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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌」編
149/619

149話 「ア・バンド殲滅戦 その2『強襲、人を超えし力』」


 少し時間は遡る。


 マキがハプリマンと戦っている頃、アンシュラオンはシンテツと一緒にスーサンたちと合流を果たしていた。



「やはりあなたがそうでしたか」



 スーサンが、アンシュラオンを見て納得したように頷く。



「初めてお会いした時から只者ではないと思っておりました。まさかホワイトハンターとは」


「そんな話はあとでいいよ。そっちの準備は整ったの?」


「リンウート隊長の指揮する海兵部隊、およそ八十五名が合流できました。それに我々三人を加えた八十八名で全員です。精鋭部隊だけで臨みたかったのですが、時間が足りなかったために数で埋め合わせました」



 彼の背後には、今述べられたように八十五名の海兵が整列していた。


 まだ若い兵も多いが、三割程度は見るからに屈強な強兵だ。普段から相当鍛えている証拠だろう。


 もともと訓練に出ていた部隊なので新兵が多いのは仕方がない。全員が精鋭とはいかないが、これでも相当無理をした様子がうかがえた。



「敵の能力がわからないから、これで十分かどうかもわからないな」


「お前が急がせるからだ。これだけ集められたのもスー様の努力の賜物だ」


「はいはい、付き合ってやっているのはこっちだけどね。まあ、小百合さんを助けてくれたことには感謝しているから、その分の穴埋めはするよ」


「その自信が本物であることを願うがな。助ける余裕はないぞ」


「あんたもあっさり死なないようにね」


「ふふ、相性が良いようで何よりです。これから私たちは命を預ける仲間です。信頼が大事ですからね。言いたいことはすべて言い合い、ぶつかって仲良くなる。素晴らしいです。これこそ青春ですよね」


「…ねぇ、彼は大丈夫なの?」


「スー様は平和主義者なのだ。気にするな」


「平和主義者って怖いね」



 若干スーサンの感覚が世俗とずれている気がするが、そういう性格なのだろう。


 言いたいことを言うと人間関係は壊れるので、良い子は注意しよう。



「で、どういう作戦でいくの?」


「二手に分かれてからの同時強襲作戦です。地上から砲撃を加えて注意を引きつつ、地下坑道から敵の拠点に奇襲をかけます」


「小百合さんが逃げてきた地下坑道か。まだ敵に見つかっていなければ悪くない作戦だね。ただ、地上部隊の押し上げが十分でないと突入した部隊が孤立しそうだ。囲まれて各個撃破されるかもしれない」


「たしかにそうですね。地下の部隊に精鋭を集中させたほうがいいかもしれません。シンさん、突入部隊の指揮を頼めるかな? 道を知っている者が必要だろう」


「了解しました。しかし、スー様は全軍の指揮をなされる都合上、地上部隊になります。こちらに精鋭を集めてしまうと兵の質が気がかりです」


「僕も海兵の一人だ。そろそろ一人前として認めてくれてもいいんじゃないかな?」


「そうですが、やはり心配です。バンテツ、リンウート、スー様を頼むぞ」


「任せておけ」


「はっ、この身に代えましても」


「しょうがない。オレも地上から行くとするよ。最初の一撃で敵を大きく崩すから、その間にシンテツのおっさんは女性の救出と突入を頼む」


「言っておくがスー様の命令には従うのだぞ。あくまでスー様が率いる部隊だからな」


「もう耳タコだって。そっちもタイミングを逃さないでよ。その一瞬が突入のチャンスだからね」


「我々の威信にかけて必ず成功させる。任せておけ」


「では、これよりア・バンドの巣を駆除する! 拠点の地図は頭に入っているな! 作戦の開始だ!!」


「おおおおおおおおおおお!!」



 シンテツ率いる突入部隊三十一人が出発。


 内訳は精鋭が二十人。残りの十人は若い兵だが、主に女性の救出と逃げ道の封鎖が担当なので問題はないだろう。


 彼らは大きく山側に回り込み、先日見つけた坑道から侵入する手筈だ。


 その間に地上部隊は森の中にまで移動し、山側の準備が整い次第、攻撃を開始する予定となっている。


 タイミングを合わせるための連絡手段は『伝書鳩』だ。


 鳩といっても大きな鷹の魔獣で、家畜化されて人に慣らされた安全なものである。


 待っている間は暇なので、アンシュラオンとスーサンが雑談に興じる。



「どうやって連絡を取っているのかと思っていたけど、そんなやり方をしていたんだね」


「ええ、これがハピ・クジュネの強みの一つです。どんなに遠くても空ならば快適に移動できますし、盗賊や魔獣に襲われる危険性も減ります。各衛星都市には必ず鳩小屋を配備するようにしてあるのです。軍船同士の海上でのやり取りにも重宝されていますよ」


「グラス・ギースにはなかったけど、思えばあそこは結界を張っているんだっけ。それじゃ鳥は使えないか」


「あそこはあそこで良い都市ですよ。外部からの防衛能力はかなり高いですからね」


「たしかに特殊な都市ではあったね。でも、オレから見るとハピ・クジュネ軍のほうが強そうに見えるな」


「ありがとうございます。本当は戦いなんてないほうがいいんですけど、治安を乱す者がいる以上は戦わねばなりません。ハピ・クジュネは南部の入り口で防波堤でもありますから、軍備増強にも力を入れているのです」


「この部隊は第三海軍なんだよね? 他の軍との違いは何?」


「第三海軍は、主力の第一と第二海軍を補佐するために作られた軍でして、約四千の海兵によって編成されています。新兵がやや多いのはそのためですね。各軍の補充や遊撃等を担当しています」


「予備兵力だけで四千か。グラス・ギースとは規模が違うね」



 ハピ・クジュネ軍は、総数三万の兵を持つ北部最大戦力の一つだ。


 第一海軍は主力部隊で数多くの軍船を保有し、都市の防衛を担当している。第二海軍も主力ではあるが、こちらは積極的に敵を攻撃する突撃部隊が多い。


 そして第三海軍は予備兵力であり、他の二つの軍の補佐をしつつ、こうして地上での治安活動も担当しているようだ。


 彼らは街にいる『警備隊』ではなく『軍隊』なので、その規模も武装も次元が異なるのが特徴的だ。相手を滅するための装備が揃っている。


 スーサンもいつもの山賊風の姿ではなく【赤い甲冑】を身にまとっている。シンテツは青い甲冑、バンテツは黄色の甲冑、リンウートたちは紺色の濃い目の甲冑である。


 西洋風ではなく日本の武士甲冑に似ており、魔獣の素材に加えて随所で鎖帷子や金属を織り込んで防御力を確保しているゴリゴリの戦闘用のものだ。


 また、海軍ということもあり、海に落ちても浮くような仕掛けがいくつもあるので、いざという場合には浮き輪代わりにもなる優れものであった。



「製鉄技術も進歩しているんだって? 鉄の缶を見たよ」


「今までの鉄鋼技術は鍛冶師の専売特許だったところはあるのですが、徐々に西側の技術も入ってきたので一般にも流通させているところなのです。やはり鉄があると生活の質がかなり向上しますからね」


「その点もグラス・ギースとは違うってことか」


「あまり他の都市と比べるのは非礼ではありますが、ハピ・クジュネは優れた都市だという自負があります。ですが、慢心せずに日々努力することが大事なのです」


「ずっと疑問だったんだけど、君はどうして戦っているの? 前線で戦うのはかなり危険だと思うよ。強いことは知っているけど、相手次第では死ぬ可能性だってあるよね?」


「それが脈々と受け継がれてきた僕たち『海賊の流儀』なのです。たとえ死んでも、その想いは次の世代に引き継がれます。その雄々しさが人々の魂を惹き付けるからです」


「そっか。それだけの覚悟があるのならば、オレがとやかく言う必要はないね」


「あなたを引き止めてしまって申し訳ありません。本当はすぐにでも助けに行きたいでしょうに…。あなたの奥様に万一のことがあったらと思うと心が痛みます」


「オレだってすべての人間を助けられるわけじゃない。知らないことは対応できないし、この事態を招いたのはオレ自身の問題だ。でも、オレの嫁になりたいって本気で向かってきてくれる人なら…信じてみてもいいかな。君は信じている人はいる?」


「家族を信じています。そして、私を信じてくれる部下の者たちや、ハピ・クジュネの人々の自由にかける情熱を信じています。私は愛するもののために命をかけて戦いたいのです」


「そんな恥ずかしい台詞を堂々と言えるなんて、君は本当に素直なんだね。マキさんに似ているよ。…と、準備が整ったみたいだ」



 待つこと三十分。伝書鳩がやってくる。


 山側の準備が整ったようだ。



「では、参りましょう。砲台車両、突撃準備だ!!」


「はっ!」



 ハピ・クジュネ軍が保有する砲台車両は、ハピ・ヤックにあった砲台を強引に搭載したクルマで、非常に簡素な造りをしている。


 クルマ自体もダビアが乗っていたような高価なものではなく、推進器が付いている箱と呼んでもよいレベルの安物に、大量の装甲板を貼り付けただけのものだった。


 言ってしまえば『戦車の出来損ない』だ。


 これでは複雑な動きはできないだろうが、あくまで砲台を移動させるためだけの足なので、これで十分なのである。



「これの有効射程距離は?」


「せいぜい五百メートルでしょうか。軍船相手ならば十分な威力ではありますが、対人というよりは施設破壊を目的としたものです。武人は倒せずとも注意を引きつけることはできるはずです」


「敵は武装船とかは持っていないんだよね?」


「今のところは確認されておりません。さすがにそこまでのものを保有していれば、我々も事前に察知できます。やつらは足がつくのを怖れますので、せいぜい大型のトレーラー程度でしょう。それも所詮は輸送専用のものです」


「それなら砲台だけで対応はできそうだね。オレが先に仕掛けるから、それが終わったら追撃する形でついてきてね」


「え? 仕掛けるとは? まだかなりの距離がありますし、むやみに接近すれば発見されますよ」


「大丈夫だよ。もう一回地図を見せてくれる?」


「はい。こちらです」


「…よし。動いていなければ、このあたりにマキさんがいるはずだ。そこを避けるように攻撃すればいいか。サナ、オレが攻撃したら全力で走るぞ。前にやった試練を思い出せ。走り出したらもう戦場だ。準備を怠るなよ」


「…こくり、ぐっ!」



 街の入り口まで七百メートル前後。


 狙ったわけではないが、以前サナに課した試練組手と同程度の距離だ。


 そもそもあの六百メートルという間合いは、大半の魔獣や技の最大有効射程距離を想定して設定しているので、意味ある数字なのだ。



「地下部隊は今、どのへんかな?」


「予定通りならば、そろそろ女性救出に入っているでしょう。敵がいなければですが…」


「そこはマキさんを信じよう。じゃあ、やろうか。ちょっと下がってて」


「はい」


「もっと下がって。三十メートルくらい」


「は、はい。何をされるのですか?」


「シンテツのおっさんとの契約で、一応君たちにも活躍させないといけないことになっている。ただ、マキさんが慎重になるくらいだ。相手はかなり強い。砲台と新兵だけじゃ心もとないからね。一発でかいのをかまして相手が驚いている間に一気に決めよう」



 スーサンたちを下がらせ―――低出力モードを解除


 アンシュラオンが本来の戦気を解放する。



「はぁああああ!!」



 ビリビリと大気が震え、大地が振動するほどの膨大な量の白い戦気に、森の木々がばっさばっさと揺れる。


 ただ戦気を解放しただけなのに、その余波で周囲二十メートルの草木が蒸発していく。



「こ、これは…!!」


「む、むう…」



 スーサンとバンテツたちが、その様子に気圧される。


 レベル差など関係ない。誰が見ても目の前のオーラが尋常でないことがわかるだろう。


 されど、本番はここからだ。


 爆発集気で戦気を圧縮して、技の態勢に入る。


 それによってさらに戦気が増大するが、戦気を拳だけに集中させたために、掌に太陽が生まれたかのような強烈な輝きが生まれた。


 爆風が吹き荒れ、森にいた鳥たちが吹き飛ばされていく。


 仮に敵の監視がこれを見ていたら、何かしらの異常が発生したと思うかもしれない。


 が、時すでに遅し。



「はっ!!」



 アンシュラオンが大地に拳を叩きつける。


 拳圧の衝撃で破壊された大地が、一緒に放出された戦気によって流され、次々と新しい大地を巻き込みながら崩壊を始める。


 その様子は、まるで天変地異の地割れに等しい。


 轟音を響かせながら大地が割れていき、噴き出した大量の土砂が廃墟の街に向かっていく。


 覇王技、『覇王土倒撃はおうどとうげき』。


 因子レベル3で使える技で、大地に拳圧と戦気を流し込むことによって土石流を発生させ、広域を破壊する技である。


 しかし因子レベル3とはいえ、込める戦気の量によって規模を制御できるため、アンシュラオンのように膨大な戦気を叩き込めば、もはや別次元の技に見えるかもしれない。


 同じ技でも使い手が異なれば威力も異なるのは当然だ。


 人を超えた者、超人が本気で放った一撃は災害規模となる。


 地割れと土石流は、一瞬で廃墟の街に到着。


 だが、ここからが腕の見せ所だ。



(地図を思い出せ。マキさんがいる場所だけをピンポイントで避けつつ、万一巻き込まれたときのことを考えて威力を軽減させる)



 街の入り口に到着した土石流が―――拡散!


 大量の土砂が建造物だけを狙って直撃し、破壊していく。


 その光景は、ドミノ倒しのようだった。


 まるで自然災害の映像でも見ているかのように、あっという間に街が土に襲われて呑み込まれていく。


 しかも完璧に制御された攻撃は、マキがいるであろう建物だけは倒さない。その場所に向かえば向かうほど威力を軽減しており、綺麗にそこだけが残っていた。



「………」


「スーサン、いくぞ! オレとサナは先行してマキさんと合流する。しばらくはそっちだけで耐えてくれ。これで敵が死んだと思うな。そんなに弱い相手じゃないぞ。ほら、号令!」


「っ…は、はい!! 全員、突撃! 射程距離に入ったら砲撃を開始しろ!」



 呆気に取られていたスーサンが、慌てて指示を出す。


 これを見てしまうと砲撃など必要なのかと疑うが、すぐさま砲台車両を伴って突撃を開始。


 だが、その胸はいまだに張り裂けんばかりに鼓動を速めていた。



(なんだ今のは? 僕は今…何を見た? 人が大地を割って、噴出した土砂が街を襲った。原理はわかる。やり方も想像できる。でも、規模がおかしい。これがホワイトハンターの力なのか? すごい…すごいすごい! 兄さんたちに教えてあげたい!! 北部にはこんなにも強い人がまだいるんだって!!)



 ありえない。信じられない。


 だが、一緒に走っていることが、こんなにも心強い。


 将来有望な若き青年は、その眼に英雄の姿を刻みつけていた。




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