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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌 後編」
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169話 「ハピ・クジュネを観光しよう! その1『夏服を買おう!』」


 アンシュラオンたちは、ハピ・クジュネの入り口に到着する。


 ここでまず他の都市と違う点が見られた。


 交通整理のための警備兵はいるものの、入り口には鉄柵や大きな門といったものは存在せず、出入りがほぼ自由になっていることだ。


 せいぜい怪しい人間がいたらその場で職務質問が行われる程度で、それ以上のことは問われない。誰彼構わず次から次へと都市に吸い込まれては、同じように吐き出されていく。まるで心臓だ。


 ハピ・クジュネはグラス・ギースの二倍以上はある大きな都市で、海に沿って建造された港湾都市である。


 いかに海を利用し、人と物を流通させるかに比重が置かれているため、そもそも城塞都市であるグラス・ギースとは設計思想が違うのだ。



「すごいね。人の数が圧倒的だ」


「ハピ・クジュネの人口は約二百五十万人です。一時滞在者を含めれば四百万を超えますからね。それが常時動いているのですから、これくらいは日常の光景です」



 アンシュラオンが驚いていると、カットゥが嬉しそうに説明してくれる。


 やはり自分が暮らす都市が誇らしいのだろう。そういうところからしてグラス・ギースとは違う。



「こんなに出入りがフリーで大丈夫なの?」


「毎回チェックしていたら流通に支障が出ますし、それよりは自由意志とモラルを大事にしているのです」


「モラルに頼るって不安定だよね。それじゃ喧嘩やトラブルも絶えないんじゃない?」


「そういう側面もありますね。ですが、海の男たち自体が荒っぽいですから、それもまた一興として受け入れられています」


「争いもまた生活の一部か。そういう自由さがハピ・クジュネを栄えさせているんだろうね。地図を見ると防壁もあるけど…あれがそう? ハピ・ヤックより低いかな?」


「そうですね。壁自体はさほど強固ではありませんが、常時警備隊が見回っていますので、私が知る限りは一度たりとも都市に魔獣の被害が出たことはありません」


「これだけの兵士がいれば当然か。都市の近くに出たらすぐに駆逐しそうだ」



 警備隊のほかにも海兵たちが周囲で演習を行っているので、もし何かあればすぐさま軍隊が出動するだろう。


 ここは海軍の本拠地なのだ。最低でも一万人近い兵力がある場所に魔獣は近寄らないし、盗賊団だって襲ってこないだろう。簡単に返り討ちである。


 何事も規制すればするほど人は萎縮し、本来の力を発揮しなくなり、それによって経済も悪化する。逆に自由であれば混乱や騒動も起きるが、一方で活力は維持され、常に発展の道を辿る。


 かといってすべてを放置はできないので、軍隊という強力な加護によって全体を統治しているのだ。その安心感が人をさらに伸び伸びとさせる。


 まさにハピ・クジュネは全盛期と呼べるほどに栄えていた。



「それでは中に入りましょう。こちらへどうぞ」



 カットゥが警備兵の詰所に向かい、窓口で何かを話すと関係者専用の入り口が開かれた。


 他の場所では、日本の高速道路でよく見られる渋滞が発生している箇所もあるが、こちらは軍や要人用の出入り口なので空いているようだ。


 ハピ・ヤックではけっこう待たされたので、それと比べると早く入れるのは悪いことではないが、カットゥと精鋭三人も一緒についてくるのが若干わずらわしい。



(まあいいけどね。べつに監視がいようがいなかろうが、やることは同じだ。逆にトラブル防止に利用すればいいさ)



 もう一つ他の都市と違うのは、自前の馬車で移動できることだろうか。駐車場で預ける必要はなく、商人などはそのまま倉庫や事務所に向かうことができるため効率が良いのだ。


 アンシュラオンたちもロリコンの馬車で進む。


 入る場所は別でも、どのみち中で繋がっているため、街の中央通りにやってくると、たくさんの人の姿が見られた。



「えーと、どっちに行けばいいのかな? ロリコンは知っているんだよね?」


「ああ、何度か仕入れに来たからな。ここは一般区のメインストリートさ。グラス・ギースの一般街みたいなもんだ」



 地図にあったように、ハピ・クジュネは三つのエリアに分かれている。


 入ってすぐに一般区があるのはグラス・ギースと一緒で、ハローワークや市場を含めた一般的な施設が集まっていた。



「港湾区は住宅街のほかに商会の事務所や倉庫とかがあるな。観光区はホテルとか飲食店とか観光名所とか、そういった娯楽施設が集まっている場所だ。とにかく、でかい! この都市はそれに尽きる」


「一般区が広いのはわかるけど、観光区の大きさも相当なものだね」


「南から常時人が出入りする場所だからな。観光区はいつも賑やかだぞ」


「せっかく来たんだから、用事はあとにしてまずは楽しみたいよね」


「そうしましょう! ここにはビーチもあるんですよ! 浜辺でぱーっとやりましょう! ビールも買いましょう!」



 小百合が若干オヤジっぽい発言をするが、海といえばビーチ。ビーチといえば水着だ。



「水着も売ってるのかな?」


「ええ、売っていたはずですよ」


「ロリ子ちゃんもここに来たら海に入るの?」


「私はここに来るのは二度目ですけど、あまり入らないですかね。なんだか怖くて。魔獣もいますし、せいぜいビーチで眺めるくらいです」


「あっ、そうか。どれくらいの魔獣が出るの? 強いのが出る?」


「沖に行かなければ大丈夫みたいですが、水の中に何かいると思うとゾクッとしちゃって…。普段は陸地での生活ですからね。なかなか慣れません」


「なるほどね。その気持ちはわかるなぁ」



 沖の深い海の中で、何か大きな生物が動いていたら怖いものだ。


 人間の潜在的な恐怖心が刺激されるし、ここは魔獣がいる世界だ。水棲魔獣に襲われたらトラウマどころではないだろう。



「よし、まずは観光だ!」



 初めての街に来たら観光。これが常識である。


 やはりハピ・クジュネの特徴は、港町ならではの人の多さと豊富な物流だろうか。


 馬車が一般区の中心部に近づくごとに人の数が異様に増えていく。そうなれば人口密度も上がり、徐々に人との距離が近くなって馬車の動きが遅くなる。


 すると、やはりというべきか売り子が近寄ってきた。



「お兄さん、買っていきませんか?」


「坊やとお嬢ちゃんもどうかしら?」



 まだ十代から二十代の女性たちが新鮮なフルーツや果汁ジュースを運んでくる。


 魚を使った揚げ物もあるので、さすが海沿いの都市である。


 が、問題はそこではない。



「ロリコン、若い子だよ! 若い子が売り子をやってる!!」


「そんなに驚くことか!? 普通だろう!?」


「グラス・ギースではお年を召された方々が多かった…」


「うんまあ…それは仕方がないだろう。人口の問題があるしな。人が増えれば若い女も増えるさ」


「ハピ・クジュネっていい街だね。永住しようかな」


「そんなに重要か?」


「オレにとってはね」



 若い女性が多い都市は素敵だ。夢と華がある。


 しかし、さすがに混雑してきたので、これ以上の馬車での移動は難しそうだ。


 都市の中心駅に車が入れないことを想像してもらえるとわかりやすいだろうか。人や交通量が多すぎてまったく進めないのだ。


 それにロリコンがギブアップ。



「こりゃ馬車は置いてこないと駄目だな。人を撥ねそうだ」


「カットゥさん、スザクが用意してくれたホテルってどこ?」


「南にホテル街がありまして、そこの『楽奉旅館』というホテルです。温泉設備もある素敵なホテルですね。馬車も置けますのでご安心ください」


「俺が行ってくるから、お前たちはそのまま観光しててくれ。この人混みじゃ、どうせ夕方になる。ホテルで合流しようぜ」


「ロリコンだけのけ者なんて悪いな」


「気にするなって。べつに観光に来たわけじゃないしな。その代わりロリ子を頼むぞ」


「そこは任せてよ」


「トラブルがあったら困りますので、こちらからもロリコンさんには護衛を一人つけさせていただきます。そのほうが移動もやりやすいはずです」



 ロリコンは馬車を置くために別行動を開始。


 屈強な海兵が一人、一緒に行ってくれるそうだが、どう見ても逮捕連行されている小児性愛好者にしか見えないのが哀しいところだ。



「私も先にホテルを見ておきたいですね。あとは若い者に任せますよ」



 と、アロロもロリコンについていったので、こちらはアンシュラオンと若い女性だけになった。


 ハピ・ヤックの時もそうだったが、どうやらアロロは宿泊施設が好きなようだ。旅行に行くと旅館が目新しくて、楽しくなる心境はわからないでもない。



「アンシュラオンさんはどこに行きたいですか?」



 ロリコンがいなくなったので、ロリ子が案内してくれるらしい。



「まずは適当に歩きながら服でも買おうかな。あっ、オレのじゃなくてサナとかみんなのね」


「アンシュラオンさんも袖が破れたままじゃないですか。買い換えたほうがいいですよ」


「縫ったから大丈夫だよ」


「いけません。亭主というのは見栄えも大事なんです。奥さんだけ着飾っても駄目なんですからね」


「そういうもんかなぁ?」


「そうですよ。そういうところはうちの旦那と一緒ですね。では、服のお店に行きましょう!」



 いきなり連れていかれたのは服飾店が並ぶ大きな商店街だ。


 露店のように道端に服が並んでいる店もあれば、少し高級になるとしっかりとした店舗を持っている店もあった。


 ただ、やはり規模がすごい。ここは服飾だけですべての店舗が埋まっていた。こうやって競争させることで質を高めているのだろうが、どうにも目がチカチカしてくる。



(自分の服なんかどうでもいいんだけどな。適当に選んでもらうか)



 実はアンシュラオンは、グラス・ギースで仕入れてから一切服を新調していない。戦いで汚れたら命気で洗えばいいし、あまり頓着しないので興味がなかった。


 この前マキとの戦いで破れた服も適当に縫って終わりだ。それに関して常々ロリ子の厳しい視線が向けられていたのは知っていたが、今回は我慢の限界だったようである。


 彼女に身を任せていると、かなり高級そうな服飾店に連れていかれた。



「アンシュラオンさんはどんな服がお好みですか?」


「ええと…戦闘に適したものがあれば十分なんだけど…武術服とか」


「わかりました。あっちですね」



 まずはいつものゆったりとした武術服とインナーシャツを数着買い、あとは散歩用のTシャツに七分袖の上着とズボンを選ぶ。下着もいくつか購入した。



「オレが欲しいのはこんなもんかな」


「それじゃ、あとは奥さんたちにお任せしますね」


「わかりました! 小百合たちが責任を持って選んでみせます!」



 こうして、その後は妻たちに任せたわけだが―――



「アンシュラオン様は素材が超一流なので、何でも似合ってしまいますね! これもいいですね!」


「ご主人様にはこちらも似合うと思われます」


「あら、こっちの服も可愛いわね。アンシュラオン君に似合いそうよ」


「これとか素敵ですね! ワイルドです!」


「次は、これなどどうでしょうか?」



 というように、ひたすら女性たちの着せ替え人形にされてしまう。


 これまたいつも自分がサナにやっていることをやられただけなので、なんとも反論しづらいのが困ったところだ。


 結局二時間くらいかけて、アンシュラオンのためにさまざまなコーディネートがなされた。


 ラフなものからスーツに移行したところまでは容認したが、最終的になぜかフリルが付いた服や怪しげな絵が入ったストリート系ファッションにまで至ったところでストップをかけた。



「いつ着るさ!? こんなの絶対着こなせないって!」


「えー、似合うと思うのですが…」


「できれば実用的なものでお願いね。それとオレばかりじゃなくて、サナやみんなのものも選んでよ」


「そうね。これじゃ本当に日が暮れちゃいそうだもの。ほどほどにしておきましょうか」


「そうですね。明日もありますからね」



(明日も来るのか…憂鬱だなぁ…)



 女性たちの買い物は長い。


 結局のところ、服を買うだけで四時間もかかってしまった。


 朝方に着いたので、もうお昼になっている。



「やれやれ、ようやく出られたよ」



 アンシュラオンは、夏向きのラフな服装に帽子を被っていた。


 七分袖の白いシャツに紺のズボンという、日本でもよく見かけるような一般的な服装だ。これならば変ではないだろう。


 当然、サナにも服を新調した。赤いリボンが付いた黒いワンピースとおしゃれな麦わら帽子という、こちらも夏仕様のセットだ。


 それがもう可愛くてしょうがない。



「サナちゃん、かわいい! ほら、くるりってして! して!」


「…くるり」


「あー、かわいぃいいいい! かわいいよおおおお! どんどんどんっ!」



 地面を叩いて転げ回る。


 街ではサナのロリータファッションを堪能できることも楽しみの一つだ。


 ただし、今回は妻たちもいる。



「アンシュラオン君、こっちも見てね」


「そうですよ。こんな美人が三人もいるんですからね」


「こういう開いたデザインは、少し恥ずかしいですね」



 女性たちも思い思いの服を買い、夏仕様の涼しげなものを着ている。


 こういうときは性格が出るもので、マキは動きやすく丈夫なパンツに、ヘソが出るほど短めのカジュアルなシャツ。鉄の篭手をはめているのでやや無骨だが、こうしてみると改めて綺麗なお姉さんであることがわかる。


 小百合はサナと同じくワンピースだが、大人の女性らしくフリルは控え目で、白い生地に黄色い帽子が実に似合う。見た目が童顔のため女子高生で通せるレベルなのもすごい。


 ホロロは最近メイド服のイメージが出てきたが、胸の上が大きく開いたロングのワンピースに薄いカーディガンを羽織ると、もともとある色気と相まって、ぐっと魅力的になった。


 活動的なマキ、清楚で明るい小百合、淑女のホロロといった様相だ。三人とも個性がよく出ている。



「これはいい! 素晴らしい!! いやぁ、嫁さんがいるって最高だね! 全部オレだけのものだもんね!」



 眺めるだけではなく、お触りもやりたい放題だ。


 腹や尻に触りながらその感触を確かめる。少年がじゃれついているだけに見えるが、実際は欲望塗れであった。


 ちなみにロリ子もサナに似たワンピースと帽子を買ったので、二人が並ぶと姉妹にも見えて微笑ましい。


 こうして美女三人と、小さな美少女二人(ロリ子含む)をはべらす少年の出来上がりだ。




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