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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
118/619

118話 「COG壊滅 その1『サイコパスは怖いよね』」


「ひ、ひぃいい、た、助けてくれ!」



 路地裏で逃げ惑う男を追いかける影があった。


 どんなに速く逃げても、どんなに複雑な路地に入っても、ぴったりと張り付いたように追ってくる。


 そして、ついに袋小路に追い込まれ、曲がり角から追跡者の顔が覗く。



「まってよー、おいてかないでよー。寂しいじゃないかー」


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁっ! はっはっはっ!!」


「ボスの居場所おしえてよー。教えてくれないと…ガチガチガチガチッ!!」


「ひ、ひいいいいい!!」



 男は腰を抜かして失禁。


 なぜこんなに怯えているかといえば、そこにあったのは『宙に浮かぶ生首』だったからだ。


 生首は数を増やし、今では六つになっていた。それらが一斉に顎を動かして歯を鳴らす光景は、悪夢以外の何物でもない。



「な、なんでもするから許してくれええええ! たのむよおおおお!!」


「ボスの居場所に案内してくれるー?」


「する! するから!! 命だけは助けてくれえええ!!」


「いーよ。でも、その前に有り金を全部出せ」


「は、はいはひっ!! ひっ、ひっ! だひましらあああああ!」


「たった二万?」


「あ、あとでいくらでも! 本当です!! 死ぬ気で持ってきますからあああ!」


「まあいいよ。じゃあ、案内よろしくね。嘘ついたら…また仲間が増えちゃうねぇ。ガチガチガチガチッ!!」


「ひいいいいい!! 嘘なんて絶対につきませんから!! し、信じて…くださいい……おえええええ!」



 あまりの恐怖に嘔吐までする。まったくもって汚らわしい存在だ。


 だが、そこに並ぶ生首は全員、組織で名が通った武人たちである。


 それが恐怖に凍り付いた視線を向けてくるのだから、怖いのは当然だ。


 男は涙を流して這いずりながら、ボスの邸宅にまで案内してくれた。



「あ、あそこ…あそこですぅううう!」


「ありがとう。これでもう用済みだね。君も僕の仲間になりなよぉー」


「っ!! そんな! 約束が違うじゃないか!? 許してくださいよおおおお!!」


「あれは嘘だよ」


「そ、そんああああ!!」


「ヒヒヒヒッ、ガチガチガチガチッ、ガブーーーッ!」


「ひ―――っ!!!? ―――がく」



 生首に噛み付かれた男は、あまりの恐怖で失神。


 泡を吹いて倒れている。



「やれやれ、サイコパスを演じるのも大変だよ」



 そこに現れたのは、アンシュラオンとサナ。


 わざわざ首を持ってきたのは見せしめのためと、こうやって尋問の道具にするためだ。顔見知りであればあるほど効果的である。


 そのためにサイコパスを演じていたわけだが、そもそも生首を使ってサイコパスを演じようと考えるほうが、より真性のサイコパスであることには気づいていない。


 ともあれ、ボスの居場所は判明。



「ここが組織のアジトか。遊んでたから少し時間がかかったけど、ようやく見つけたぞ」



 情報が正しければ、ここがシティ・オブ・ゴールドのアジトで間違いないようだ。


 実はすでに何人かが場所を吐いていたのだが、人間狩りが楽しくてついつい長引かせてしまったのだ。


 ちなみにマダムは助けたものの、商人のおっさんは殺されていた。最終的に助かったのは半数くらいだろうか。


 死者には必要ないので商人の金も頂戴し、助けた連中からも金を巻き上げたので、それだけで五億円以上は儲けることができた。



(これだから人助けはたまらないんだよなぁ。こいつらからも金を頂戴すれば、しばらく金には困らないはずだ。すべては子育てのため。愛するサナのために犠牲になってもらうとしよう。さてと、屋敷の前には警護の人間がいるな。うーん、今回は正面突破でいいや。皆殺しでいこう)



 門の前には、銃で武装した護衛が五人ほど立っていた。


 領主城の時はサナ救助が目的だったのと、明らかに難敵のガンプドルフに気づかれたので隠れたが、今回は遠慮することはないだろう。


 アンシュラオンは堂々と正面から近づき、門の前にいた男たちに話しかける。



「ねえ、ここってシティ・オブ・ゴールドのアジト?」


「なんだお前は? ガキは帰れ」


「そういうわけにはいかないよ。貸したものは返してもらわないとね」


「貸したもの? なんだそりゃ?」


「そうだな。慰謝料として最低十億円くらいは欲しいかな。ここにボスはいる?」


「慰謝料? はっ、死にてぇのか! さっさと消えろ!」


「まあいいよ。勝手に入るから」


「おい、このガキ…!」


「汚い手で触るなよ」



 アンシュラオンが掌を男に向けると、一瞬で蒸発。


 最初から誰もいなかったように存在が消えた。


 特別なことはしていない。ただ戦気を放出する『戦気掌せんきしょう』という技だ。



「なっ…」


「はいはい、さくさくいこうね。夜明けには出て行くし、ロリコンはいいけどロリ子ちゃんを待たせるのは悪い。巻いていこうか」



 一人を除き、四人を一瞬で蒸発させる。


 それから残った一人の首根っこを掴む。相手は暴れることもできず、呻くことしかできない。



「ぐががっ! がっ!!」


「で、中にボスはいるの?」


「ごごごっ……ななな……」


「ああ、締め付けていたらしゃべられないか。まあ、もう波動円で内部の人間の位置は特定しているんだけど、ボスの顔は知らないからさ。あんたに教えてもらうことにしよう。それまでは生かしておいてあげるよ。サナ、行くよ。戦闘準備はしておくんだぞ」


「…こくり」



 男を引きずって敷地内に侵入。


 庭には『フォーナドッグ〈飼育警備犬〉』が何頭もいたが、遠隔操作で放った凍気を使い、一瞬で凍結させて終了。


 ついでに庭側にいた見張りも凍らせて絶命させる。人自体はそのまま残っているので、誰も異常があったとは思わないだろう。


 続いて家の中に入る。


 入り口の扉には鍵がかかっていたが、軽く引っ張ったら壊れたので、気にせずどんどん進む。


 家の内部は広く、部屋も数多くあるようだが、波動円で人がいる場所は把握しているため、最初から一番広くて人が多い部屋を目指して歩く。


 その際に何人かの男に出会ったが、面倒くさいので即蒸発してもらった。


 アンシュラオンが遊ばずにさくさく移動すると、これほどまでに警備が無力になることを証明する。これを見ると、やはりグラス・ギースの領主は運がよかったのである。


 そして、目的の部屋に到着。


 扉の前に立って、軽くノック。



「ここかな? もしもーし、入るよ」


「待て」


「お邪魔しまーす。がちゃっ」



 待てと言われた気がするが、気にせず入る鋼のメンタルを披露。


 面接の時は「どうぞ」と言われてから入るものだが、緊張していきなり入った経験がある人もいるだろう。


 その時と同じように、部屋の中の住人たちは「え?」という表情で固まる。普通ならば待つのだから当然の反応だろう。



「えーと、ボスは誰かな?」



 部屋はかなり広く、地球ならば一泊百万円以上はしそうな高級ホテルの一室に似ていた。


 そこにいたのは、五人の男。


 一番奥に座っている髭の中年男性の近くには、護衛と思わしきごつい男と細身の男。


 残りの二人は入り口近くにいたので、おそらくは下っ端だろう。



「ボスはあの髭かな? ねえ、あいつで合ってる?」


「こくこくこく」


「あっ、そう。ありがとう。もういいよ」



 門番をぽいっと捨てる。


 普通の腕力ではないので首がへし折れ、凄まじい勢いで壁に激突。


 ぐちゃっという音がして、身体が破裂。


 大量の血の跡を壁に残し、そのまま動かなくなった。



「な、なんだてめぇは!!」



 突然の来訪者に対して、下っ端二人が剣を取り出す。



(『なんだお前は』は、完全にテンプレだな。テンプレだから本当に言うんだよな)



 世の中でテンプレといわれているものは、案外本当のことが多い。積み重ねられたからこその伝統の重みを感じる。



「カジノで儲けたら襲われたから、お返しに全財産をもらおうと思ってね。慰謝料ってやつさ」


「カジノだと?」


「うん、今頃はみんな放心しているはずだよ。まあ、全部オレのせいなんだけどね」


「カジノ…か。たしかにここ最近は荒れていると聞いていたな」



 髭の男がタバコを吹かしながら呟く。


 この状況でも落ち着いているあたり、さすが組織のボスだろうか。



「それをお前がやったってのか?」


「まあね。あんたらの仕掛けと同じさ。それよりも高度な技ってだけだよ。信じるかどうかはあんたら次第だけどね」


「………」



 髭の男は、ちらりと今しがた死んだ門番を見る。


 これだけの力を見せられれば、嘘であっても放っておくわけがない。



「なぁ、俺らの仲間にならないか? ヘマした仕掛けの女を殺したから代わりが欲しかったんだ。お前ほどの男なら分け前は弾むぞ」


「オレは落とし前をつけるために来たんだよ。そんな話をしに来たんじゃない」


「いくら欲しいんだ?」


「あんたらの全財産さ」



 いつの間にか十億円から全財産になっている件。



「欲深いと痛い目に遭うもんだぜ」


「それならそっちが痛い目に遭う番だね。あんたらは欲をかいた。だから罰を受ける」


「わかった。半分でどうだ?」


「ボス! こんなガキに何を言っているんですか!?」



 下っ端の一人が気色ばむ。


 彼らからしたら、突然現れた人間にそんな話をすること自体が不愉快だろう。



「わかってねぇのはお前だ。こいつは生身でここに来た。それだけの度量と覚悟があるってことだ。こんなやつは久々だぜ。で、どうする? これ以上はさすがに無理だぞ」


「いいよ。ただし、オレの歩みを一歩でも止められたらね。でも、それができなければ、あんたらは全員死ぬ。必死で止めてごらん」



 アンシュラオンが、一歩、また一歩と、とてもゆっくりボスがいる場所に歩み寄る。



「調子に乗るな! 死ね!!」



 男の一人が剣で襲いかかってきた。


 門番の死にざまを見ても向かっていける勇気、いや、馬鹿さ加減には笑えてくる。


 アンシュラオンは特によけず、剣が頭に当たる。



「どうだ!!」


「何が?」


「なっ…どうして斬れない!」


「この程度の腕前じゃ、髪の毛一本も斬れないね。それに動きも悪い。攻撃したのに止まっていたら恰好の的になっちゃうよ」


「んだと―――ぐっ!」



 男の肩に矢が突き刺さる。


 見れば、サナがすでにクロスボウを構えて発射していた。



「なめた真似を! あっちのガキはお前がやれ!」


「おう!」


「サナ、遠慮なく殺していいぞ」


「…こくり」


「死ぬのはてめぇらだ!」



 もう一人の下っ端の男がサナに向かっていく。


 しかしながら、すでにサナは懐から術符を取り出して発動していた。


 水流の刃が男の腹に命中。


 ざっくり切り裂かれ、血と臓物が噴き出る。



「ぐぐぐっ…こいつ……!」


「…ごそごそ」



 負傷しても接近しようとする男に対して、サナが取り出したのは風鎌牙の術符。


 カマイタチが吹き荒れ、男を切り刻みながら壁に叩きつける。


 そこにサナが急接近。


 跳躍し、身体ごと激突する勢いで目にダガーを突き刺した。



「ぎゃあああああ!」



 そして、そのまま首を掴んで身体を捻り―――ゴギンッ


 首をへし折る。



「ごごっ…ごぼっ…」



 男は倒れて動かない。このまま窒息して死ぬコースだ。


 だが、その前に心臓にダガーを突き立てて、とどめを刺す。



「この! このこの!!」



 もう一人の男は、依然としてアンシュラオンを攻撃しているが、攻撃がまったく通らない状態だった。


 そもそもアンシュラオンはサナを見ていて、男に視線すら向けていない。



「よし、いい動きだ。じゃあ、ついでにこいつも倒してごらん」


「なめてんじゃ―――ぐあっ!」



 男の腕を掴むと、合気道のように床に叩き付けた。べつに合気など使っていない力ずくの一撃だが。


 その衝撃で呼吸が止まり、剣を手放したところを蹴り飛ばす。



「げぼっ…この…やろう……」


「…じー、ぶす!」


「ぐっ!!」



 床を転がってたどり着いたのは、サナの眼前。


 ちょうど起き上がろうとしたところに、サナがダガーを突き刺した。


 頭部を狙ったが頭蓋骨に当たって少しずれてしまい、結果的に肩に突き刺さる。



「くそっ! このガキが!!」



 男が手で振り払おうとするが、その前にサナが蹴りで男の喉を叩き潰す。


 バギンッという音が響き、喉ごと首を破砕。



「ごぼっ…ごっ―――がっ!!」



 さらにグラディウスで首を掻っ切り、返す刃で後頭部を叩き割って終了。


 あっという間に二人目を殺害。


 大の大人が年端もいかない少女に好きにやられている光景は、まるで現実感がなかった。


 しかし、英才教育を受けているサナにとっては、男の動きは遅かった。魔獣に比べるとスローモーションであるし、殺気の質もまるで違う。


 さきほどの刺客狩りで人を殺す感覚を覚えてきたようで、動きも格段に良くなっていた。




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