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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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177話 「表の世界の限界」


 アンシュラオンたちは相談室の受付でアズ・アクスの紹介状をもらい、一度落ち着くために休憩室の椅子に座る。


 そこで我慢できなくなったマキが唸るように話題を切り出した。



「さっきの話、どう思う?」


「おばあさんの話だよね?」


「ええ。正直言ってかなり驚いたわ。デアンカ・ギースが造られた存在っていうのは初めて聞いたもの」


「マキさんはグラス・ギースにずっと住んでいたんだよね? それでも知らなかった?」


「もちろんよ。衛士の中でもそんな話は聞いたことがないわ。ただ、私は所詮末端の役人だったから、上のほうでは知っている人もいたのかもしれないけど…」


「大災厄が起きたのは昔の話だもんね。知らないのもしょうがないよね。それに、こんな話を一般人にしても馬鹿にされるだけで、誰もまともに信じないはずだよ。オレたちも実際に見なければ信じなかっただろうしね」


「…そうよね。そもそも魔獣を造るなんてことができるのかしら?」


「そういう話はハローワークでも聞いたことがありませんね。もし本当ならば、かなりの重大事実な気がしますが…というよりは危険ですよね。本当であればあるほど秘匿されている気がします。悪用されたら大変です」


「そうね。あまり口外しないほうがいいわね。あくまで推測だしパニックになるだけだわ。でも、改めて災厄の怖ろしさを知った気持ちよ。あんなことが日常的にさまざまなところで起きたら…生きた心地がしないもの」


「そうですね…気持ち悪かったですね」



 老婆の話と災厄の昔話を思い出し、マキも小百合も背筋が寒くなっているようだ。


 アンシュラオンも少し災厄について考えてみる。



(かつてグラス・ギースは緑溢れる豊かな大地だったが、約330年前に突然起きた『大災厄』によって荒れ果てた大地になった。その時に都市を襲ったのが四大悪獣と呼ばれる大型魔獣たち。オレが倒したのはそのうちの一体である、デアンカ・ギース〈草原悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ〉だ)



 アンシュラオンは下界に来たばかりだったので何も知らず、単なる金目的で殺したにすぎない。


 だからこそ、少しだけ気になっていたことがある。



(他の三体は知らないけど仮に同レベルだと考えても、あの程度の魔獣が四体だけで広大な土地を破壊できるわけがない。あの魔獣たちは、あくまで都市を襲っただけなんだろう。しかし、昔のグラス・ギースは栄えていたと聞くし、今回の魔獣の侵攻に対しても迎撃に成功している。あれくらいの魔獣ならば対応できたようにも思えるんだよな…)



 当時のグラス・ギースの防衛力は謎だが、聞いた話では悪獣の四体すべてが生き残っているので、一体も倒せなかったことを意味する。


 だが、実際に戦った感想を述べるならば『普通の殲滅級魔獣』でしかない。そこらの武人からすれば絶望的に強いのだろうが、人を超えた者ならば十分倒せるレベルだ。


 ガンプドルフ級とは言わずとも、彼に準ずる者が十人もいればどうにかなるだろう。



(もしかしたら、ほかにも大量の魔獣がいて苦戦していたのかもしれない。奇襲を受けて対応ができなかった可能性もあるから、ここはまあいいだろう。だが、積極的に人を襲ったことも気になる。もしそこまで凶暴な魔獣ならば、もっとオレに対して殺気があってもよかったはずだ)



 むしろデアンカ・ギースは、人間に対してあまり興味がないそぶりだった。邪魔をしなければ、そのままアンシュラオンを無視していただろう。


 あれが都市で虐殺の限りを尽くした悪獣というのは、若干疑問が残る。


 そこで老婆の発言が重要になるのだ。



(デアンカ・ギースが本当に造られたものだとしたら、特定のプログラムを組み込むこともできるのか? 何かをきっかけにして人に殺意を向けさせるような…そんなものが。憎悪…怒り……か。そういえば、デリッジ・ホッパーたちは異様なまでに人間に憎悪を抱いていた。あれくらいの憎悪を四大悪獣たちが抱くのならば、たしかに面倒な相手になっていたかもしれないな)



 魔獣が自我を失い、わが身が傷つくことも怖れずに攻撃してくる。仮にすべての魔獣があのような状態になれば、たしかに絶望的といえる。まさに災厄だ。



(でも、マキさんが言うように、そもそも魔獣を造るなんてことができるのだろうか? …地球の技術で考えれば人工授精によるミックス交配といったところか。さすがに種が違いすぎると受精はしないが、無理やり遺伝子を組み込むことはできなくはない。実を多くつける植物や病気に強い野菜とかもあるくらいだからな)



 遺伝子をいじって大量の肉をつける鳥や牛を生み出す実験は、地球でもかなり前に成功してる。倫理観や食品安全上の問題があるため忌避してはいるものの、人工授精程度ならば当たり前にやっていることだ。


 ただし、特定の感情を植えつけるのは、なかなか難しいだろう。それこそ精神を支配する必要がある。



(それもジュエル文化があるこの世界ならば可能なのかもしれない。実際に原石に呪いを宿すこともできたんだ。ある程度ならば人工的に危険な魔獣を生み出すこともできるってことか。それにしても、あの呪詛はかなり厄介そうだ。あんなものが出回ったら世の中が滅茶苦茶になるな。ふむ…それ自体が災厄の元になっているのかな? あれが広まることで災厄が起きる? それとも何かの条件であれが自然発生するのか?)



 人に対して精神汚染を行い、強制的に因子を改変させてしまう恐るべき力だ。


 干渉した者限定とはいえ、ウィルスに近い感染力を持っていることも危険な要素だろう。



(もし悪獣が本当に何者かに造られて、あの波動をばら撒くように設計されているとすれば、生み出したやつが『災厄の種』を仕込んだことになる。だが、まだ順序がわからないな。災厄が起きたからあれが造られたのか、あるいは災厄を起こすために造ったのか、それとも災厄の影響で遺伝子的な変化を遂げたのか…。今はまだ決めるのは早計だ。情報があまりに足りない。それ以前に、グラス・ギースの歴史や大災厄なんてオレには関係ない話なんだが…【災厄】という単語が気になるんだよなぁ)



 一番気になるのは、『災厄の魔人』である姉との関連性だ。


 彼女の異名がなければ、ここまで災厄に対して興味を抱かなかったはずなのだ。「へー、そんなことがあったんだね」程度で終わった話である。


 しかし、姉の年齢は三十過ぎなので、さすがに三百年以上も前の災厄とは無関係だろう。異名に災厄の文字があるからといって関連性があるとは限らない。



(いまだに姉ちゃんがどこにいるかもわからないし…漠然とした不安は常にある。まあ、人生なんてどうなるかわからない。オレはオレなりに好き勝手生きていくだけさ)



「これからどうされます?」


「素材市場があるんだよね? 寄ってみようよ」


「では、ご案内いたしますね!」



 ここのハローワークが大きいのは、素材の展示場もあるからだ。


 ハンター資格を持っていると、ハローワークが主催する素材市場に参加することができる。


 正規市場は流通量も多く、このエリア全体の素材が集まるため、これだけでもハンターになる意味があるといえるだろう。ノンカラーでもいいので登録しておくだけでお得だ。


 展示場は集中局の隣に併設されており、そのまま通路で繋がっているためすぐに到着。



「へー、ここがハローワークの市場か。いろいろあるね」



 展示会場は天上が高い大きな倉庫状の場所で、各種素材は透明の箱に入れられて厳重に管理してあった。その下には説明書きと値札が貼ってある。


 こうして一つ一つ管理しているのは、素材になっても危険なものがあるので安全性を保つためと、盗難防止を兼ねてのことだ。


 さきほど原石の事故を体験した身としては、安全管理の大事さが身にしみるものである。


 アンシュラオンはウキウキしながら展示場を見て回る。


 最初はさまざまな素材に目移りしていたものだが、次第に落胆した表情に変わっていった。



(うーん、ろくなものがないな。低レベルの素材ばかりだ)



 まずは魔獣のランクが低すぎる。第五級の抹殺級ならばまだよいほうで、大半がそれ以下のものだ。第四級の根絶級すら稀である。


 ロリコンがブシル村で下位の魔獣を捌いていたが、ああいった大衆向けのものが多い印象だ。


 もちろん必要な人には必要なので、それなりに買っていく人々も見受けられるが、自分が欲しいものはまったくない。



(ロリコンも討滅級の素材に関しては引き取ってもくれなかった。それだけ世の中では珍しいということだ。オレみたいにガンガン森の中に入るハンターなんて稀なんだろうな)



「せっかく案内してもらって悪いけど、なんだか期待外れかも。原石もたいしたものがないみたいだし…」


「仕方ないですよ。デアンカ・ギースと比べたらどれもが微妙に感じるのは当然です」


「あの素材もここに運ばれたんだよね? あれってどうなったんだろう?」


「うーん、見当たりませんね。あれだけ大きければ目立つはずですが…ちょっと訊いてみます」



 小百合がバザー担当の職員に話を訊きに行くと、リストを照会して調べてくれた。



「どうやら売れたようです。並べる前に問い合わせがあって、すぐに買っていった人がいたみたいですね」


「並べる前にわかるものなの? ハローワークと提携している商会なのかな?」


「どうなんでしょう? そこまではわかりませんでしたね。一応、提携していなくても問い合わせがあって、特に危険な相手でなければ売ることはよくあることなのです」


「素材って主に肉片だったよね?」


「そうですね。もともと皮がない魔獣でしたし、使えそうな素材というわけでもなさそうでしたが…悪獣というだけでもプレミア物ですし、欲しい人はいるのかもしれません」


「さすがに人が食べたりしないよね?」


「魔獣ばかり食べる美食家もいるとは聞きますが…想像したくないですね」



(仮に商会であれ向こうから問い合わせたということは、デアンカ・ギースが倒されたのを知っていたことになる。まあ、あれだけ騒ぎになったんだから知っていても不思議じゃないか。ただ、物が物だけにちょっと出回るのは怖いな)



 老婆の情報を知っていると、あまり外に出さないほうがよいとも思うが、そもそも売ったのは自分自身である。売った以上、それをどう使うかは買った人間の自由だろう。


 その後も見て回ったが、結局ろくなものがなかったので展示場を後にした。


 ここでわかったことが一つある。



(テンペランターにしても魔獣素材にしても、オレが欲しているものは『規制された表の世界』には無いんだな。やはり裏側に行くしかないか)



 日本でも本物の銃は売っているが、当たり前だが表の世界にはない。表面上はあってはいけないからだ。


 そういったものはすべて裏の世界、隠された場所に存在している。それを知っている者だけが密かに手に入れるのだ。




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