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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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178話 「おいらはモヒカン~、お前もモヒカン~! FUUU!」


「んじゃ、また夜に合流だな」


「ロリコンも商売がんばれよ」


「ああ、生活がかかっているからな。さすがにやる気を出すさ」


「マキさんとアロロさんも護衛をよろしくね」


「ええ、任せておいて」



 ハローワークを出て、マキとアロロ、ロリコン夫妻と別れる。


 彼らは彼らで商売があるので、まずは残った『聖樹の万薬』を売り、その資金で商品を仕入れる予定らしい。



(もともとハピ・クジュネまでって話だったからな。ロリコンとの旅もここで終わりになるかもしれない。一緒にいるのが当たり前になっていたから、少し寂しい気もするよ)



 火怨山を出て初めて交流した人間なので、彼らには特別な思い入れもある。ぜひとも商売が上手くいってほしいものだ。



「次はテンペランターのおじいさんのところに行くのですか?」



 私服に着替えた小百合が訊ねる。


 本当にアンシュラオン専用の受付のようで、用事が終わったらさっさと出てきてしまうからすごい。もうやりたい放題である。



「その前にスレイブ商人のところに一度寄りたいかな。地図を見ると、ちょうど通り道なんだよね」



 アンシュラオンが地図を広げる。


 ハローワークは一般区のかなり北側にあるため、そのまま南下していくと「スレイブ館」「ジジイの家」「アズ・アクス工房」の順番ですべて回ることができるようだ。



「今日はジュエルのほうを優先したいからスレイブ契約はしない予定だけど、まずは顔見せだね。どんなやつが経営しているのかわからないし、信用できるかどうか一度確認しておきたいんだ」


「私はいつでもウェルカムですよ!」


「ありがとう小百合さん。でも、まずはジュエルが見つかったホロロさんからかな。当人の強い希望もあるからね」


「ご主人様に心から尽くすために、その象徴がどうしても欲しいのです」


「その気持ち、わかります! 証が欲しいですよね! 結婚指輪とか! 結婚指輪とか! 結婚指輪とか!」



 小百合の圧が強い件。



「そ、そうだね。小百合さんは指輪型にしようか。ただ、残念ながら良いジュエルには出会えなかったね。掘り出し物もなかったし…」


「アンシュラオン様のスレイブなのですから、ジュエルにこだわるのは当然のことです。小百合はいつまでも待てますよ。指輪さえあれば!」



(小百合さんのジュエルを見つけない限り、いつまでもこの圧力に晒されるのか…早くなんとかしないと)



「ホロロさんはジュエルをどこにはめたい? どこでも大丈夫だよ」


「私は首がよいです」


「首でいいの? 普通のスレイブと同じだよ?」


「はい。『首輪』がよいのです」



 首輪になるとだいぶ意味合いが変わりそうだが、当人が満足するのならば拒否する理由もない。



「それならチョーカーをどこかで買おうか。それに合わせてカッティングしてもらおう」



 アンシュラオンたちは移動を開始。


 途中まで馬車で向かいながら雑貨屋が並ぶストリートで降り、一度昼食を取ってからゆっくり店を見て回る。


 その中の高級アクセサリー店で銀色の指輪を購入。


 まだジュエルは付いていないが小百合はそれで満足だったようで、左手の薬指にはめてニコニコしていた。お値段は三十万である。


 ホロロのチョーカーもそこで購入。こちらは黒と紫のもので、シンプルなデザインでも高級感が滲み出る良質のものだ。お値段は十五万である。


 さっそく原常環と核剛金で強化し、命気をしっかり含ませて補強。これによって摩擦がなくなりつつも吸着力は抜群となり、ずっと付けたままで大丈夫になる。



「これで本当の僕になれますね…うふふ」



 ホロロは慈しむようにチョーカーに触れる。


 このレベルになるとかなり高級なので、ジュエルを付けてもスレイブ・ギアスだとはすぐにはわからないだろう。彼女の雰囲気ともよく合っている。


 そして、昼過ぎにスレイブ館に到着。


 看板には『八千人やちじん』と書いてある。



(こいつらは、どうしても八を『や』と読ませたいらしいな)



 店はモヒカンの『八百人やおじん』と同じく、レストランと間違えそうなおしゃれなデザインだ。


 ただ、やはり規模はこちらのほうが大きく、大型のスーパーと同じくらいの面積はあった。



(今日はスレイブ商人と接触さえできればいい。さて、どんなやつかな)



 意気揚々と扉を開けて入ると―――



「らっしゃいっす!」


「は? モヒカン?」



 そこにはモヒカンがいた。


 しゃべり方も同じだし、顔もまったく同じなので、まさにモヒカンだ。



「おい、モヒカン。こんなところで何をしている?」


「へ? 何をって…商売っす!」


「そんなことはわかっている。どうしてここにいるのか訊いているんだ」


「どうしてもこうしても、ここが仕事場っす。いるのが普通っす」


「………」


「あの…お客さんっすよね?」


「ははーん、なるほどな。ドッキリか。くだらないことを考えやがって。先回りしてやがったな!」


「何のことっすか?」


「このモヒカンめ! そんなくだらないことをしている暇があったら、さっさと上等なスレイブでも仕入れろ! がすっ!」


「あいたー! 殴られたっす!」


「殴られて当然だ! お前のやったことを忘れたとは言わさないぞ!」


「ひー! 何のことっすか! 自分は何もしてないっす!」


「調子に乗るなよ、こいつめ! このモヒカンが! ぶちー!」


「あぎゃー! 毛が抜けたっす!」


「…ん? お前、毛が増えたか? この前会った時は、もうちょっと少なかった気がしたが…」


「お客さんのせいで減ったっす! いきなり何をするっすか! あー、血が出てるっす!」


「馬鹿め。抜いたのだから血が出るのは当然だ」


「なんで当たり前のように言うっすか!? 暴行事件っすよ!?」


「本当の暴行ってのは、こうやるんだ。ぶすっ!」


「目がぁーーー!」



 生意気なやつには即制裁である。


 が、どうにも言動がおかしい気がする。



(見た目は完全にモヒカンだ。声もモヒカンだ。どこから見てもモヒカンなんだが…何か違うような…)



「おい、オレに見覚えはあるか?」


「完全に初対面っす! 商売柄、人の顔は忘れないっす!」


「もしかしてだが…グラス・ギースのモヒカンじゃないのか?」


「グラス・ギース?」


「八百人という店の主人だ」


「それは【兄の店】っす!」


「兄…だと? いや、さすがに似すぎだろう。顔も声もそっくりじゃないか。オレでも見分けがつかないぞ」


「よく言われるっす。でも、本当に兄弟っす」


「まあ、一卵性双生児とかならありえるか…」


「自分たちは【八人兄弟】っす」


「嘘だろう!? 別々に生まれたのか!?」


「そうっす。毎年別々に生まれたっす。自分は次男で、グラス・ギースの兄さんは長男っす」


「まさかとは思うが、他の六人の容姿は?」


「モヒカンっす。そっくり八人兄弟と業界では有名っす。声もみんな似ているっすね。仲良しっす」


「お前たちはいったい何を求めているんだ。どこに需要があるのかわからん…」



 さすがのアンシュラオンも、これには驚愕。


 まさか八人兄弟かつ、誰もが同じモヒカンで同じ顔と同じ声。誰の得にもならない奇跡である。



「まあいい。オレにとってはどっちでもいいさ。どうせモヒカンなんだしな。おい、さっさと茶と菓子を出せ。あっ、椅子も出せよ。女性を立たせるつもりじゃないだろうな。早くしろ、この愚図が」


「いきなり横暴っす。意味がわからないっす。茶は出すっす」


「そんなところまで同じかよ。吐き気がするな、このモヒカンふぜいが」


「モヒカンへのヘイトが高すぎるっす! 何か理由があるっすか?」


「あっちのモヒカンから手紙が届いているはずだぞ」


「そういえば、だいぶ前に来たっすが…『あとは任せる。絶対に逆らわないこと』としか書いてなかったっす。意味がわからないっす」


「モヒカンのやつ、丸投げしやがって。そうだ、オレがその逆らわないほうがいいやつだ。なぁ、兄のツケは弟のツケでもある。そうは思わないか? ああん?」


「思わないっすが…そう言ったら絶対殴られる予感が―――あいたー!」


「よくわかっているじゃないか。いいか、よく聞け。今からこの店の財産すべてはオレのものだ。逆らったら問答無用で殺すからな。覚悟しておけ」


「知らない間に借金を作られた気分っす。こっちこそ吐きそうっす」


「最初に言っておくが通報したって無駄だぞ。こっちは領主の息子のスザクに貸しがあるんだからな。海兵たちもグルだと思え。ほら、外を見てみろ。オレの護衛がいるだろう?」


「本当っす…権力とグルになれるなんて怖ろしいっす。勝ち目なんてないっす」


「ちゃんと言うことを聞いていたら利益を与えてやる。素直に協力するんだな」



 さりげなくカットゥの存在も利用してモヒカン(次男)を丸め込む。


 こうしてハピ・クジュネのスレイブ館も、アンシュラオンの傘下に入ることになったのであった。


 面倒なので、モヒカンはモヒカンと呼ぶことにする。今後どんなモヒカンと出会っても同じモヒカンだ。大差ないだろう。



「それで、自分は何をすればいいっすか?」


「スレイブ契約をする際に協力してくれればいい。問題ないだろう?」


「もちろんっす。それが仕事っすからね」


「あとはそうだな。ここには良いスレイブがいるか? 新しく増やす予定はないが、何があるかわからないからな。把握はしておきたい」


「兄には申し訳ないっすが、こっちのほうが品揃えは優秀っす。これがリストっす」


「…ふむ、たしかに数は多いな。等級も悪くはなさそうだが…白スレイブはいるのか?」


「白スレイブっすか? お客さん、かなりの通っすね」


「まあな。で、ここには何人いる?」


「実は…いないっす」


「なんだと! ふざけるなよ、このモヒカンが! がすっ!」


「あいたー! いきなりキレないでほしいっす! しょうがないっす!」


「白スレイブがいないでどうする! お前は馬鹿か! 何のためにスレイブ商人をやっている!」


「ここはチェックが厳しいっす! 子供の取り扱いは摘発されるっす!」


「摘発だと? まさか領主が取り締まっているのか?」


「領主というか、その息子のライザック様っす」


「なんてやつだ! せっかくいいやつだと思っていたのに、とんでもない男だったようだな! 軽蔑する! 最低のクズ野郎だな!」


「おかしいっす。何も間違ってないっす。人として正しい判断っす」


「だが、スレイブ商人としては問題だろう。やりにくくないのか?」


「しょうがないっす。白スレイブのような違法販売は、グラス・ギースみたいな辺境の都市じゃないとできないっす。都市が繁栄するほど体裁を気にして摘発も増えるっすよ」


「うむ、そう考えるとグラス・ギースも悪くはないのか…。領主はクズだったが、その分だけ違法行為にも寛容だったしな。くそ、忌々しいもんだな。二ついいことはないか」



 最初に赴いたのがハピ・クジュネだったら、サナには出会えていなかったどころか、白スレイブにすら出会えていないという驚愕の事実が判明。


 やはり運命だったと思う一方、大きな都市ゆえのやりにくさも感じるものだ。



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