K.O.S ~キング・オブ・スケルトンと呼ばれるまで~
最後の部分、多少変えました。
「おいっ! お前がこのダンジョンのボスだな? 勇者であるこの俺が叩き斬ってやるぜ! 皆、準備は良いか?」
「「「おうっ!」」」
勇者を名乗る若者パーティが現れた。
それぞれが殺気立っており、前衛に勇者と名乗った男が剣を構え、その隣に大きな盾を持った男も身構える。そしてその後方には、大きめの三角帽子をかぶった、どこからどう見ても魔法使いの女性と白を基調とした衣服を着た、まぁ恐らくはヒーラーなのだろう。
そんな4人組がスルスルっと移動をして陣形を整え、俺に向かって剣を向ける。
だがしかし、普通に考えれば俺を殺そうと身構える4人組を前にこんな事を考えるのはおかしいんだろうけど、正直言って俺は感激しているのだ。
人と話すのなんて何年ぶりだ? 相手が殺意を持っていようが構わない、もう少し話を聞かせて欲しい…
そんな事を考えていると、勇者と盾の男が俺の前に飛び込んできた。
まず先制してきたのは盾の男、その大きな盾で俺を殴ろうと襲ってくる。そして大きな盾の影から勇者が斬りかかってきた! なかなか見事な連携だが…
『遅いな… それじゃあ攻撃を当てる事などできないぞ?』
「む? コイツ喋ったぞ!?」
「いい、気にするな! 俺達は俺達の出来る事をするだけだ!」
「準備完了よ! 2人とも下がって! ファイヤーバード!!」
後ろにいた魔法使いの女性が魔法名を叫ぶと、炎で模られた鳥が俺に向かって飛んでくるのが見えた。
ふむふむ、アレは中々上位の魔法だな? まぁ俺には当たっても被害は無いと思うが、これしか無い服を燃やされたらさすがに困るな。
『ふんっ!』
魔力を使い、目の前に大きな魔法障壁を展開すると、その障壁に当たった炎の鳥は霧散していった。
「なっ!? 私の最高火力の魔法が…?」
「まだです! 死霊鎮魂歌!!」
「おお! 聖女が誇る最強の除霊魔法… さすがにこれならアイツも…?」
除霊魔法? それって俺に効くのか? とにかくアレだ、俺が守るべきは服だけだ。これを失う訳には行かない!
『もういっちょ!』
先ほどの魔法を防いだように魔法障壁を展開、聖女と呼ばれた少女の放った魔法が障壁と接触し…
「え? 消え…た? 聖魔法最強と言われる魔法が?」
「おいどうするよ? 勇者よ」
「仕方があるまい。こうなったら物理で行くしかないだろ!」
「しゃーねぇなっ! いっちょぶちかましてやるか!」
うんうん、良いねぇこういうの。俺も昔を思い出してくるよ…
そう、俺は前世の記憶がある。
まぁ前世と言うには何とも言えない状況なんだけど… とにかく今とは違う人生を歩んできていた。
…というのも、今の俺は魔物だからな!
今の俺は… 所謂スケルトンというやつで、仕組みは分からないけど骨しか無い。それなのに生前よりも素早く力強く… もうこっちの姿の方が良いんじゃないかってくらい非常に馴染んでいるんだ。
そういう訳で、俺は自分が生きていた頃の記憶を持ったまま、こうして魔物としても生きているって事になるな。ま、スケルトンなのに生きているっていう表現があっているのなら…だけど。
前世と言うか、生前の俺は冒険者に憧れるちょっとだけレアな奴だった。
内容はともかく、この世では非常に珍しい『ダブルスキル』という、神から授かるという祝福が2つも持っていた。
そのスキルとは、アイテムボックス(小)と回復魔法(小)…
アイテムボックス(小)というのは、文字通り異空間に自分だけのスペースを持つ事が出来るスキルだ。異空間のスペースに荷物などを入れたり出したり… 商人なんかには垂涎物のスキルだな。まぁ(小)という事で、その限界量は… 大体棺桶1個分くらいの長方形、幅が60センチくらい、高さが50センチくらい、奥行きが2メートルあるかないかというサイズ… なんとも微妙で使い勝手が難しい物だった。
そして回復魔法(小)というのは、治癒術のスキルを持った人が使える最も効果が小さい治癒魔法で、切り傷なんかには最適だけど骨折などの大怪我には物凄く時間と魔力が掛かってしまうという、これもまた微妙なスキルだった。
しかし、俺が14歳の時に、当時最強パーティと言われていた『ドラゴンファング』というパーティに勧誘され、Aランクダンジョン攻略の荷物持ちとして参加する事になってしまった。
アイテムボックス持ちはそもそも希少なため、俺のように(小)であっても使い道があるそうで… 俺は野営用のテントを持つ事になり、このダンジョンへと足を踏み入れた訳だ。
空いたスペースに道中勝った魔物の素材などもちょいちょい入れながら進んで行ったが、30階層のボスを相手にパーティは敗走。そしてボスに追われて逃げている最中に、俺は足止めという名の生贄にされてしまいボスに殺され、食われてしまった。
アレは今思い出しても怖かったし、何よりも痛かった。食われている最中に思い余ってボスの目に指を突き入れるくらい暴れてしまったね。
そして意識を失ったらしく、その後の記憶は無い。
そしてなぜか次に目覚めたら… 大量の魔物が徘徊するエリアにいて、自分は骨になっていたと…
恐らくだけど、俺はボスに殺されてダンジョンに吸収されてしまったんじゃないかと。そしてこれもなぜか、魔物としてリポップしたのではないかと…
どうして生前の記憶が残っているのかは知らないけど、まぁそんな訳だから魔物と仲良くなんて出来ないよね。人間だった記憶が残っているんだから…
色々と考えたりもしたけれど、考えた所で何も分からないし現状が変わる訳でもない。そうとなればいっそ開き直って、このダンジョンの探索をしてしまおう! そして本来到達した冒険者が手に入れるであろうお宝をゲットしてしまおう! そんな事を考え付いて実行を開始した。
その結果、どれほどの時間をかけたか分からないけど、ダンジョン内にあるレアな武器防具を拾い集めて装備し、希少なアクセサリを骨だけの指につけたりしつつも戦い続け、とうとう最下層にいたダンジョンのラスボスを討伐してしまった!
つまり… Aランクダンジョンがダンジョン内にポップしたと思われる俺の手で攻略されてしまったのだ。
しかし、さすがにこれでダンジョンクリアとはいかないようで… どうやら俺がこのダンジョンのマスターになってしまったようだった。
どうにも体が縛られているようで、このダンジョンから出る事が出来ない所か、このボス部屋からも出る事が出来なくなってしまっていた。
以前であれば、階層の移動も普通に出来ていたんだが… どう頑張っても出る事は出来なかったのだ。
それ以降、とても退屈な日々が続いた。この部屋を訪れる魔物も冒険者もおらず、ただただ1人で過ごすだけの毎日。
あまりに暇なので色々と修業らしき行動もいっぱいしたし、新しい魔法の開発なんて事も良くやっていた。
そんな時に現れたこの勇者パーティ! 勇者と言うには全然強いとは思えないが、久しぶりに見る人間なので、どうにか落ち着いてもらって話がしたいと思っている!
なので今は、とりあえず戦意が落ち着くまで戦いを楽しんでおこう!
「うぉら! シールドバッシュだ!」
大きな盾を持った男が、その盾を振るって俺に攻撃してくるが… 何とも遅い! それに威力も全然無いぞ! もう我慢できん、お前らを指導してやる!
『なんだそれは? 腕の力だけに頼っているからそんな攻撃しかできないんだ。もっとこう踏み込んでだな、体のひねりを使って全身を使って攻撃しろ! いいか、こうだ!』
あまりの弱さについつい盾を奪い取り手本を見せる。俺だって元々冒険者じゃなかったから詳しい戦闘技術は良く知らないが、それでも体の使い方くらい把握しているぞ? そうでなければスケルトンになってしまった俺がダンジョンを踏破できる訳が無いだろ!
盾の振るい型の手本を示し、盾を返す。そしてやって見せろと告げる。
「む? 俺の盾使いがなっていないだと? しかし今の動きは確かに威力はありそうだな…」
『ほら早くしろ! 地面を踏み割るくらいの勢いで踏み込むんだ!」
「こ、こうか?」
ふむふむ、この盾使いは結構筋が良いな。手本を見せたとはいえすぐにそれを模倣し、盾を突き出すのに最適な体の動かし方を真似してくる。
『まだまだ! 自分でも分かるだろう? さっきの攻撃よりも速くなっていることに、当然威力だって」
「お、おう。こうか?」
すっかり夢中になって盾を振るってくる盾使い、しかしそれを後方で見ている勇者達の表情は微妙な物になっている… なんでだ?
『おい、勇者と名乗ったお前だ。お前もぐずぐずしてないでかかって来い! 何が悪いか見てやるぞ!』
「この… 舐めやがって!」
勇者も参戦。
元々パーティを組んでいたせいか、盾使いとの連携は悪くは無いが、やはり体の使い方が圧倒的に良くないな。どんなスキルを持っているかは知らないが、スキルのみに頼っているから身体能力が追い付いて来ないんだ。コイツもしっかりと教えてやらないとな!
しかし、20分ほどすると体力が尽きたのか2人共疲れて倒れてしまった。せっかく良い所だったのにこれで終わりかよ! よし、体力を回復する時間を与えないとな。
『お前達は隅に行って体力の回復をするが良い、その間は…』
おれは後方で待機したままだった魔法使いと聖女と呼ばれた女性の方を見る。
『お前達も訓練が必要だな… さぁ魔力を練ろ! そして魔法を放て!』
「この、私を舐めないでよねっ!」
軽く煽ると魔法使いが簡単に釣れてしまったが、聖女と呼ばれた方は様子を窺うように視線を動かしている。回復役だから勇者と盾使いが心配なのか? それならなんも、好きに回復させてやればいいのに。
「サンダーストーム!」
魔法使いがようやく詠唱が終わったのか、魔法を発動してきたが… 俺が長い時間をかけて覚えた魔法障壁を破るには至っていない。というか傷すらついてないな…
「どうして? 私の魔法を簡単に防ぐなんて… それに周囲の雷撃が空気を奪って呼吸を妨げるはずなのに」
『何を言っている、スケルトンの俺が呼吸なんてする訳が無いだろう。もっと現状を良く見て使う魔法を選ぶんだ』
「そんなこと言ったって… 今までこれで倒せてきたんだもん、これで倒せないアンタがおかしいのよ! あーん!」
『え? おいちょっと』
何と言う事だ、魔法使いの女性が泣き出してしまったぞ!
このダンジョンでの生活はかなり長いと思うが、人間としての生活は14年しか経験していないからな… ましてや女性の扱い方なんて知らないぞ!
『おい聖女とやら、そいつを慰めてやれ』
「無理です、彼女を泣かせたのは貴方なので、責任をもって貴方が慰めてあげてください」
『なんだと…?』
「それに先ほどから観察していましたが、ダンジョンマスターの割には全く殺意が感じられません。貴方は一体何者ですか?」
気が付くと魔法使いの女性は泣き止んでいて俺の返答を待っているようだった。魔法使いの攻撃の巻き添えを食わないよう避難していた勇者と盾使いも、どうやらこちらを観察しているみたいだ… いや、あんまりこっち見るなよ!
『俺は… その、見たらわかるだろ? ただのスケルトンだ』
「ただのスケルトンがそれほどの知性があると思いますか? そもそもスケルトンは喋りません」
「「そうだそうだ!」」
休んでいる男性陣が揃って声を上げる… なんだよ? 喋るスケルトンがいたって別にいいだろ!
「そもそも貴方… 本当にダンジョンマスターなんですか?」
『む? それはそうだと思うぞ。かなり昔にこの部屋にいたボスを討伐したら、この部屋から出られなくなったから』
「ボスを討伐? もしそれが本当なのであれば新発見の事実かもしれませんね… 魔物がダンジョンボスを討伐したらボスの立場が得られるなんて、今までそんな報告は無かったですよね?」
聖女の言葉に他の3人がうんうんと頷いている、そうなのか? まぁでもそんなこと言われたって知らんがな。
「古い書物に記されていた伝説のダンジョンなのに、最下層に来るまでほとんど魔物はいなかった… それは貴方がダンジョンマスターだったから、違いますか?」
『ん? まぁ確かに魔物を出さないようにはしていたが… 伝説のダンジョン? ここが?』
「そうです。歴史上最強パーティと言われた『ドラゴンファング』ですら半分も踏破する事が出来なくて撤退したと記されていました」
『ドラゴンファングが歴史上最強? そんな言う程のものではなかったがな… ついでに聞くが、それは何年前の話なんだ?』
「鑑定では大体200年前の物だとされていますが、ドラゴンファングをご存じで?」
『ああ知っている…』
その後、ついつい俺に身に起こった事、ドラゴンファングの連中に囮にされて死んだ事、その後気が付くとスケルトンだった事や、骨の癖に張り切って冒険者の真似事そしてこの場にいたボスを討伐した事などを話して聞かせた。
「つまり… 貴方は元々ポーターであり、ドラゴンファングがこのダンジョンを攻略する際にやとわれていたって事ですか。その後追い詰められて囮にされて死亡した…と」
『そうだな。そうしたらいつの間にか骨だけになっていたんだ、ダンジョン内では魔物同士戦う事は無いらしく、あまりにも退屈だったから戦闘技術を磨いて下に下にと進んでいたらこうなった』
「なるほど… まぁ私達も実際に戦いましたから、貴方の強さはすでに分かっています。さすがに現状では貴方には勝てない実力差は理解しています」
『ん? 別に最初から殺すつもりなんて無かったぞ? とにかく久しぶりに会った人間だから話がしたいと思っただけだ。ま、最初はそんな雰囲気ではなかったから疲れさせてから話そうと思ってたんだがあまりにも弱かったものでな… 少し鍛えてやろうかと』
「弱いとは何だ! これでも俺達は世界で最強だと言われている勇者パーティなんだぞ!」
『そうは言っても、俺にても足も出せなかっただろ?』
「ぐっ… それはその」
いつの間にか円陣のように座り込み、武器を置いての話し合いになっているんだが… なんだか良いなこれ! こういうのを待っていたんだよ!
「そういえば、道中に宝とか一切無かったんだけど、アンタが全部拾っていったのか?」
『まぁそうだな… 見つけた物は大体収納してあるな』
盾使いが質問してくるがそりゃそうだろ、ダンジョン探索の醍醐味である宝箱… これをスルーするなんてあり得ない。それにスケルトンになって戦闘経験を積み、魔物を倒してレベルが上がったら収納のサイズも大きくなったんだよ。
「道理でスケルトンなのに防具が豪華だと思ったぜ、防御力も高そうだもんな」
「ねぇスケルトンさん、せっかく知り合ったんだし使っていない杖とかあったら譲ってもらえないかな?」
「おまっ! 状況を考えて喋れよ! 勝利者として持って帰るんならともかく譲ってくれとかないだろ」
「えー? だってこのスケルトンさん話せばわかる人だったし、お願いしてみるくらい良いじゃない」
勇者の突っ込みも何のその、かなりのマイペース娘だなこの魔法使いは… さっきマジ泣きしてた癖に…
「そういえば、貴方の生前の名前は何と言うのですか?」
『俺か? 俺の名前は…』
話し合いを終えて勇者パーティは帰って行った、このダンジョンの事を所属しているギルドと王に報告するために。
もちろん魔法使いのお願いは聞いてやった、俺には使わない物が多数あったからな。それ以前に久しぶりに人間と普通に話が出来た事に俺は感謝をしているし、その礼だと言って他のメンバーにも色々と持たせてやった。
それからといえば、どういう報告をしたのかは知らないが頻繁に人間が俺の元を訪れるようになり、そのたびに俺は悪役の真似をして相手をしてやっている。
もちろん腕の悪い冒険者や騎士に至ってはアレコレと指導をしながら… もちろん勇者パーティも何度も来ては、訓練して培った技術を以て俺に挑んできていた。
こうして勇者パーティにより報告されたダンジョンには、現在最強と言われているぱーてぃですら歯が立たない程の難易度であるが、それでも全員が無傷で帰還するという事実に反響があった。
腕自慢達は己の実力を図るため、更にはダンジョンボスを討伐して勇者越えを狙う者などが後を絶たずに現れては一蹴され、その内軍までダンジョンに入り込み、訓練に使用するなどの現象が巻き起こった。
そして世界ではダンジョンボスであるこのスケルトンの事を、敬意をこめてこう呼ぶようになった…
キング・オブ・スケルトンと。