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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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189話 「力宿る石、【魔石】 その2『ジュエルの種類と使い方』」


「最初はこれネ。ちょっと借りるアル」



 アルがホロロのチョーカーから、白みがかった瑠璃色のジュエルを外す。


 これはロードキャンプで入手した『リズカセージュ〈瑠璃羽鳥〉』と呼ばれる魔獣のもので、一度ナーラシアに鑑定してもらったものだ。


 すでにカッティングは終わっており、チョーカーに取り付けたペンダントトップに合うように、ひし形に整えられている。



「カッティングは悪くないネ。本当は普通のジュエル加工師じゃなくて、上級の魔石専門の加工師が良いアルが、このあたりにはあまりいないアル」


「違いが出るのか?」


「本当に細かい違いヨ。精密機器みたいな極小単位の調整が必要なものでなければ、そこまで気にすることはないアル。これだけ上手くカットできていれば十分ネ。じゃあ、準備するヨ」



 アルが懐から大きな水晶球を取り出すと、宙に浮かぶ。



「それ、おばあさんも使っていたけど何なんだ?」


「これは『魔力珠まりょくじゅ』と呼ばれる魔素増幅器アル。ミーは生粋の術士ではないから、足りない魔素をこれで補うネ。まあ、いわゆる術士用の点滴やドーピングみたいなものヨ」


「そんな便利なものがあるんだな。そっちの石は?」


「こっちも同じようなものヨ。ミーの能力を強化するジュエルアル。さっき魔石の話をしていたけど、ジュエルの種類についてはどこまで知ってるネ?」


「攻撃型や防御型、精神型といったタイプがあるのは知っているぞ。ギアスに使うのは精神型がいいんだよな?」


「それはあくまで加工や媒体に使う際の区分アル。魔石単体で使うときには、それ以外に三つの大きな区分けがあるネ。それが『付与型』、『強化型』、『覚醒型』ヨ」



 ジュエルには基本性能として『付与型』と『強化型』、そして『覚醒型』の三つのタイプが存在する。


 付与型はそのままの意味で、特別な力を与えるタイプのものだ。


 たとえば『無限盾』などの障壁付与、『耐力壁』などの耐性付与といったジュエルがこれに該当する。自分が持っていない力を与えるから付与型なのだ。


 ただし、こうした特別な力を付与するタイプのジュエルは、壊れてしまえばそれっきりだ。新しく手に入れるか買い換えるしかないのがデメリットとなる。


 強化型は、自分が持っている能力を上昇させることができるもので、今アルが持っているジュエルがそれに該当する。


 たとえば足が遅い人間を速くしたり、もともと速かった人間をさらに速くしたり、視力や腕力を強化したり等々、能力を強化させるタイプを指す。


 こちらのデメリットは、過度の強化に耐えきれない場合、身体や神経が壊れてしまうことが挙げられるだろう。


 人間の身体にはストッパーが存在するので、それを超えれば損傷するのも当然の話だ。その都度適切な加減が求められるタイプである。


 三つ目の覚醒型は、持ち主の眠っている能力を引き出すタイプのものだ。


 その人間が本来持っている能力の開発を早めたり、あるいは劇的に目覚めさせることができる。


 付与や強化と違い、一度覚醒した力は当人のものなので、ジュエルが壊れても消え去ることがないのが最大の長所だ。西側では自閉症や精神病の治療にも使われているらしい。


 がしかし、強制的な能力の覚醒は、無理をすると心身が壊れる可能性があるため、もっとも危険なタイプといえるだろう。扱いには細心の注意が必要となる。



「このようにいろいろなタイプと種類があって、それぞれにCランク、Bランク、Aランクといった品質の区分があるアル」


「ふむ、なかなか細かいな。辞典が欲しくなるよ」


「自分が持つジュエルの特性を知るのは大事なことネ。じゃ、やってみるアル」



 瑠璃色のジュエルに干渉を開始。


 魔力珠も光り輝き、アルに力を与える。



「まずはギアス用に調整ネ。…よし、出来たアル。メイドと精神パターンを合わせておいたヨ。これで事故の可能性はゼロに近いネ」


「素晴らしいな。初めて尊敬したよ」


「今までは何だと思っていたネ? まあいいアル。次は力の覚醒を行うヨ」



 再び魔力珠が輝くと、瑠璃色のジュエルが淡く輝いた。



「これは簡単だったアル。区分でいえば『精神タイプの強化型ジュエル』ネ。『感覚強化』や『精神探知』といった能力が身に付くヨ」


「ふと思ったんだが、それはギアスと共存できるものなのか? すでにギアスで使っているのに、ジュエル本来の力も使えるようになるんだよな? 併用して大丈夫なのか?」


「ギアスとは使う領域が違うアル。たとえば剣にこのジュエルを植え込んだ場合、剣で斬る行動と能力強化は相反しないヨ。お互いに干渉せずに作用するアル。むしろ分けることで保護することができるネ。ただし、容量次第アル。ギアスだけで容量一杯のジュエルでは無理だけど、これはまだ余裕があるヨ」



(ハードディスクのパーティションみたいなものか。ギアスの場所をシステム用に隔離しておいて守りながら、力を使う場合はそれ以外の領域で展開させるから、どっちかが壊れた場合でも全損は防げる。思った以上に調整のメリットは大きいな)



「このジュエルはこれでお仕舞いネ」


「次は小百合さんのやつを頼むよ」


「はいはーい! お願いしますね!」



 小百合の場合は結婚指輪に加工していたので、指輪ごと手渡す。


 小さく可愛らしいグリーンの楕円形の石が、シルバーの指輪によく似合っていた。



「手に入れた時はふわふわしているとか言っていたが、今はどうだ?」


「時間を置いたから、かなり安定してきたアル。これなら力を引き出せるヨ」


「よかったです! 毎日肌身離さず持っていた甲斐がありました!」


「そういえば調整前にゴリゴリ削っているけど、それは大丈夫なのか?」


「仮に人間の手足がちぎれても本体は消えないヨ。心臓が潰れても思考はなくならないアル。つまりはジュエルの『中心核』が残っている側が本質ネ。だいたい中央真ん中にあるから、普通に削ってなくなることはないアル」


「殺し屋らしい例えだな。大丈夫ならばそれでいいよ」



 ホロロの時と同様に、魔力珠を使ってジュエルをギアス用に調整し、なおかつ力を覚醒させる。


 こちらも淡い幻想的な光を放ちながら存在感が増したように見えた。


 ついでに鑑定も行う。



「これは『夢兎ゆめうさぎ』と呼ばれる魔獣の心臓アル。その中の希少種のようネ。まだちょっと安定していない部分もあるけど、ジュエルの特性みたいヨ」


「もともと揺らいでいるってことか? どんな能力なんだ?」


「付与型で『兎足うさぎあし』という能力が付与されるネ。まだほかにもありそうだけど…よくわからないヨ」


「全部覚醒しなかったということか?」


「ジュエルも一度に全部の力が解放されることは少ないネ。力のあるジュエルほど段階的に効果が出ることが多いアル」


「それだけ強い力を持っているってことか。まあ、ギアスに使えればいいけど、少し心配だなぁ」


「アンシュラオン様、安心してください! 小百合の愛のパワーでなんとでもしてみせますから!」


「それが若干心配なんだよね…」



 最近はいつも小百合の心配をしている気がする。


 正しく述べれば、小百合によってもたらされる被害を心配している。


 そして、力が宿ると聞けば試してみたくなるものだ。さっそく小百合が指輪をはめる。



「これを付ければ、すごい力が宿るのですよね!? では、さっそく! はっ、はっ、はっ! さぁ、どうですか!?」


「ど、どうなんだろう? 何も変わってないように見えるけど…」


「『兎足』ってどんな能力なんですかね? 跳ねる力ですかね? はっ、はっ、はっ! これでどうでしょう!?」


「それも変わっていないような…」



 小百合が反復横跳びやウサギ跳びをやるが、まったく変化はなかった。



「あれ? どういうことなのでしょう? もしかして壊れてます?」


「調整失敗なのか?」


「これだから素人は困るネ。そんなにすぐに効果が出るわけがないアル。そもそもこういうジュエルが人間に適応する割合は、一割から三割ヨ」


「もうちょっと詳しく説明してくれ」


「術具は道具だから、ジュエルの力をそのまま出すことができるアル。でも、それとは違って人間は複雑な構造をしているヨ。人それぞれで発達具合も違うし、相性や得意分野も違うネ。ジュエルの力がその人体を通じて発露するためには何段階もの工程を踏むアル」


「つまりは【成長要素が関わる】ということか?」


「そうヨ。武術と一緒アル。身体を鍛えて技を学んでも、いきなり修得するわけでもないし、100%の出力が出るわけでもないネ。それが人間を媒介する難しさヨ」



 たとえば術具が即座に効果を発揮するのは、成長しない物体のために完璧に調整できるからだ。術式が付与されている単なる媒体としてのジュエルならば、損傷がない限り完全に効果を発揮する。


 がしかし、人間は肉体や精神体、霊体といった複雑な構成要素によって造られている多次元の複合的存在である。日々成長したり衰退したりするのは当たり前で、体調や精神状態によっても能力は増減する。


 もし相性が良くても力を引き出すには、それ相応の訓練を重ねる必要があるし、身体に馴染むまで長い時間が必要となる。


 そういう点は筋トレや武術と一緒なのだ。



「ジュエルはいろいろな形で売られているアル。もし本当に加護の能力があるお守りジュエルを手に入れても、効果が出るまでは時間がかかるし、引き出す効果の割合は当人次第というわけネ。今言ったように、一般人はせいぜい一割から三割程度の性能しか発揮しないヨ」


「それなら素直に術具にしたほうがいいよな。ギアスの媒体以外ではあまり期待するなということか?」


「そうでもないネ。難しいがゆえに成功した時の価値は上がるヨ。もし人体を通じて力を発揮することができれば、これほど便利なものはないアル。通常では修得できない技や能力をジュエルから引き出すことができるのならば、強力な切り札になるはずヨ」



 ジュエルの使い道は、主に三つある。


 一つ目は媒体や媒介としての使い方だ。何かしらの効果を一時的にとどめたり、中継することで効果を高めることができる。


 吸水石やクルマに使う燃料ジュエルを筆頭に、スレイブ・ギアスに使う際もこれに該当する。


 特徴としては原石そのものの品質がもっとも重要になるため、安価なものはとことん安く、良質なものほど値が張ることだ。


 二つ目は、武器や道具に加工する使い方で、ジュエルの適性を利用して有効活用するものだ。


 いわゆる術具や術式武具のことで、この場合は完成の出来によって効果がどれくらい出るかが決まる。


 炬乃未たちのような優れた鍛冶師が携われば、卍蛍や黒千代などができるが、失敗したらただの出来損ないが生まれるデメリットがある。


 最後の三つ目が、ジュエルから力を借り受ける使い方だ。


 こちらはお守りやアクセサリーのように所持することで、ジュエルの影響を身体や精神に与えて引き出した能力を使うことができるようになる。人によっては食べたりする者もいるらしい。


 ただし、この方法は持ち主の状態に大きく左右されるため、もっとも不確定で不安定な使い方といえる。が、効果が出たら持っているだけで能力が強化されるメリットがあるので一長一短だ。



(オレが今やっているのは、1と3の併用ということか。アル先生の話を聞く限りじゃ、能力のほうはオマケくらいに考えたほうがいいのかな。オレとしてはギアスが完全に機能してくれれば問題ないけどね)



「次はそっちの娘ネ」


「…こくり」


「サナはギアスが精神に悪影響を及ぼしていないか見てくれ。最優先はギアスの安定だ。頼むよ」


「わかったアル」



 アルがサナのジュエルに触れて、接触を開始。


 まずはジュエルの構造をチェックしていく。



「カッティングは見事ネ。かなりいい出来ヨ」


「グラス・ギースの職人がやってくれたんだ。どうやら腕は良かったようだな」


「ギアスも問題なく機能しているヨ。術式の伝導率もいいし…100%……機能しているネ」


「ん? 今の間は何だ?」


「…精神術式が100%機能しているなんて初めて見たアル。信じられないネ」


「おかしいのか?」


「理論上は可能アルが…ギアスも人間を介する以上、絶対はありえないヨ。同意があっても、せいぜい60%程度しか受け入れないネ。どんなに従順な者でも70から80%ヨ。人間には自我があって反発心があるから仕方ないアル。それをすべて取り除くことは難しいネ」


「サナは特別な子なんだよ。無事機能しているようでよかった。安心したよ」



 アンシュラオンが本当に嬉しそうに笑う。


 これが意味するところは、サナが全面的にアンシュラオンとの契約を受け入れていることを示しているからだ。さすが『意思無き少女』である。



「次は力の覚醒も試してみるアル」


「まあ、あんまり期待はしないでおくよ。サナがオレの妹であるだけで十分満足しているからね」


「物は試しヨ。これだけのジュエルネ。何が出てくるか楽しみアル」



 アルがさらに構造を調べると、少しずつ全容が見えてくる。



(ギアスが完全に機能しているのに、ジュエル自体の容量をたいして使っていないアル。それだけ受け入れているということネ。でも、他のところが空白というわけではないヨ。これは何ネ? 何か大きなものが―――)



 小百合たちのジュエルと同様に、眠っている部分に触れた瞬間であった。


 黒い漆黒が周囲を包み、完全に視界を覆う。


 そして、その奥深くに赤く光る双眸が見えた。


 それは圧倒的な存在感をもってアルを凝視する。



(っ…! この殺気はいったい…まさか魔獣の意思が残っているネ!? いや、そんなことはないアル。死んだ以上は、残滓はあっても意思が残ることはないヨ。これはあくまで幻影にすぎない―――)




―――「グルルルルッ!!」




「違うネ! これは―――」



 直後、サナのジュエルから【青い雷】が迸り、アルの右腕を貫く。


 咄嗟に戦気で防御したにもかかわらず、右腕は真っ黒に焼け焦げている。


 ジュウウと人肉が焼ける嫌な臭いが、その場に立ち込めた。




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