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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
119/619

119話 「COG壊滅 その2『サナの対武人戦』」


 もはや一般人ではサナの相手は務まらない。


 だからこそ、ここに来たのである。



「そっちの二人は武人でしょ? どっちか妹の相手をしてよ。そうだな、細いほうが実力的にちょうどいいかな」


「…あ? 俺か?」


「ジリー、相手をしてやれ」


「あんなガキを相手にか?」


「うちのメンバーを殺したんだ。借りは返さないとな」


「…ふん、わかった」


「ハップは小僧のほうだ」


「了解した」



 ボスが首を振って促すと、隣にいた護衛のごつい男がアンシュラオンの前に立つ。


 筋骨隆々の身体を見せ付けるためか、上半身裸に革ジャン、サングラスと、アメリカ映画に出てきそうないかつい男だ。


 しかし、ただの目立ちたがり屋ではない。男は弾力のある戦気を身にまとっていた。


 手下を殺されてもボスに余裕があるのは、この男がいたからにほかならない。



「この都市には武人もそこそこいるみたいだけど、あんたはどれくらいの腕前かな?」


「俺の名はクロップハップ。『この都市最強の男』だ。侮ってもらっては困るな」


「ふーん、そうなんだ。オレを止める自信はある?」


「当然だ!」



 クロップハップがアンシュラオンに拳を放つ。


 見た目通り、ゴリゴリの戦士タイプらしい。その拳も轟音を鳴り響かせて襲ってくる。


 だが、アンシュラオンは歩みを止めないまま、軽く腕で受け止めた。


 拳の勢いの強さで、殴った側のクロップハップが浮き上がる。



「むっ」


「こんなもん?」


「侮るなと言ったぞ」



 クロップハップの拳が再び襲いかかる。


 アンシュラオンはガードするが、その拳は消えて、少し遅れてから本物の拳がやってきた。


 覇王技、『虚影拳きょえいけん』。


 因子レベル1で使える技で、戦気で拳の幻影を生み出して相手を惑わすフェイント技だ。


 まだ相手がこちらの攻撃に慣れていない間に使うと有効的で、言ってしまえば分身の拳バージョンだろうか。



「どうだ!」


「何が?」


「なっ、受け止めたのか!?」


「いや、あまりに見え見えだからネタかフリだと思ったんだけど、やっぱり男に触れられるのは嫌だから止めておいたよ」



 アンシュラオンは、遅れてきた拳を普通に肘でガードしていた。


 しかも直接触れるのが嫌だったのか、いつの間にか死んだ男が持っていた剣を間に挟んでのガードだ。


 殴られた威力でびしびしと剣が砕け散ったが、アンシュラオン自身は無傷である。



「腕力もあるし、速度もなかなか悪くない。たしかに今までの連中とは別格だ。でも、オレの歩みは全然止められてないよね?」


「ふっ…ふははは! いいぞ! こうでなくてはな! 久々に本気が出せる!!」



 クロップハップは革ジャンを脱ぎ捨てる。


 いくら筋肉があるとはいえ、あまり男の裸をじろじろ見たくないものだ。



「ふんっ! はっ!」



 気合を入れるとクロップハップの筋肉が膨れ上がった。


 もともとムキムキだが、さらに筋肉質になり、肩、腕、胸、腹が目に見えて隆起。上半身だけが異様に巨大化する。



「俺は根絶級魔獣だって殴り殺すことができる。こうなったら誰にも止められない。死んでも文句は言うなよ」


「へぇ、肉体操作の強化版かな? そういう技、漫画で見たことあるよ。『力こそパワー!』ってやつだよね」



 武人は肉体を操作できるが、脂肪を一時的に筋肉にすることはできても、元々の質量を変えることはできない。


 たとえばアンシュラオンがどんなに筋力を強化しても、今の体格以上にはならないのだ。考えてみれば当たり前のことである。


 だが、クロップハップは『筋肉増強』スキルによって、一時的ではあれ筋肉量を増やすことができる。



「身体中の骨を折って死ね!」



 クロップハップの豪腕が何度も叩きつけられる。


 速度もさらに上がり、拳を放つたびに衝撃波が吹き荒れ、周囲にあった床やソファーが傷だらけになる。


 この威力ならば厚さ一メートルの鉄板があっても、簡単に貫通破壊できるだろう。


 戦気の質も今までの敵と比べると優秀で、現状ではファテロナの下といったレベルにまで到達している。(イタ嬢の七騎士たちは戦気を発する前に倒したので実力は不明)


 都市最強の名は伊達ではない。それなりの腕前だ。



(やはりサナと戦わせるには厳しい相手だったな。まだまだ実力差がある。だが、あっちの男ならばやれるか?)



 アンシュラオンは攻撃をいなしながら、サナのほうをガン見する。


 一方のサナの相手は、ジリーと呼ばれた男だ。(本名はジリーウォン)


 手足の長い細身の男で、こちらは部屋の中であるにもかかわらず、黒いロングコートを羽織っている。


 動くと重みのある音がするので、おそらくはラブヘイアが着ていた物同様、鎖帷子入りだと思われた。


 得物は、誰が見てもすぐにわかる『長刀』だ。



「ボスも焼きが回ったもんだな。こんなガキの相手をさせるとは」


「…じー」


「たしかに少しはやるようだが、あんな雑魚を倒したくらいでいい気になるなよ。俺はガキ相手でも油断はしない」



 サナがジリーを観察するように、相手もこちらを観察している。


 ゆらりと刀を抜きながらも、いきなり斬りかからないことが、その言葉が真実であることを証明していた。


 サナは左手にグラディウス、右手に『脇差』を構える。


 この二週間の鍛錬で、ついに念願の脇差を扱えるようになっていたのだ。


 最初から接近戦用にシフトしたのは、目の前の男が強いからである。クロスボウや銃が通用する相手ではない。



 互いが動かないため、最初に仕掛けたのは―――サナ



 素早く間合いを詰めて、脇差を上段から振り下ろす。


 ジリーは体捌きだけでそれを回避。


 だが、サナは二刀流だ。すぐさまグラディウスが襲いかかる。


 ジリーは今度は動かず、手首を回転させて長刀を制御。


 すっと下に潜り込んだ刀が鋭く放たれ、グラディウスごとサナを弾き飛ばす。


 サナは咄嗟に身体を回転させて衝撃を吸収。少し後退した位置で再び構える。


 それから数度、二人は剣撃を交わすが、互いにダメージはない。



(なんだ…この動きは。暗殺者に似ているが、無軌道すぎて次の動作が読めん。構えも無造作だ。型がないのか?)



 サナの動きはアンシュラオンを真似たものだ。まるで水のように無限の軌道を描くからこそ、簡単に行動予測はさせない。


 サナもその都度目的に応じて動きを変化させるため、相手が戸惑い、序盤は優勢に進めることができた。


 今までは防御重視の戦い方を教わっていたが、この二週間では揺さぶる方法も学んでいたのだ。


 突如軌道を変化させた一撃が、ジリーを捉える。



「ちっ!」



 ジリーはロングコートで防御。


 ジャリリッと鎖が削られる音がしたが、体重移動を使って上手く防ぐ。



「ふん、一発当てたか。褒めてやるよ。だが、次は斬る」



 ここでジリーが様子見を終えて、攻撃モードにシフト。


 サナの呼吸に合わせて一歩踏み出すと、長刀が唸りを上げて襲いかかる。


 サナは防御。左手のグラディウスを盾にし、甲高い音とともに火花が散る。


 がしかし、上手く防いだように見えたが、ここで【二つの差】が生じる。


 まずは相手が成人男性であり、武人であったこと。


 体格はすらっとした細身だが、大人として平均的な筋量はあるし、武人として覚醒すると筋肉そのものの質が強靭になる。


 この段階で子供のサナは不利だ。



 さらに―――【戦気】が加わる



 戦気の有無は武人にとって生命線だ。身にまとうだけで攻防力が劇的に向上する。


 さきほどのサナの攻撃が通じなかったのも、相手が戦気をまとっていたからである。それだけで防具の性能も上昇する。


 それらの結果、サナの腕が押し込まれてグラディウスが弾かれる。


 迫った刃は後ろに下がることで回避するが―――



「逃がさん!」



 ジリーが『剣気』を放出。


 剣圧が『剣衝』となって襲いかかり、サナを切り裂く。


 サナはかろうじて脇差で防御したので致命傷には至らなかったが、衝撃波ですっぱりと革鎧が切り裂かれて、内部にまでダメージが浸透。


 肌にじんわりと鈍い感覚。血が滲む。


 あと一歩でも間合いが近ければ、そのまま斬られていたかもしれない。



「…じー」



 サナは相手の刀をじっと観察。


 刀身には戦気よりも強い赤い輝き。剣気である。


 すでに剣気のことは教えているが、実際に斬られると危険だと理解したようだ。最初よりも懐を深くして間合いを長く取った。


 その様子に違和感を感じたのはジリーのほうだ。



(このガキ、動きが妙に玄人っぽいのに、さっきから戦気を出していない。もしかして使えないのか? だが、あっちのガキは使えているようだが…。どっちにしても今のタイミングでかわすかよ。長引かせるのは得策じゃねえな)



 ジリーはバランス型の剣士である。


 状況を見ながら攻撃にも防御にも転じられる器用さが売りだ。剣士であるため攻撃力は高く、安定した能力で今まで生き抜いてきた。


 その彼がサナを危険だと判断。


 長い刀の間合いを生かした猛攻でサナを圧し始める。


 一撃一撃が鋭く重いため片手では防げない。両手でガードしても剣気で強化された刃は、そのまま強引に貫いてしまうだろう。


 やはり戦気を使えないことが戦況を圧倒的に不利にしていた。


 サナは後退を続け、壁にまで追いやられる。



「もらった!」



 ジリーの強烈な一撃がサナを襲う。


 だが、決めにいって大振りになった刃を、サナはグラディウスを盾にしつつ、いなすことで防御。


 これも修練の賜物だ。攻撃は受けずに流す。基本を守っている。


 ただし、一撃が重いためにいなすだけで腕の骨がギシギシと軋み、剣圧も凄まじいため、防ぐたびにグラディウスが削れていく。


 それによって部屋は滅茶苦茶。


 狙撃を怖れているのか窓がない部屋ではあるが、至る所の壁が簡単に斬られていく。


 やはり剣士の攻撃力は侮れない。直撃すれば、一撃で瀕死のダメージを負うのは間違いない。


 サナは必死に攻撃に耐え、八度目の斬撃の際にグラディウスを犠牲にする形で強引に突破。


 回転したと同時に壁を蹴って圧力から抜け出し、ジリーと位置を入れ替える。



「それで逃げたつもりかよ!」



 ジリーが移動直後の無防備なサナを捕捉。


 刀を振ろうとするが、サナの左手にはすでに術符が握られていた。


 強烈な風が噴き出し、ジリーが壁に叩き付けられる。風鎌牙の術符だ。


 だが、さすが武人。この程度では死なないし、すでにサナが術符を使っているのを見ていたので、ある程度は警戒していた。


 ロングコートで風刃の攻撃に耐える。


 術符を使うのはサナだけではない。どうやらこのコートには、耐力壁や耐銃壁に加えて、『耐術壁』もかかっているらしい。


 それによって術符のダメージの半分に抑えることができるのだ。



「術符にさえ注意すれば、ガキなんざ―――」



 と、前に踏み出した瞬間―――爆発



 背中の壁が粉々に砕け、爆風と壁の瓦礫がジリーの背中に襲いかかる。


 すでに自分から前に踏み出していたこともあり、勢いがつきすぎて一回転半。刀が床に突き刺さり、身体が逆さまに浮き上がる。


 サナはグラディウスを捨てて回転した瞬間には、すでに大納魔射津のスイッチを入れており、壁を蹴った時に亀裂にねじ込んでいた。


 爆発の衝撃はジリーが受けてくれたので、多少の被弾はあったものの、サナはほぼ万全の状態で攻撃することができる。


 浮き上がって防具がめくれた太ももを、脇差で切り裂く。


 さらに斬ったことで体勢が流れるのを利用し、顔面を蹴って足場として間合いを取った。


 蹴られたことでジリーの鼻が折れる。


 突然の爆発で動揺したためか、防御の戦気が乱れたのだ。大量の鼻血が噴き出る。



「ちっ、小細工を!」



 ジリーは体勢を整えようとするが、この一瞬をサナが逃すわけがない。


 『雷刺電』の符を発動。顔を狙って雷の針が降り注ぐ。


 ここはロングコートを広げて防いだものの、それによって視界が塞がった。


 そこにサナが水刃砲の術符を発動。足を狙う。


 ジリーは避けようとするが、さきほど太ももを切られたことで足が完全には上がらず、靴ごと足の指を切り落とされてしまう。



(こいつ! 最初からそれが目的か!)



 切られたのは、右足。


 どちらの足も重要だが、右手に刀を持っている彼にとっては、攻撃の際に力を入れるために必要な部位だ。


 それを切り落としたことで、剣撃の圧力を減らすことができる。


 強敵相手には、まずは力を削ぐ。基本を徹底した戦いぶりである。


 サナは脇差で切る前から、相手の右足を削ることを想定していた。相手が『右利き』だと知っていたからだ。


 さらにロングコートが術符の邪魔なると理解したため、あえて顔を狙うことで意識を上に向けさせた。


 その前に顔を蹴っていたこともあって、ジリーが顔の防御を優先すると計算していたからだ。




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