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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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187話 「三人の来客」


「いい眺めだ」



 アンシュラオンは、白詩宮のバルコニーから外を眺める。


 ここからだと観光区と海が両方見えるので、とても気分がいい。



「お食事の準備が整いました。サナ様がお待ちです」


「今行くよ。サナは食べることには目がないからなぁ。あまり待たせるのもかわいそうだ」



 迎えに来たホロロと一緒に廊下を歩く。


 白詩宮は三階建てのわりに広いので、平べったい構造をしている。


 その代わりあらゆる方向にバルコニーがあり、方角を変えることでまったく違う景色が見える面白さがある。


 天井からも光を取り入れるように設計されているため、家の中にいても暗い気分になることはない。



「この家、すごく丁寧に造られているよね。身体が弱かったスザクのお母さんのことをよく考えているよ」


「領主様は、とても奥方を愛されていたのですね」


「普段は海にいて滅多に戻ってこないみたいだから、不自由はさせないようにしていたんだろうね。うん、今日も彼女は綺麗だ」



 アンシュラオンが、階段の踊り場に飾られている一枚の肖像画の前で立ち止まる。


 ウェーブがかかった茶色い髪をした、白い肌の女性が優しく微笑んでいた。スザクの母親であるスァクラーシャである。


 これを見れば、スザクが父親からは海賊の力、母親からは美貌と優しさを受け継いだことがよくわかる。



(もともとスザクの家だから少し気を遣う面はあるけど、それくらいのほうが大切に扱えるからいいかもしれないな。この絵も気に入ったしね。美人は何度見ても飽きないよ。彼女の心の美が絵からも伝わってくるようだ)



 白詩宮に入居してから一週間。


 カットゥが言ったように部屋は掃除されていてピカピカだったが、スァクラーシャが生前使っていた家具や装飾品が多少置いてあった。


 「大切なものはもう受け取ったから」と、スザクはすべて処分してよいと言ったそうだが、それらすべては一室にまとめて綺麗に飾っておくことにした。


 そこはスザクと母親の思い出が詰まった部屋だ。数多くの部屋があるのだから一室くらいは問題ないだろう。


 アンシュラオンは、その部屋の前を通るときはスァクラーシャがいるものとして、軽く会釈するようにしている。


 尊敬すべき女性に対しては、とことん礼を尽くす。それも自分の流儀である。



「自分では来られないみたいだから、今度スザクを呼んであげよう。少し力を抜かせないと危ないやつだからね」


「素晴らしいお考えだと思います。スザク様も喜ばれるはずです」


「それにしても人の縁ってのは不思議だね」


「今回のことはスァクラーシャ様のお導きのような気がしています。彼女の愛が、スザク様をお守りするためにご主人様を呼んだのではないでしょうか」


「こんな美人の母親に頼まれると、さすがに断れないな。これでまたスザクを助ける理由ができちゃったよ」


「ご主人様は、初めてお会いした時からスザク様を気に入っておられましたね。理由がなくてもお助けすると思います」


「そうかもね。スザクはきっとこの都市にとって重要な人物になる。オレも家を手に入れたからには、ここがもっと平和で安定した場所になってほしいと願っているんだ。少しくらいの援助はするさ」


「私もこの家に似合うような立派なメイドになってみせます」



 ホロロは相変わらずメイド姿だが、今までよりも凛とした様子が印象的だ。


 住居が手に入って落ち着いた様子がうかがえる。やはり女性には家が必要なのだと思い知る。


 一階の食堂に入ると他の六人が揃っていた。



「おはようございます、アンシュラオンさん」


「おはよう、アロロさん。アロロさんもメイド服が似合ってるね。今日も綺麗だ」


「あらま、おだてても何も出ませんよ! まさかメイドになる日が来るなんて驚きですね」



 アロロもホロロ同様にメイド服を着ていた。


 あまり語られないが彼女もホロロ似の美人なので(母親だから当然だが)、多少歳を取っていてもメイド姿がよく似合う。



「でも、無理にメイドにならなくてもよかったんだよ? 普通に過ごしてくれればさ」


「そういうわけにはいきませんよ。働いていないと、どんどん老け込んじゃいますからね。せっかく『管理人』にしていただいたのだから、これくらいのことはさせてくださいな」



 最初はアロロの家にする予定で土地を探していたが、思った以上に豪邸ということもあり、さすがに気が引けたようだ。


 その代わり管理人として滞在してもらい、アンシュラオンが不在の間は管理をしながら自由に過ごしてよいことにした。


 当人もそのほうが気楽だし、鍛錬したおかげでそこらの魔獣にも負けないくらい強いので防犯としても役立つ。


 当然それだけでは不安なので、改めて防備に関しては考えるが、ひとまずアロロが落ち着ける場所が出来たのでひと安心だ。



「それでは、いただきます!」



 皆で談笑しながら取る食事は、とても美味しかった。


 ロリコンがふざけ、ロリ子がたしなめ、小百合が驚きの話題を振り、マキが動揺し、サナが首を傾げる。


 ホロロとアロロも給仕をしながら一緒に食事を取るので、メイドとはいえ家族と同じだ。



(家ってのはいいもんだな。ちょっと感動して泣きそうかも)



 改めて家を手に入れてよかったと感じるものだ。


 そして、食後はサナと庭でゆっくりと日向ぼっこをして過ごす。


 可愛く従順な妹がいて、魅力的な妻がいて、豪華な家とメイドがいる。もはや人生の頂点に到達した気分であった。


 が、昼前に異変が起こる。



「ぎゃーーー!」



 何やら門のほうから汚い声が聴こえてきた。


 卑猥で陰湿で、到底ここには似つかわしくない、おぞましい響きだ。



「アンシュラオン君、変質者を捕まえたわ!! 久々の獲物よ!」


「違うっす! 自分は呼ばれて…」


「あなたみたいな不審者が来る場所じゃないのよ! ドゴッ! ガスッ!」


「ひーー! 助けてくれっすーー!」


「あー、気持ちいい! 犯罪者を捕まえるって最高ね!」



 マキが上機嫌でモヒカンの足を引きずってやってきた。


 軽く殴られたようで複数の青痣が顔に出来ている。



「やれやれ、何をやっているんだ、お前は」


「自分は何もしていないっす…いきなり殴られたっす」


「え? 知り合いなの? こんなに怪しいのに?」


「知り合いたくなかったけど、一応顔見知りだから許してあげてよ」


「そうだったの…命拾いしたわね。この家の人に変な真似をしたら殴るわよ。わかったわね?」


「ひぃいい…もう殴られてるっす! 美人さんなのに怖いっす!」


「これはお前が悪いよ。顔自体が悪人だもんな。せめて眉毛は書け」


「剃っているわけじゃないっす。生まれつき無いっす…」


「生まれながらに悪人面とか最悪だな。マキさんも無理に門番をしなくてもいいんだよ。オレの妻なんだから好きに過ごしていいのに」


「なんだか落ち着くのよね。長年の習性というか癖というか…門を背負っていると安心しちゃうの。駄目かしら?」


「マキさんがいいなら好きにしていいよ。ここはもうマキさんの家でもあるんだからね」


「家…いい響きね。今までずっと借家だったから、まだ気分がふわふわしているみたい。ゴスゴスッ!」


「あいたー! 早く助けてくれっす! 殺されるっす!」



 気分が盛り上がったマキになぜか殴られるモヒカン。まったくもって運の無い男だ。


 マキはマキでグラス・ギースで長年門番をやっていたせいか、身体が自然と門を求めるらしい。昼間はずっと門の前にいるし、夜も見回りを率先してやってくれている。


 しかも当人はそれを楽しそうにやっているのだから、わざわざこちらがやめさせる理由はない。ストレス発散にもなるのならばありがたいものだ。


 小百合もどこから手に入れたのか、謎の端末を部屋でいじって自由に過ごしている。


 おそらくはハローワーク経由なのだろうが、また何かやらかしたのかと毎回夫がびくついていることは知らない。


 ホロロも掃除に洗濯に炊事、サナの世話と毎日を楽しく過ごしているようだ。



(家があるのは落ち着くけど敷地が広すぎる。たしかに不審者が入り込む可能性はあるよな。マキさんだけじゃちょっと大変かもしれない。特に森のあたりは死角が多いからなぁ…)



 と思っていた矢先、森の中に気配が生まれた。


 そこから歩いてきたのは、アルであった。



「お邪魔するヨ。アイヤー、綺麗な場所アル」


「アル先生、いきなり出てきたらみんなが驚くだろう。それに見張りで置いていたオレのモグマウスを倒しただろう? 敵かと思ったぞ」


「やっぱりユーの闘人ネ。かなり強かったヨ」


「そう言うわりには服すら汚れてないんだよな」


「二体同時なら危なかったアル。遠隔操作の才能もあるとはさすがネ」



 アンシュラオンいわく、五十匹も動員すればデアンカ・ギースすら倒せる闘人だが、その一匹をアルは倒している。その段階で彼の実力の高さがわかるだろう。


 とはいえ、モグマウスの長所は集団で襲いかかるところなので、単体での戦闘力は討滅級魔獣レベルかもしれない。(それでもすごいが)



「アンシュラオン君、もしかしてこの人がテンペランターなの?」


「そうだよ。変なじいさんだけど腕は確かさ。武人としても強いよ」


「本当ね…足運びでわかるわ。すごい達人だわ」


「ユーもネ。女でここまでの気配を出せる武人は少ないアル。見た感じ、ユーもまだまだ強くなるから安心するといいネ」


「ありがとうございます! 老師…でいいのかしら?」


「適当にじいさんでいいよ」


「ユーはもっと年上を敬うといいネ」


「まあ、いろいろ教わることもあるから、先生とは呼んでやってもいいけどね。で、準備はできたの?」


「たぶんネ。やってみないとわからないことも多いから、それなりに準備はしてきたアル」


「スレイブ商人も呼んでおいたから、ちょうどいいタイミングだ。ジュエルの調整はギアス前と後、どっちがいいの?」


「危険なものでなければ、どっちでもいいアル。ただ、事前に効果や性能がわかっていたほうが安心ネ」


「じゃあ、先にやってもらうかな」


「ごめんくださいませ」


「あら、また誰かお客さんみたいよ」



 マキが門のほうに視線を向けると、着物姿の清楚な女性が立っていた。


 背中には大きな風呂敷を抱えているが、やはり尻尾が目立つ。



「炬乃未さんだ! このみさーーん! こっちだよー!」


「アンシュラオンさん、突然お邪魔して申し訳ありません」


「いやー、嬉しいなぁ! 炬乃未さんが来てくれるなんて驚きだよ! どう、元気にしていた?」


「はい。あれから何も考えずに叩いてみて、ふと昔を思い出しました。思えば子供の頃は、ただただ夢中で槌を振るっていたものです。姉と一緒に遊ぶように何かを作るのが楽しくて…ただそれだけでした」


「少し吹っ切れたようだね」


「そうだとよいのですが…」


「大丈夫だよ。初めて会った時も美人だったけど、今はもっと可愛いから」


「うぅ…可愛いのは鍛冶と関係ないんです」


「関係あるって。ほらほら、可愛い可愛い」


「ううう、アンシュラオンさんは意地悪ですぅ」



 尻尾をパタパタさせて、真っ赤になった顔を手で隠す。


 その仕草がとても可愛い。



(炬乃未さんって何歳なんだろう? そもそもオレの魅了効果って実年齢で作用するのかな? それとも姉っぽい人だけなのかな? ううむ、実年齢では間違いなく年上だから効いているような気もするけど、見た目が年下だからな…)



「ところで炬乃未さんのおっぱいってどれくらい? 着物で隠れているからよく見えないな。ごそごそ」


「ああ、いけません! こ、こういうことは結婚した殿方でないと…」


「まあまあ、いいじゃない。ちょっと大きさを確認させてもら…」


「アンシュラオン君! 何をやってるの!」



 マキに捕まり、あえなく御用である。


 この男は放っておくと好き勝手やりすぎるので、彼女がいてくれてみんな助かるに違いない。


 ちなみに炬乃未の胸のサイズは、小百合より少し大きいくらいだ。隠れているだけで胸はそこそこ大きいらしい。



「じゃあ、あっちでゆっくり話そうか」



 三人をガーデンテラスに案内して、ホロロに茶を出してもらう。


 スザクが去ってからも庭の手入れは継続されており、アンシュラオンも引き続き同じ庭師に頼んだので、花壇には相変わらず美しい花々が咲き誇っていた。



「素敵なお庭ですね」


「スザクの母親の趣味らしいね。綺麗だからそのまま使っているよ」


「スザク様の邸宅を購入できる段階で、アンシュラオン様の徳の高さを実感いたします」


「たまたまだよ」



 いきなり尻尾を触り、今回も胸をまさぐろうとしたにもかかわらず、炬乃未のアンシュラオン評価が高い点に驚きだ。


 それならば自分も!と男ならば思うだろうが、美少年以外は捕縛対象になるので注意しなければならない。なんとも不平等な世の中である。



「モヒカンとアル先生の用事はわかっているけど、炬乃未さんは?」


「皆様の寸法を測ろうと思い、やってまいりました。まだ万全とはいえませんが、何か目標があったほうが鍛冶の質も高まると思ったのです。それと、どのようなものをご所望か事前に訊いておきたかったのです」


「それはいい! ぜひお願いするよ! ところで炬乃未さんは、武器以外も作れたりするの?」


「姉は武器専門ですが、わたくしはさまざまな物を打つことができます。防具に関しても多少ながら心得がございます。フルプレートのような一体型の分厚いものは苦手ですが、『準装』までならば可能です」



 準装とは、軽装と重装の中間の装備のことだ。


 軽装が革鎧、重装がゴリゴリの全身鎧とすれば、ラブヘイアが使っていたような鎖帷子を組み込んだコートや、胸部鎧のように部分的に金属を使った防具などが挙げられる。



「母は裁縫師なので、縫いつけもこちらで請け負えます。母の能力自体が、火で柔らかくした金属を糸状にして縫いつけるものなのです。出来上がりが普通のものより数段上の質になることは保証いたします」


「それもすごい能力だね。サナは重い鎧は着れないだろうし、うってつけだ。よろしく頼むよ」



 こうして女性陣を集めて身体のサイズを測りながら、それぞれの希望を炬乃未に伝える。


 今回はせっかくなのでマキも要望を出してみる。



「あの…鉄を組み込んだ篭手って作れるかしら?」


「鉄が含まれていればよろしいのですか? 合金でも大丈夫でしょうか?」


「そうだと…思うわ。ちょっと自分でも確証がないから、自信を持って言えないのだけれど…」


「では、さまざまなタイプの合金サンプルを用意いたしますので、そこから素材を選ぶ形にいたしましょう。納得いくまで調整させていただきます」


「そうしてくれると嬉しいわ! 炬乃未さん、よろしくね!」


「はい、がんばってみます」



 マキは鉄化能力が自身の意思で制御できないため、今まで篭手は鉄製の安物しか扱えなかった。


 それが炬乃未の登場によって解決されるのではないかと、彼女も期待しているようだ。




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