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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「海賊たちの凱歌」編
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132話 「謎の三人組との遭遇」


 朝になり、出立する前にアンシュラオンは単独でロードキャンプに侵入。


 さも最初からそこにいたと言わんばかりに、違和感なく周囲に溶け込みつつ、盗賊に襲われたという遺体置き場に行ってみる。


 そこにはいくつもの死体が野ざらしで置いてあり、ちょうど遺体を調べている男がいたので話を訊いてみることにした。



「ねえ、これって盗賊に襲われた人だよね?」


「そうらしい。よくあることだが、今回は多いな」


「おじさんは何をしているの? お墓でも作ってるの?」


「墓? そんなことはしねぇさ。遺品があるか見ているだけさ」


「遺品をどうするの?」


「お前、南部から来たのか?」


「ううん、東のほうかな」


「東じゃどうか知らないが、ここじゃ墓なんて作らない。そんなもん、何の価値もないからな。死体はそこらに捨てておけば魔獣どもが勝手に処理してくれるさ。ただ、遺品があって家族がいる場合は、届けてやるくらいのことはする。俺はそういう仕事をしているんだよ」



 どうやら男は、遺品を家族に届けることで手数料をもらう仕事をしているようだ。


 家族がいない場合、または見つからない場合は、その遺品自体を換金することで収益にしているという。


 ある意味においては死体漁りではあるのだが、こういった仕事の存在を認めることで家族の死を知ることができるのは、遺族にとってはありがたいものだ。



「オレも見ていい?」


「いちいち断る必要はないぞ。こっちも断りなくやっているからな。ただ、相手が盗賊だと金目のものはだいたい奪われているから、たいしたものは残っちゃいないけどな」



 アンシュラオンは、遺体を見て回る。


 置かれている遺体だけでも軽く百を超えているので、死臭がかなりきつい。すでにハエがたかり、卵を産みつけているものも多いだろう。


 その中には、やはり術具屋の主人もいた。身体が半分吹き飛んでいるものの、顔は原形が残っていたのですぐにわかった。



(運がなかったな、おっちゃん。もし一緒に移動していたら死なずに済んだのにね。でも、これが荒野のルールだ。やられたほうが悪い。戦いは何をしても勝たないといけないんだ。そうでなければ死に方も決められない)



 それ以外の遺体もチェック。


 ただし、遺品を見ていたのではない。注目したのは『傷口』である。



「多くは雑な殺し方をされているけど、こっちのほうは切り口が鋭い。かなりの剣の腕前だね。それにこの人は心臓を一撃で貫かれている。これは武器じゃないな。素手の一撃だ。戦士か暗殺者かな? 傷跡がどれも違うから、たぶん最低でも二十人以上の集団だろうね。その中に何人か殺しのプロがいる」


「ほぉ、わかるのか? すごいもんだな」


「まあね。そもそもこれだけの人間がいたなら、同じように護衛もたくさんいたはずだ。オレが見た人だけでも十人以上の傭兵を連れていた。それが全滅なんて普通じゃない」


「たしかにな。だが、全員が味方であったとも限らないぜ」


「どういうこと?」


「ハローワークを介さない非正規の傭兵だと、盗賊と内通しているやつもいるからな。特にロードキャンプで雇う連中や、渡り狼とかだと絶対に安心とは言えねぇ」


「なるほど、その可能性もありそうだね。相手は最初からターゲットが金を持っているのを知っていた。この広い荒野で特定の商隊だけをピンポイントで狙うのは難しい。どこかで情報が洩れていたのは間違いないか」


「そういうこったな。どうせやるなら金を持っているやつのほうが効率がいい。単純な話さ」



(ということは、オレがロードキャンプで買い物をしている時、すでにあそこには盗賊の内通者がいたってことか。もしくは、おっちゃんが立ち寄った違うキャンプにいたのかも。まあ、ギャングに支配されていた街があったんだ。それ自体は不思議ではないか。だとすると、盛大に買い物をしていたオレも狙われるかもしれないな)



「もう行くよ。お仕事がんばってね」


「お前も達者でな。簡単に死んでこっちの仕事を増やすなよ」


「オレは死なないよ。死ぬくらいなら先に殺すさ」


「はは、いい顔しやがる。それくらいでないとな」



 そして、そっとロードキャンプを離れ、荒野に出立するのであった。





  ∞†∞†∞





 ロードキャンプを出て、三日後。


 あとわずかでハピ・ヤックという場所で、交通ルートを少し外れたところで異変を察知。



「誰かが戦っているね」


「え? どこだ?」


「ここから南の方角だよ」


「かすかに砂煙が上がっている気がするが…」


「こちらも捕捉しました。魔獣ではありません。人間同士の戦いで、襲われているのは商隊のようです」



 ホロロも戦闘を確認。


 距離はおよそ三キロ先である。



「もしかして例の盗賊か? どうする? このまま放っておくか?」


「いつもならそうするけど、もしかしたらこの先の交通ルートにも網を張っているかもしれない。それならば先に叩いたほうが安全だ。ただ、罠の可能性もあるからオレとサナが先行するよ。ロリコンたちはあとから来て」


「だ、大丈夫か? 相手は商隊の護衛すら倒した連中だ。すごく強いんだろう?」


「オレは四大悪獣を倒しているんだよ? どっちが強いと思う? 少しは信用しなって」


「そ、そうだったな。こっちは任せろ! 襲ってきたら撃ってやる!」


「震えながら銃を持っても説得力がないよなぁ。そろそろ慣れなよ」


「うるさいな。人と戦うのはやっぱり怖いんだよ」


「怖くても戦わないと殺されるだけさ。サナ、行くぞ。万全の準備をしておけ」


「…こくり」



 サナと一緒に先行し、現場に接近する。


 こちらが襲われているわけではないので焦ることもない。ゆっくり近寄りながら観察してみた。



(遠目で見た通りか。商人らしき連中と山賊風の男たちが戦っているな)



 山賊風の男三人が、五台の馬車を引き連れた商人たちを攻撃していることからも状況は明白だろう。


 戦況は、山賊たちの圧勝。


 いかにもマッチョな色黒の大男が、商人が雇っていたであろう傭兵たちを蹴散らす。


 相手が盾を持っていても気にしない。盾ごと破壊し、持ち上げて他の傭兵に投げつける。


 もう一人の長身の色黒の男は、商隊が逃げないように牽制しつつ、持っていたシミターを使い、華麗な剣捌きで次々と切り裂いていく。


 敵が銃を撃っても、あっさりと弾丸を切り裂いてしまうほどの腕前だ。かなりの達人と見ていい。


 最後の一人は、若い青年。


 こちらも色黒で、まだあどけなさが残っている顔つきから、十五歳かそこらといった年齢だと思われる。


 彼の動きも実に見事だ。何十人もいる傭兵たちの隙間に上手く潜り込み、同士討ちを誘いながら敵陣を掻き回す。


 青年の武器は―――【銃】


 片手で扱えるハンドガンであったが、その形は普通の銃とは異なっていた。


 持ち手は一般的なものだが、先端が大きな箱状になっており、グレネードランチャーに少し近い形状をしている。


 そして、発射されたのは普通の弾丸ではなく【光の弾】だった。


 真っ白な光のレーザーが傭兵を貫き、その背後にいた商人も撃ち貫く。



「このやろう! 死ね!」



 そんな彼の背後から別の傭兵が剣で襲いかかるが、青年はすでに対応。


 腰にかけていた『つか』を手に取る。


 これは文字通り刀身がない柄だけのものであったが、青年が持った瞬間に光の刃が生まれ、一閃。


 襲ってきた剣ごと敵を真っ二つに切り裂く。



(柄から刀身が生えたな。剣硬気か? だが、放出されているのは剣気じゃないっぽいな。あの銃も普通の武器じゃないみたいだ。それにしても、三人ともなかなかの手練れだ)



 大男は見た目に違わない屈強な戦士であり、剣士の男も剣術の冴えは相当なものだ。青年は遠近両方対応できる万能さに加え、戦況を把握する目も持っている。


 たしかにこれだけの強さの盗賊だと、普通の傭兵では太刀打ちできないだろう。



「た、助けてくれ! 襲われているんだ!」



 その戦いを興味深く眺めていると、馬車から一人の男が走ってきた。


 首に宝石が付いたネックレス、両手に指輪、綺麗な服と、誰が見ても商人といった様相だ。


 こちらが子供であることも理解できないほど切羽詰っているのだろう。必死に助けを請う姿が哀れだ。


 がしかし、アンシュラオンたちが次に取った行動は意外なものだった。



「サナ、お兄ちゃんが言ったことを覚えているね」


「…こくり」



 サナがクロスボウを構え、商人に狙いをつける。



「えっ―――ぎゃっ!」



 まさか撃たれるとは思っていなかった商人は、回避運動を取ることもできない。


 矢は見事に胸に当たり、ばたっと地面に倒れた。



「ううっ…ど、どうして……」


「助けてもらえるとでも思ったのか? 荒野を甘く見たお前たちが悪い」


「そ、そんな……うぐっ!」


「身に付けている宝石類を渡せ。そうすれば殺しはしない」


「ひ、ひぃ…わ、渡す……わたす!」



 アンシュラオンが商人の頭を踏みつけて力を入れると、ミシミシと頭蓋骨が軋む。


 死を感じた商人は、矢で撃たれて苦しいのにもかかわらず、ネックレスや指輪を外して投げた。



「いいだろう。ほら、さっさと行け」


「ぐぇっ」



 商人を蹴飛ばすが、約束通り自分は殺しはしない。


 だが、すでに目の前には山賊の一人、青年が迫っていた。


 青年は商人の喉元に光の刃を突きつける。



「動くな。これ以上抵抗すれば、お前も殺さねばならない」


「ひぃっ―――がく」



 それによって商人は完全に戦意喪失。撃たれた影響もあってか、がくっと意識を失った。


 その頃には向こうも片付いたようで、山賊たち以外に立っている者はいなかった。


 商隊は全滅である。



「………」


「………」



 アンシュラオンと青年が視線を交わす。


 互いにしばらく無言だったが、アンシュラオンが先に口を開いた。



「その銃、面白い形をしているね。特殊なものかな?」


「…え? あ、はい。わかります?」


「ちょっと見せてもらえる?」


「どうぞ」


「ありがとう。ふーん、やっぱり普通のやつとは違うな」



 青年の銃は、触った瞬間から材質が違うことがわかった。


 銅のような鈍い輝きだが普通の鉄鋼ではない。妙な軽さと頑丈さを感じるので、ハローワークでもらったアタッシュケースや、ダビアのクルマに近いものかもしれない。


 アンシュラオンは銃を返すと、代わりに衛士の銃を見せる。



「オレが持っているのとは全然違うね。ほら、こういうやつ」


「それは随分と古いタイプですね」


「だろう? それと比べるとガラクタに感じるくらいさ。それってどこで売ってるの?」


「これは非売品ですので購入は難しいですね」


「非売品ってことは、このあたりでは一般的に使われてはいないんだね。少し安心したかな。そんなのが普通にあると悪用されたら大変だ。どんな仕組みなの?」


「これは遺跡から発掘したもので、現在の技術では再現不可能な『遺物』なのです。エネルギーの源となるジュエルを入れると、弾が中で生成されるのです」


「へぇ、弾が必要ないとは便利だね。エネルギー弾ってことかな?」


「僕も詳しくは知りませんが、術者が使う『魔力弾』に近いものらしいです。『魔素』を固めたものですね」


「たしか『魔素』って、術者にとっての戦気みたいなものだよね?」


「そう認識していますね。こっちの剣の刀身も魔素を圧縮して生み出しているそうですよ。こちらは戦気を吸収して魔素に変換させる仕組みになっています」


「なるほど、術具か。ということは『防御無視』かな。なかなかの逸品だ」


「面白いですよね。昔はこんなものがたくさんあって、ハピ・クジュネの海底遺跡にも―――」


「スー様、何を呑気に話しているのですか」



 すっかり話し込んでいると長身の男がやってきた。


 彼は剣を持ったまま、アンシュラオンから一瞬たりとも目を離さずに警戒している。


 これが当然の反応なので、青年のほうがおかしいともいえる。



「え? ああ、そうだったね。そっちの首尾はどう?」


「すべて終わりました。生き残っている連中は、バンテツが縄で縛っています」


「そうか、ご苦労様」


「…そいつらは何者ですか?」


「僕も知らないんだけど…ほら、見て。彼らがやったんだ」



 スーと呼ばれた青年が、商人に刺さっている矢を指差す。



「この者たちが? しかし、なぜ…まさか子供の盗賊では?」


「そうは見えないけど…」


「そこの者、なぜこの男を撃ったのだ?」


「だって、【こいつらのほうが盗賊】だからね。おおかた商人のふりをして相手に近づくやり方なんだろう。一般人なら見分けがつかないし騙されちゃうかもね」


「どうやって見抜いた?」


「顔が悪人だったからかな? 性根は見た目にも表れるもんさ」


「もし本物だったらどうする?」


「本物か偽物かを判断する必要はない。疑わしいのならば両方殺せばいいだけさ。それが最大の自衛手段になる。まあ、どうせなら金になるほうを選ぶよ」



 アンシュラオンは、商人もとい盗賊から奪った金品を見せびらかす。



「これはオレが奪ったものだから、もうこっちのものだ。そっちには渡さないよ」


「スー様、こいつらは本当に盗賊かもしれませぬぞ」


「ふふ、そうは見えないけどね。彼は確信があって撃ったのさ。見ていた僕にはわかるよ」


「ううむ…この男がですか?」


「たまに惑わされない人っているよね。彼はそういう人なんじゃないかな。きっと『特別な目』を持っているんだ。そうですよね?」


「ああ、出来る男は人を見る目があるもんさ」


「ほら、言った通りだろう?」


「このような怪しい男の言うことを鵜呑みにしてはいけませんぞ」


「うーん、そうかな? 彼には人の本質を見る目があるような気がするんだけど」



(こいつ、良い洞察力をしている。あるいは何かしらの探知系の能力者なのかな?)



 目の前の青年は、アンシュラオンの『情報公開』に気づいたようだ。


 ただ、何かのスキルで見破ったというよりは、単純にそう思っただけのようであるが。




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