召喚される側の物語
異世界へ召喚される側の物語。
うん。まずは状況を確認しよう。さっきまでベッドで寝てたよな。いつもと変わりなく同好会に参加して0時頃に確かに寝たよな。それが何故にパジャマで外を歩いてるんだ。しかも彫りが深い顔の人たちと全身鎧の人たちに囲まれてる。少なくとも地元じゃない。コスプレでドッキリ? いや、俺にこんな事をする意味が分からない。どこにでもいる高校生だぞ。と言う事はさっきのは夢ではなくお告げだったのか。
「人の子よ。すまないが、異世界へ召喚される事になった。ついては何か質問はあるか? できるだけ応えよう」
「……これは夢ですよね。まだ寝足りないので」
「ちょ、ちょっと待つがよい」
訳の分からない事を突然言われて、はいそうですかとはならない。しかも夢の中だから無視でいいだろ。だって、足元には地球が見えるんだぞ。それで会話ができて宇宙服を着てないんだぞ。あり得ないだろ。宇宙飛行士になりたいって思った事もないんだけどな。何かの暗示か欲求不満なのかな。まあ、気にしないけど。
「これ。夢の中ではあるが、これから起こる事は夢ではないので説明を聞くように」
「……はあ。夢の中なのに俺の意思が反映されないなんて。きっと悪夢だ。話半分で良いなら説明して下さい」
「だから夢ではないと言っているだろうが。手っ取り早く説明すると、ラベノは好きだろ? それも異世界転生もの。要はあれだ」
「説明するの諦めたな」
「話半分と言ったのは誰だ? 真面目に説明するのは馬鹿らしいだろうが」
なんだろう。最初の慌てた様子から一転してからかいが伝わってくる。
「ちゃんと聞くので最初から説明して下さい。あと、落ち着かないので会って話しませんか?」
「ナンパみたいだが良いだろ」
すると、目の前の宇宙空間が一瞬強く発光して静まると中性的な顔立ちのイケメンがいた。服装は何故か高校の制服と同じだ。
「つまりは拒否権なしの異世界転移って事ですね」
「物凄く簡単に言うとな」
半信半疑だったけど、話を聞いているうちに徐々に頭が冴えてきた。夢と断定する材料も夢ではない材料もない。だから消極的だけど信じる方向で聞いていた。大体は理解できたけど、疑問は潰さないと。
「拒否権がないんですよね? どうして俺なんですか? もっと適任者はいると思いますが」
「拒否権はない。だが、不自由しない能力は授ける。特別選んだつもりはないが、条件に当てはまったから選んだ」
「どうして俺なんですか?」
「これは異な事を言う。宝くじだろうが交通事故だろうが、確率は低いが誰かは当たるだろ。それが其方になっただけの事だ。特別な事ではない」
「……そんなぁ」
「まあ、悪い事ばかりではないぞ。向こうは当然期待はするが、条件付け出来ないから博打の様に捉えている。しかも、召喚時に呪いなどを掛けて強制させるなどは出来ない様になっている。ただ、これも裏道はあるがな。後は、生き残ったら王族になる事がほぼ確定しているぞ」
「……じゃあ、向こうで無難に長生き出来る様な情報を下さいよ」
「分かった」
納得はしたくないけど、一旦はする事にした。前向きに考えないと向こうで詰むからな。まず、転生ものの定番の魔法はない。召喚は魔法ではなく、神への儀式の一環という扱い。鉄製品はあるけど、工業化には至っていない感じで、例えるなら戦国時代の様だ。
肝心の召喚される国は隣国の人種族至上主義に攻められていて危機だから召喚すると。相手国は今の処は隣国だけど、状況次第では分からない感じだ。という事は戦争に駆り出されるのか。戦術、戦略も分からないし何より格闘技もやった事ないのに。まして人殺しなんて……。それもそうだけど、何の思いれもないのに、命を張れるかよ。今までの人達はどうしてたんだ? とてもじゃないけど気持ちの折り合いは付けられないぞ。
「根本的な事を聞きたいんですが。召喚する国を救いたいんですか? あと、召喚する国は他にありますか?」
「ふむ。召喚方法は伝承が残っているだけで特段救いたいとは思ってはおらん。あと、召喚可能なのは複数あったが、現在も可能なのは今回の国のみだな」
「つまりは滅んでも良いんですか? 召喚方法が残っているって事は大切に伝承してきた事でもあると思うのですが」
「寂しくはあるが、国の興亡はいつでも起こりうる事だ。一か国に固執し、世界が滅んでは本末転倒だ。それに、気が向いたらまた伝授しても良いしな。とは言うが、進んで滅ぶのも考え物だがな。ま、其方に関しては何をしようが文句は言わんよ」
「……そうですか」
ふむ。興亡に興味はなく、世界が滅びないようにしたいと。でも、俺がやる事には文句は言わないと。とは言うけど、滅ぼしたいかと言うとノーだ。召喚なんて荒唐無稽な事をやられ、家族や友人とも今生の別れになる。しかも別れの挨拶もなしにだ。
「ところで、地球での私の扱いはどうなるのですか?」
「戻ってこれない為、皆の記憶と記録から抹消する事になる。但し、其方の記憶はそのままだ」
「なるほど。自分は覚えていて相手は忘れていると」
「それは少し違うな。忘れていると抹消は違う。忘れているとは思いだす可能性があるが、抹消は存在自体がないから初めましてからになる」
「それでは俺の記憶は抹消しないのですか?」
「それをすると其方という存在が希薄になりとても危うい状態になる」
「……希薄になる?」
「それはそうだろう」
説明を受ければなるほどと納得はできる。家族、友人がいなければ俺という存在は形作っていない。その関わりがなければどうやって成長したのかって問題もあるしな。
「それに伴って私物も抹消される」
「それは有難いですね。神様に処分を頼むのは気が引けますから」
「それと授ける能力について話そうか」
「お願いします」
要約するとこうだ。
・言語理解
・肉体強化
・真偽真贋鑑定眼
・老化速度低下
言語はそのままだ。肉体に関しては無双出来るが無敵ではない。呪いや毒には耐性が付くみたいだ。転生ラノベにある様な音声認識の魔法やスキルはない。因みに頭脳強化はなし。向こうに行ったら突然知識無双するのは無理。こちらで得た知識以上の事は当然出来ない。なので、向こうも分かっているので頭脳労働よりも肉体労働を求めている。
この二つに関しては召喚者には知られている情報で、これまでの召喚者も話している事らしい。
これに付け加えて秘匿能力として真偽真贋鑑定眼がある。知人もいない知らない世界なので、騙されずに生きていく為だ。嘘偽りだと対象に黒い靄がかかるとの事だ。これは使い方次第で、裏付けがないのに糾弾しても躱されるだけだろう。更に付け加えて老化速度低下だ。これは召喚に際して偽りの儀式を行ったのが一人いるらしい。なので、これは今回特別らしい。
これとは別に容姿は多少修正可能との事だ。別にコンプレックスはないけど、修正できるならするか。
「以上の能力だ。細かく使用方法を説明する必要はないな」
「ありがとうございます。偽りの儀式とは何か聞いても?」
「よかろう」
儀式には代々の召喚者の血族しか行えない。必要な物は血族の証である血だけ。血族なら誰でも良い訳ではなく、ある程度の濃さが必要との事だ。一人が自分ではなく、遠縁の血を用意し然も自分の血であるかの様に装っているとの事だ。確かに手順を偽っているのは心象は良くないな。でも。
「その言い方だと何か代償があるのですか?」
「もちろんある。何も代償なしに得られる物はない。しかも本来は自分達で解決すべき問題だ。それを関係ない異世界から召喚して解決させるのだ。代償がないのはそれこそ問題だ。因みに代償とは一年後に必ず死ぬ事だ」
「必ずですか。それは死因とかは決まってるですか?」
「ふむ。その辺りも説明するか」
その説明によると
・一年後には必ず死ぬ
・死因は様々
即死ではなく期限があるのは、召喚主から説明をさせる為と解決させる問題がどうなるのか見届けさせる意味があるとの事だ。殺したい気持ちはあるだろうけど、死ぬ事が確定しているから抑えてくれって事でもあるらしい。とは言っても殺すなとは言っていない。死因は様々で衰弱していき一年後に死ぬ事や暗殺や事故死など突然死の場合もある。
この代償は回避する方法が唯一つ存在している。それは召喚者による赦しのみ。方法は召喚とほぼ同じ手順らしい。これまで赦した例は唯の一回もないとの事だ。
「まあ、事前に教える事は以上だな。他に知りたい事はあるか?」
粗方説明が終わるとそう切り出した。説明を受けている間はずっとふわふわと浮いている状態で落ち着かなかったけど、段々と落ち着いてきたな。説明を聞く限り、本当の事を言ってるみたいだし。ま、それを確かめる方法が今はないんだけどね。
「では、裏切り者って誰なんですか?」
「正しくは裏切りではなく、偽りの儀式を行った者だ。それは言わないでおこう。その鑑定眼があれば判別できようからな。それをもって私の言が真だったと証明できるだろう」
「わかりました。では、いつまでここにいるんですか? いつまでも浮いてるのは落ち着かなくて。と言うよりも、いつ召喚されるのですか?」
「ここは夢の中と言っただろう。時間の流れは通常通りではあるが、知覚できる時間を延ばしている。であるから、然程時間は経っておらん」
「なるほど。理屈は分かりませんが分かりました。それで、何か持ち込めるんですか?」
「無理だな。其方は就寝中だ。意図的に持ち込む事はできないが、身に着けている物は持ち込める」
「はあ」
と言うことは、パジャマ姿で召喚されるのか。恥ずかしいけど、どうにもできないんだから仕方ないな。寝てるんだから後は何もないな。知識無双しようにも本とかスマホがないと難しいだろうな。
「心の整理が付いたならば、そろそろ召喚に移りたいのだが良いか」
「はい、お願いします」
そう了承と共に頷くと目の前のイケメンは小さく頷いた。一見すると無表情にも見えるけど、どことなく申し訳なさそうにしている。様に見える。ワクワクしないと言えば嘘になるけど、ガツンとしないとな。最初が肝心だな。
イケメンが右手を翳すと急に眠気が襲ってきた。夢の中なのに不思議ではあるけど。前に倒れこみそうになったら、柔らかく受け止められた感じがした。その感触に委ねながら、夢の中で寝るという貴重な体験をした。
「ああ。言っていなかったが。向こうの世界に関係はしているが、管理神ではないのでな。……聞こえていないか」
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