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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌」編
141/617

141話 「花園を狙う者 その1『隙間に入り込む者』」


 マキと小百合は、六人の女性を連れてハピ・クジュネに向かうことになった。


 彼女たちの大半は、ホロロと同じような状況で借金を背負わされ、夜の店で働かされそうになった者たちである。


 マキもやれるだけはやったが、街にはこのような弱い立場の女性はたくさんいる。そのすべてを助けることは不可能だ。



(私のやっていることは正しいのかしら? ただの自己満足ではないの? 小百合さんは何も言わないけど、バイクまで売らせてしまったし…迷惑に感じているかもしれないわね)



 正直に言えば彼女たちは足手まといであり、強い者にすがるだけの都合のよい弱者でしかない。


 自立している二人からすれば、見ていてけっして気持ちの良いものではないのは確かだ。



「本当にごめんなさいね」


「マキさん、そんなに気にしないでください。私は大丈夫ですから。これくらいの人数なら大丈夫ですって」


「もう増やさない。約束するわ!」


「ふふ、お願いしますね」



 と、笑っていたのも束の間、旅の途中ではハプニングが起こるものだ。


 魔獣に襲われていた一団を助けた際、馬車が壊れてしまった女性たちを保護。


 今度は盗賊に襲われていた一団を助けた際、男性恐怖症になってしまった女性たちを保護。


 わずか一週間の旅で、人数は十五人になってしまった。当然、全員女性だ。



「マキさん…」


「ごめんなさい…」



 これに関してはマキが悪いわけではない。


 たまたま助けた相手の中に女性がおり、人として助けたほうがよい状況にあっただけだ。本当に偶然でどうしようもない事故のようなものだった。


 がしかし、彼女自身の問題も相変わらず残っていた。



「ぐえっ…た、助けてくれ……!」


「あんたたち、女性を食い物にするなんて恥ずかしい真似はやめて、真面目に働きなさい!!」


「お姉様…ついていきます!!」


「マキさん…」


「ごめんなさい…」



 ロードキャンプに立ち寄るたびに困っている女性を助けるものだから、そのたびにこのテンプレが発動してしまう。


 ちなみに男は自力でがんばるものと考えているので、困っていても助けることは少なく、相手が望んでも同行は拒否している。


 動機は異なるものの、やっていることはアンシュラオンに似ているのが面白いところだ。


 そして、およそ半月の旅で、ついに一団は三十人を超えてしまった。


 夜、焚き火の前でマキが落ち込む。



「私、昔から女の人に好かれるのよね。なんでかしら? 女性にモテたいわけじゃないんだけど…」


「綺麗で強い人は、どうしても人気が出るものです。仕方ないですよ」



 マキは男装しているわけでもないのに、なぜか女性から頼られる。


 アンシュラオンのように強くて美少年といったケースはレアであり、大半はむさ苦しい男が多い中、それならばと強い女性に惹かれるケースもあるだろう。


 特に男絡みで嫌なことがあれば、なおさらそっちの傾向が強くなっても仕方ない。



「ご飯ができましたー」


「ありがとう、イリージャ」


「いえ、何のお役にも立てないのですから、これくらいはしないといけません。料理は昔から得意だったのです」



 純朴そうな十代後半の女の子、イリージャがシチューを作って配ってくれる。


 彼女は最初にマキが助けた子であり、率先して料理を作ってくれるので非常に助かる存在だ。



「マキ様たちは、誰かを追いかけているのですか? いつもロードキャンプ内で白い髪の少年さんのことを訊いていますよね?」


「そうなのです! 私たちの夫です!」


「…たち?」



 スーサン同様、そこが気になるのは当然だろうか。



「ええ、まあその…婚約者みたいなものね。私が長年探し続けている王子様なの」


「マキ様が好きになる御方なんて、いったいどんな素敵な人なのでしょう。私もお会いしてみたいです」


「イリージャ、様付けなんてしなくてもいいのよ。私はただの一般人だし、王家の生まれでも貴族でもないわ。あなたと同じ普通の女よ」


「そんなことはありません! マキ様みたいな強くて輝いている女性は見たことがありません。特別な存在なのです! 憧れます!」


「そ、そうかしら?」


「『隊』の中には抱かれたいと願っている人もいるくらいなのですよ!」


「だ、抱かれ…!? どういうことなの!? いったい誰が…」


「えーと、彼女と彼女と…あの人と…その隣にいる人とかですね」


「四人も! 私にそういう趣味はないわよ。それに女性同士じゃ子供が作れないわ。変よ、おかしいわ」


「そうでしょうか? 私も少しだけ気持ちがわかります」


「………」


「ああ、距離を取らないでくださいー! そういう意味じゃないんです! いろいろつらい目にも遭ってきましたから…強いものに憧れるんです。もし自分もこうだったらって思って…。力を持つってどういう気持ちなんですか?」


「うーん、どうなのかしら。私はまだまだ未熟者だし、そこまで強いとは思っていないのだけれど…」


「それでも不当なものからは身を守れますよね?」


「あなたたちと比べれば…だけどね。でも、結局は相対的なものではないかしら。力があれば、今度はそれに見合った者と対峙しないといけないもの。責任も生じるし、正直婚期も逃し続けてしまったから、良かったと思うことは少ないわ」


「そう…なんですか。私は…どうすればいいのでしょう…。未来にまったく希望が見えなくて…お姉様、ずっと傍にいてくれませんか? お姉様と一緒ならば、私は…もっと……」


「ごめんなさい。それは無理よ」


「っ…」


「私たちの行く先には危険があると思うの。そうでなければ彼も置いてはいかなかったはずだもの。あなたにはあなたの道があって、私には私の道がある。それはたぶん…交わらないものだと思うわ」


「………」


「イリージャ、勇気を持って。あなたなら何でもできるわ。がんばればきっと道は見えてくる。一回や二回で諦めていたら幸せな未来なんて掴めないわよ。掴むのが難しいほど価値があるものなの。そうでなければがんばる意味がなくなっちゃうわ。ね、そうでしょう?」


「…はい」


「これをあげるわ。勇気が欲しいときは、これに触れるの。ただの気休めだけど、案外効果があるものよ」


「あっ、これ…」


「あなた、これを眺めていたわよね。私からのプレゼントよ」



 ロードキャンプの店で買った腕輪を渡す。


 少し幅があるもので、マキの篭手ほどではないが、付けると若干の重みを感じる金属製のものだ。


 マキに憧れていたイリージャが、何か自分も似た腕輪が欲しいと物色していたものの、お金がないので諦めたものであった。



「マキ様…もらってもよろしいのですか?」


「もちろんよ。あなたのために買ったのですもの」


「嬉しいです!」


「こ、こら。抱きつかないの」


「ありがとうございます! ハピ・クジュネまでですけど…これからもがんばります!」



 イリージャは何度も腕輪を撫でながら、嬉しそうに走っていった。


 それを見ていた小百合が、少し呆れたような顔で核心をつく。



「マキさん、そういうことをするからモテてしまうのですよ」


「え!? 単純にプレゼントをあげただけなんだけど…」


「優しいのはマキさんの長所ですけど、身内以外の人に優しくしすぎるのは逆にかわいそうかもしれませんよ。近いうちに別れてしまうのですから」


「そうね。そうかもしれないけど…私がキャロアニーセ様に勇気をもらったように、誰かにも同じようにしてあげたかったのよ。私にはそんなことしかできないもの」


「…マキさんはやっぱり素敵ですね。第一夫人に相応しい女性です。私は身内以外には優しくできないタイプですから少し羨ましいです」


「小百合さんは誰に対しても親切で明るいじゃない」


「あれは窓口用の仮面です。本当は信用していないから、逆に敵を作らないようにそう振舞っているだけです。私が愛するのは身内だけなんですよ。愛の器が狭くて小さいのです」


「悪いことではないと思うわ。大事なものほど厳選すべきだものね。私もそれくらいになりたいわ」


「マキさんは今のままでいいんです。だからこそアンシュラオン様も、マキさんが好きなんだと思います」


「そうなのかしら? 置いていかれたけどね」


「一緒にいると怖いからですよ。あの御方は正しいことと悪いことを両方深く知っていますから、単純に正しいことだけを求めるマキさんが眩しくて、同時に怖いんです。疑うことをやめてしまいたくなるからです」


「それだと私が何も考えていない単細胞みたいじゃない」


「この一団の人数を見ても同じことが言えます? 今ではもう『マキ隊』と呼ばれているくらいなんですからね。これで百合の花でも飾られた日には、さすがの私も逃げますよ」


「うっ…」


「大丈夫です。だから私が一緒にいるのです。私もマキさんが大好きですよ」


「小百合さん…まさかあなたもそういう趣味じゃないわよね?」


「ふふふ、マキさんならいいかなーとは思っていますよ。イリージャさんの気持ちもわからなくはないです」


「もうっ、からかわないでよ」



(マキさんはアンシュラオン様と同じく強い光みたいなもの。光に寄ってくるのは清いものだけじゃない。そこだけが心配ね)



 この時の小百合には、漠然とした不安があった。


 そして、その不安は少しずつ目に見える形になっていく。





「一昨日来なさい!」


「なんだこいつは! くそっ! 引き上げだ!」



 今日もマキは、盗賊に襲われていた旅の一団を助ける。


 困っている人がいたら見過ごせない彼女にとっては、もはや日常の光景になりつつある。


 だが、小百合が違和感に気づく。



「今の追い剥ぎたち、なんだかすぐに退散したと思いませんか?」


「たいしたやつらじゃなかったわよ?」


「マキさんからすればそうかもしれませんが、今までの人たちと比べて引き際が良いというか…本気で戦っていないように見えました」


「言われてみればそうね。でも、勝ち目がないからすぐに退散したのかもしれないわよ」


「そうだとよいのですが…」


「とにかく今は救助が先ね。みんな、彼女たちをよろしくね」


「はーい!」



 人数が増えたので、女性たちの保護やケアはマキが助けた女性たちの仕事になっていた。


 それ自体は問題ないのだが、同時に関わりが薄くなる者たちも増えていくので、少しずつ目が届かないことも多くなる。


 その異変に気づいたのは五日後だった。



「イリージャ、どうしたの?」


「…え? な、何がですか?」


「なんだか思い詰めたような顔をしていたわよ。まだ未来が不安なのかしら?」


「それは……はい。でも、大丈夫です。いただいた腕輪がありますから。これに触れるだけで気持ちが落ち着くのです」


「そう。それならよかったわ。何かあったら相談してね」


「…はい。あっ、マキ様…!」


「ん? 何?」


「…いえ、なんでもありません…」



 料理を配り終えたイリージャは、浮かない顔のまま去っていった。



「あの子、どうしたのかしら?」


「彼女、最近あまりこちらに来ないですよね。そういえば、新しく入った人たちとよく話しているのを見かけます」


「そうなのね。すぐに馴染んでくれたようで嬉しいわ。あの子も先輩としての自覚が出てきたのかしら」


「…マキさんも意外と考え方が筋肉ですよね」


「筋肉!? どういうこと?」


「保護した人が全員、心根が綺麗な人たちとは限りません。マキさんも気づいているはずですよ」


「…そうね。新しく入った人たちは、たぶん水商売系の人よね。ああいう人もよく見てきたからわかるわ。それに動きも変だわ。意識してこちらに近寄らないようにしているもの。悪人というほどではないけど、何か目的があって近寄ったのかもしれないわね」



 マキも元衛士だ。不審な動きがあればすぐにわかる。


 ただ、保護した女性たちの手前、特定の者を悪く言えば亀裂が入ると思って黙っていただけである。


 しかし、イリージャを含めた何人かに悪い影響が出るのならば、対策はしないといけない。



「でも、どうしたらいいのかしら。思いきって次のロードキャンプで置いていく?」


「それもいいんですけど、今まで沈静化していた不安や恐怖が顕在化する可能性があります。それでまた騒ぎが起こったら嫌ですよね。単純に護衛を増やしてみるのはどうでしょう? マキさんの負担も減りますし、何かあっても対応できるはずです」


「わかったわ。次のキャンプで傭兵がいたら雇ってみましょう」


「もうすぐアンシュラオン様と合流できるはずです。お金は気にせず、できれば腕の立つ人がいいですね」



 これまでずっとマキ一人で護衛していたことのほうが異常である。彼女が強すぎたせいでもあるが、肉体面よりも心理的な負担があったのは事実だ。


 よって、次のロードキャンプで傭兵を八人ほど雇うことにした。


 傭兵は全員男だったので、女性たちに若干の動揺が走ったものの、安全のためだと言い聞かせて納得してもらう。


 かなり一気に増やしたが、大商隊が盗賊に襲われた話を聞き、万一を考えての措置であった。



「よろしくな。俺たちはC級傭兵団だ。あんたら、運がよかったよ。ちょうど盗賊被害の知らせを受けて街からやってきたところだからな」



 C級傭兵団は、「町村の警備隊と同等以上の戦力を保有、または実績ある傭兵が五人以上」となっているが、今回はその中から八人を雇ったというわけだ。


 傭兵団も所属メンバー全員が一堂に会するわけではない。それぞれ細かく分かれて個別に依頼を受けることが多く、その際に相手を安心させるために階級は役立つのだ。



「盗賊の被害がすごいみたいね。また出る可能性はあるのかしら?」


「襲われたのは大金を持っているやつだったみたいだ。あれだけやって、またすぐ動くとは思えないな。まあ、動いたとしても俺たちがいれば問題ないさ」


「こっちは女性ばかりだから、しっかり護衛を頼むわよ。女だと思って少しでも変な気を起こしたら、ただじゃおかないから覚悟しておきなさい」


「美人なのに当たりがキツイな。仕事はちゃんとするさ。たしかに最近は女だけを狙う連中もいるみたいだが、女しか狙えないようなひ弱なやつらに負けるはずがない。任せておけ」


「女性しか狙わないってことは、この前とは別の盗賊なのかしら?」


「さてな。盗賊とはいっても、いろいろと種類がある。一般人が食い扶持に困って旅人を襲うこともあるだろうし、大半はそういった素人ばかりさ。専門でやっているのはごくごく一部だと思っていい。ただ、このあたりは南部からやばい連中が入ってきているからな。注意はしたほうがよさそうだ」


「ハピ・クジュネが南部の入り口よね? 抑えきれないの?」


「危険を覚悟で東から迂回して入ってくるやつらもいるし、南の海を強引に渡ってくる船も多いらしいぜ。ハピ・クジュネの海軍が取り締まってはいるが、海流が激しいところだと警備も大変だろうさ」


「そこまでして北部に来なくてもいいのに」


「それだけこっちのほうがやりやすいってことなんだろう。だから俺たちみたいな傭兵団ががんばって、そういう連中を叩くのさ。危ないやつらがいるってことは、それだけ傭兵の仕事もあるってことだからな。まっ、よろしく頼むわ!」



(性格は軽いけど、腕はそこそこ立ちそうね)



 傭兵隊のリーダーは、ブルーハンター級と見てよいだろう。その他のメンバーも豊富な護衛経験のある者たちばかりだ。C級傭兵団の名は伊達ではないらしい。




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