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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
126/618

126話 「馬車の自衛力強化と、試し撃ちされる運の悪い男」


 夕方になり、サナたちも戻ってくる。



「買い物はできた?」


「はい、ばっちりです! やっぱり買い物は楽しいですね!」



 ロリ子がガッツポーズを見せる。


 ホロロもハピナ・ラッソでは移動の準備ができなかったため、服や下着、女性用品といったものを買ってきたようだ。


 どれもロリ子が選んだもののようだが、黒や紫といった大人っぽい色合いでまとめられていて、彼女に似合うものばかりである。


 そして、その中の一つに『メイド服』があった。



「おおおおおお! メイド服じゃん! 売ってたの!? ホロロさんが着るんだよね!?」


「従者専用のお店がありまして、そこで購入いたしました」


「そんなものがあるとは! ロードキャンプ、侮れん!」


「着替えてみてもよろしいでしょうか?」


「もちろんだよ! あっ、その前に今日の寝床を作ってしまおう。他人にホロロさんが着替えているところなんて見せられないからね!」



 簡易モーテルのようなものはあったが、誰が使ったかわからない汚い場所は嫌なので、キャンプから少し離れた場所で夜営することになった。


 近くには同じように夜営している馬車の一団もいるので、以前ジョイと一緒に移動していた頃を思い出す。


 ただし、ここでは身内しかいないため遠慮なく改造もできる。


 そこらの岩をブロック状に切り出して周囲を覆えば、即席の家の完成だ。風呂場と釜戸も完備している充実ぶりである。


 あとは周囲に外灯を設置して終了だ。火気で炎を点せば元手はかからない。



(数分とはいえ毎回作るのも面倒だな。ポケット倉庫も新しく手に入ったし、そのうち良い素材があればキャンプ用の建築資材も入れておくか。まあ、毎回そこの資源で作るのも趣があって楽しいんだけどね)



「さぁさぁ、入って入って!」


「失礼いたします」



 明らかに他の夜営地とのクオリティの違いを見せ付ける中、ホロロがメイド服に着替える。



「どうでしょう?」



 もともと物静かな立ち振る舞いをする女性なので、凛とした姿がクール系メイドを彷彿させる。


 その姿に―――大歓喜!



「いやああああ! 素敵だなぁああああ!」


「どわっ、びっくりした。急にやる気を出したな」



 その声にロリコンが飛び退く。



「メイド服の破壊力はすごいな! メイド最高! メイドって主人の言うことを何でも聞くんだよね?」


「もちろんでございます」


「ビバッ! 素晴らしい! 欲しいなぁ、これ欲しいなぁ」


「あっ…アンシュラオン様…」


「おいおい、撫で回すなよ。セクハラだぞ」


「それがどうした!! メイドは撫でられてこそ成長するんだぞ!」


「ええええええ!? どこの知識だよ!?」



※アンシュラオンのメイドの知識の大半は、エ〇ゲーです



「着替えが少なく済むと思って購入しましたが…これほど喜んでくださるなんて、私もとても嬉しく思います」


「何着買ったの?」


「替えを含めて二着ほど…」


「それじゃ足りないよ! 明日、朝一番で行ってメイド服を買い占めよう!! いや、今から行ってもいいくらいだ!」


「おいおい、少しは落ち着けよ。たかが服だろうに」


「なんだよ、ロリコンだってメイドは好きだろう?」


「まあ、たしかにメイドはいいよな。ホロロさんって胸が大きいし美人で―――いだだだ!!」


「あら、何か言った?」



 ロリコンの耳をロリ子が引っ張る。



「ロリ子ちゃんはこれから成長するから大丈夫だよ。でも、そうなるとロリコンが困るのか…。ロリコンである存在意義を見失うよね」


「だからロリコンじゃねえよ! たまたま好きになった子がそうだったんだよ」


「それをロリコンって言うんだよ」



 ぐうの音も出ない。


 そして翌日、宣言通りにメイド服を買い占めるのであった。



(ぐふふふ、あとでサナにも着せよう。ぐひゃひゃひゃ、素晴らしい、素晴らしいぞ!)



 と、欲望丸出しの顔だったのは秘密だ。





  ∞†∞†∞





 その日、一行はロードキャンプを出て再び交通ルートに出る。


 だが、出立する前に準備を整える必要がある。



「みんな、注目ー! これから武器を渡すよ!」


「いきなりどうした?」


「いくら交通ルートとはいえ、何が起こるかわからない。やっぱり武装は大事だと思うんだ。ロリコンが馬車を改造したら駄目だっていうから、みんなにはそれぞれ武器を渡しておくね」


「そりゃ馬車は駄目だろう。って、俺たちもか?」


「オレが一緒の間は死人を出したくないからね。万一の事態も起こしたくない。今まで見ていたけど、ロリコンの自衛手段は銃が一丁だけだよね?」


「銃以外にも解体用に使う刃物は、常時持ってはいるけどな。それじゃ足りないのか?」


「全然足りないね。もしギャングが襲ってきたらどうするのさ」


「前提がおかしいぞ。その段階でアウトじゃないか。せめて魔獣にしろよ」


「魔獣でもいいけど、どっちにしてもそんな銃じゃ到底太刀打ちできないよ。せめて術具は持っていないとね。安全のために身に付けておいてよ」



 ホロロ親子とロリコン夫妻に、『身代わり人形』と『我慢人形』、それと『若癒じゃくゆの術符』と『発芽光はつがこうの術符』を渡す。


 『若癒』は初歩的な回復術式であり、術士資質があれば因子レベル1から使えるものだ。


 ただし回復できる量と速度には限度があり、軽い切り傷くらいならば即座に塞がるが、それ以上のダメージは一瞬では回復できない。


 そのうえ強引に細胞の再生を促すために、命気と違って『細胞の寿命が減る』のが最大の欠点だ。(命気はそれ自体がエネルギーなので、むしろ細胞の寿命を延ばす)


 『発芽光』は『若癒』より回復量は少ないものの、長い時間発動しているため断続的にHPを回復してくれる便利な術式である。



「次は武器だね。術符はたくさん買ったから因子レベル1のやつを適当に渡しておくよ。それと、大納魔射津と銃ね」


「術符はわかるけど、大納魔射津と銃もかよ。しかもこの銃、でかくないか?」


「ロードキャンプに対魔獣用の『砲術屋』があってね。木製の大型銃があったから買ってみたよ。持てるよね?」


「まあ、持てるには持てるが…怖いな」


「当たれば人間くらいは粉々だしね。人間に使いたくなかったら、相手の乗り物にでも使えばいいよ」



 ロリコンには大型銃を渡す。銃のカテゴリーに入っているが、ほぼ『砲筒』だ。


 ロケットランチャーのような形をしており、魔獣にも効く大きな弾丸を発射可能である。


 それ以外にも銃器と刃物も渡しておく。術符もあるので、いざという場合はなんとでもなるだろう。



「ホロロさんには、これね」


「これは…長いですね」


「昨日買ったライフル銃を改造して、スナイパーライフルを作ってみたんだ。ホロロさんって、目がいいでしょ?」


「そうなのでしょうか? あまり意識したことはありませんが…」


「じゃあ、あそこに書いてある文字が見えるかな? あの遠くの岩だよ」


「はい。『サナは最高に可愛い』ですね」


「ロリコンは見える?」


「え? どれのことだ?」


「三キロ先にある岩」


「見えるか!!」



(一緒に旅をしていてわかったけど、ホロロさんは目がいい。それも常人を超えたレベルでだ。武人でも、ここまで目がいいやつは少ないはずだ)



 何か接近してくると、アンシュラオンの次にホロロが発見していたので、もしやと思っていたのだ。


 よって、通常の術符や刃物以外に、彼女の目の良さを生かしたライフルを手渡す。


 こちらは木製ではあるが、銃砲身を通常の二倍以上に長くして、さらに火薬の役割をする風のジュエルを三つに増設して威力を高めたタイプだ。(ちなみにロリコンの大型銃は四つ使う)



「どう? 使えそう?」


「努力してみます」


「えーと、アロロさんは…」


「わたしゃ、これでいいですよ」


「え? 斧?」


「若い頃は森に行って木を切り倒していたもんですよ。ちょっとした魔獣くらいなら、こいつで頭をかち割っていたくらいです。あはははは」


「豪快だね。そういう女性は好きだよ」



 さすがホロロの母。


 ハンター用の対魔獣用バトルアックスを選ぶ豪胆さだ。


 意外と力もあるようで、大きな斧も普通に扱えるというから驚きだ。



「弾もいっぱい買えたし、サナはハピナ・ラッソで手に入れたハンドガンを使ってみよう。それ以外は新しい術符に慣れるのが先かな」


「…こくり」


「最後に、こんなものも作ってみたよ」



 アンシュラオンが持ってきたのは長方形の木製箱だった。


 やや大きいので台車に乗せており、横にはレバーが二つほど付いている。



「なんだこれ?」


「散弾砲だよ。銃をたくさんくっつけたものだと思えばいいかな。このレバーを引っ張ると十二発の弾丸が飛んでいくんだ。で、左のレバーを引くと次のマガジンを装填できる。もし馬車に敵が近づいた時に使ってね。これはロリ子ちゃんに任せるよ」


「は、はい。わ、私たち、どこに向かっているんでしょうか?」


「平和の道は、まずは武装から。これが常識だよ!」



 あまりの武装に若干ロリ子が引いていたが、正直言えばこれでも足りないくらいだ。


 その証拠に、ロードキャンプから出てきた別の一団と遭遇。



「やぁ、先日のお客さんじゃないか」


「術具屋のおっちゃんか。これからハピ・クジュネに出立?」


「そうだよ。ちょうど傭兵団がいたからね。タイミングよく雇えてよかったよ」



 彼のクルマの前後には、屈強な男たちが十人以上いた。


 その誰もが武人かつ武装しており、彼らの馬車には大量の銃器が積まれている。その中にはアンシュラオンが買った大型銃や、もはや砲台と呼んで差し支えない武装もある。



「気をつけてね。金を持ってると狙われるかもしれないし」


「ありがとう。腕利きの傭兵だから大丈夫さ」


「オレもハピ・クジュネに行く予定だから、もし会えたらまた術符を売ってね」


「ははは、あれだけ買ってまだ足りないんだね。わかったよ。まだしばらくは商人を続けてみるさ。君たちも元気で」



 立ち去る彼らを見送る。


 その間も傭兵たちは周囲への警戒を怠らなかった。



「ね、あれくらいの準備は必要だよ」


「商売の規模が違うからな。術具屋は売れた時はいいけど、普段はそんなに売れないんだぞ」


「ロリコンも術符を仕入れたら全部買ってあげるよ」


「今日から術具も取り扱います。ぜひともご贔屓に!」


「ほんと調子がいいんだよなぁ。それじゃ、さっそく試し撃ちをしようか」




 その後、用意した的で各々が武器を試してから出立。


 昼間は何事もなく過ぎ去り、夜営の準備が終わってから武器の触り心地について質問してみた。



「ロリコン、あの銃を一日持ってみてどうだった?」


「やばいだろう、あれ。威力が高いから反動もけっこうあって、最初は俺自身が後ろに飛びそうになったぞ」


「そのあたりは固定すれば大丈夫さ。ホロロさんはどう?」


「だいたいコツは掴めたと思います。あとは実際に、何か動いているものを撃ってみないことにはわかりませんね」


「このあたりは盗賊が多いんだっけ? そいつらなら撃ってもいいよね。ロリコン、盗賊がいそうな場所に案内よろしく」


「そんなの知るかよ。出会わないほうがいいに決まっているだろ」



 というのは盛大な振りであったようだ。


 翌日の昼間に交通ルートで揉めている連中を発見。


 三人組と五人組が何やら叫びながら争っている。それだけならばいいが、五人組のほうが荷物を奪っているようだ。



「おっ、あれって襲われてない? 盗賊かな?」


「うーん、どうだろうな? ここからじゃよく見えんぞ」


「大丈夫、大丈夫。疑わしきものは撃つべきだよね。さっそく試し撃ちだ! ホロロさん、撃っちゃって! やっちゃって!」


「どちらを撃ちましょう?」


「五人組のほうかな? 武器を持っているみたいだし、とりあえず胴体を狙ってみて」


「かしこまりました」



 ホロロが構え、狙いを付けて銃を発射。


 何の躊躇いもなく撃つ彼女もすごいが、さらにすごいのがその距離と命中率だ。


 約三百メートルほどの距離があったが、見事に男の足に命中。



「ぎゃっ!」



 撃たれた男は地面に倒れて転げ回る。



「申し訳ありません。胴体を外しました」


「いや、十分すぎるよ。一応ライフリングは作ってみたんだけど、よく当てたね。見事だ」


「ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです」



 ホロロは褒められて嬉しそうだ。当たったことよりもアンシュラオンに認められたことが最大の悦びなのだろう。


 ただし、お世辞で褒めたのではない。風が吹いていなかったとはいえ、この距離を命中させる段階ですでに異常だ。


 何よりも、その度胸がいい。



(やはりホロロさんは冷静に人が殺せる。素晴らしい才能だ)



 どんなに強い動機があっても、殺せない人間には殺せないものだ。


 医者を刺して大納魔射津で吹き飛ばした女性なので、殺せることはわかっていたが、その冷静さには目を見張るものがあった。


 だが、肝心の命令を下す者が間違っていれば、それは単なる諍いしか呼ばない。



「いてー、いてー! 撃たれた!」


「やりやがったな、こんちくしょう! 商品の持ち逃げをしたうえに銃で撃つなんて、とんでもないやつらだ!」


「い、いや、それは俺らじゃねぇ―――ぐぇっ! な、殴りやがったな! そっちがその気なら、こっちもやったるぜえええ!」


「うるせぇ! 金を返せ! もしくは商品を置いていけ!」


「そっちの金が足りなかったからだろうが! 運送費にもなりゃしねぇ! 代わりに、てめぇには拳をくれてやる!」


「上等だ! やっちまえええええ!」



 男たちは、銃撃をきっかけに激しい殴り合いを始める。


 どうやら盗賊ではなく、ただの商売上のトラブルによる喧嘩だったらしい。


 幸いにもまだこちらには気づいていない。この距離から当てられるとは夢にも思わないので、こちらのことは完全スルーだ。



「あれ? もしかして違う…のかな? ロリコン、迂回してそっと通り過ぎよう。何事もなかったって感じで他人のふりをしてね」


「わ、わかった」



 男たちが喧嘩に夢中のおかげで、そのまま逃げることができた。


 彼らが見えなくなってようやく安堵する。



「いやー、よかったよかった。見つからなかったね」


「完全なる撃ち逃げじゃないか」


「死んでないんだからいいじゃん。距離もあったし、最悪はちょっと足に後遺症が残る程度だよ」


「それでも大問題な気がするが…」


「まあまあ、気にしないでいこう。証拠は何もないんだし、あいつらは頭が悪そうだから永遠にわからないよ。はははは」



 撃たれた者は運が悪かった。


 この男にうっかり見つかってしまったほうが悪いのである。




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