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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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174話 「加速する小百合の暴走、止められぬ夫の苦悩」


 翌日、旅館で朝食を頂戴してから本日の予定を決める。



「今日はハローワークに行こうと思うんだ。ハピ・クジュネに来た目的の一つだからね。そこでテンペランターを紹介してもらう予定だよ」


「それならば当然、小百合も行きます!」


「そうだね。小百合さんには付き添いをお願いしようかな。そのほうが話は早いよね」


「そうですとも。小百合にお任せくださいませ!」


「テンペランター? なんだそれ?」



 ロリコンが首を傾げる。



「ジュエルを調整できる職人だってさ。そのジュエルが何に向いてるかもわかるみたいだし、強化もできるみたいだ。どうせ武具を作るのが目的だから、その流れでアズ・アクスにも行きたいと思ってる」


「そんな職業があるんだな。知らなかったよ」


「ロリコンも知らなかったんだね」


「分野が違う素人だからな。宝石商ならともかく、行商人なんてただの仲介業者だぞ」


「まあ、そんなもんだよね。マキさんも一度ハローワークに来てもらっていいかな? ハンター登録して傭兵団に組み込みたいんだ。一緒になったほうが利益の共有化と効率化ができるからね」


「ええ、もちろんよ」


「ロリコンは何か予定がある?」


「俺はそろそろ仕入れかな。その前に薬を売るために市場を見て回ってくるよ」


「ハピ・クジュネもそんなに治安が良いわけじゃないんだよね? いろいろ動くにしてもロリコン夫妻だけじゃ心配だなぁ」


「護衛の海兵がいるだろう? 一人くらいはついてくるんじゃないのか?」


「すっかり忘れているようだけど、あいつらはあくまでオレの監視なんだぞ。ロリコンも一応対象者なんだろうけど、そこまで重要人物じゃないし、逆にそっちが人質に取られるとやりにくい」


「話を聞く限り、スザクはいいやつみたいじゃないか。そんなことはしないだろう?」


「スザクはね。でも、それ以外の人間がそうとは限らない。海兵だって軍や部隊によっては命令系統が違うこともある。もしスザク以外の人間からの命令で動いていた場合、文官肌のカットゥさんじゃ対応できないだろう。ここは大きな都市で、いろいろな人間がいるんだ。用心はしておいたほうがいい」


「…たしかにな。普通に商人として滞在するだけでも気をつけたほうがいいくらいだ。これだけ注目されていると、ますます危険ってことか」


「海兵がいるからこそ逆に悪目立ちするんだ。盗賊の残党や仲間がいて報復される可能性だってある。狙うなら、どう考えてもオレじゃなくて周りの弱いやつだろうしね」


「あんまり怖がらせるなよ。人混みが怖くなるだろう」


「だからハローワークでの用事が終わったら、そっちにはマキさんに護衛についてもらおうかなと思っているんだ。マキさん、お願いできるかな?」


「任せておいて。彼が犯罪を犯さないように監視するわ」


「そっちなの!? ねえ、俺のこと完全に誤解してるよね!?」


「昨晩のことを忘れたとは言わさないぞ。風呂場を覗こうとしただろう。常時、犯罪者予備軍だからな。自覚しろよ」


「こっちは地獄だったんだぞ! ずっと尻に力を入れてガードしなきゃいけない苦労がお前にわかるのか!?」


「まったくもって怖ろしい世界だよ。わかりたくもない。そういうことがないようにするための護衛だ。だからロリコンも最初はハローワークに来てくれ」


「わかったよ。護衛がいるのはありがたいからな」



(オレも別口で護衛をつけるし、マキさんがいれば大丈夫だろう。期待できる戦力があるのは素晴らしいな)



 現状、今いるメンバーで戦えるのはアンシュラオンとサナとマキだけだ。


 サナは基本的に一緒にいるので、マキがいることで別行動が可能になる。これは非常に大きなメリットである。



「そうそう、アロロさん。土地のことなんだけど、もうちょっと待ってくれる? 先に細かい用事を済ませてからのほうがいいだろうし」


「私は予定がないので、いくらでも大丈夫ですよ。それに、ちょっとした護衛くらいならできますから、ロリコンさんたちと一緒に行きますね」


「うん、お願いね」



 アロロも対武人戦でなければ、単純な格闘能力はホロロ以上なので、マキと一緒にロリコンたちと行動してもらうことになった。




 一行は、一般区に向かうために宿を出る。


 まだ午前中だが、今日も外はたくさんの人で溢れていた。


 ホテルは観光区にあるので、歩いているのはカップルや家族連れといった観光客が多いが、これから仕事に行く地元の者たちも多く見られる。


 観光区は都市の真ん中にあるため、仕事場が一般区であれ港湾区であれ、通り道として利用する機会が増える。


 そういった地元の人間は、逆に観光客を物珍しそうに見つめているのが印象的でもあった。京都の人間が街並みに対して何も感じないのと一緒であろうか。



「今日も人が多いね」


「一日に何便も南から定期便がやってきますからね。観光客が減ることはないみたいですよ。それを相手に商売も増えていきますから商売人も減ることはありません」



 小百合が海を見ながら教えてくれる。



「ああ、そうか。南からどんどん人がやってくるんだね。ところで、領主ってどこにいるの? やっぱりグラス・ギースみたいに都市の中心部なのかな? 地図の真ん中に島っぽいのがあるよね?」


「あれはただの自然公園みたいですよ。伝書鳩の飼育施設とかを見学できるようです。領主様がいるのは『海賊船』と聞いています。実際に船で生活しているのです」


「それはすごいな。船が家なら移動も管理も楽だね。壊れても乗り換えればいいんだし、すぐ逃げられるから逆に海のほうが安全かもしれないね」



 ハピ・クジュネは、あくまで船が立ち寄る『港』でしかない。だからこそ領主が幅を利かせずに自由に商売をさせることで、都市はどんどん大きくなっていくのだろう。


 領主が不動産を牛耳っているグラス・ギースとは完全に正反対である。



「ハローワークまで遠いですし、乗り物で行きませんか?」


「昨日みたいな馬車?」


「ここにはもっと面白いものがあるんですよ。こちらです」



 小百合の案内で連れていかれた場所には、大型のバイクが並んでいた。


 バイクの後ろには大きな荷台が付いており、複数の椅子が設置されていることから乗り物であることがわかる。



(バイク型のタクシーかな? アジアでたまに見るよな)



 タイにもトゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーがあるが、感覚としてはそれと同じだ。ただし、こちらのバイクは大型かつ浮遊タイプであり、車輪が付いているのは荷台のほうだけとなる。


 座席は二人が座れるものが四つ、計八人が乗れる仕様になっている細長い乗り物だ。


 実はアンシュラオンも昨日、何度か見かけて気になっていたものだった。



「小百合さんは、やっぱりバイクが好きなんだね」


「さっとまたがって移動できる身軽さが好きなんですよ。馬車よりは狭い道も通れますし、渋滞にも巻き込まれないで済みます。運転手さん、ハローワークまで八人お願いします」


「あいよ、千六百円だね」



 小百合が日焼けしたおっさんにお金を払う。一人二百円の計算だ。


 以前に乗ったグラス・ギースの観光馬車は五百円だったが、サナと割れば半額になるので、だいたい同程度の値段と思っていいだろう。


 全員が乗り、バイクが動き出す。


 バイクは浮いているものの荷台は車輪なので、乗り心地は馬と大差ない。若干揺れが少ないくらいだろうか。


 だが、新しい刺激にワクワクしてくる。



「サナ、楽しいな」


「…こくり。じー、きょろきょろ」



 流れる風で黒い髪をたなびかせながら、サナが街の光景を見つめていた。


 ちなみにカットゥたちもバイクタクシーで一緒についてくる。昨日は緊急だったので警備隊の馬車を使ったが、どうやら目立つことに気づいたようだ。



「ねぇ、おじさん。海には入れるの?」



 暇なのでバイクの運転手に話しかける。



「ああ、入れるぞ」


「魔獣とかの心配はない?」


「浅瀬なら大丈夫だな。むしろうちの領主様が全部駆除しちまって、沖にまで出ても強い魔獣に遭遇するのは稀になっちまったらしいぞ」


「そうなんだね。領主のガイゾックって強いの?」


「ああ、強い。息子のハイザク様も相当な武人だが、まだまだガイゾック様には勝てないな。たぶんこの都市で一番強いんじゃないのか? まあ、普段は海にいるから滅多に見かけないけどな。たまに港に寄って酒場で派手にやってるのを見かけるくらいさ」


「豪快な領主だね。息子との不仲とかはないの?」


「そんな話は聞いたことがないな。一度会えばわかると思うが、ガイゾック様は金とかに興味がない人だからな。全部息子にくれてやったって話だ。それなら息子も文句はないだろう」


「ああ、なるほどね。もう生前贈与しちゃったってことか」



 どうやら長男のライザックが成人した際に第一海軍だけを手元に残し、他のものは息子にあげてしまったらしい。



(ライザックが優秀なせいかもしれないけど、親子間の揉め事がないように事前に配慮した結果だよな。どこの世界でも相続問題は争いの種だからね。ガイゾックは頭も悪くなさそうだ)



 バイクタクシーはするすると渋滞を抜けていき、一時間もしないで一般区に到着。


 小百合が言ったように身軽さでは一番のようだ。



「バイクが入れるのはここまでだな。あとは歩いてくれ」


「うん、ありがとう。またね」


「ああ、気をつけてな」



 そこから徒歩で三十分程度歩くと、大きな建物が見えてきた。


 ハローワークがあるのはハピ・クジュネの一般区の中心部で、この都市に入った時にはすでに見えていたほどに大きかった。


 そのため迷うことなく到着するが、思わず周囲を見回してしまう。



「この施設だけでもグラス・ギースのものより数倍は大きいね」


「このエリアの支部ですからね。あの奥にあるのが集中局ですよ。各支店から送られてきた魔獣素材がすべて集まるので、これでもギリギリの大きさと聞いています」



 グラス・ギースのハローワークも役所や小さな校舎くらいはあったが、こちらはもっと大きく、すっぽりと一つの区画を占有しているほどだ。


 海沿いにある工場地帯を想像してもらえると大きさがわかるだろう。相当に広い敷地である。


 それも当然で、このエリアの物流の大半が集まる『集中局』があるからだ。


 下級の魔獣程度の素材ならば支店ごとに処理する権限があるが、一定以上のランクのものは一度集中局に集める決まりになっている。


 アンシュラオンが倒したデアンカ・ギースの素材もここに集まっていると思われた。



「集めた魔獣素材は、各分野に配分するんだよね?」


「そうですね。提携している商会に卸したり、ハローワークが開催している正規の市場に並べられます。魔獣素材はハローワークの貴重な収入源になっているのです。それがまた報奨金になってハンターたちに巡っていきます」


「ということは、もしかして掘り出し物が売っていたりする?」


「あるかもしれませんね。あとで市場を見てみましょうか」


「楽しみだな。何か見つかるといいけど」


「…じー」


「ハロー! ハロー!」



 そしてハローワークといえばこの人物、ミスター・ハローである。


 こちらでもサナはじっと彼を見つめている。



「ミスター・ハローって職員なんだよね? 人選はどうやっているんだろう?」


「彼らは契約社員です。面接は各ハローワークで行いますね」


「嘘でしょ? 正社員じゃないんだ…世知辛いな。そこは正規採用してあげてほしいよ」



 意外な事実に心が痛む。


 契約社員でも真面目に日々働く彼らに敬礼である。



「俺たちはここで待っているぞ」



 ロリコン夫妻とアロロを残してアンシュラオンたちは中に入る。


 規模こそグラス・ギースの数倍はあるが、造りそのものに大きな違いはないらしい。


 まず最初にロビーがあり、左手に準備室があって、右手に受付があるシンプルなものだ。



「アンシュラオン様、しばらくお待ちください」


「え? 受付に行くんだよね?」


「はい。ですが、準備がありますので」


「準備? 何の―――」



 と、アンシュラオンが言う前に小百合は歩き出していた。


 そして、受付に行くと何やら話しているようだ。



「小百合さんは何をやっているんだろう? マキさん、わかる?」


「さぁ? ハローワークの職員同士、何か手続きでもあるのかしら?」



 仕方ないのでそのまま見ていると、少し様子がおかしいことに気づいた。


 受付の女性が困惑したような表情を浮かべ、慌てて奥に引っ込んでいく。その数分後に男性職員がやってきて、小百合は奥に通される。


 そこからさらに十数分が経過。


 ようやくにして戻ってきた小百合は、なぜか制服を着ていた。ハピ・クジュネ支部のもので、黒い生地はそのままに肩口から赤いラインが斜めに入った『上級職員』のものだ。



「アンシュラオン様、こちらです! お待たせいたしました!」


「それはいいんだけど…なんで制服を着ているの?」


「ハローワークの職員ですから当然のことです。さぁ、こちらへどうぞ。ご用件を承ります」


「え? え? どういうこと? だって、休職中だよね?」


「アンシュラオン様の担当は、いつだって小百合なのです。これは決められたことなので覆ることは絶対にないのです! これぞ愛の力なのです!」



 まったく意味がわからないが、小百合は満面の笑みで受付側に座る。


 その光景を他の職員が眉をひそめて見ているが、小百合が笑顔を向けると顔を背ける。明らかに『何かしらの力』が働いたことがうかがえた。



(事情を訊きたいけど、嫌な予感しかしないんだよなぁ。すでにグラス・ギースでやらかしているし…大事にならないといいんだけど…)



 実際、課長の不倫をでっち上げた実績がある。ここでも何かやらかした可能性は大だ。


 が、もう気にしないことにする。小百合を止めるだけの力は夫にはないのだ。


 アンシュラオンは従順な女性が好きな反面、何か問題があっても嫌われたくないので、なかなか強く諌められないという女で身を滅ぼすタイプである。


 ここまできたら、もう突っ走るしかない。




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