召喚側の物語
国の存亡の危機に異世界(日本)から召喚する側の物語。
切羽詰まって召喚しましたというお話。
★短編で投稿していたのですが、連載に切り替えの為に再投稿となります。
「ついに時は来たな。何度も聞くがお前たちは本当に良いのか?」
「何度でも答えますが、これが最善だと思いますので」
「……そうか。ありがとう」
他の者も頷いている。悲観的になりそうだが悲壮感が漂っている。いや、違うな。そう思わないとやるせないのだろ。
この国は滅びかけている。この世界には人種族だけでなく、主に森に住むエルフや鍛冶が得意なドワーフや魔族と共存している。厳密には魔族は存在せず、かつて人種族と敵対していた種族を纏めて魔族と呼んでいるだけだ。
しかし、この国が存亡へと向かっている原因は魔族ではなく、人種族至上主義の隣国だ。我が国は人種族だけでなく、様々な種族と共存共栄している。それが隣国には我慢できなかったのだろ。再三、国の方針を変える様に要請という名の脅迫が届いた。その都度、内政に干渉するなと突っぱねていた。我が国の立場としては敵対していたとは言え、凡そ500年前の事であるから現在は友好国の一つになっている。
人種族至上主義とはいっても、先代王はそうではなかった。せいぜが人種族優先止まりで、外交よりも内政重視だった。その外交も決して高圧的ではなく、どちらかと言うと下手だった。感情が顔に出易く、腹の探り合いが苦手だった。こちらの要求通りになった事は数知れず。国内からは弱腰と嘲られていたが、内需拡大に努め国民からの支持は厚かった。
内需で国力増強し、国力で我が国を上回った辺りから雲行きが怪しくなった。先代王の方針は変わらなかったが、現王〈先代王弟〉がクーデターを起こして成功させてしまった。なまじ国力が上回ったから領土的野心と排他的思考で、不満を抱いていた貴族を扇動した結果だ。
「召喚者殿は協力して下さるでしょうか」
「何とも難しいな。召喚者の条件付けは不可能だからな。運に頼る事しかできないのは為政者としては失格だな。まあ、歴代の召喚者は協力的だったからな」
「最善とは言え、運頼みしかないとは何とも歯がゆいですね。それもこれも隣国がクーデターなどを起こさなければ」
「言っても仕方のない事だ。遅かれ早かれいづれ起こっただろうさ。予見できていたにも関わらず、対応が後手になってしまったからな」
「そうですな。まだ先だと甘く見ていて、危機感を共有できなかったのも原因ですな」
「まったくだ」
「もし協力的でなかった場合は事前に話し合った内容で本当に良いのですか?」
「……できれば避けたいが仕方なかろう。全国民を救えるのだとしたら安いものだ」
「……ですな」
重い空気が流れる。皆、分かってはいるのだ。自分勝手に呼び出しておいて、意に沿わないなら幽閉するのだ。殺さないのは自分達への罪の意識からできないのだ。
ふう。日頃運動していないのがここにきて祟るとは。まあ、この心地の良い疲労感も周りの景色も最後だな。山頂に祭壇があるのは最後に美しい景色でも見ろとの事だろうか。何もこんな日に雲一つない快晴にならなくても良いだろうに。いや、こんな日だからこそだな。この景色を見て思い留まる様にしているのか、思い残す事がない様にしているのかどちらなのだろうな。案外、どちらでもないのかも知れぬな。
「ふう。ようやっと着いたな。日頃、王城にばかりいるから鈍ってしまったな」
「そう思うなら今後は運動する様にして下さい。緊急時なのですから、避難時に追撃されたら後世になんと申し開きすれば良いのですか、父上」
「そうだな。今後があれば従うかな」
「……父上。本当にこれしかないのですか?」
「先ほども言った通りだ。運に頼るしかないがこれが最善だ。ここまで来たのに何もしませんでしたでは、今もなお戦場にいる兵士達に申し訳がない。散々話し合っての今なのだぞ」
「……それはそうですが」
「それに代償は命だが直ぐに死ぬわけではない。召喚者殿次第だが、赦される可能性もあるのだ。極小だとは思うがな」
召喚するには、過去召喚者の血縁者が必要だ。それも遠縁ではなく、当主クラスの濃さが求められる。命惜しさに奴隷などでは代用は利かないのだ。過去試した事が記されていたが、特別罰はないそうだ。代償は命で、召喚してからちょうど一年後に死ぬ事になっている。死因は様々で暗殺や事故死などの突然死や時間をかけての衰弱死などがある。もちろん選べるわけもなく、死因は一年後にならないと分からないのだ。
その死については召喚者からの赦免で回避ができる。これについては半々だ。赦された過去もあればその逆もまたあったのだ。それはそうだろ。勝手に呼び出して自分達の為に尽くせと強要するのだから。赦された過去が異常であり、通常は許すはずがない。
「その事については楽観はできないが、赦されなかったとしても頼もしい後進が育っているのだ。ワシ等がいなくなっても大丈夫だろ」
「そうですな。隣国との対応は後手に回りましたが後進は育てていましたからな」
「ですな。とは言っても戦いを終結させなければ意味は薄いですがね」
「そう言うな。折角、悪い事を考えない様にしていたのに」
「全くだ。お前は昔からそうだな。ひとつに向かおうとしているのに、踏みとどまる様な事を言って士気を削ぐ」
「あのなあ、俺は事実を言ったまでだ。そうなったら良いとは思うが、その未来には越えなくてはならない障害があるんだ。誰かが言わなくては駄目だろ。昔からその役目は俺だっただけの事だ」
確かにな。全員の意見が最初から一致した事なんてなかったのではないだろうか。最終的には一致していたが、今回の様に考えを精査する時間があった。それによって勢いだけでなく、理性的に論理的に考え行動する事ができていたと思う。なるほど、確かにこの役目は必要だったな。
「そう言うな。お前だからこそ、この役目を全うできたんだ。太っちょリンジー」
「……懐かしい渾名を持ち出すなよ。今は太ってないだろが。なあ。のっぽのルッソ」
「昔は一番だったけど、今は抜かれてるじゃないか。なあ、本屋のレイ」
「……私もですか。昔を懐かしがるのは良いですが、やる事をやってからにして頂きたいですね。……悪ガキランディ」
「久しぶりにそう呼ばれると昔を思い出すな」
全く。昔からの付き合いってのはこうも心地よいものだったか。儀式を始めれば一年後には死ぬと言うのに、何とも明るい奴らよ。
「……ち、陛下、そろそろ始めませんと」
「う、うむ。そうだな。戦場にいるロージーを待たせる訳にはいかんな」
ここへは後継者たちと近衛、文官たちが少数帯同している。不測の事態への対処、現状の説明と未来の為だ。
祭壇と言うのも可笑しいが、中央に石造りの台座があり、その周りに九つの石柱が配置されている。その石柱は胸ほどの高さで、上には手形が象られている。そこに血と共に手を翳し主召喚者が祝詞を唱えると召喚者が現れるのだ。
ただ、先にも言ったが誰が召喚されるかは賭けでしかない。年齢、性別、能力、人数、思考は選べない。しかも、召喚側の人数及び血の濃さが足りないと召喚できない。我らに益がない様にも思えるかも知れないが、何故召喚するのか。それは我らよりも能力が優れているからだ。能力は選べないが伝承によると能力、主に身体面が向上されて呼び出されるらしい。
無敵ではないが、我らが束になっても敵わないほどだ。しかも年齢、性別に関係なくだ。それだけで呼ぶ価値はあるというものだ。
「よし、準備はいいか」
手には刃物を持ち静かに頷いた。
「うっ」
血はどこからでも構わないが、気分的に掌だ。必要な量は明示されていなかったが、中央の台座まで溝が掘られている。つまりはそういう事だ。
「神代からの盟約に従い召喚に応え給え。代償として血を奉らん」
血が台座まで至ると血道と台座が徐々に明滅していき、おさまると台座には男が一人横たわっていた。寝台と共に。
「……成功と言って良いのでしょうか」
「うむ。人だけが召喚されるとは一言も残っていなかったから成功だろうな」
寝台だろうな。形は多少違うが、そうだろう。まさか物と一緒に召喚するなんて想定外だ。しかも寝ているなんて。
「どうしましょうか」
「寝ているのを起こすのもこのまま運ぶのもどちらも問題があるだろうな」
「少し待ちましょうか。我々も休憩は必要ですからな。それに少しなら戦線も動かないでしょうから」
如何ほど待っただろうか。召喚の儀を執り行った時は真上にあった太陽が今や地平に沈みかけている。どれだけ寝ているのだ。もしや召喚に成功はしたが、眠りから覚めないなんて事はないだろうか。いや、寝息もしているからただ寝ているだけなのだ。夜に召喚しただけなのだろう。うむ、そう思う事にしよう。ただ。
「父上、幾ら何でもこれ以上は待てませんので起こします」
「う、うむ」
息子も同じ気持ちだったか。ただ、同意なく呼び出しておいて、我らの都合で無理やり起こすのはな。いや、いかんな。一人に無理をさせれば、皆が助かるかもしれんのだ。
「召喚者殿、起きてください」
「……んあ。もう少し」
「そうしたいのは山々ですが、事情を説明したので起きて頂きたく」
「……今起きるからちょっと待……って?」
嫌々といった感じで召喚者殿が身体を起こしたら、目線がこちらに固定されて固まってしまった。
「どうでしょうか。ここではなく王城で説明をしたいので移動願いますか」
「……う、うん」
素足で歩かせる訳にはいかないので、履物は文官から寝台は近衛に運ばせる。衣服は寝間着のままだ。外見は細身で屈強な戦士とは呼べず、印象は文官寄りだ。だが、召喚者は誰もが身体的に優れているとの事だ。筋肉のあるなしでは判断できないだろう。それに、軍師よりだと尚良いな。
王城に着き、湯あみなど身支度を整えた後に、現状説明など召喚に至った経緯を説明した。ここを疎かにはできない。少しでも誠意を見せなければ協力などもっての外だからだ。
「こちらに選択肢はないと思うんだが」
「いや、召喚しておいてなんだが強制ではない。ただ、その場合は幽閉する事になるが」
説明を終えた後、狼狽えた表情は少しですぐに理解した様だ。送還方法がなく、協力するしかないという事に。思ったよりも冷静だ。これは良い傾向だな。
「……それを実質選択肢がない強制だって言ってるんだ!!」
「落ち着いて下さい。我らの勝手で召喚した事は幾らでも謝罪致します。ですが! ここは我らではなく民を助けると思って協力して頂けないでしょうか!?」
「……いや、無理だろ」
「ど、どうしてですか!?」
「いや、どう考えても協力する気が起きないんだが」
「どうしてですか、理由をお聞かせ下さい」
「……はあ。あのな。俺の意思は関係なく異世界に誘拐されて、国に思いれもないのに命を懸けろなんて言われて素直に、はいやりますなんて言うヤツの方が頭が可笑しいだろ。俺は真っ当な意見を言っているだけだ。これでも納得できないか?」
「……」
全くもってその通りなので、反論も何も言えなくなってしまった。冷静に考えればそうではないか。
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