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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
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107話 「戦闘計算式と武器の改造」


「術符は上手く使えるようだな。次に術具を使ってみよう。えーと、使い方はボタンを押してから五秒だったかな」



 もう一匹に対しては、『大納魔射津ダイナマイツ』の術具を使うことにした。


 アンシュラオンが斬り合っている間に、サナはボタンを押して相手の脚元に転がす。


 地面を転がっていったせいか、鎌ではどうすることもできず



 五秒後に―――ドーーーンッ!



「おっと」



 サナを水泥壁で覆い、爆風から守る。


 見れば直径十メートルの穴が生まれており、その爆心地にいたデスガーマリンは、身体が半壊した状態になっていた。


 脚も吹っ飛び、引きちぎられた腹からは臓物がこぼれ落ち、鎌もボロボロだ。


 頭部も半分以上が失われているので、ほぼ瀕死状態だろう。



(ダメージは500ってところか? 当たる場所次第だけど、術式だから防御無視で500は悪くないな)



 術符と術具の最大の違いは、術符が魔力値に依存するのに対し、術具はそれ自体で完成されているので使用者が【誰でも同じ効果】になることだ。(付与された術式によって異なることもある)


 大納魔射津が古来より好まれているところは、こうした汎用性である。根絶級くらいならば、当たり所がよければ一発で撃破が可能だ。


 ボロボロになったデスガーマリンは、サナのクロスボウを何発も打たせて仕留めることに成功。


 鎌がないカマキリなど、もはや怖くはない。



「…ぎゅっ」



 サナが頬を紅潮させながらアンシュラオンの服を掴む。



「おお、自分で倒したのが嬉しかったのか! よかったな!! ナデナデ」


「…こくり、ふー、ふー」



 サナはかなり嬉しかったようで、表情はそのままに鼻息だけが荒かった。


 まるで猫が小さな鼻で、フーフーと一生懸命に呼吸している姿に似ていて可愛い。


 アンシュラオンの庇護下かつ術具を使ったとはいえ、これはサナのポイントになるだろう。術具もまたハンターにとって利用すべき道具だ。使って文句を言われる筋合いはない。



「どんな武器や道具も力であることは同じだ。状況に合わせて効果的な武器を選ぶんだよ」


「…こくり」



 最後の一匹も同じように術符と術具を使って撃破。サナはやればやるほど上手くなっていくので、見ているほうは楽しくて仕方がない。


 ただ、残念ながら原形がほぼ残らなかったため、素材としては切り落とした鎌だけを回収して本日の訓練は終了となった。




 戦闘後、周囲にモグマウスを配置して完全なる安全を確保。


 サナはご飯を食べて命気風呂に入ると、すぐに寝袋に潜り込んで寝息を立て始める。



「…すー、すー」


「ちょっと髪の毛が切れちゃったな。命気で毛根を再生させれば問題ないけど、戦闘中は結わいたほうがいいかもしれないね」



 サナの髪の毛を撫でながら今日の戦いを思い出す。


 長い黒髪ストレートが好きなのでそのままにしているが、こうした接近戦が増えると、今後も髪の毛が切れてしまうかもしれない。


 まだ女性としてのこだわりはなさそうだが、大切な髪の毛だ。大事にしてあげたいものである。



(サナもだいぶ戦闘に慣れてきたかな。ただの女の子であったことを思えば、この短期間でかなりの成長といえるはずだ。だが、HPは少ないし対応できる技術もスキルも足りないから、普通に戦うと常にギリギリになる。もっと細かく管理する必要があるかもな)



 アンシュラオンの中で一つの決心が固まる。



 それは―――【データの検証】



 情報公開で示されるデータ、特にアルファベットについての詳細な情報を得ることだ。


 ただでさえ戦闘は危険だ。ちょっとした判断ミスで、慣れているハンターでも不意に死んでしまうことがある。


 サナをそんな危険な目に遭わせるわけにはいかない。されど、危険に直面しなければ成長することもない。


 そのためにはギリギリのところの見極めが必要となる。せっかく『情報公開』スキルを持っているのに、あやふやなままではもったいないという思いもあった。



(火怨山ではA以下の数値を見ることは稀だったけど、このあたりだとFもざらに見かける。ようやくデータも集まってきたから、一度まとめておくか)



 あくまで自分が勝手に設定したものだが、情報公開で得られるアルファベット数値について、戦闘力に関してはこうした基準を設けることにした。



――――――――――――――――――――――

SSS ――― 2000~

 SS ――― 1500~

  S ――― 1200~

 AA ――― 900~

  A ――― 700~

  B ――― 500~

  C ――― 300~

  D ――― 200~

  E ――― 100~

  F ――― 1~99

――――――――――――――――――――――



 今まで遭遇した魔獣や人間の戦闘データを統合し、HPの増減から判断して、このような数値になると思われる。


 所詮は目安であるし、攻撃の種類や属性も大きく関わるため一概には断定できないが、参考にするくらいはいいだろう。


 今回の場合、デスガーマリンの防御はD、単純な数値上は200以上300未満である。


 本来ならば防御には魔力や精神の数値も関わってくるのだが、仮にそれを含めて防御が200ぴったりと考えてみよう。


 これに武具を装備した攻撃の合計値が200の人間が攻撃しても、単純計算でダメージは0になる。


 0なので実質的にダメージはない。何度も攻撃すれば相手の皮膚が弱まり、防御力が低下することでダメージは与えられるかもしれないが、基本は0と考えたほうがわかりやすいだろう。


 サナの攻撃力は最低値の「F」なので、99以下。おそらく剣を装備してもDには届かないはずだ。せいぜい数値上は「E](100~199)なので、デスガーマリンにはダメージを与えられない。


 クロスボウや銃は、そのまま使った場合は固定ダメージになると思われるが、魔獣に効かなかったことを考えれば、それもまたFかEどまりだろう。


 ただし、ここに【戦気】が加わると話は一気に変わる。



(やっぱり戦気が重要だよな。もしサナが戦気を使えれば、苦戦はしただろうけど、あの魔獣にだって勝てたかもしれない)



 戦気は能力を三倍に引き上げるので、仮に素の攻撃力が90でも、最終的に270と同等のダメージを与えることができる。


 ただし戦気の質によって倍率も変化するため、アンシュラオンのように練度が高い戦気術を扱える場合、五倍~十倍以上になることもあるだろう。


 一方、戦気を覚えたての経験の浅い武人の場合は、二倍にすらならないこともある。だからこそ日々の修練で戦気の質を上げることが重要なのだ。


 また、通常の戦気のほかにも『剛気』や『闘気』、『覇気』等々の上位の気質もあるので、それぞれ状況に応じて使い分けることも重要だ。



(戦気を覚えたら、次は【技】だな。どっちも覚醒因子次第だけど、技が使えれば強敵にも勝てるようになるはずだ)



 たとえば攻撃力200の人間が、攻撃補正1.5倍の技を使用した場合は300になる。デスガーマリンだったら差分の100を与えていたはずだ。


 もちろん当たった部位に加え、相手の防御技や迎撃・耐久スキル、戦気の有無等々、補正要素はたくさんあり、非常に複雑な計算となるだろうが、あの魔獣の場合は100のダメージと考えていいだろう。


 それを七回繰り返し、HPを0にすれば死亡。


 その前に鎌を破壊してしまえば攻撃力は激減するので、なおさら倒しやすくなるはずだ。


 このように技を使うだけで、一気に戦況は変わる。だからこそ技を覚えられる覚醒因子が重要なのである。


 もし攻撃補正3倍の技を覚えられれば、攻撃がD(200~)であっても、防御がB(500~)の相手に勝てる可能性が生まれるのだ。


 技は修得しておいて損はない。溜め時間やBP消費などの代償はあっても、一発逆転にもつながる大事な要素となる。


 が、これは将来の話。今は現実的ではない。



(今のサナの腕力を考えると強い魔獣との近接戦闘は難しいな。やるなら完全なる準備が必要だ。これは明日また考えてみよう。ともかく攻撃の中心となるのが【術式】なのは間違いない。サナにはいくらかけてもいい。術符を大量に買ってたくさん使わせよう)



 術式攻撃の最大の特徴は、【防御の値を無視】することだ。


 術士が重宝されるのは、こうした防御特化の相手にも有効なダメージを与えられるからである。


 どんなに重装甲の相手でも、術ならば防御力を貫通して直接ダメージを与える。これがとても便利なのだ。(鎧の場合は、鎧が持っている耐久値にダメージが入る仕組みだ。それを破壊してようやく生身にダメージが通る)


 術式は強力だが、もちろん防ぐ方法もある。


 術に対しては術で対抗するのが一番だ。対術専用の魔力結界や、グラス・ギースに張ってある防護結界のようなものがあれば相殺が可能だ。


 また、こうした防御術式が使えなくて【対術三倍防御の法則】というものがあり、術の威力に対して三倍の戦気があれば理論上は相殺が可能である。


 もし相手が魔力200の術式攻撃を行った場合、これを防ぐためには戦気で強化した防御数値が600必要となる、というわけだ。


 または、戦気をまとった攻撃数値600の攻撃を当てれば相殺が可能だ。これを見ても戦気の重要性は極めて高い。



(術式の弱点としては、使い手の魔力値に依存する点かな。サナの魔力が低いままだと効果が薄い。そうなると、ますます『大納魔射津』が重要になる。ストックは切らさないようにしないといけないな。術具屋は次の街にもあるかな? 最悪でもハピ・クジュネにはあるだろうし、そこで大量に買い込んでおくか)



 大納魔射津は術具なので、魔力値500の固定ダメージを与えることができる。


 これを完全に防ぐためには防御値SS(1500~)が必要になると思えば、いかに強い攻撃かがわかるだろう。値段は高いが効果は想像以上である。



(ただ、数に限りがあるのと、五秒経たないと爆発しないのが難点なんだよな。説明を聞いた限りじゃ、もっと直接的にぶつけてもいいよな?)



 アンシュラオンが剥き出しのジュエルだけを握ってみる。


 普通の人間の握力ではどうにもならないが、さらに強く握ると、ぼんっと手の中で爆発した。戦気で覆っているので手は無傷である。


 アンシュラオンの『素の』防御はSSなので、こうやって軽く戦気を展開するだけで防御が可能だ。もしかしたら素のままでもダメージを負わないかもしれない。



(カプセルに入れなくても威力は変わらないな。敵に向かって投げても使えそうだが、サナの腕力では無理か。スリングショットみたいなものがあれば……ん? そういえば、前に映画で弓矢に爆弾が付いているものがあった。それならクロスボウでもできるはずだ)



 思い付いたら即行動。


 クロスボウの矢尻にジュエルを命気でくっつけてみる。



(普通にいけそうだな。矢尻ごと体内に入れば内部で爆発させることもできそうだ。衝撃で爆発してくれるかが心配だが、それは改良次第でなんとかなるだろう)



 これはアガニ(ボルト)クロスボウと呼ばれるもので、射程が短いことを除けば、弓矢で爆発を引き起こせる優秀な兵器である。


 大納魔射津は緊張していると、誤って近くに投げてしまう事故もありえるため、むしろこちらのほうが安全にさえ思える。管理もポケット倉庫を使えばよいので誤爆の危険性も低い。


 さらに普通のカプセル状の大納魔射津を付けても使えそうだ。五秒という時間を上手く使えばフェイントにもなるだろう。


 こうして改造弓矢である『爆弾矢』が完成した。



(うん、いい感じだ。次は銃だな。魔獣に効かない最大の原因は、連射ができないところだと思うんだよな。そもそも威力がたいしたことないのに、二発しか入らないのが問題なんだ。せめて弾数を増やしたい)



 もしマシンガンだったならば、デスガーマリンにもそれなりに効果があっただろう。何十発も連射すれば、いくら鎌で迎撃してもすべては防げないはずだ。


 このように使い方次第でどんな武器も有効活用することができる。今のサナにとって大事なことは選択肢を増やすことだ。


 こうしてその夜は、武器の改造に勤しむ。


 娘のために玩具を作っている気分で、とても楽しい時間であった。




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