無礼講
「久しぶりだなあ。おいタルカス。こんどは長くいられるのか?」
片目に眼帯をかけた男が話しかけてくる。タルカスは首をふった。
「すまんが、長逗留はできんのだ。それよりちょっと話を聞きたいのだが」
「なんだ?」
「ミリィという娘を知らんか?」
とたんにしーん、と座が静まりかえった。
「どうしたのだ? その娘がいったい、ここでなにかしでかしたのか?」
「うむ。しでかしたかというと、つまり……」
眼帯をかけた男は、目をそらした。
タルカスは大声を上げた。
「聞かせてくれ!」
ひとりがぼそりとつぶやいた。
「もとはといえば、ジャギーのせいなんだ。あいつがあんなことしなければ……」
「ジャギーというと、隼のジャギーか。あいつがどうした」
傭兵たちはお前言えよ、とおたがい視線をやりとりしている。ようやくひとりが重い口を開いて話しはじめた。
話しはこうである。
数日前、ミリィがこの町にたちよった。
女の一人旅は珍しい。それがだれもが目を瞠るほどの美少女ならなおさらだ。彼女は少しばかり立ち寄って、食料などを補給するつもりだったようだ。そのミリィに目をつけた男がいた。
隼のジャギーである。
隼、というあだ名がつくにふさわしく、ジャギーは素早い動きの剣士で、また女をたらしこむということでも相当の自信家であった。
おれは戦いでも、女でも素早くやるのが身上だ、というのがジャギーの口癖だった。
ジャギーはミリィにしつこくつきまとった。ミリィが迷惑そうな顔になると、ますます意地になってあそこの茂みに行こうだの、おれの部屋へ来いよと誘った。が、ミリィは一切そんな声に耳を貸さず、食料を買い込むとさっさと町を出る素振りを見せた。
それがジャギーに火をつけたようだ。
町の門の前に立ち、どうしても出て行きたかったら、おれを倒せと挑発した。
「で、どうしたんだ?」
タルカスが尋ねると、みな苦笑した。
「やられたよ、こてんぱんにな。それも大恥をかいてな」
それを見ていた人間の話しによると、ミリィがつかったのは鞭一本きりだったそうだ。ジャギーが薄ら笑いを浮かべ、門の前に立っているとミリィは鞭をふりあげ、その鼻っぱしらを打った。鼻を赤く染め、ジャギーは痛みに悲鳴をあげた。その痛みに怒り、ジャギーはミリィにむけ剣をぬいた。
「女にむけて剣をぬくなんざ、剣士の恥っさらしだ!」
ひとりが酒のコップをかたむけながら憤然と言った。
ところがミリィは鞭をふるい、ジャギーの手から剣を叩き落した。あわててそれを拾おうとすると、さらに鞭をふるってところかまわずジャギーの身体を打ち据えた。とうとうジャギーが悲鳴を上げ、勘弁してくれと許しを請うまでミリィの鞭はとまらなかった。
「鮮やかなもんだったぜ。やろうと思えば、ジャギーの目だってつぶせたんだろうが、やつの戦いの気力だけ奪うように手加減していたな」
ミリィはジャギーの服を鞭でつぎつぎと剥ぎ取っていった。
ついにはジャギーのズボンを脱がしてしまった。立ち上がれないでいるジャギーを尻目に、ミリィはさっさと立ち去ってしまった。それを見ていた見物人の中から、どっと笑い声がわきおこった。
「ジャギーの奴、恥をかかされたのよ。それも相当酷くな……」
ようやく脱がされた服の切れっぱしをかきあつめ、ジャギーはほうほうのていでハランスの町を逃げ出した。
あとはどうなったか、誰も知らない。
「それで話したくなかったんだな……」
タルカスがつぶやくと、隣りの男がうなずいた。
「おうともよ、だってそうじゃねえか。女の子ひとりに、あんなこっぴどくやられたことを、いくら奴が悪いからって吹聴するわけにはいかねえやなあ」
タルカスの机の前で呑んでいた、頭を剃りあげた大男が口を開いた。
「それよりタルカス、頼みがある。お前、すぐこの町を出るようなこと言っていたな」
「ああ」
「どうやら西のほうから、この町に魔物どもが大挙しておしよせそうだ、という情報が入っているんだ」
タルカスは目を丸くした。
「本当か?」
「ああ、斥候を出したんだが、その話しによると、西の平原に魔物が沢山たむろしているってことだ。明日か、今夜あたり攻め寄せてくるんじゃねえかな」
むう……と、タルカスはため息をついた。
パックを見る。
「なあパック。お前はすぐにでも町を出てミリィを追いかけたいところだが、今回はこの町の連中に協力してやってくれないか?」
わかった、とパックはうなずいた。
その時、パックの隣りから叫び声がした。
「なんだ、こいつは! スライムじゃねえか!」
え、とパックはふりむいた。
見るとヘロヘロが隣の剣士に掴まれてぶるぶる震えている。
「ヘロヘロ!」
剣士はパックの声に妙な顔になった。
「なんだ、お前。このスライムと知り合いなのか?」
「ええ、友達なんです。どうか離してやってくれませんか?」
なんだなんだとその場にいた剣士たちが、つままれているヘロヘロを覗き込んだ。
パックはヘロヘロを捕まえた剣士から返してもらい、両手でかかえた。
「おい、ヘロヘロ。どうして外に出てきたりしたんだ?」
「だって、お腹減ったんだ……」
ぷっ、とタルカスが吹きだした。
「ははっ、そうか! 腹が減ったってか!」
あははは!
タルカスは大声で笑い出した。
それを見て、ほかの剣士たちも笑い出す。
「信じられねえ! スライムと知りあいだなんて!」
「見ろよ、あんな大人しいスライム、初めて見たぜ!」
好奇の目で見られ、ヘロヘロは弱々しく笑った。
「えへ……どうも……」
「こっちへ来いよ。これを食わしてやる」
ひとりの剣士が、料理の盛られた皿をおしやった。
ヘロヘロは目を丸くして皿を見た。うまそうな料理が湯気を立てていた。
「食べていいの?」
「食え、食え! 今日は無礼講だ。スライムだろうが、やくざな野良猫だろうが、大盤振る舞いってことよ!」
剣士はにやりと笑った。
ヘロヘロはテーブルにぴょん、と飛び出すと出された皿に顔を埋めるように食べはじめた。
「うめえか? ん?」
うん、とヘロヘロはうなずいた。




