者〉】になれるアル。世界で十数人しかいない最強レベルのジュエリストたちヨ。といっても、公表していない者が多いから、実際はもっといるみたいだけどネ」



 アルが挙げている数字は、ダマスカスにある『国際ジュエル協会』で公式発表されているものだ。


 ジュエリストもエル・ジュエラーもジュエル・パーラーも、国際ジュエル協会で認定されて初めて世間に認知される。


 彼らは富と名声を得る代わりに、有名になりすぎて動きにくくなるデメリットも受け入れた者たちといえる。



「さっきの戦いでは、どれくらいの出力だったんだ?」


「キャパシティを考えると四割くらいネ。その四割の力でミーはボロボロよ。直撃していたら即死だったアル」


「あれで四割か。もし瞬間的にでも十割引き出せたらすごいな」


「そうネ。戦艦すら落とせるかもしれないヨ。しかもジュエルがすごいのは【素の能力に合算される】ことアル。その娘が武人として強くなればなるほど、合計の戦闘力は相当なものになるネ。それこそ限定的だけど、今のユーに匹敵するかもしれないヨ」


「それは素晴らしい!! サナ、お前はオレに追いつくことができるんだぞ!! 少しずつ使えるように訓練しような!」


「…こくり」



 普通ならば自分が追い越されるのを嫌うのだろうが、アンシュラオンの目的はサナを強くしてあげることだ。


 もし彼女が自分を超える日が来るのならば、むしろ泣いて喜ぶだろう。



(ああ、サナ。可愛い子。オレはお前に全部をあげるからな。富も力も愛もすべてがお前のものだよ)



 アンシュラオンがサナを抱きしめると、その心に反応するようにジュエルが淡く輝いた。


 小百合が言ったことは案外、真実なのかもしれない。愛が力を与えるのだ。




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