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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
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106話 「刀の試し切りと術符実験」


 移動中は走るだけではない。


 合間に以前もやっていたダガーによる訓練も行う。



「だいぶダガーの使い方に慣れてきたみたいだな。左手でもちゃんと力が乗っているぞ」


「…こくり」



 今のサナは左手でもダガーを操っていた。たどたどしい部分はあるが、右手と比べても遜色ないレベルである。


 普通ならば意識的にどちらかを使うが、こだわりがないゆえに自然と両利きの土台が作られていたのだろう。これは好都合だ。



「たいていの人間には『利き腕』が存在する。これは戦いの際、中心線を守るために半身の構えになることが最大の要因だ。でも、それによってバランスが悪くなったり、相手が慣れたりすれば、勝ちパターンを潰されて手も足も出なくなってしまう。総合的に考えれば、やっぱり両方使えたほうが便利なんだ」



 アンシュラオンは戦いの際、堂々と正面を向いて戦う。


 これはあらゆる方向から攻撃が来ても、両手両足を使って自在に対処するためだ。その分だけ中心線が狙われるが、それをいなす自負と技量があるから問題はない。


 サナもそのうち自分の型を作るだろうが、それが出来る前にあらゆる『可能性』を与えたい。基礎が出来ていれば、またそこから打開することもできるからだ。



「そろそろいいかな。これを左手で持ってごらん。右手はダガーだよ」



 ハビナ・ザマで買ったグラディウスを渡す。


 ダガーよりも長くて太く、より頑強な武器である。それを左手に持たせることで『二刀流』となる。



「武器がダガーしかないときは、できるだけ両手に持って使うんだよ」


「…こくり」


「お兄ちゃんが打ち込むからガードを意識するんだ。軽い攻撃は右手でもいいけど、強い攻撃は左手の剣を上手く使うんだ」



 アンシュラオンがショートソードを取り出し、サナに軽く斬りかかる。


 最初はこちらから武器に当てるようにするが、少しずつ威力と速度を上げてランダム性を加えていく。


 しばらくは上手くいかなかったが、すぐに順応して攻撃を流すようになった。やはり覚えが早い。



「その調子だ。真正面から叩いちゃ駄目だぞ。力負けするからね。必ず流すようにするんだ」


「…こくり」


「よし、今度は攻撃だ。刺すことを意識して…そうだ。いいぞ。人間相手なら腹を狙うんだ。致命傷でなくてもいい。まずは刺すことが重要だ。そうそう、いいぞ。慣れてきたら左手も牽制に使いつつ、隙があったら打ち込んでかまわない」



 ガードするのならば『盾』という選択肢もあるが、サナの体格と腕力では防ぎきれないだろう。


 それよりは受け流す感覚を身に付けるのが先決だ。そのまま回避もできるし、慣れれば反撃やカウンターも同時に行える。


 まさにアンシュラオンがガンプドルフ相手にやったことと同じ。相手に攻めさせることで隙を生み出し、コツコツとカウンターで手傷を追わせる防御型の構えだ。


 そして、この訓練内容から『対人戦闘』も見越していることがわかる。



(魔獣も厄介ではあるが、一番の敵は同じ人間だ。現にモヒカンに拉致されて商品にされているしな。知らない街に行く機会も出てきたし、子供二人だと侮られることもあるはずだ。今のうちから人を殺す感覚も教えておきたいな)



 そうして三時間ほど、みっちりと練習。


 今回も賦気で強化して、倒れたら命気で回復を繰り返す。そのたびにサナの動きは良くなっていった。


 ダガーを振る速度も上がってきたし、少し強めに打った剣も弾けるようになってきた。



「すごい! サナちゃんは天才だな!」



 頭をナデナデして褒めることも忘れない。



(オレは褒めて伸ばす! 女の子は褒めれば褒めるほど可愛くなるからな!)



 その言葉通り、サナがますます可愛く感じるようになった。戦いを教えて正解だったようだ。


 実はこの時、アンシュラオン自身はまったく理解していなかったが、サナは【戦闘の超英才教育】を受けていたのだ。


 覇王の弟子であり、戦闘のプロフェッショナルに直接教わるなど、何十億円払っても普通は不可能だ。それを無償で愛を込めて、彼女のためだけに教え続ける。


 これがいかなる結果を生み出すのかは、そのうち嫌でもわかるだろう。



「次は実戦だ! 魔獣なら、そこらにいくらでもいるからな!」



 今やっているのは対人訓練だが、ここは荒野だ。


 当然ながら魔獣が山ほどいる。そのためにわざわざ人が通らない荒地を進んでいるのだ。




 夜になり、野営の準備をしていると暗闇に反射する目が浮かび上がった。


 一歩一歩間合いを詰めて向かってくるのは、体長四メートルはある巨大なカマキリ型の魔獣。



―――――――――――――――――――――――

名前 :デスガーマリン 〈切断蟷螂〉


レベル:40/50

HP :680/680

BP :150/150


統率:F   体力: D

知力:E   精神: E

魔力:D   攻撃: B

魅力:F   防御: D

工作:D   命中: C

隠密:F   回避: E


☆総合: 第四級 根絶級魔獣


異名:荒野の切断蟷螂

種族:魔獣

属性:闇

異能:鎌連撃、共食い強化、首撥ね

―――――――――――――――――――――――



(攻撃が『B』か。HPとBPが低い以外は悪くないステータスだ)



 攻撃力Bは根絶級では高いほうだ。さすが交通ルートを離れているだけあって強い魔獣が出てきたものだ。


 デスガーマリンは、両手の鎌を広げながら近づいてくる。



「たしかカマキリは食えるものは何でも食ったな。人間も捕食対象か。だが、向かってきてくれるのならばありがたい。せっかくだ、刀の試し切りでもするか」



 アンシュラオンはポケット倉庫から赤い鞘の刀を取り出す。備美刀びびとう卍蛍まんじぼたる、二千万円の逸品だ。


 刀を抜き、相手の間合いにずかずかと入り込む。


 武器を持っていてもアンシュラオンは半身にならない。右手でぶらんと刀を垂れ下げながら、悠々と前に向かう。


 デスガーマリンは身体をゆらゆらと揺らし、狙いを定めて鎌を振るった。


 身体全体を伸ばして掴みかかる鎌の射程距離は五メートル以上にもなり、うっかり間合いを見誤ると一撃で首をもっていかれる凶悪な魔獣だ。


 だが、アンシュラオンは軽々と刀で弾く。



「おさらいだ。相手の情報がわからない初手の一撃の場合、必ず背後にスペースを取って回避できる状況を作っておくこと。予想以上の攻撃範囲と威力を想定しておくことも大事だよ。最低でも相手の身長の二倍の間合いを想定するんだ」



 デスガーマリンの場合は四メートルなので、最低八メートルは想定するべきだ。


 それ以上離れれば飛び道具を除いて、だいたいの攻撃は威力を完全に発揮できなくなる。あとは防御の態勢を整えておけばいい。


 デスガーマリンは何度も攻撃を仕掛けてくるが、すべて叩き落とす。



「サナ、行動予測のガイドラインをお前にも表示させる。魔獣の動きに慣れるんだ」


「…こくり」



 デリッジホッパー戦と同じように、命気を使ってサナの目に光の軌跡を表示。


 アンシュラオンが見る世界は相変わらず美しく、それでいてゾクゾクする高揚感に満ちていた。


 なにせデスガーマリンの攻撃速度は―――弾丸以上


 それが人間の関節からは想像できない角度から、次々と飛んでくるのだ。


 しかも相手は魔獣。慈悲や手加減をするような情緒は持ち合わせない。


 ただただ殺すためだけに攻撃してくる存在を見たら、一般人ならば即座に恐怖に支配されてしまうだろう。


 そんな緊張感の中でアンシュラオンの刀は、機械以上の精密さで光の軌跡を叩き落とす。


 命のやり取りになればなるほど武人の神経は研ぎ澄まされていく。



「やっぱり良い刀だ。乱暴に扱っても曲がらないし傷つかない」



 アンシュラオンの腕力で振るっても、それ以上の弾力で大気を切り裂く。


 包丁よりも長くて安定感があり、その重みも圧力も段違い。


 こちらは防御しているだけなのに、逆に攻撃を仕掛けた魔獣の鎌がボロボロになっている。刀の素材も打った職人の腕も間違いなく一流だ。


 これこそ日本刀。


 相手を切り裂くためだけに存在する『武器』だ。



「切れ味はどうかな?」



 剣気を乗せると刀身がさらに赤く輝く。十分に剣気が乗っている証拠だ。


 そのまま刀を一閃。


 炎の刃紋から燃え盛る粒子を発し、煌く赤い斬撃が闇を切り裂く。


 刃はデスガーマリンの鎌に食い込み―――切断


 ぼとっと地面に落ちた。


 が、落ちたのは鎌だけではない。その頭までも地面に落ちている。


 頭部を失った身体だけがびくびくと痙攣。



「あちゃー、軽く振ったつもりだったけど強すぎたか? これなら剣気はいらないっぽいけど、刀身が傷ついたら嫌だからなぁ。最低でも戦気で保護はしておきたいよな。まあいいや、お前はもう必要ない。死ね」



 剣硬気で刃を伸ばし、胴体もズバッと真っ二つ。


 デスガーマリンが息絶える。



「剣気の乗りもいい。見事だよ。それにしても虫型魔獣か。火怨山にはあんまりいなかったんだよな。さすがに解剖するのはキモいけど、実験台には悪くない。ほかにもいないかな?」



 周囲に波動円を展開して探索。


 この魔獣は単体で動く傾向にあるが、カマキリを見つけると意外と近くにもいるように、他に三匹見つけることができた。


 とはいえ、このまま普通に倒しても意味はない。



「サナも戦いたいよな? 見てるだけはつまらないだろう?」


「…こくり」


「じゃあ、いろいろな武器を試そうか。オレが打ち合うから、まずはクロスボウで攻撃してごらん」



 発見した二匹目のデスガーマリンに対しては、アンシュラオンが相手の鎌を刀で弾き、その隙にサナがクロスボウで攻撃を開始。


 が、矢は鎌で迎撃されて簡単に折られてしまった。



「クロスボウでは駄目か。次は銃だ。使い方は教えた通りだ。やってごらん」


「…こくり。かちゃかちゃ」



 続いてサナは衛士の銃を取り出して、発射。


 相手は回避運動をあまり取らないこともあり、光の軌跡を見ていれば、サナの腕前でもしっかりと当てることができる。


 が、こちらも着弾前に鎌で弾かれる。


 反射神経がかなり良いうえに、頑丈な硬質の鎌が魔獣の筋力で放たれれば、鉄板でも簡単に切り裂く威力になるのだ。銃弾も通じない。



(うーん、ジョイさんの言う通りか。クロスボウも銃も、このレベルの根絶級には通じないんだな。グラス・ギースの衛士の連中、魔獣が襲ってきたら大丈夫なのかな? まあ、戦気をまとわせれば通用するんだろうけど、所詮こんなものだよな)



 なぜ剣士が、剣をいまだに使っているのか。それは銃よりも強いからだ。


 弾丸を数発当てても死なない魔獣に対しても、剣ならば一撃で命を断ち切ることができる。だからこそ、ひりつくような接近戦が武人の醍醐味なのだ。



(サナに倒させたいが、このレベルだと迂闊に近寄るわけにはいかない。今の能力で近接戦闘は無理だ。即死攻撃もあるしな)



 デスガーマリンの鎌は『首撥ね』スキルによって、首に当たると【即死判定】が生まれる。以前説明した即死攻撃である。


 それを防ぐためにサナには『身代わり人形』を渡しているのだが、連続攻撃を受けたら死ぬ可能性も十分にある。


 賦気を施しているとはいえ、一般人より少し強い程度のサナが、銃弾ですら弾く相手に斬りかかるのは自殺行為だ。



(残った手段は術具だ。デリッジホッパーでは試せなかったことをするか)



「サナ、『水刃砲すいじんほう』の術符で攻撃してみようか」


「…こくり」



 サナには術式の種類と効果については説明してある。


 ごそごそとポケット倉庫から術符を取り出すと、発動。


 符がバラバラになると同時に眼前に水が生まれ、ウォーターカッターのように鋭い刃になってデスガーマリンに向かっていく。


 デスガーマリンは弾こうとするが、魔力で出来た水流の刃に対しては無力。


 逆に自慢の鎌を切り落とすことに成功。ぼとりと落ちる。


 ただし、水刃砲の一撃はそれで終わり。首を落とすまでには至らない。



(術の威力は魔力に比例するはずだ。サナの魔力は『F』だから、そのままのダメージしかないかな?)



 術のダメージは基本、魔力値依存である。


 サナの魔力がFで99以下、仮に高く見積もって90だとすれば、水刃砲は倍率補正が等倍なので、そのままのダメージが入る計算だ。


 単純に考えて相手が何の防衛策もない場合、680から90が減り、残りHPは590ということになる。


 ただ、これもダメージを与えた部位によって防御力や耐久値が異なるので、そのままの結果が反映されるとは限らない。


 アンシュラオンの『情報公開』では全体のHPしかわからず、部位ごとの数値は見えないのだ。さすがにそこまで便利ではない。


 しかし、非力なサナでもダメージを与えられることは、術符がいかに優れているかを証明している。一枚十万円だとしても命の値段だと思えば安いだろう。


 続いて『風鎌牙ふうれんが』の術式を使わせる。


 こちらは複数のカマイタチを生み出す術式で、水刃砲より若干広範囲に素早い攻撃を繰り出すことが可能なものだ。


 風鎌牙も単純な鎌では防ぐことはできず、魔獣の身体にいくつもの切り傷が生まれた。傷口から体液が流れ出し、羽の一部が切り落とされる。



(一撃の威力では水刃砲のほうが上だな。風鎌牙は威力は落ちるが、相手の動きを抑えることにも使えるのは好印象だ。ふむ、ちょっとオレもやってみようかな)



 試しにアンシュラオンが水刃砲を使ったら、サナの数倍以上はある凄まじい勢いの水流が生まれ、デスガーマリンを簡単に真っ二つにしてしまった。


 しかも威力が強すぎて、断面部分から幅三十センチが完全に吹き飛んでいる。切り裂くというより『当たった部分を消し飛ばした』といったほうが正確な表現だろう。


 さすが魔力『S』。根本的な威力が異なる。




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