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『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』(新版)  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
「英才教育」編
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104話 「兄妹記念で業物の刀を買おう!」


「で、その熱で作った武具は普通とは違うってこと?」


「そのようですね。私はそこまで強い熱を出せないので、実際に打つわけじゃないですが、私たちの種族の鍛冶師が作ったものは質が良くなるみたいです」


「ディムレガンの人は、ほかにもいるの?」


「アズ・アクスの創始者自体がディムレガンですし、所属している上級鍛冶師もみんなディムレガンです。人間の鍛冶師もいますけれど、銘有りはだいたい彼らだと思います」



 ディムレガンはかなり昔から存在しており、噂によれば前文明の聖剣を作っていたともいわれる鍛冶種族である。


 しかし、さまざまな戦いや災厄が起こり、いつしか彼らの力も弱体化していった。今では人間と比べれば比較的腕の良い職人、といった程度でしかないという。



「V・Fって人もディムレガンなのかな? アズ・アクスに所属していないディムレガンもいるんでしょ?」


「いるにはいると思いますが、このあたりで個人でやっているディムレガンの鍛冶師は聞いたことがありませんね。もう一つの可能性としては、アズ・アクス製として出されているのならば、もしかしたら『名前を変えている』のかもしれません」


「偽名か。その可能性もありそうだね。でも、そんなことしていいの?」


「特に禁止されておりませんので、分野ごとに違う名前を使う人もいます。アルバイトしたり、頼まれて渋々やったり、あまり自分の本名を出したくないときです」



(それってあれだな。アダルト出演では名前を変えるってやつだよな。包丁作りは嫌だけど金になるなら、みたいなことなのかな? その気持ちはわかるけどね)



 仕事上、嫌々やることは珍しくはない。


 職人とて生きているのだ。金は必要だろう。



「これ以上、仮定の話をしてもしょうがないね。とりあえずアズ・アクスに素材を持ち込めば、新しく武具を打ってくれるんだよね?」


「素材にもよりますが、そういう依頼も可能です。どのようなものを想定されていますか?」


「結晶化した魔獣の心臓を加工して武具にしてもらおうと考えているけど、大丈夫そう?」


「それならば、むしろ私たちの領分です。逆に地層資源には弱いんです」


「どういうこと?」


「役割分担でしょうか。ディムレガンは『魔獣鉱物』の加工が上手くて、人間は『地層鉱物』の扱いに長けているんですよ」


「ということは、人間の鍛冶師は魔獣鉱物が苦手?」


「その傾向にあるようですね。カッティングくらいならば大丈夫らしいのですが、魔獣鉱物はその魔獣の特性が強く出ますし、個性を維持したまま武具にする際には、さまざまな薬品や術具を使った特別な工程が必要となります。一方の私たちは、独自の熱によってそれらを上手く調整できるのです」


「それは素晴らしい。まさに求めていた人材だ!」



(それならなおのこと、アズ・アクスに行く必要性が出てきたな。うん、いい感じだ。やることは見えてきたぞ)



「ところでお尻はどうなっているの? ぺろん」


「きゃっ」


「んー、根元はどこだ? 尾てい骨あたりかな?」


「ううう、お、お客さん…そこは触っちゃ駄目です!」


「ごめんごめん。気になってさ。てへぺろ」



 今時てへぺろで許されることは少ない。


 反省してもらいたいものである。



「お姉さんの話を聞く限り、アズ・アクスには腕の良いディムレガンの職人がいるんだよね?」


「それは間違いありません。自信を持っています!」


「でも、それだとこの状況の説明がつかないよね。質が悪いとまでは言わないけど、特筆すべきものがない武器ばかりだ」


「はい…申し訳ございません」


「お姉さんのせいじゃないよ。気にしないで。ただ、ハピ・クジュネの本工房のほうで何かあったのかもしれないね。そのあたりは何か知ってる?」


「私も納品される武器の質は気になっていました。こんなふうになったのは、ここ一年半くらいの話なのですが、特に本店から指示もなかったので気にしないふりをしていたのかもしれません。ただ、この店はあくまで販売店の一つですし、さほど権限があるわけでもありません。直接問い合わせは…ちょっと」


「まあ、支店だと本店のやり方に口を出せないよね」



 お姉さんも内心では気が付いていたのだろう。アンシュラオンの包丁の質がすぐにわかったことが、その証拠だ。


 が、どの世界でも本社の言い分には逆らえないものだ。「これを売れ」と言ってきたら従うしかない。



「せっかく来たんだし、ほかのも見せてもらうね」


「はい、ごゆっくりどうぞー」



 引き続きアンシュラオンは店内を物色。


 なぜか包丁やらナタやら生活に使うようなものが多かったが、やはり武器屋なので実戦で使う武器も置いてある。



「サナ、何か欲しいものはあるか? 自分で選ぶのも楽しいから好きなのを見てごらん」


「…こくり。…じー」



 サナがじっと店内を見つめる。


 一つ一つ見て回っていき、徐々に【刀】があるほうに向かっていく。



「刀に興味があるのか?」


「…こくり。さわさわ」


「そうか。サナもか。なんか嬉しいなぁ」



 そこには日本刀に酷似した武器が並んでいる。というか確実に日本刀である。


 ただ、鞘の色合いは赤や青、黄など非常にカラフルなので、江戸時代以降の鑑賞用となった刀を彷彿とさせる。


 その中で一本、目を惹かれるものがあった。


 その刀は盗難防止用のケースに入っており、他の武器とは扱いが違った。



「赤い鞘の刀か。格好いいな。やっぱり日本刀は美しい」


「それはサムライソードと呼ばれています。昔からあるものですが、今ではダマスカスが最大の刀の聖地といわれていますね」


「ダマスカスって経済国家じゃなかったの? 銀行とかが有名だよね」


「それと同時に剣術が栄えた地でもあり、多くの優れた刀匠を生み出した国でもあるのです。かの初代剣聖、『紅虎丸』様がご降臨なされた場所ですから」


「剣聖か。話には聞いたことあるよ。響きがいいよね」



 どこかこう、少年ハートをくすぐってくる名前だ。


 剣聖とは、剣の腕前だけではなく、剣を正しく使った者にだけ与えられる名誉ある称号だ。


 当初『剣王評議会ソードマスターズ』では、世界三大権威の一人である【剣王】だけを選出していたが、紅虎丸の指導によって【剣聖】の称号も付与するようになった経緯がある。


 初代剣聖が出現した当時のダマスカス共和国では、紅虎丸を満足させるために世界中から鍛冶師が集まり、切磋琢磨して優れた剣を作っていたそうだ。それによって刀の聖地として崇められることになったという。


 冷静に考えれば自分も覇王の弟子なので、対外的な評価では剣聖と同格以上のはずなのだが、どうも陽禅公のイメージが強すぎて憧れがまったく湧いてこない。



「この刀もアズ・アクス製だよね?」


「もちろんです! 斧から始まった当工房ですが、刀に関しても本場に引けはとりませんよ」


「ちょっと見せてもらってもいい?」


「はい、どうぞ。抜いてもらってもかまいません」



 お姉さんにケースから刀を取り出してもらった。


 赤い鞘を抜くと真っ白な刀身が出てくる。赤と白、まさに自分の髪と目の色だ。



(綺麗な色だ。吸い込まれる。そしてこれは―――)



「【業物】だね」



 手に取った瞬間にもわかったが、包丁を含めて今まで見たどの武器よりも優れていた。


 刀身の造りが大胆かつ緻密で、炎のような『刃紋はもん』が鍛冶師の気迫を感じさせる。剣気の乗りも極めて良く、力が芯を通して伝わるのがわかる。


 間違いなく逸品であり名刀である。



「こいつは凄い。初めて本物の武器に出会ったよ。お姉さんも人が悪いなぁ。こんないいものがあるなら最初から教えてよ。今までのが演出だったのかと疑うレベルだね」


「さすが、おわかりになりますか! これは刀匠、【火乃呼かのこ】先輩が打ったものなのです!」


「火乃呼? 有名な人?」


「アズ・アクスの上級鍛冶師の一人で、鍛冶長の娘さんのお一人です。私の憧れの先輩なんですよ!」


「その言い方だと、ディムレガンの人なのかな?」


「はい、とても情熱的に打つ人なのです。十年くらい前ですけど、その刀を作った時もすごい燃えていましたね」


「たしかに技術も気迫も申し分ない。まさに匠の技だ。でも、もう十年も前なのにまだ売れ残っていたんだね。こんな業物ならすぐに売り切れるはずだけど…」


「ご存知かもしれませんが、武具を扱うにも最低限の力量が必要になります。火乃呼先輩が打つ武器は特に使い手を選びますので…哀しいことになかなか売れないのです」


「ああ、そうなんだ。普段は武器を使わないから知らなかったよ。でもまあ、そりゃそうだよね。使いこなせない武器に意味はないし、素人が買っても鑑賞用になっちゃうよね」


「その通りなのです。良い武器だけ買って満足しても、それで当人が強くなるわけではないですからね。ですから、こうやって別ケースに入れて、ちゃんと使える人だけに見せているのです。あの…使えそうですか?」


「うん、大丈夫そうだよ」



 その場で軽く振ってみると、表面にまとった剣気が美しく煌き、光の残滓を宙に残す。


 まるで自分のために打たれたかのように、手にしっくり馴染んだ。



「刀が喜んでいますね! すごいです!」


「わかるの?」


「私たちは幼い頃から鍛冶に携わっておりますからね。それくらいならばわかるのです」


「これはいくら?」


「『備美刀びびとう卍蛍まんじぼたる』は、二千万円ですね」


「二千万か…やっぱり業物は値が張るね」



 地球ならば一億は超える値段であろう刀だが、これは鑑賞用ではなく実戦で使うもの。命を預けるものだ。


 そう考えれば高いとは思わない。



(デアンカ・ギースを倒した時の金がまだけっこうある。普通に買えるが、どうしようかな。オレは戦士だから、そんなに刀は使わないんだけど…)



「…じー」



 サナが、違う場所にあるケースを見ていた。


 その中には真っ黒な鞘の刀が飾られている。



「サナ、気になるのか?」


「…こくり」


「ねぇ、あの刀は何?」


「そちらは『劫魔刀ごうまとう黒千代くろちよ』、刀匠『炬乃未このみ』作です」


「ん? 火乃呼って人と名前の雰囲気が似ているね」


「火乃呼先輩の妹さんですね。彼女も上級鍛冶師です」


「姉妹で鍛冶師か。ディムレガンでなくても珍しいね」


「アズ・アクスの創業者も姉妹だったのです。伝統的にアズ・アクスには姉妹の鍛冶師が生まれやすいようです」


「それはすごい。血統遺伝かな? で、黒いほうはいくら?」


「そちらは千五百万となっております」


「そっちのほうが安いんだね」


「火乃呼先輩のほうが先に始めましたから、実績の問題ですね。双方共に業物であることは保証いたします!」


「二つで三千五百万か。買える額ではあるけど、サナは使えない…よね? そっちも見せてもらっていい?」


「はい!」



 黒千代もケースから出してもらって、サナに持たせてみる。



「サナ、抜いてごらん」


「…ぐぐっ」


「うん、そうなるよね」



 一応抜くことはできたが、当然ながらサナには長すぎるし、まだ重すぎて持つのがやっとだ。日本刀は意外と重いのである。


 しかし、なかなか刀から手を離さない。


 黒千代の刀身は黒く、吸い込まれるような美しさがある。黒髪のサナとはまさにお似合いだ。



(よほど気に入ったんだな。そういえば、あの時に見た映像でもサナは刀を持っていたな。これとは違うみたいだけど…やっぱりサナは剣士なのかな? よし、決めた。記念に買うか! まだ完全には使えなくても今のうちから慣らしておけばいいんだ。剣士なら武器は絶対に必要だしね)



「妹が気に入ったみたいだし、二本とももらうよ。それと最初の小さめの剣と、この脇差も一本もらえるかな」


「ありがとうございます! 火乃呼先輩と炬乃未さんの刀が売れるなんて、とても嬉しいです!」


「いい刀なのにね。もっと売れてもいいと思うよ」


「そうなんですよね。ただ、最近はやはり一般向けの剣のほうが売れる傾向にあります。それだけ武人の質が下がったのかもしれません。いいのか悪いのか、売り上げ自体はあまり変わっていないんですよ」


「うーむ、なかなか難しい話だね」



 強い武器は生産数も少ないので値段も高く、使い手を選ぶこともあってあまり売れない。


 一方の弱くても品質が安定している武器は、誰が使っても手頃で頑丈なため、普通の傭兵や一般人の護身用には大人気のようだ。


 売り上げが変わらないので、支店としても文句が言いにくいのである。



「あっ、手持ちの現金があまりなかったんだ。ハローワークで下ろしてこないと」


「うちはカード払いも可能ですよ」


「カードなんてあるの?」


「ダマスカス銀行の口座に一定額以上あれば、ハローワークで申請できるはずです。うちはハローワークと提携しているので、もし何か身分証をお持ちであれば、こちらでやっておきますが?」


「ハンター証かグラス・ギースの市民証しかないけど…」


「ハンター証で大丈夫ですよ。では、お借りいたします」



 お姉さんは、店にあった機器を使ってハンター証を読み込む。



「こちらに手を置いていただいてもよろしいでしょうか? 生体磁気が認証になっております」


「これでいい?」


「ありがとうございます。決済は一括で行いますか?」


「それでお願いするよ」



 こうして三千五百万の買い物が一瞬で終わる。


 地球と同じくカードでの買い物は金銭感覚が狂うので怖い。



(ハローワークと提携までできるなんて、アズ・アクスは大きな企業なんだな。良い武器も作っているから当然かもしれないけど…だったらどうしてこんなに質が落ちているんだろう? オレが依頼する時は上手くいけばいいけど…)



 こうして赤と黒の刀をゲット。


 兄妹として記念の品が手に入ったので満足であった。




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