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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌」編
156/618

156話 「山から迫り来るもの」


 幾多の苦難やアクシデントはあったものの、ア・バンドの殲滅作戦は順調に進む。


 サープはスザクが倒し、マキたちによってハプリマンも撃破。


 残った主だった敵の幹部は、シダラだけとなった。



「逃がすな! 追え!」


「ちぃっ、しつけぇ!」


「はぁはぁ…し、シダラさん…! 俺…もう駄目っす!」


「馬鹿野郎! 死んだら終わりだ! なんとしても生き延びるんだよ!」



 シダラたちはスザクとの交戦後、包囲が手薄な場所を突破して山側に逃げていた。荒野に逃げるよりも隠れる場所が多いからだ。


 だが、途中でシンテツたちの部隊が追いつき、激しい攻撃に晒されていた。



「撃て!!」


「ぎゃっ!」



 そして、最後の部下の一人がやられて追い詰められる。


 シダラの周囲を精鋭たちが囲み、シンテツがシミターを突きつける。



「散々てこずらせてくれたな。この人数差でよくやる。まさか半数も討ち取られるとは思わなかったぞ」


「てめぇら北部の連中とは鍛え方が違うからな」



 シダラの盾も鎧も、すでにボロボロであった。


 最初からくたびれてはいたが、破損やひび割れた箇所が多く見られ、もはや防具としては半分も機能していないだろう。当人自身も出血が多く、走ることもやっとの状態である。


 ただ、ここまで追い込むのに七人もの精鋭を殺されていた。(それ以外の者たちはクラッカーとの戦いで死亡)



「幹部の首級を逃すわけにはいかぬ。文字通り、首をもらうぞ」


「はっ、やってみろ!」


「殺せ! スザク様への手土産にする!」


「おうっ!!」



 精鋭の海兵が攻撃を開始。


 シダラも盾技を駆使して抵抗するが、さすがに多勢に無勢。


 横から槍で刺され、背中から剣で斬られ、銃で撃たれてダメージが蓄積していく。


 そこにシンテツが迫り、シミターを一閃。


 シダラは抜群の盾技術で上手くいなすが、彼の狙いはそこではない。


 もう一本の剣を抜くと、突きを放った。


 盾に―――亀裂!


 自慢の大盾に致命的なダメージが入る。



「『破防突はぼうとつ』! 狙いやがったな!」


「その盾、そろそろ買い換えの時期ではないのか? 随分と古かったようだな」



 剣王技、『破防突はぼうとつ』。


 因子レベル2で使える【武具破壊の技】で、主に相手の武器や防具の脆い部分を狙って破損させることを主眼に開発された技だ。


 特にこの技は盾破壊に有効なため、盾使いにとってはもっとも注意しなければならないものだった。


 だが、すでに手負いのシダラでは、そこまで対応はできない。



「もはや新しい盾の心配をする必要もなかろう! 安心して首を置いていけ!」



 刀身が水気の流れに乗ってシダラの首に迫る。


 以前マキに使った水流剣であるが、途中で水気が蒸発して霧となり相手の視界を覆う。


 剣王技、『水流霧斬すいりゅうむざん』。


 水流剣の応用変化版で、霧の中に剣筋を隠して防御しづらくする因子レベル3の技である。


 この霧は水気なので触れただけで皮膚が焼け爛れてしまうが、直接的なダメージを狙ったものではなく目潰しや牽制のためのものだ。


 シダラは咄嗟に大剣を使って頭をガード。


 そのおかげでシンテツの刃の軌道を逸らすことには成功するが、完全には見切れずにざっくりと側頭部を切られて、顔が血に染まる。



「ざけるなああああああ!!」



 シダラが大剣を大地に叩きつけると全方位に衝撃波が発生。


 剣王技、『剣陣烈波けんじんれっぱ


 ガンプドルフが使った『雷王・剣陣烈波』の属性なしバージョンで、こちらは因子レベル3で使うことができる範囲技だ。


 吹き荒れる剣気の衝撃波に精鋭たちが弾かれ、防御のために距離を取る。


 その間にシダラはまた逃走。山の上へ上へと走っていく。



「まだ粘るか! おとなしく観念しろ!」


「死んでたまるか! 死んでたまるかよおお!! 死んだら終わりだ!」


「攻撃を続けろ! もうすぐ落ちるぞ!」



 シダラは驚異的な粘りで耐え続けるが、やはり敵の数と質が問題だ。彼らは新兵とは違う屈強な兵士なのである。


 勇猛な武将であったシダラにとっても、この状況は極めて不利だ。せめてサポートが欲しい。



(あのガキさえいなければ…! ハプリマンが合流できていれば…サープの旦那も死なずに済んだ。どこで歯車が狂ったんだ!)



 今回の殲滅戦の肝は、やはり敵の戦力を分断できた点だろう。


 マキのおかげでハプリマンを釘付けにできたことで、この少ない戦力でここまでの成果を出せた。そして、アンシュラオンがいたからこそ、最初の奇襲で敵の数を半減させることができたのだ。


 もしそれがなければ、シンテツだけでハプリマンを抑えるのは難しかったはずだ。その間に敵が集まり、スザク側もサープに負けていた可能性もある。


 逆にいえば、ハプリマンの独断がマキという危険な要因を招き入れたので、戦犯を挙げるとすれば明らかに彼だろう。


 が、そんなことはもはやどうでもいい。



(生き延びてやる! どんなに無様でも生き残れば勝ちだ! そうだ…監獄にぶっこまれて臭い飯を食わされても、俺たちは必死に生き延びた! こんなくそったれな世界に復讐してやるまで、俺は絶対に死なない!)



 されど、討ち取られるのは時間の問題だ。


 そんな絶体絶命のさなかであった。



「おひょっ!?」


「なっ…チャッピリト!?」



 山の森の中で、まさかの人物と遭遇。


 ハゲでデブでオカマといった最悪の三拍子がそろった男だが、これでもれっきとした『トラッカー』の幹部の一人だ。


 トラッカーとは、ア・バンドの中で下調べや諜報活動、追跡等の戦闘以外のサポートを担当する者たちである。追跡専門の『シーカー』も、この中に分類されている。


 各ロードキャンプにいる諜報員の大半は、このチャッピリトの部下たちだ。それをテイカーたちに売ることで生計を立てていた。



「なんでてめぇが…そういや、山に出張っているとかハプリマンが言っていたな」


「おひょ!? おひょひょ! これはどういうこと? 何かあったの?」


「こんな時に悠長にしやがって! てめぇこそ、今まで何をしてやがった!」


「そ、それは…ちょっとお小遣い稼ぎを…。でも、やばいのよ! シダラちゃんも早く逃げて!!」


「逃げろ? こっちは必死に逃げてる最中だ!」


「そ、そうなの。それじゃまた! あたしも逃げるわよ!」


「おい! そっちには敵がいるぞ! 山に逃げ込まねぇと…」


「山は駄目よ! 本当に今は駄目なの!」


「おい、その手に持ってるもんは……ちっ、あのデブが! 死んでも知らねぇからな! …というか、あいつの部下たちはどうしたんだ? まあいい。俺独りでも逃げきってやる!」



 シダラは山のほうへ。


 一方のチャッピリトは山を下るように逃げる。


 が、こうなれば当然シンテツたちと遭遇することになり、あっという間に精鋭たちに囲まれる。



「なんだ貴様は!」


「あひーーー! どういうこと!? 誰あなた!?」


「お前こそ誰だ! 見た目が怪しすぎるぞ!」


「見た目!? うるさいわね! あたしは醜くなんてないわよ! ハゲでデブで何が悪いのYOOOOO!」


「いつっ…貴様、無駄なあがきはやめろ!」


「いやああああ! もう嫌なのぉおお! 誰か助けてぇえええ!」


「なんだこいつは! その鞭を捨てろ!」



 チャッピリトは鞭を取り出して抵抗するが、所詮は戦闘向けではない諜報員だ。


 簡単に取り押さえられる。



「いやああ! 触らないで! エッチ! 痴漢! もっと触ってぇええ!」


「おとなしくしろ! お前もア・バンドだな!」


「そ、そうよ。でも、そんなことはどうでもいいの。早く逃げないと、あんたたちも死ぬわよ!」


「そんなハッタリが通じるものか。すでにお前たちのアジトは制圧したぞ。生き残りはいないと思え!」


「お願いだから話を聞いてちょうだい! そんな場合じゃないのよ!」


「ん? その手に持っているものは何だ? シンテツ様、こいつ何かを持っていますよ」


「見せてみろ」



 精鋭の海兵が、チャッピリトが持っていた袋を奪う。


 何か中でモゾモゾ動いており、嫌な予感がしたが、シンテツが袋を開けると―――顔が青ざめる



「これは…まさか……貴様! なんてことをしてくれた!」


「ひぃいいっ! ちょっとしたお小遣い稼ぎだったのよ!」


「山に行ったのか! どこまで登った!」


「北西の…ほうまで遠出を…。で、出来心だったのよぉ! こんなことになるなんて思わなかったの!」


「馬鹿なことを! まずいぞ。このままでは…!」


「シンテツ様、それは?」


「…【山神】たちの子供だ」



 シンテツが袋の中から、小さな生き物を取り出す。


 そこには両手足をちぎられた『猿』のような生き物がもがいていた。


 それを見て精鋭たちも青ざめる。



「『例の作戦』の前に、よもやこのような事態になるとは…完全に想定外だ」


「ど、どうしますか?」


「ただでさえ緊張状態にあるのだ。こんなことが起きれば、やつらが黙っているわけがない」



 そのシンテツの予想通り、遠くの木々が激しく揺れ始める。


 そして、徐々に強い圧力が山の方角から向かってくるのがわかった。



「撤収だ! 戻ってスザク様に至急お伝えするのだ! ライザック様にも緊急の鳩を飛ばすぞ!」


「了解しました!」


「本当に余計なことをしてくれた! すべてが台無しになるやもしれぬぞ…」



 シンテツたち精鋭が、転げるように必死に山から逃げていく。


 これだけの猛者たちが一目散に逃げるのだから、よほど緊急事態なのだろう。


 しかもチャッピリトを置いていくほど慌てている。



「おひょ? これはもしかして…助かったのかしら? ほっほっほ、あたしったらなんて運が良いのでしょう。さっさと逃げましょ。そうしましょ」



 と、チャッピリトが立ち上がろうとした時。


 真上から光が消えた。


 月明かりを遮る大きな影が落ちてくると、チャッピリトを一刀両断!



「あべっ…? あばばばば…? あたし…え? これで終わ…り…?」



 チャッピリトは真っ二つになって絶命。


 そのぬちゃっとした不健康な血液が付着したのは、大きななたであった。


 人が持つにはあまりに大きく、取っ手も人間サイズではない。最初から人間が使うことを想定していないのだ。


 それを持っているのは―――【巨大な猿】たち



「キキィイイイイイイッッ!」



 武器を持った体長三メートルはある猿が、次々と山を下っていく。手足を伸ばせば五メートルは超えそうな大猿の群れだ。


 彼らは人間を見つければ容赦なく襲いかかる。



「マジかよ! チャッピリトのやつ、何をしやがった!」



 そのため山を上がっていたシダラも彼らの一団に襲われていた。


 大猿の鉈を盾でガードするが、その膂力は凄まじく、人間の武人に匹敵するパワーを誇っている。


 ビシビシと盾に幾多の亀裂が入り、ついに完全に破壊。防御の拠り所を失ってしまう。


 その間に違う個体が、背後から頭に強烈な一撃を見舞う。


 シダラは頭を捻って避けるが、肩に命中。


 今度はバギンッと鎧に亀裂が入って、右半分が欠損。



「くそがっ…ここで終わりなんて認めねぇからなああああああ!」



 シダラは大剣を振り回して包囲の突破を試みる。


 が、次から次に下りてくる猿の群れに愕然。



「何匹…いやがる」



 最初は十数頭だと思っていたが、行軍はまったく途切れることはなく、ざっと数えただけでも二百頭は下らないだろう。


 そして、その群れを率いる右腕が肥大化したひときわ大きな個体が、ぎらりと赤く光る大剣を持って登場。


 片手で枝を掴み、木にぶら下がりながら、こちらをじっと見つめている。


 その瞳には―――強烈な憎悪


 シダラでさえ身震いするような殺気を向けてきた。



「ははは…! 人間に殺されるよりはましか? だがなぁ! 簡単にやれると思うなよ! 俺はこれでも騎士団を率いていた―――」



 大猿が降りてきて強撃一閃!


 シダラは大剣で迎え撃つが―――バギンッ!


 剣気を放出していたにもかかわらず、あっさりと砕いてしまった。


 もちろん魔獣のパワーが人間以上なのもそうだが、これは【武器の質の差】だった。



「ありえねぇ…なんで魔獣が…【術式剣】を持ってやがる!! 道具を使えるのが人間様の長所じゃなかったのか!! 有利な点だろうが! それを魔獣が使うのかよ! このエテ公がぁああああああ!」



 魔獣に叫んでも意味など通じない。理解などされるわけがない。


 ブンッと大猿が赤い剣を振り払うと、シダラの鎧を完全に破壊し、胸を切り裂いて大量出血。


 そして、逃げようとしたところを背中からばっさり斬られ、こちらからも大量出血。


 スザクとは反対側から斬られたため、背中に「罰印」が生まれてしまう。まさに咎人の烙印である。


 シダラは、歪む視界の中で懸命に逃げ続け、ついに谷までたどり着く。


 だが、追いかけてきた大猿の剣が、とどめを刺そうと振り上げられる。



「ちっ、終わりかよ。てめぇらに殺されるくらいなら……よ」



 自ら崖に身を投げる。


 身体が何度も岩に叩きつけられ、二百メートル下の岩盤にぶち当たり、血を流して動かなくなった。



「………」



 大猿はそれを見届けると、再び元の道に戻って山を下っていく。


 その途中で、無残にも傷つけられた子供を回収。


 彼らの目に宿るのは、『人間への怒り』。



「ギッッキィイイッッ!」



 号令を出すと、群れの眷属たちが廃墟の街に向かっていった。


 ア・バンドを倒したと安らぐ暇もない。


 北部全体を揺るがす、次なる戦いの幕が上がろうとしていた。




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