表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
121/617

121話 「ホロロの神 その1『現実を壊す者』」


「ハップ……まさか…! 嘘だろう!?」



 護衛の二人は死んだ。残るはボスのみだ。


 彼はクロップハップが苦戦していた頃には、すでに椅子を離れて部屋の隅に避難していた。



「余裕が崩れたようだね。あと何歩でたどり着くかな? 十歩くらいかな? 九、八、七、六、五…」



 アンシュラオンが、ゆっくりゆっくり近寄る。



「ま、待て! 金はやる! やるから!」


「四、三、二、一」


「っっっ! ひいいいっ!」


「ゼロ」



 逃げようとしたボスの背後から手刀を見舞い、首を撥ね飛ばす。


 汚いやり方で金を稼いでいた男とは思えない、綺麗で真っ赤な血が噴水のように上がった。


 それでもアンシュラオンは、なぜか白いまま。血で汚れることはない。



「こんな男がボスか。弱いけど金を稼ぐ才能はあったんだろうな。あー、しまった。ついつい殺しちゃったけど、金の在り処を訊いてからにすればよかったよ。まあいいや、自分で探したほうが楽しいよね。それより…サナ、身体を見せてごらん」


「…こくり」


「ふーむ、かなり怪我をしているな。けっこうギリギリの戦いだったか」



 戦術がはまって全体的には優勢に戦えたが、実際はそこまで余裕があったわけではない。


 その証拠に、サナの身体にはかなりの傷があった。


 武人の攻撃力は根本的に一般人とは異なる。なぜジリーが術符を使わなかったかといえば、剣で攻撃したほうが強かったからだ。


 普通の人間ならば術符を用意している間に斬られて終わりだろう。サナでなければ、こう上手くはいかない。


 それだけの攻撃を防御するだけでも骨に亀裂が入るし、筋肉や腱もちぎれている部分がある。


 剣衝で斬られたところは特に危うく、『物理耐性』がなければ深手になっていたかもしれない。その他、細かい怪我を含めれば軽く三十以上の箇所が負傷していた。



「どうだ、武人は強かっただろう?」


「…こくり」


「あの細身の男もそこそこ強かった。黒千代も完全に使えたわけじゃないし、耐久勝負を挑まれたら危なかったな。相手が短気で助かったよ」



 もし右足を奪えなかったら、あのまま押し切られていた可能性が高い。


 サナの戦術の大半は術符と大納魔射津に頼っているので、地力ではジリーが数段上だった。アンシュラオン仕込みの体術であっても、長時間戦えば相手が慣れてくるはずだ。


 やはりジリーは強かった。護衛を務めるだけはある。


 だがしかし、子供相手にプライドを捨てきれなかった。剣で倒すことに執着しすぎた。心が未熟で戦気にもムラがあった。


 戦いとは、最後に立っていた者が勝者なのだ。『割り切った武』を貫いたサナが勝ったのは必然である。


 また、クロップハップも単純に相手が悪すぎた。ファテロナでさえ何もできずに負けたのだから、それより劣る彼がどうにかできるわけがない。


 そもそもアンシュラオンを敵に回した段階で、組織は終わっていたのである。



「よし、金を探そう。ボスなんだから大量に持っているはずだ」



 サナの治療が終われば、お待ちかねの宝探しである。


 と、意気込んだものの、部屋と邸宅を漁ってみたところ現金は二千万ほどしかなかった。それ以外は株券や権利書が大半だ。



(権利書とかは、この都市の店のものか。都市限定でしか使えないのならば、あまり価値はないな。ふーむ、この様子からすると違うところに隠しているっぽいよな)



 地下に隠し部屋がないかも探ってみたが、波動円に反応はなかった。


 その代わりに奥の部屋で多数の武器を発見。



(刀剣類に銃に弾薬。無理やり引っぺがした砲台みたいなのもあるな。南部で仕入れたと言っていたが、こういう『部品』は裏で流通しているんだろうな)



 クロップハップが使った機関砲は、軍事用のものでかなり威力が高かった。


 もし彼に銃弾に戦気をまとわせる技術があれば、少しはダメージを受けていたかもしれない。



(とはいえ機関砲はいらないな。音もうるさいし邪魔でしかない。それ以外はたいしたものがないし…剣と銃を補充して終わりでいいか)



 ここにあるのは、卍蛍や黒千代に比べれば低級のものばかりだ。


 グラディウスが壊れてしまったので、その代用品として似たような刀剣類を少しと、サナが使えそうなハンドガンを頂戴して終わる。


 これも南部から仕入れたのだろう。衛士の銃と違って金属製ではあるが、逆に金属だからこそ改造加工が難しい。同じ弾丸ならば木製のほうが軽くて使いやすいかもしれない。


 ちなみにジリーが使っていた長刀も術式武具の一種で、『切れ味強化』が付与されていたようだ。


 それ自体は一般では貴重なのだろうが、業物の黒千代に比べれば微妙だし、長すぎるのでいらないという結論に達する。



「回収はこんなもんでいいだろう。あとは金だけど…そのうち誰か来るかもしれないから、もうちょっと待ってみようか。知っていたら案内させて、知らなかったら実験台にしよう。まだやれるか?」


「…こくり」



 サナは戦いで興奮したせいか、まだ眠気は訪れていないようである。


 その後、毎日の報告があるのか、意外と多くの人間が部屋にやってきた。


 その都度尋問し、金の在り処を知らなかったら黒千代の練習台にして切り刻む。


 そんなことを何度も繰り返し、部屋が死体の山になっていた頃だ。


 あまりに暇すぎて、ボスの首をくるくる回していたアンシュラオンのセンサーが発動。



「ん? この匂いは…若い女性のものだ。むっ、三十路前くらいか? むむ、熟した良い匂いだ」



 なんと、この男は匂いで女性を探知できるのだ!!


 と、まったく無意味で無価値な特技を披露しつつ待っていると、三つの気配が部屋の前までやってきた。



「ボス、入りますぜ?」



 そうして入ってきたのは、アロハシャツと取り巻きの男二人。


 そして、捕まっていたホロロだ。



「なっ…」



 男たちは部屋の惨状に絶句している。


 大量の死体が転がっていれば誰だって面食らう。普通の反応だろう。


 そこにアンシュラオンが満面の笑みで歩み寄る。



「やぁ、よく来たね! 待ってたよ!!」


「な、なんだ…これは……ぼ、ボスは…」


「ボスを探してるの? はいよ、パス!」


「うわっ!!」


「落としちゃ駄目じゃんか。あんたらのボスの頭なんだからさ。大切に扱ってあげようよ」


「っ……え? …ぁ? く、首!? ボスの首!?」


「ところでその女性は…って、あれ? ホテルで会った人? うん、胸の大きさもぴったりだし間違いないね。なんでこんなところにいるの?」



 ここでもおっぱいで女性を見分ける妙技を披露。


 一銭の得にもならない技だが、少し修得したいと思ったのは気の迷いだろうか?



「これはどういう状況かな? まあ、どう考えても男が悪いよね。男である段階でアウトだし。尋問には一人いればいいから、こっちは死んでもらおう」



 アンシュラオンがデコピンのように指を弾くと、ホロロを押さえていた取り巻きの男の頭が空圧で吹き飛ぶ。


 戦気を加えるまでもない。単なる衝撃だけで十分だ。



「っ…」



 状況を理解しきれていないアロハシャツの男が完全に硬直。


 その瞬間であった。


 ホロロが縛られたまま手を下着に突っ込み、一枚の紙切れを取り出す。


 それをアロハシャツの男に向けて発動。


 異変に気づいた男が反射的にかわすが、水の刃が男の耳を切り落とす。



「術符! まだ隠していたのか!?」


「私はあなたたちには屈しない。そう申したはずですよ。それに組織の長も死んだようですので、私がここにいる意味もなくなりましたね」


「調子に乗るなよ! まだ終わっていない! こんなもんで終わるか!」


「いや、どう見ても終わりだろう。はい、お前はこっちな」


「ぐあっ!?」



 アンシュラオンがシャツの男を引っ張って、部屋の中に投げ入れる。


 そこで待ち構えていたサナが、迷わず男の足にダガーを突き刺す。



「ぐあっ!!」


「…ぐいっ」


「ぐぐぐ…は、はな……せ」



 続いて膝を首の後ろに押し付け、さらに腕を捻り上げて完全に身動きを封じる。


 部屋にやってきた者には全員同じことをしていたので、すっかりやり方を覚えてしまったようだ。



「少しでも暴れたら首をへし折っていいぞ」


「…こくり」


「待たせてごめんね。今、縄を切るからね。それにしても女性に酷いことをするもんだ。許せないよ」


「これはその…」


「うんうん、わかっているよ。悪いやつらに捕まっていたんだよね? 全部あいつらが悪いんだ」


「ふ、ふざけるな! その女は俺たちから金を借りたうえに、殺して踏み倒そうとした悪党だぞ!」


「ははは、ギャングが女性を悪党呼ばわりか。落ちたもんだよな。同じ悪党ならオレは女性のほうを擁護するね。事情はあとで訊くとして、本題に入ろうか」



 アンシュラオンが、倒れているアロハシャツの顔面を蹴り飛ばす。


 鼻がへし折れて、血が噴き出た。頬骨も骨折して顔が変形。



「ぐふっ…」


「オレの質問に答えろ。組織の金庫はどこだ? 現金はどこにある?」


「だ、誰が…てめぇなんかに…」


「ああ、そう。はい、バチン」


「ぎゃあぁあああああ!! ひぎいいいいっ! いーーいいいい!!」


「変な声を出すなよ。気色悪い。だが、神経を焼かれる気分は楽しんでもらえているようだな」



 アンシュラオンが、弱めた『雷気』を神経に直接流しているのだ。


 たとえば歯の神経に軽い電流を流すだけでも、普通の人間ならば痛みで泣き叫ぶだろう。男が苦痛を感じるのは当然だ。


 ただ、姉のマッサージ用に使っていたものなので、思った以上の反応に少し驚いたのは秘密だ。姉の場合は全力で流しても平然としていたが。



「話さないなら少しずつ電圧を上げていくぞ」


「はーーーはーーっ! や、やべっ! ぎゃあああぁあぁ!」


「安心しろ。簡単に殺しはしないさ。夜は長いんだ。気長にやろうぜ。ああ、壊れる前には教えてくれよ。吐かないならサナの実験台にするからさ」


「ひーーー、ひーーー!! 待って、たすけ―――がぁああああ!」


「はーやーく。はーやーく。吐かないと食べちゃうぞー。ガチガチガチッ!」



 ボスの生首で歯を鳴らしながら尋問は続く。


 結局、男は一分ももたずに金の在り処を吐いた。


 ただ、その時には涙、鼻水、鼻血、よだれ、ゲロ、脱糞に失禁等々、違うものまで吐き出して、もう見るに耐えない惨状だったのは最悪である。汚いし、臭くてたまらない。



「ふむ、隠し場所はこいつらの事務所か。うっかり殺さなくてよかったよ。で、具体的な場所はどこだ?」


「あべ…っ………ば………ばははっ……うべべ…」


「もう壊れちゃったかな? うーむ、建物の場所を探すのは苦手だな。何か目印でもあればいいんだけど…」


「…あ、あの……」



 ホロロが、恐る恐る話しかけてくる。


 その顔はさきほどまでの強張ったものとは違い、戸惑いの感情のほうが強く出ていた。



「ん? ああ、大丈夫だよ。君は責任を持って解放するから」


「これは…あなたがやったのですか? その…ギャングの一味を…」


「うん、そうだよ。調子に乗っていたから潰してみたんだ」


「………」


「どうしたの? 痛いところでもある?」


「い、いえ…その事務所ならば知っております。もしよろしければ、ご案内いたしましょうか?」


「それは助かるよ! 君みたいな素敵な女性と一緒なら、なおさら最高だ! オレはアンシュラオン。君は?」


「ほ…ホロロ……マクーンと申します」


「ホロロさんか、いい名前だね。よくホテルのロビーで会ったよね。覚えている?」


「は、はい。とても…よく覚えております」


「そんなに緊張しないでいいよ。君が何者であってもオレは君の味方さ」


「どうして…そんな。私は…その男が言ったように悪党なのかもしれません」


「そうなの? ちょっと目を見せて」


「あっ…」



 アンシュラオンがホロロの頬を両手で掴み、じっと瞳を見つめる。


 ホロロの黄色い瞳の中に、赤い瞳が映り込む。



(なんて深い…色。吸い込まれそう…。それに、この人がギャングを? そんなことができるの? む、胸が苦しい…どうして?)



 血圧が急上昇し、心臓が激しく脈打つ。



「綺麗な目をしているね。そんな人が悪党とは思えないな。たかが借金の踏み倒しでしょ? その程度で悪党ならオレも悪党になっちゃうよ」



↑当人に悪党である自覚がないことが判明



「…はぁはぁ……はぁはぁっ!」


「あっ、そうだった。魅了があったんだ。ごめんね。それじゃ、悪いけど案内頼めるかな」


「…はい」


「ボスの首はもういらないか。そうだ。この首はモヒカンに送っておこう。絶対驚くよな」



 弱い物質を普通に凍気で凍らせると壊れてしまうが、最初に命気を浸透させてから凍らせた場合は、原形を残したまま凍結が可能だと気づいた。


 それを利用して、モヒカンに手紙付きのクール便を送ることにする。


―――――――――――――――――――――――

 拝啓 モヒカン様


 穏やかな日和が続いておりますが、スレイブ館の皆様はますますご清祥のことと存じます。


 このたびハピナ・ラッソにて珍しいものを手に入れました。噂によるとギャングのボスらしいので、ぜひともコレクションの一つとして飾ってみてください。


 あなた様の首もコレクションに並ばないよう、これを見て初心を忘れず、日々の職務に励んでくださることを祈っております。

―――――――――――――――――――――――


 後日、その手紙と生首を見たモヒカンが恐怖におののき、また毛が薄くなったのはどうでもいい話だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

励みになりますので、評価・ブックマーク、よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ