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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
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110話 「ハピナ・ラッソに到着」


 それからも賦気を施し、昼間は走り、魔獣と戦い、たくさん食べて命気も飲んで、たっぷりと寝るを繰り返す。


 変わったことといえば、刃物の扱いだけではなく格闘の訓練も始めたことだろうか。


 アンシュラオンは戦士なので、格闘術に関してはスペシャリストだ。人体の構造を教え、どこを狙えばいいかを徹底的に教え込む。



「相手が男の場合、股間を攻撃するのもいい手だ。急所の一つだからね。まあ、武人だと保護できちゃうんだけど、一般人相手ならば有効だろう」



 当然サナが狙われるとすれば男の可能性が高いので、撃退方法も教えておく。


 女性が護身術を習うとどこでも教えると思うが、やはり金的は怖ろしいものである。くらった瞬間に本当に力が抜けるのだ。


 ただし、優れた武人は肉体操作が可能なので、パミエルキが胸を筋肉に変えることができるように、男も股間のブツを体内に収納することができるため、そこまで有効的な攻撃ではない。



「よし、基本の型は教えたから、拳と蹴りの打撃訓練を五千回ずつだ。あの猪の胃袋で作った肉人形を練習台にしてみよう」



 さらっと言ったが、まだ十歳にもなっていない少女に、合計一万回の打撃訓練を課す。



「…こくり」



 サナは反抗することなく受け入れ、淡々と教えられた通りに拳を繰り出す。


 的になるのは、洗浄したベビモアの胃袋の皮に肉を詰め込んだ肉人形であるが、何度も叩いていけばサナの拳のほうが痛み、皮膚が破けて血が滲んでくる。


 だが、それを命気で強制的に癒し、また殴らせるを繰り返す。


 通常ならば治療に何日もかかるところを一瞬で治せるので、サナは常人の何十倍もの鍛錬を短期間でこなすことができるのだ。



(そういえば、マキさんが打撃用の篭手を付けていたな。格闘もするならサナに買ってあげてもいいかもしれない。戦硬気が使えないと拳へのダメージも大きいし、手の保護は剣士でも重要だ)



 そんなことを続け、ハビナ・ザマを出てから一週間が経過。


 真っ直ぐにやってきたわけではないので時間がかかったが、ついにハピナ・ラッソが見えてきた。


 ここまで来ると交通ルートも目と鼻の先だ。明らかに人の姿も増えている。


 やはり子供二人は目立つのか、道を歩いているだけで周囲の人たちから話しかけられる。



「やぁ、二人だけかい?」


「そうだよ。兄妹で旅行中なんだ」


「気をつけていきなよ。悪いやつがいたら、大声を出して叫ぶんだよ。すぐに助けにいくからね」


「うん、助かるよ」


「あらまぁ、可愛い子ねぇ。アメちゃんあげるわね」


「…じー」


「サナ、もらって大丈夫だぞ」


「…こくり。ぱくっ、もごもご」


「うふふ、私にも孫がいたらねぇ。こんな感じかねぇ」



 なぜかアメちゃんをくれるのは日本と同じらしい。


 それからも何人もの旅人や商人に話しかけられるが、誰もが好意的で優しいのが印象的だ。



(これも『魅力』の効果だよな。サナも魅力が高いから、自然と周りの人間を引き寄せるのかもしれない。今のところ悪そうな連中はいないけど、油断はしないでおくか)



 荒野を移動するだけあって、強面の傭兵たちの姿はちらほら見られる。


 逆に傭兵を連れていない商隊は存在しない。盗賊はともかく、魔獣が至る所にいる場所では自衛は当たり前なのだ。


 ここでは目立つので修練は控え、人々の流れに乗ってハピナ・ラッソに到着。


 見た目はほぼハビナ・ザマにそっくり。姉妹都市かと思うほどである。考えるのが面倒で、そのまま同じものを作ったレベルだ。


 それはいいとして、やはり気になることがあった。



(うーむ、ここも防備は鉄柵程度だな。この前、荒野で出会った猪の一発でひしゃげそうだ。そんなに魔獣が出ないものなのかな?)



 グラス・ギースは四大悪獣に襲われた経緯があるので強固だが、他の都市の無防備さに若干呆れるばかりだ。


 こちらもハビナ・ザマ同様、細かい検問もなく、簡単な持ち物チェックを受けただけで中に入ることができた。


 危険物の持ち込みをチェックしていたというより、商人かどうかを見ていたようだ。売り物がないとわかるとすぐに通してくれた。


 警備はグラス・ギースにいた衛士よりも優しい青年だったので、その意味では好感が持てる。



(まあ、それだけ安全なら文句はないんだけどね。さて、どうしようかな。ハビナ・ザマで観光はもうやったし、いまさらここで観光する必要性もないんだよな)



「サナ、何かしたいことはあるか?」


「…?」



 サナは首を傾げる仕草。よくわかっていないようである。


 異様に可愛い姿に悶えたが、ここは兄である自分がリードするべきだろう。



「知らない街だし、適当に歩こうか。そのついでに宿泊施設も選ぼう」


「…こくり」



 ハビナ・ザマでやったように商店街をぶらぶら歩く。


 露店で食べ物を買ったり、サナの服を見たり、ここまではほぼ同じだ。



(術具屋はないのかな? 術符を補充しておきたいんだけどな。その前にハローワークで素材の換金を―――)



 と、周囲を見回した時である。


 野暮ったい容貌の男が、視界に飛び込んできた。



「あっ、ロリコンだ」


「え!?」



 その言葉に、男は驚きの表情を浮かべる。


 間違いない。このイヤらしいにやけ顔はロリコンである。


 ブシル村で出会った名前も知らない男だが、ロリコンであることは知っている。


 だからロリコンだ。



「よおおお!! ロリコン!! 久しぶりだな!!!」


「ちょっ、おまっ! なんで!? じゃなくて、声が大きい!!」


「ロリコン!!! どうしたんだよ!!! こんなところで何してるんだよ、ロリコン!!! 元気だったか、ロリコン!!!」


「いやだから声が…って、わざとやってるだろう!?」


「奥さんはどうしたんだ!!!! あの小学生っぽい顔つきの女の子だよ!!!! なあ、ロリコン!!! お前の幼い奥さんはどうしたんだ!!! いやー、ほんと犯罪スレスレだよな! あんな幼い子を妻にするなんてな!!!」


「ちょ!! ほんとにやめて!! 周りの人、見てるから! ね、見てるからさぁあああ!」



 こんなに人が多い商店街で大声で話すのだから、周囲に筒抜けだ。



「え? ロリコン? あの人ってロリコンなの?」


「きもっ、ロリコンだってよ」


「危ないわ。子供を隠さなくちゃ」


「ああいう変態がいるから世の中おかしくなるんだよ」


「おまわりさーん! こっちです!」



 完全に汚物を見る視線が集中する。



「なにしてくれてんだよぉおおおお! 勘違いされたじゃないか!」


「事実だろう。否定できる要素がどこにあるんだ。お前の奥さんは十三歳かそこらだろうに。犯罪だぞ」


「そりゃそうだけど、こんな場所で言うことはないだろう!! 一般の皆々様方がいるんだからさ! 公共の場ではやめろよな!」


「自分で認めたならいいじゃないか。事実は変わらないよ。なぁ、ロリコン!」


「くそっ、場所を変えるぞ」


「オレはここでもいいけど?」


「俺が困るんだよ!」


「ちぇっ、しょうがないなー。サナ、場所を変えようか」


「…こくり」


「ん? なんだその子は?」


「オレの妹だよ」


「いや、嘘をつくなよ。ははん、そうか。お前もついにスレイブを買ったんだな」


「その仲間を見るような目付きはやめろ。汚らわしい」


「おかしいだろう!? なんで俺だけさげすまれるんだ!?」


「常識的に考えてもみなよ。オレは妹。お前の場合は妻だ。オレは健全で、ロリコンは犯罪者だ」


「その論理と自信がおかしい!? あの時とまったく変わってないな、お前は!」


「ロリコンもね。それなら、どこかのお店にでも行こうか。ちょうどお昼だし、おごってよ」


「なんで俺がおごるんだよ」


「みなさーーーん! ロリコンがここにいるよおおおおお!」


「やめろおおおおおおおおおおお! わかった、わかったから! 早く行くぞ!」



 アンシュラオンたちはロリコンに急かされて、商店街にあるオープンエアのあるレストランに入る。


 せっかくなので、外の景色を見ながら食べることにしたのだ。


 ハビナ・ザマで何度も見たとはいえ、やはりグラス・ギースとは違う町並みは新鮮で綺麗だ。



「サナ、海産物のパスタがあるよ。ちょっと頼んでみようか」


「…こくり」



 多少とはいえ、よりハピ・クジュネに近いハピナ・ラッソのほうが、ハビナ・ザマよりも新鮮な魚介類が手に入るようだ。値が張るが、せっかくなので注文してみた。


 その他いくつか見慣れない料理を頼み、ロリコンと向かい合う。



「久しぶりだね。ブシル村で出会ったのは、二ヶ月ちょっと前だったかな? そのロリコンが、なんでここにいるの?」


「ちょうど在庫もなくなったから、いろいろと仕入れに来たのさ」


「女の子を?」


「お前と一緒にするなよ! 普通の商品だ」


「ああ、ロリコンは行商人だったね。どこまで行くの?」


「ハピ・クジュネにまで行く予定だな」


「なんだ、同じ目的地じゃん」


「お前もハピ・クジュネに行くのか? そういえば、あの包丁はちゃんと使っているか? 良い物だっただろう」


「すごく役立ったよ。この前も魔獣を殺すのに便利だった」


「使い方が違う!? 包丁だぞ!?」


「変な武器より質がいいんだよね。あっ、そうだ。ロリコン、よくも騙したな!」


「いきなり何の話だ!?」


「ハビナ・ザマでアズ・アクスの直営店に行ったけど、V・Fなんて鍛冶師はいないって言われたよ。あの包丁は本当にアズ・アクス製なの?」


「そのはずだが…おかしいな」


「どこで仕入れたの?」


「ハピ・クジュネで仕入れたんだ。ちゃんとアズ・アクスの『横流し品』を…じゃなくて正規品をだな…」


「………」


「そんな目で見るなよ! いいだろう、安いんだから。アズ・アクス製なのは間違いないはずだ」


「その横流しって? 闇市場じゃないだろうね」


「闇市場じゃないことは確実だ。さすがにあそこはやばい品物もあるからな。よほど切羽詰まっていないと利用はしないさ」


「じゃあ、この包丁の出所は?」


「まあその…アズ・アクスには良い職人も多いから品質にはこだわっている。ただ、その分だけ失敗作もたくさん生まれるんだ。失敗作といっても普通の鍛冶師が打つよりも何倍も質がいいから、それを流してもらっているんだよ」


「アズ・アクスの許可は取ってあるの?」


「どうだろうな? 廃棄物扱いだし、気にしていないんじゃないのか? 廃棄物を買い取った業者から流してもらっているんだ」


「つまりは無許可か。安い理由がわかったよ」



(捨てた電化製品が、アジア諸国や中東に流れるのと一緒か。それくらいでないとアズ・アクス製が安く買えるわけがないもんな。オレの刀なんて二千万だし、値段が違いすぎる)



 さすがロリコンだ。やはりまともな仕入先ではなかった。


 だが、ロリコン程度の行商人がアズ・アクスの商品を手に入れるには、こういった裏のルートしかないのだろう。納得である。




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